転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?   作:紫 和春

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第44話 希望

 裏通りから路地を抜け、三人はようやく長屋の住んでいるマンションに到着した。

 街中はまだ平穏を保っているが、いつ負の感情が爆発するか分からない。ひとまずの安全のために、三人はマンションのエントランスを抜ける。

 そしてエレベーターで6階に上がり、603号室へと向かう。

 長屋が持っていた鍵で玄関のドアを開け、急いで中に入る。

 

「二人には緊急事態ではない時に入ってほしかったけど……」

「それは……そうかもしれないけど……」

「そういえばそうじゃん! ヨウ君のベッド入っていい!?」

 

 黒須は心配そうに言う一方で、高崎は初めて入る彼氏の部屋にテンションが上がっていた。

 

「それは後にして。今はこれをなんとかしないと……」

 

 そういって、リビングのテーブルに放置していたアタッシュケースに目をやる。

 朝と変わらず鎮座していて、異様に光っているようにも見えるそれは、未だ長屋のことを拒んでいるようにも思える。

 長屋はアタッシュケースの前に立ち、取っ手がついている根元へと視線を移す。そこには、ダイヤル式の錠前がついていた。よく見る4桁のダイヤルだ。

 この間の週末、長屋は0000から順番に総当たりでダイヤルを回したが、2時間半かけて1万通りの組み合わせを試した結果はさんざんだった。

 どの組み合わせでも解錠しない。考えられるのは、回すことに夢中になっていて正解の組み合わせを見逃したか、このダイヤルそのものが関係ないものか、ということだ。

 どちらにせよ、この錠前は簡単に開けてはくれないだろう。つまりここからやることは、単純な脳筋戦法である。

 

「二人とも、危ないと思うから下がってて」

 

 そういって長屋は、キッチンから包丁を取り出してくる。

 

「よ、陽介君……?」

「それで何するの……?」

「平たく言えば、マスターキーでこじ開ける」

 

 そういって再びアタッシュケースの前に立つ。

 そして包丁の先端を錠前のシャックル部に突き立てる。そのままグリグリと、包丁を掘削機械の如くシャックルとアタッシュケースの本隊との隙間に押し込んでいく。

 だんだんと包丁に加える力が大きくなっていく。それに比例して、薄い金属の板である包丁は歪んでいく。

 そして次の瞬間、包丁が折れた。厳密に言えば、過剰な曲げ応力が加わったことによる破断だ。

 包丁が折れたことで、小さな破片が周囲に飛び散る。長屋は思わず目を瞑ったことで、眼球に破片が飛び込んでくることはなかった。

 

「~~~ッ、クソッ!」

 

 折れて使い物に鳴らなくなった包丁を感情に任せて投げ捨て、アタッシュケースを拳で叩く。

 

「これが希望かもしれないのに……! 『全てを託す』って言われたのに……!」

 

 期待されているのに、それに応えられない絶望感。長屋の記憶にある、本来なら存在しえないはずの恨めしい感情。それがありありと思い起こされる。

 長屋の目から、涙が一滴零れ落ちる。

 その時だった。長屋のスマホが鳴る。涙目のまま長屋はスマホの画面を見る。そこには西原からのメッセージが表示されていた。

 

『長屋君、今自分の家にいるよね? すぐにアタッシュケースを持って屋上に来て』

 

 言ってる意味が分からなかった。いや、スマホの位置情報から家にいることが判明するのは分かる。しかし、屋上に行く意味が分からない。

 

「なぜ屋上に……?」

 

 すると、外からヘリコプターが接近してくる音が聞こえてくる。先ほど墜落した武装ヘリの仲間だろうか。窓の近くにいた黒須と高崎が外を眺める。

 

「陽介君……、なんか様子が変だよ……?」

「あのヘリコプター、こっちに近づいてくる……」

 

 やがてヘリから発せられる爆音は、耳を防ぎたくなるほど大きくなっていく。長屋も思わず窓に近づく。

 そうして、部屋の真横にヘリコプターが接近してきた。かなり大きい、灰色のゴツゴツしたヘリだ。

 側面に設けられた扉から、西原の姿が見えている。

 

「西原さん……?」

 

 直後、長屋のスマホに再びメッセージが飛んでくる。

 

『長屋君、早く!』

 

 それを確認すると同時に、ヘリは上昇していった。

 

「……屋上に行こう」

 

 長屋は少々気落ちしていたが、決断する。

 それと同時に、長屋は薄々感じていた。この先に待っている運命のようなものを。

 

「茜、マリ。怖いなら、ここで帰ってもいいよ。正直、そのほうが嬉しいっちゃ嬉しいけど……」

「……何言ってるの、陽介君。私、陽介君とならどこまでも行くよ」

「うちも。彼女にしてくれた時から覚悟してたから」

「……分かった」

 

 そういって長屋はアタッシュケースを持ち、家を出る。その後ろには黒須と高崎。

 三人は屋上に続く階段を昇り、常時閉鎖されている屋上の扉を開けた。

 そこには、屋上の床に着地しそうでしていない、精密なホバリング状態を維持している巨大なヘリがあった。その側面扉の前に、西原が立っている。

 

「長屋君! 急いで乗って! 後ろの二人も!」

 

 その指示通りに、三人はヘリへと乗り込む。すると、そこにすでに一人乗り込んでいることに気が付く。

 その人物に、長屋は驚いた。

 

「特使のナナさん……!?」

 

 そう、彼女がいたのだ。

 いろんな疑問が浮かぶが、そんなことをしている間に、女性軍人によって長屋たち三人はシートベルトを付けられる。それと同時にヘッドフォンも渡される。

 そして西原が乗り込んだことで、ヘリは飛び立った。

 

『これから大統領公邸に向かいます。30分もかからないと思うわ』

 

 そのように西原が案内し、一向は東京のど真ん中へと向かうことになった。

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