アルフィア狂い   作:PETTA

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主人公がもう少しマトモであった場合。


IF 夜明け

 

 

メーテリアの出産は秘密裏に行われていた。

 

生まれた赤ん坊が自分に似ている事に悲しんだが、その後大きな声で泣き始めた。

 

 

それは、自らの健康を母への冥土の土産とする粋な計らいであったのだろう。

 

「ありがとう・・・ありがとう。」

 

そう言いながら彼女は息を引き取った。

 

 

 

 

「ベル・・・俺・・・すまない。」

 

アルフィアもメーテリアも助けられなかった。

 

 

だが彼女らに俺は託されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白髪の子供と遊んでいる時にふと我に返る事がある。

 

「アルフィア・・・」

 

これがお前の求めた世界なのか。

 

今にも泣きだしそうな空の下で少年・・・ベルに帰宅を促した。

 

 

 

 

 

雨がざあざあと打ち付ける。

 

かなり降ってきたな。

 

風邪をひかない様に濡れた服を脱がせる。

 

筋肉への視線を感じた。

 

ちらりとベルを見ると自分と俺の肉体を見比べている。

 

多分お前さんはこういう体は向いてないと思うけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの爺さん大丈夫かな・・。

 

大雨でくたばる様な奴ではないのは知っている。

 

外を見つめていると

 

「おじさんって凄い英雄なの?」

 

等という事を聞いてきた。

 

 

 

 

英雄か…確かに俺はLv7まで強くなれた稀有な存在だ。

 

だが守りたい物は守れなかった。

 

今でも思う。

 

恥じずに行動すべきだった。

 

無理を言ってでも三大依頼に参加すべきだった。

 

いくら強くとも2つのファミリアだけでは負担が大きすぎたのだから

 

俺が世界の敵になってでも行動していれば・・・

 

闇派閥を叩きのめしたとしても鬱憤は晴れなかった。

 

アルフィアを楽させる位の力も無く、理想も無くなってしまった。

 

 

今の俺は亡国の武人みたいだ。

 

力は及ばなかったが、その強さは英雄と言わざるを得ない。

 

 

強さのみで、後悔にふけっている俺は自らを英雄と称するのは嫌だった。

 

「俺は英雄ではない」

 

はっきり言って否定したかったが子供特有の純粋な瞳に見つめられては敵わない。

 

 

 

「あぁ強さという面だけを見れば英雄だが、それ以外では唯の奇人だな。」

 

 

「でもおじいちゃんが『奴は英雄譚の中に居ても見劣りしない』って」

 

あの爺さん・・・。

 

まぁ確かに、個性的でそこそこ良い顔してるからなぁ強いし。

 

「いいか、ベル。物事ってのはな多面的なんだ。」

 

「タメンテキ?」

 

おっと。

 

・・・これくらいの子供には物で教えた方が良いかもしれない。

 

「ベル持ってみな」

 

渡したのはいつも腰に掛けている短剣。

 

目をキラキラさせながらソイツを見ていたのを俺は知っている。

 

「・・・うぅ重い。」

 

 

鉄より重い物質だからなぁ、詳しい事は知らないけど。

 

 

「どうだ、重いだろう?」

 

嬉しさと苦しさが混じる絶妙な表情

 

この子は英雄になりたがっている。

 

そんな事は知っていた。

 

「…うん。」

 

そう言うベルから短剣を返してもらう。

 

俺は英雄という物が嫌になったはずなのに。

 

「でもな、これはまだ短い剣なんだ。世の中にはもっと長い剣もあるんだ。」

 

どうしてこの子に嫌悪感を抱かないのか。

 

「知ってる!有名なのは・・・」

伝説の剣たちの名前を早口で述べている。

流石に知っているか。

まぁ長剣は使い手が多いからな。

 

 

「世の冒険者からすればこんな短剣は軽いし短くて使いにくいと言われる。」

 

これはlv2にも軽くないと言われた代物だが。

 

冒険者を目指しているベルはそれに少し落ち込んでいる。

 

「だがな、速度を重視する冒険者からすればこんなに良い武器は無いと絶賛される。」

 

ベルはデカい剣を振り回すというよりかは戦える後衛かスピード特化の前衛だろうな。

 

「人によって同じものへの感想が違うんだ。だから食い違うことも少なくない。」

 

それさえ覚えていれば人間関係での苦労も軽減できるだろう。

 

なんせ人生ってのは仕事と交友関係が殆どと言っていいからな。

 

 

「だから爺さんからすれば、俺は英雄なんだろう。

だが、俺は自分を英雄だとは思えない。思いたくもない。」

 

人は他人と話すとき、想いを言葉にする。

言葉にして初めて伝わるからだ。だから人は考える。

 

そして考える過程で、気づくことも少なくない。

 

俺が英雄という言葉に抱く嫌悪感も、俺の中から湧き上がるものだ。

 

……感情が生まれるときのことを思い出す。

 

例えば恐怖。

あれに襲われると身体は震え、戦うことなど考えられなくなる。

 

それはきっと、身体を逃がすために

「戦えない状態」にする仕組みなのだろう。

 

なら、俺の嫌悪感――苦手意識は何だろうか。

 

その感情が湧くと、俺はその行為をやめたくなる。

 

つまり、俺は「英雄」という言葉そのものが嫌いなのではない。

 

もう二度と同じ思いをしたくないからこそ、

嫌い、避けようとしているのだ。

 

つまりこの嫌悪感は――

英雄ではなく、俺自身を指している。

 

俺は、もう傷つきたくないのだ。

 

 

 

 

 

 

全てを押し流していくはずの雨は次第に弱まってきている。

 

 

 

 

 

 

 

特にやる事も無いので社会常識という奴を教え始めた。

 

言葉や文字、簡単な計算。

どれも生きていくのに必要なものだ。

 

「勉強って難しいなぁ……意味あるのかなぁ。」

 

分かる。分かるぞ、その気持ち。

 

「物事の意味ってのは、難しいよな。」

 

少し驚いたように目を丸くした。

まるで、俺には分からないことがないとでも思っていたみたいだ。

 

「おじさんは、なんの意味が分からないの?」

 

意味、か。

過去形にはなるが。

 

「俺は……生きる意味かな。色々あって、見失ったことがある。今は大丈夫だけどな。」

 

その時も、今も、生きている。

出会いもあった。冒険も、別れもあった。

 

――追い詰められた時、人は決まって考える。

 

もう無理だ。

どうしてやるんだ。

意味なんてあるのか、と。

 

「おじさん……。」

 

「でもな。それを越えてきたから、今がある。」

 

困難は、正体が分かれば対処できる。

 

「お前もこれから苦労するだろうな。」

 

中性的な顔立ちに華奢な体格。

舐められて絡まれることもあるだろう。

あるいは、自分から面倒ごとに首を突っ込むかもしれない。

 

「意味や悩みってのはな、考えてるだけじゃ解決しない。」

 

「……?」

 

「どうにもならないことの方が多い。例えば、釣りは好きだろう?」

 

少年は素直にうなずく。その仕草が、どこか懐かしい。

 

「釣りには餌がいる。

『餌がないから釣れません』って悩んでても、魚は釣れない。」

 

「うん。」

 

「解決するには、餌を手に入れるしかない。」

 

何が足りないのかを知る。

どう動くかを決める。

 

それだけで、悩みは少し小さくなる。

 

「英雄ってのは、それを分かってる。

怖くても、動くしかないと知ってる。」

 

この子が憧れているのは、きっとそういう存在だ。

 

「孤独に動いて、弱音も吐かず、偉業を成す。

完璧な正義の味方――それが俺の考える英雄だ。」

 

自分で言っていて、人間味がないと思う。

俺とは正反対だ。

 

「でもさ、隠れて逃げ回って、それでも最後には仲間と笑える『喜劇』の英雄は?

アルゴノゥトは違うの?」

 

ああ、と小さく息を吐く。

 

「彼は稀代の英雄だ。」

 

だが、あれと同じ生き方をするのは難しい。

私情を殺し続けることも、

闇の中で笑い続けることも。

 

人間には、どちらも酷だ。

 

人を助けても、感謝されるとは限らない。

俺も、助けたはずの相手に恨まれたことがある。

 

それだけで折れる奴もいる。

 

期待しない方が楽だ。

そう思ったこともある。

 

「そんな生き方は……難しい。」

 

少しの沈黙。

 

「どうしてベルは英雄に憧れるんだ?」

 

女の子との素敵な出会い・ハーレムを目指すという理由だけで頑張れる物ではないはずだ。

 

「この辺境にも魔物は居るだろう。アレよりももっと強い奴らが幾らでも居る。」

 

俺だって分かっている。

 

「お前みたいなのには見過ごせない事もオラリオには多い。」

 

これは極論で

 

「目の前で誰かが助けを求めていても、助けられない。力が足りない。」

 

八つ当たりみたいなものだ。

 

「指をくわえて見殺しにする…それが賢い選択だって…敵をなすりつけたり、物を盗まれたなんて話を言っても『お前が悪い』…そう言われる。少数なら全体の為に切り捨てたりも。

これは冒険者に限らない。」

 

憧れを大人げなく踏みつぶしていく。

 

「そんな世界で人を助けられるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・僕は、助けたい。」

 

苦しそうに…それが助ける側の顔か?

 

「死ぬかもしれないぞ?」

 

少しだけ殺気を漏らす。

 

「…それでも。」

 

ただ言うだけなら何も思わなかった。

 

足をガクガク震わせながらでも。

 

 

 

ベルは少し震えながら

 

だがその目の中に炎が見えた。

 

本気だ。

心の底から言っているのだ。

 

 

もし…今、目の前で人が倒れていれば身体が動き出しているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そうか」

 

俺はベルを見る。

 

「さっきは否定する様な事を言ったが

ベルの中にいる英雄は、それでいいんじゃないか。」

 

この子なら出来る気がした。

 

出会った時から、この子は他人に優しかった。

損をすると分かっていても、手を伸ばせるやつだ。

 

「さっきはああ言ったがな。俺も、人間味のない英雄は好きじゃない。」

 

雨はすっかり上がっていた。

木の葉の雫が光を受けて輝く。

 

その光の向こうに、かつての英傑たちの背中が重なる。

 

「慰謝料だ、俺が見てきた英雄の話をしよう。」

 

紅い目が、静かに輝く。

 

「そうだな……まずは、才能の怪物と恐れられた麗しい冒険者の話からだ。」

 

ベルは息を詰めるようにして、俺の言葉を待った。

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