転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか? 作:紫 和春
ホテルの部屋に戻った長屋は、ベッドの上に寝転がる。
「うぁー、今日は結構疲れたな……」
それもそうだ。21世紀を生きていた人間が、36世紀の社会に放り込まれればこのようにもなるだろう。
漠然とそんなことを考えた長屋は、ふとテレビの存在が気になり出した。部屋には当然のようにテレビが設置してある。
長屋はベッドから下りて、テーブルの上に置いてあったリモコンを手に取る。そしてテレビの電源を入れる。
パッと画面が点き、ニュース番組が流れ出す。
『本日、議会は来年度予算案の編成をめぐって、委員会での審議が過熱しています』
そういって、テレビに議会の様子が流れる。議員と思われる人々が、予算に関して意見を交わしている。
そんな映像を見ている長屋は、あることに気がつく。
「男性議員の数が多いな……」
36世紀のこの世界は、女性の割合が多い。これまで何度も聞いてきたし、見てきたことだ。
しかし議員の数はそうではない。男女の比率は半々といった具合だ。
「うーん、政治家ってのは金持ちのやる仕事って聞くし、家父長制のような古臭い慣習が残っているものなのかな……」
しかし、21世紀でも家父長制はかなり古い考えではあったが、それが36世紀まで残っているとは考えにくい。
「何か別の要因でもあるのかな……」
長屋はしばらく考えるが、何も思いつかない。
それよりも、疲れがたまっているのでさっさと寝たい気分だ。長屋は服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。シャワーを浴びた後は、本日買ってきた服に着替えて、ベッドへと潜り込んだ。
━━
誰かが部屋のチャイムを鳴らす音で、長屋は目を覚ます。時計を確認すると、すでに9時を回っていた。
長屋は慌てて起き上がり、部屋の扉を開ける。そこには、西原の姿があった。
「おはよう、長屋君」
「おはようございます」
「長屋君の部屋の家具とか買いに行くけど、準備できてる?」
「準備は……できてないです。寝グセとか直してもいいですか?」
「いいよー。急がなくてもいいからねー」
そのようなことを言われるも、長屋は急いで外出の準備をする。とは言っても、大した荷物はない。身支度を整えて、長屋は部屋を出た。
西原に連れられて、近くのショッピングモールへとやってきた。ここで、長屋が使う家具家電や身の回りの物を雑貨を購入していく。
資金に関しては、西原が長屋専用のクレカで支払っていた。
西原曰く、「人類維持局から湧き出る国家予算」らしい。長屋は怖くてそれ以上は聞いていない。
「さて、必要な物は買えたかなー?」
西原がチェックリストにマークしながら、足りない物がないか確認していく。
「だいたい買えたね。じゃあ最後の買い物に行こうねー」
「最後の買い物って何ですか?」
「それはもちろん、スマホだよ」
その言葉通り、二人は大手キャリアのdoodemoショップに入る。
「いらっしゃいませ。本日はどのような用件でしょうか?」
「子供にスマホを持たせたくてー」
「新規契約でしょうか?」
「はい、お願いしますー」
なんともふわふわしたノリで、スマホの契約手続きが進む。
ここでも身分証の提示を要求されるが、今度はカードリーダーが出てきた。長屋は内心ビクビクしだす。
「大丈夫だよ。一応本物だから」
西原がそのようにアドバイスする。
正直それどころじゃない長屋だが、リーダーに通すとなんの異常もなく処理された。
こうして数時間かけて、契約書類の確認や初期設定などを行い、ようやく
「いやぁ、良かったねー」
店員が去り、西原が書類を一つにまとめながら長屋に言う。
「本当に良かったですよ。しかし、この時代でもスマホの形ってそんなに変わってないんですね……」
「そうだね。21世紀から技術レベルも文明レベルも、そんなに発達していないからねー」
そんな話をしつつ、二人はショップから出ようとした。
その時である。突然、物陰になっていた場所から動く物体が長屋と接触する。
「あたっ」
「きゃっ」
長屋の目は、反射的にぶつかった何かを捉える。同年代と思われる少女だ。
その少女は、長屋とぶつかったことで倒れ込みそうになっていた。
(危ないっ)
これまた反射的に手を伸ばした長屋。その手は少女の手首を掴むことに成功した。
「だ、大丈夫ですか?」
「あっ……、大丈夫です」
少女は黒髪のボブで、青みがかった目をしていた。身長は長屋よりやや小さめだが、それに似合わない素晴らしいものを胸に秘めていた。
「……って、ごめんなさい! 私の不注意でぶつかってしまいました!」
「あ、い、いや、大丈夫。うん、大丈夫……。はは……」
そういって長屋は、まるで一昔前のロボットダンスのような動きでその場を離れていく。
少女と西原はお互い顔を合わせる。そして西原は軽く挨拶してから長屋の元へと駆け寄る。
「長屋君、大丈夫?」
「え、あ、えぇ。大丈夫です」
「その様子、大丈夫じゃないでしょ。彼女と何かあったの?」
「いや、あのー……。こういうと少々おかしな話になるんですが……」
長屋は、本来秘密にしたかった事実を西原に打ち明ける。
「実は、同年代くらいの女子と関わりがないもので、一切の耐性がないんですよ……」
「……えぇー?」
西原も驚き半分、呆れ半分といった表情をする。
「やっぱり言いたくなかった! 女性が多いって聞いてたからちょっと嫌な予感はしてたんですけど、やっぱり駄目だった!」
ショッピングモールのど真ん中で、顔を覆いつくす長屋。
「ま、まぁ、これから慣れていけばいいことだし、大丈夫じゃない?」
「本当に大丈夫なんでしょうか……」
そんな不安と共に、長屋は西原の運転で次の目的地へと移動するのだった。