転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか? 作:紫 和春
それからしばらく、長屋は登下校中の道を警戒するようになった。それは新日本婦人会の反撃を食らうかもしれないという警戒感から来ているものだ。
学校や警察に頼ることも考えたのだが、その際に長屋本人が拳銃を取り出したことが後ろめたかったのだ。長屋は36世紀の常識を知らない。
それをあの日逃げた時に刑罰を受けるのか、黒須と高崎に聞いてみたのだが、
『そういうのはあんまり聞いたことないなぁ』
『多分大丈夫じゃね?』
という、ふわふわな回答を貰った。その後、家に帰ってから色々と検索してみたのだが、正当防衛に相当するのではないか、というのが長屋の結論だった。
だが、警察や検察の言うことが正解である世の中でもある。とにかく、警戒するに越したことはない。
そんな生活を続けて数日。5月18日の金曜日。週末だ。
「じゃーねー」
校門の前で高崎と別れ、下校道を黒須と共に歩く。そして黒須とも別れる交差点に来て、長屋は家路へとついた。
「明日は週末だからなぁ。出かけると、例の婦人会に遭遇する確率が上がるから、コンビニ以外では外出しないようにするか……」
そんなことをブツブツと呟きながら、マンションのエントランスに入ろうとした。その時、長屋の後ろに誰かが立ったような気がした。
長屋が振り返ってみると、そこには白と黒のツートンカラーのスーツを着た女性がいた。
「長屋陽介様ですね?」
いかにも怪しさ満点である。10人いれば10人が逃げるような雰囲気だ。長屋も思わず拳銃を取り出そうと、バッグに手をかけようとした。
「この時代では、拳銃を取り出すのはあまり推奨されません。まずは威嚇として、拳銃を持っていることを示唆するのが吉です」
そのように忠告された。
そして長屋は、その言葉に違和感を感じる。
「
その言葉を繰り返す長屋。まるで長屋が
「……あなた、何者なんですか?」
「ここでお答えしてもいいのですが、どこか座れる場所でも探しましょう。詳しくはそこでお話します」
不思議な女性の話に乗るのは危険だと感じるのだが、それでも長屋のことを知っている口ぶりには勝てなかった。長屋は女性の後ろをついていき、最寄りのカフェへと入った。
長屋はアイスココアを注文したが、女性は何も注文しなかった。
「それで……、あなたは何者なんですか?」
「私はナナ。現在の大統領、野々瀬恭一の特使としてきました」
「大統領の……、特使……」
長屋は言葉の重みを受け止めることが出来なかった。大統領も、特使も、言葉としてツルツルと脳を滑っていった。
その職の重さを理解したのは、注文していたアイスココアが到着した後だった。
「と、特使って、外交で重要な文書とか持ってくる、あの……?」
「そうです」
女性━━ナナは肯定する。長屋はかなり動揺している。
「その……、何から聞いたほうがいいのか……。なぜ大統領の特使が俺なんかに?」
「その質問の答えは簡単です。あなたが
「要?」
「はい。大統領は『私と長屋陽介は必ず出会わなければならない』とおっしゃっていました」
「『出会わなければならない』? どういうことですか?」
「現在の状況ではお話することは出来ません」
特使とはなんだったのか。伝えるべきことを伝えずに、何が使者だろうか。
そんなことを考えながら、長屋はココアを飲む。
そして正直一番聞きたいことを聞いた。
「その、さっき俺がこの時代の人間ではないような口ぶりをしていましたが、どうしてそのようなことを言ったんですか?」
「事実だからです」
「事実だから……? その証拠はどこに……?」
「以前聞きませんでしたか? あなたの存在は大統領肝入りの政策であると」
「あー……」
そういえば馬渕からそんなことを聞かされたなぁ、と思い出す。まだ一月前の話なのだが。
「先ほども申しました通り、あなたは要なのです。かつて彼が犯した大罪を終わらせるために必要な、最後のピースでもあるのです」
「彼……? 大罪……?」
長屋に疑問符が浮かぶ。よく物語にある「核心を言わない登場人物」のようだ。
「私の使命を果たすことが出来ました。あとはその時を待っていてください」
そういってナナは席から立ち上がり、さっさとカフェを後にする。
「え、ちょ……」
長屋は慌てて席を離れて追いかけようとするが、それでは食い逃げになってしまうと考え、急いで会計を済ませて店を出た。
しかし時すでに遅し。ナナの姿はどこにもなかった。
「マジで何だったんだ……」
呆然と店の前で立ち尽くすしかなかった長屋であった。