転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか? 作:紫 和春
ヘリが和光市上空を離れたところで、西原が口を開く。
『かなり大変なことになってきたわね』
いつものようなホワホワした感じではなく、キャリアウーマンのようなキリッとした雰囲気を感じさせる。
『その、西原さん……。この状況はどういうことですか?』
長屋は絞り出すように聞いた。
『それはどれに対して?』
『そりゃあ……、全部ですよ。なんで特使のナナさんがここにいるのかとか、なんでクーデターが起きてるのかとか、俺はこれからどうなるのかとか……』
『そうね。じゃあ順番に説明していくわ。まずは特使からね』
そういって西原はナナのことを見る。
『長屋様のことについて、補足説明をしなければなりませんね』
ナナはこの状況で何か肝心なことを話すようだ。
『まずは長屋様が持っているアタッシュケースについてです。まだ詳細を話すことはできませんが、その中には長屋様のための物が入っています』
『俺のための物……?』
『はい。使い方によっては、長屋様の肉体が蒸発する可能性があります』
『そんな危険なんですか!?』
『使い方によっては、です。正しく使えば、そのようなことは起こりません』
正直アタッシュケースの中身が怖くなってきた長屋である。
『次の補足説明です。これは国家機密よりも秘匿されなければならない事実ですが、大統領の野々瀬恭一は現役の国家元首でありながら歴史上の人物でもあります』
『……ん? どういうことですか?』
『それはおいおい分かることでしょう』
『補足説明になってなくない……?』
そんな話をしている横で、黒須と高崎はポカンとしていた。
『長屋君、恋人たちが困惑しているわ。これ以上自分自身のことを隠すのは難しいのではないかしら?』
『でも……、話していいんでしょうか?』
『大統領の意思を託された私としては、ここで説明したほうがよろしいと思います』
自分の出自を公開することに躊躇う長屋に、ナナは大統領の特使として彼の意思を説明する。
そう言われて、長屋は少し上を向いた。
『……茜、マリ。実は俺、記憶喪失なんかじゃないんだ』
『え……?』
『どういうこと?』
『俺、21世紀に生きていて、この時代に召喚されたんだ』
『召喚って、異世界物みたいなあの召喚?』
高崎が食い気味に聞く。
『まぁ、それが一番近いね』
『マジー? ちょっと羨ましーなー』
本当に羨ましそうにしている高崎。この状況でも自分の軸はぶれていない。
『なんか、言いたいこといっぱいあるんだけど、全部吹っ飛んじゃった……』
黒須の言葉が示す通り、言いたいことは多いのだがそれを吐き出せるほど悠長なことをしてられない状況だ。
『でも、それでも陽介君と一緒にいたいって思ってる』
『うちも! ヨウ君のそばにいたい!』
『……ありがとう。茜、マリ』
これが愛の力なのだろうか。長屋は感謝を示す。
それより、とにかく今は話を先に進めるのが先だ。
『それで、今は大統領の所に向かっているんですよね? それはつまり、大統領とお会いできるってことですか?』
長屋がナナに聞く。
『そうです。本来ならこんな状況で会談することは想定していなかったのですが━━』
その時だった。ヘッドフォンからけたたましく警報音が鳴る。
同時にヘリが急旋回し、機体からフレアが撒かれた。
『な、なんですか!?』
『地上にいる敵性勢力からの攻撃ね。安心して。このヘリは簡単には落ちないから』
西原が冷静に話す。やがて、西原の言う通りに警報音は鳴り止み、機体は旋回を止めた。
『なんとかなりましたね。しかし、このまま慎重に進んでいてはいつか墜とされるでしょう。低空飛行で最高速を出しましょう』
ナナがパイロットのほうをチラリと見ると、意図が伝わったようで、すぐに高度を下げて速度を上げる。
『現在豊島区の上空を通過。到着まであと5分』
パイロットがアナウンスする。速度を上げたことで、機体がガタガタと揺れ始めるだろう。
『まもなく大統領公邸です。危険な飛行と強硬着陸を行うため、機体が揺れますのでご注意ください』
そうパイロットが
ヘリの機体がグワンと思いっきり後ろに傾き、まるでロールするような勢いでグルンと機体の前後が入れ替わる。
そしてそのまま強行する形でドスンとヘリポートに着陸する。
『降りるわよ』
女性軍人が扉を開け、西原を先頭にヘリから降りていく。
そして目の前にある大統領公邸の入口に接近する。
「ここから先は長屋君一人で行きなさい。それが運命なのだから」
西原に言われるがまま、長屋は公邸の入口に進められる。
「陽介君……!」
「ヨウ君!」
黒須と高崎が、女性軍人により阻まれて長屋に近づけない。それを見た長屋は、西原とナナの方を見て、質問する。
「この先には、俺が死ぬような場所があるんですか?」
「いいえ、そうではないわ」
「この先にあるのは、長屋様の運命が収束した場所になります。つまり、死ぬ場所ではなく、生きていくための場所なのです」
西原とナナはそのように言う。
それを聞いた長屋は、少し安心した。そして黒須と高崎に声をかける。
「この件が終わったらさ、今度はちゃんと二人を家に招待するよ」
「……分かったよ、陽介君」
「待ってるよ、ヨウ君」
その言葉を聞き、長屋は彼女らに背を向けて大統領公邸に入る。
自動ドアをくぐり、真っすぐ進むと、目の前にエレベーターが見えるだろう。そのエレベーターの前に、誰かがいた。その姿に、長屋は見覚えがあった。
「馬渕さん……?」
行方が分からなかった、馬渕の姿があった。