テンペスト・フィールド プレイ動画 作:微カキン
《強襲兵シンシア:信頼度2イベント》
それは、船内のレイダー残党の掃討戦における出来事になる。
我々は、残り数名となったレイダーを行き止まりの区画に追い込む事に成功した。しかし彼らは決して降伏せず、故にこちらとしても全力で駆逐せざるを得なかった。
その時の事だ。
「シンシア、前に出すぎだ!」
戦術画面から指示を下す私は、前衛であるα2が突出しすぎている事を警告した。
敵兵は残り2。今だ戦意高く射撃を続けているが、こちらは5人。磨り潰すのも時間の問題、これ以上リスクを背負う必要はない。
しかし、シンシアは下がる様子もなく、射撃をしながら敵に肉迫を試みているように見える。これは……遮蔽物に籠る敵に対し、銃剣による攻撃で決着をつけるつもりか?
拙速に過ぎるが、間違った判断という訳でもない。私は彼女を支援するべく、α3に強制介入を行った。
「すこし借りるぞ」
『了解、コマンダー』
α3からの視界で戦場を確認する。
視界の中で、障害物を縫う様に走り抜ける金色の旋風が目に入った。極端な前傾姿勢で疾走する彼女の髪は風になびき、まるで尾のようにたなびいている。美しい肉食獣のハンティングシーンのような。
それに対し、危険を察知したのか、身を隠していた敵兵が遮蔽物から身を乗り出すようにして迎撃を行っている。連射性の高いブラスターのレーザーが唸りを上げて飛来し、シンシアを掠めるように着弾する。
直撃しないのは、今も部隊からの射撃が継続して降り注いでいるからだ。
それでも接近してきたシンシアを脅威と思ったのか、意を決したように敵兵の一人が大きく身を乗り出し、彼女に狙いをつける様が見えた。
それを待っていた私は、冷徹にその兵士を狙撃して仕留める。
スコープの中で首元をレーザーで撃たれた兵士がもんどりうつようにして遮蔽物の向こうにひっくり返り、続けて銃剣を手にしたシンシアが飛び掛かるように遮蔽物を乗り越え、最後の兵士に襲い掛かった。
遮蔽物になっていたコンテナの向こうで血飛沫があがる。
数秒後、返り血でスーツを真っ赤に染めたシンシアが、無表情なまま顔を出した。
「敵全滅を確認。作戦終了、帰還せよ」
司令官として撤収を命じる。後片づけは、ロギディンの連中にでもまかせればいい。ここは連中の船だ。
ただし、言うべき事がある。
「α2、作戦中の行動について話がある。帰還後、私の元に出頭せよ」
『了解しました』
「シンシア強襲兵、出頭いたしました」
「よろしい」
作戦終了後、指示通りシンシアは顔を出した。
軽くシャワーを浴びたのか、返り血の血生臭さや、焦げた樹脂製品の鼻を突く匂いは感じない。そればかりか、ほんのり花の香りのようなものを嗅ぎ分けて、私は首を傾げた。
「香水か? 軍はそんなものも配給していたのか」
「いえ。これは、船の皆さんから頂いた補給物資に入っていたものです」
「……そうか。そういえばそんな話もあったな」
実際は全く知らない。多分、ロギディンの連中が個人的に部下に渡した物資なのだろう。かといって知らないと正直に言うのも指揮官のメンツに関わる、ここはとりあえず適当に流すしかない。
補給は有難いができれば私をちゃんと通して欲しいんだが。
「……お気に召さない香りでしたか? 次からは控えます」
「いや、お前にはよく似合っている。部屋が華やぐな。ロギディンの連中にも友好を示すアピールにもなる、人前に出る時はつけて構わん」
「了解いたしました」
相変わらずの澄ました表情。だがそこに、ほんの僅か、喜ぶような感情の色を見出して、私は小さく頬を緩めた。
シンシアにも、少女らしい所はある、という事か。
さて。それはそれとして、だ。
「話を戻す。今回呼び出したのは、作戦中の行動についてだ。最近、突出が目立つ傾向にあるようだが」
「……申し訳ありません。チームワークを乱すつもりはありませんでした」
「いや、そこまでではない。ただシンシア、お前への負担が大きいように見受けられる」
前に出るのが強襲兵の仕事だ。敵の銃火を恐れず前に出て部隊全体を引っ張り、仲間を鼓舞する……シンシアの戦いぶりは申し分ない。
だがそれで、僅か五人になってしまった部下の一人が潰れてしまっては困る。
「増援も補給の見込みもない今、お前達兵士が最も重要な資源である事を忘れるな。これまでのように、損耗を顧みない戦いではなく、少しはセーブして戦う事を意識するように。……わかっている、お前が他の仲間への損害を押さえようと拙速な動きに走っているのは。だがそれでお前が消耗しては意味がない。わかるな?」
「はっ。御命令とあらば」
きびきびと敬礼を返すシンシア。形だけではなく、ちゃんとこちらの意図を汲み取っている事に疑いは無いが……とはいえ、文字通り骨身に染みついた考えはそうそう変えられはしないだろう。
今後も注意して指示を下していこう。
「よろしい。では、話は以上だ。下がりたまえ」
「はっ。失礼いたします」
その後のお昼時の事である。
昼食の時間になり、私は借用しているスペースの一角に食事に向かった。
幸いにして、ロギディンから食料品に関しては十分な配給を受け取る事が出来た。我々が普段食べている軍用糧食と比べて品数も味も豊かなそれは、数少ない娯楽の一つと言っていいだろう。本来我々はそのような贅沢、縁が遠いものであったのだが……まあ、締め付けるだけが軍規ではない。現状の特殊さを顧みれば、食事の一つぐらい、楽しみに思ってもいいように思う。
「む?」
と、私はそこで入口の案内前で佇んでいる金髪の後ろ姿に眉をひそめた。
「シンシア、そこで何をしている?」
「コマンダー。いえ、メニューに悩んでおりまして……」
声をかけると人形のような少女は小さく振り返り事情を説明すると、再び案内に目を戻した。
何か悩んでいるように見える……私は興味を釣られて案内に目を落とした。
「ふむ。今日の定食はAとBがあるのか。ふむ……」
配給所の前に建てられたホワイトボードを前にしばし考える。本来水を注いで暖めるだけの配給に定食も何もないのだが、まあそこは気分という奴だ。
「Aは黄色いの、Bは茶色いのだそうです」
「……味は何なんだ?」
「わかりません」
なんだそれは。まあ、訓練学校で教化された我々に料理の名前を提示されても味の想像なんぞつかないが……。それならば逆にそんなに悩む事もないのではないか?
しかし、こういう事で悩んだりもするのだな。そんな事を考えながらシンシアの横顔を眺めていると、急に彼女と視線があった。
ルビーのような赤い瞳が、じっと無感情に私を見つめ返してくる。
「コマンダー。よろしければ、きめていただけないでしょうか」
「ん? いいのか? というか味が分からないなら適当に選べばよかろうに……」
「駄目でしょうか?」
相変わらずの無表情。だが、ほんの少し眉を落として落胆しているようにも見える彼女に、私はんー、と聊かの困惑を覚えた。
これぐらい自分で決めればいいと思うのだが……まあいい。
「じゃあ、A定食にしよう」
「了解しました。私もA定食にします」
二人並んで配給を受け取り、給油ポッドからお湯を注いでテーブルでしばし待つ。時計の針を眺めるのもそうそうに飽きて、私は横隣りに座るシンシアをなんとなしに眺めた。
彼女はテーブルに置いたアルミの包みを見下ろし、じっと観察している……ように見える。その表情が、こころなしか上機嫌に見えるのは気のせいだろうか?
気が付けば、疑問が口をついて出ていた。
「……好きな味とか、あるのか?」
「いえ。経口摂取するにあたってそれを促進する味付けは好ましいとは思いますが、その種別について拘りはありません」
「じゃあなんでもよかったのでは……?」
軍用糧食は兵士の盗み食いや過度な摂取を防ぐために基本的に味付けは控えめ……早い話が不味く作られている。それに対して、民間の糧食は娯楽としての側面が強く、食欲を刺激する様々な味付けが施されている。基本的になんだって食べれば美味しいはずである。
好みがなければ悩む必要も無かったのでは?
端的に問いかけると、シンシアははっきりと困ったような顔をした。
「……いけませんでしたか?」
「ああいや、駄目、という事ではない。シンシアの判断能力を疑った訳ではないよ、プライベートでは君にもそういう事があるのだな、と思っただけさ」
「そうですか。……仮に、明日も二種類あったら、コマンダーはどちらを食べますか?」
「……今日がAだから、多分Bにするが」
特に捻りもない理由を答えると、彼女は「そうですか」と小さく頷いた。
「……なんなんだ?」
「いえ、とくには。それより、規定の時間が経過しました。食べましょう」
気が付けば時計の針が進んでいた。熱々の包装を破り、スプーンを手に取る。
後に聞いたが、A定食の味は親子丼というものらしい。鶏肉と、鶏卵を使った料理なので、親子丼という訳らしい。
ネーミングセンスがサイコパスすぎると思った私はおかしいのだろうか?