転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?   作:紫 和春

6 / 50
第6話 職質

 ホテルの部屋に入り、そのままベッドに倒れこむ長屋。しばらくボーッと天井を見つめていた。

 そして、ふとある考えが頭をよぎる。

 

「着替えとか用意してねぇな……」

 

 西原からもらったのは、財布と身分証、そして連絡先だけである。とりあえず財布の中身を確認してみる。

 連絡先が入っているのはもちろん、紙幣も5枚くらい入っていた。チラリと紙幣の額面を見てみると、ゼロの個数が5つあるように見えた。

 違和感を覚えた長屋は、それを引っ張り出してマジマジと見る。間違いない、ゼロは5個ある。つまりこの紙幣は10万円札ということになる。

 

「マジかよ……。未来だからインフレとか起きているのか……」

 

 公民の授業で習ったことを思い出す。

 

「となると、この国には健全な経済が存在している」

 

 そんなことを思いつつ、他に何か入ってないか確認を続ける。硬貨がいくらか入っている以外に特別なことはなかった。

 

「とりあえず、着替え買ってくるか……」

 

 長屋は部屋を出て、ホテルの外へと足を踏み出した。ホテルを出て数分ほど歩くと、大きめの駅が現れる。駅ビルがあり、その壁には「和光新々駅」と書かれていた。

 

「ここ和光市だったのか……」

 

 しかし長屋は頭を振る。

 

「いや、1500年も地名が保存されているとは考えにくい。いやでもワンチャンあるのか……?」

 

 そんなことをブツブツと考えながら、駅ビルへと入っていった。中は7割方洋服店で、残りがメイク用品店、雑貨店、飲食店といった感じだ。

 洋服店はそのほとんどが女性用であり、男性用の服屋は、店内図を見なければ分からないほど隅に追いやられていた。

 

「まあ女性の1%しかいない人々のための店なんてこんなもんだよな」

 

 妙に納得した長屋は、そのまま男性服店へと向かう。店舗の前には、36世紀で初めて見る男性の姿があった。

 

「いらっしゃいませー」

 

 長屋に対して挨拶をしつつ、服の整理をしている。

 長屋は恐る恐る入店し、ハンガーにかかったTシャツを眺める。

 

(そういや、今って何月なんだ……?)

 

 ふと、長屋の脳裏に疑問が浮かんだ。

 外の景色と体感温度から察するに、初夏の5月くらいと考えられる。だが確信はない。

 ならばすることは一つ。

 

「すみませーん」

 

 店員を呼ぶことだ。

 

「はい、何でしょう?」

 

 店の入り口にいた男性がやってくる。

 長屋はすかさず質問する。

 

「これからの季節に合いそうな服ってどんなのですか?」

「そうですね。今は半袖のTシャツに薄い生地のワイシャツがいいかなと思います」

 

 そういって店員は近くにあった服を取る。

 

「今のトレンドとしては七分丈のズボンがキているので、こんな着こなしならいいと思いますよ」

 

 そういって上下のセットを用意してくれる。

 それを見た長屋は、普通に気に入った。

 

「いいですね。これ買います。いくらですか?」

 

 店員は値札を見て答える。

 

「14万3千円になります」

「14万!?」

 

 長屋は思わず転びそうになった。

 

(これが36世紀のインフレ……! 21世紀の約10倍ってところか……)

 

 長屋は改めて財布の中を見る。およそ50万円入っている。

 

(もう1セット買うくらいなら大丈夫か……?)

 

 今度は値札を確認しながら、慎重に服を選ぶ。

 

「お会計、30万5800円になります」

 

 結局、そこそこ高い服の上下セットを2つ買った。今着ている服と合わせれば、ローテーションで着回すことができるだろう。

 買った服を紙袋に入れてもらい、長屋は店を出る。

 

「うーん、思ったより出費がかさんでしまった……」

 

 駅ビルを出たところにあるベンチに座り、財布の中を見る長屋。

 残りは10万円札2枚と少しである。

 

「つーか、普通に買い物をしちゃったけど、あとで西原さんに怒られないか?」

 

 そんな不安がよぎる。

 そんなことをしていると、長屋の目の前に誰かが立ちふさがる。そのことに気が付いた長屋は、顔を上げた。

 

「君、ちょっといいかな?」

 

 そこには、一目見ただけで警察とわかる女性が二人立っていた。

 

「今日平日だけど、君学校は?」

 

 警察官の女性はすかさず質問する。

 

(あー、面倒なことになったな……)

 

 長屋は心の中で悪態をつきながらも、質問に答える。

 

「今は学校休みなんですよ」

「この辺りに今日休みの学校ってありました?」

「私は聞いたことないけど」

 

 警官の二人はそんな話をする。

 

(回答ミスったかは……)

 

 このまま立ち去ってくれ、と心から願う長屋をよそに、警官は質問を続ける。

 

「友達とか一緒じゃない?」

「いえ、一人です」

「一人で何してたの?」

「服を買ってました」

「ちょっと見てもらえる?」

「ええ、はい」

 

 長屋は素直に紙袋を渡す。それを警官二人がのぞき見る。特に怪しい物は入っていないはずだ。

 すると、何を思ったのか、警官の一人が無線で連絡を取り出した。

 

「和光市内の学校で、本日休みの場所はありますか?」

 

 情報を参照している。長屋にとってマズい展開になった。

 すぐに無線の返事が返ってくる。

 

『ありません』

 

 それを聞いた警官は、また長屋に質問する。

 

「学生証は持ってる?」

「……いえ、持っていません」

「学校は通ってるの?」

「……いえ」

 

 その答えに警官が動く。

 

「悪いけど、君の身柄を拘束させてもらいます。保護者の連絡先を教えて」

「……はい」

 

 嘘のつけない性格の長屋、半分墓穴を掘った感じだ。

 すぐに西原の携帯番号を教え、迎えに来てもらうことになった。

 

「いきなりやらかしましたねー」

 

 迎えに来てくれた西原の車に乗ったときに、軽い説教を受ける長屋。

 

「すいません……」

「まぁ明日やろうとしてたことだから、別にいいんだけどー。こういうのは生活基盤が整ってからするものだよー?」

「本当に申し訳ないです……」

 

 その後長屋は、ホテル代と食事代として幾ばくかのお金をもらうのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。