転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?   作:紫 和春

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第8話 回収

 長屋と西原は、一日ぶりに人類維持局の研究所に戻ってきた。

 

「まだ何かあるんですか?」

 

 長屋は西原に聞く。

 

「実は人類維持局として依頼したいことがあるの」

「それ昨日か一昨日にやれなかったんですか……?」

「維持局としてもいろいろと都合があったりするからねー」

 

 車から降り、二人は出迎えの職員に連れられて、とある会議室に入る。そこには馬渕がいた。

 

「よく来たわね、とりあえず座ってちょうだい」

 

 馬渕に言われるがまま、長屋は席に座る。西原は立ったままだ。

 

「今日呼び出したのは他でもない、長屋君にしかできない事をやってもらうためよ」

「俺にしかできないこと……ですか?」

「えぇ。そもそも、なぜあなたが召喚されたのか分かるかしら?」

「 それは確か、『播種の箱舟計画』で精子の提供をするため、ですよね?」

「そう。そのためにすることと言えば何かしら?」

「……それって」

 

 長屋は思わず唾を飲み込む。

 

「自慰行為で精液を提供することよ」

 

 長屋は思わず椅子から転げそうになる。

 

「あら、性交でもするって思ったの? さすがにマンガの読みすぎよ」

「くっ……」

 

 恥ずかしさのあまり、長屋は思わず姫騎士になりそうだった。

 

「話を戻すけど、あなたの遺伝子はとても貴重なの。数億個もある種子を有効活用しようとすれば、性交は効率が悪すぎるわ」

「だから自慰行為で精子を集めるってことですか……」

「その通りよ」

 

 長屋は話を理解したものの、腑に落ちなかった。

 

「なら無理やり拘束して搾り取ればいいんじゃないですか? 」

「それでは質の良い精液が手に入らないじゃない。質と効率を見極めた結果が、この妥協案よ」

「はぁ……」

 

 馬渕の言うことも分からなくはない。「播種の箱舟計画」では、人類の維持と男性増産を主目的にしている。効率を考えれば、自慰を選択するのは当然だ。

 その中で、一つの疑問が長屋の中に浮かび上がる。

 

「そうなると、不特定多数の女性に人工授精させるってことですよね?」

「ええ」

「となると、俺は16歳で父親になるってことで、これは倫理的にどうなんですか?」

36世紀(現代)では18歳が成人で、保護者の同意があれば男女ともに15歳で結婚できるわ」

 

 それを聞いて、長屋は頭を抱える。

 

(そうだった……。この時代では21世紀の常識は通用しないんだった……)

 

 しかし、長屋はもう一つの逆の考えがあった。

 

(童貞喪失の危機じゃなくて良かった……)

 

 謎の安堵が、彼を安心させるのだった。

 

「 疑問は解消されたかしら?」

「えぇ、まぁ」

「では早速だけれど、向こうにある男子トイレの個室で精液を回収してきてちょうだい。オカズは少ないけれど用意してあるわ」

 

 馬渕は机の上に成人向け雑誌を何冊か広げる。

 

「え? なんかこう、俺に対する配慮みたいなのはないんですか?」

 

 長屋は思わず聞いた。

 

「ないわ。あなたの人権の半分は我々が握っていると思って」

「そんなぁ……」

「大丈夫よ。あなたの最低限のプライバシーは保証するわ。私たちは何も見てないし、見るつもりもないから」

「さいですか……」

「好きな雑誌とこの容器を持って、行ってきてちょうだい」

 

 取り出された容器は、尿検査に使われるような紙コップだった。内側の表面がやたらテカテカしているのは気のせいだろう。

 

「はぁ、しゃーない……」

 

 持っていく雑誌を一瞬で決め、それと紙コップをサッと手に取って会議室を出る。

 長屋は研究所の中に一つしかない男子トイレに向かい、個室に入った。

 数分後。

 

「うっ……!」

 

 紙コップを持って個室から出てきた長屋は、手を洗って会議室に戻る。

 

「出して来ましたけど……」

「それは良かったわ。濃いの出たかしら?」

「濃いかどうかは知らないですよ……。ていうかなんですかこれ!? 新手の羞恥プレイですか!?」

「そんなつもり、微塵もないわよ」

 

 そういって馬渕の後ろにいた職員が、長屋から紙コップを受け取る。そしてそのまま会議室を出ていった。

 

「貴重な資源と研究サンプルをありがとう。これで人類の再興に一歩前進したわ」

「精子が資源て……」

 

 その言葉の裏で、何か変な単語があったことに気がつく長屋。

 

「ん? 研究サンプル……?」

「そうよ。この計画は多岐にわたる研究を行なっているの。特に女性の後天的性転換には、精子の存在が必要不可欠よ」

「性転換……?」

「そう。21世紀ではTSなんて言い方もされていたわね」

 

 ごく当然のように、馬渕は話を続ける。

 

「女性の後天的性転換は、男性の数が減少してきている頃から研究されてきた、れっきとした学問の一つよ。その中で、女性に男性器のみを生やしたいわゆる『ふたなり女性』や、体全体を男性に転換した『男体化TS』も、少数ながらこの国で生きているわ」

「えぇ……?」

 

 正直長屋はドン引きしている。そのような倫理観の「り」の字もないような研究をしていたことに対して恐怖や、一種の諦めも感じていた。

 

「彼ら彼女らは男性の生殖能力も獲得しているから、ある意味生物多様性の権化とも言えるわね」

「それは言いすぎだと思いますよ」

「とにかく、そういう研究も行っているから、精液は多ければ多いほど助かるの」

 

 そういって馬渕は、別の話題に変えようとする。

 

「そういえば、学校の話は聞いているかしら?」

「全然聞いてないですけど」

「続報みたいなものだけれど、すでに転入手続きをして、来週あたりから通えるようになるわ」

「そうですか。分かりました」

「一応共学だから、そこは安心して。埼玉県では男子の数が一番だから」

「へぇ。ちなみに何人ですか?」

「7人よ」

「……7?」

 

 思わず聞き返す長屋。

 

「あぁ、そうだったわね。男女比の崩れは、当然子供の男女比にも影響しているわ」

 

 そう言われて長屋は固まってしまった。

 

「あら? どうしたの?」

 

 ずっと馬渕の後ろで立っていた西原が口を開く。

 

「実はー……」

 

 西原は、長屋が同年代の女子に耐性がないことを話す。

 

「それにしては、私たちとはスムーズに話出来ているようね」

「確実に年齢が離れているのを理解していれば大丈夫なんですけど……」

 

 何とか意識を取り戻した長屋が、理由を説明する。

 

「そう。今の発言はかなり失礼だったけれど、聞かなかったことにするわ」

「うっ……」

 

 意外とノンデリな長屋であった。

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