アルフィア狂い 作:PETTA
人に呼ばれて酒場にやって来た。
一日の疲れを流す人間たちでびっしりだ
大声で歌い、酒場独特の空気が形成されている中で一席・・・その席だけがどんよりした雰囲気を醸し出している。
周りも腫れ物扱いで、完全に無視している。
ああいう奴に話しかけたくは無いが、件の男だ。
話しかけねばならん。
「・・・わっ、お前大丈夫か?」
心配されたくない奴に憂慮されている。
「いや平気」
陥没した顔面のまま返答する。
なぜこんな事になったか
メーテリアの前で何も出来ずに「身体は大丈夫か?」や「あぁどうすれば」とわちゃわちゃしているアルフィアに魔がさして。
「アルフィアも叔母さんだね。アルフィアおば」
と揶揄ったからである
「うぅ・・あの野郎。ヘラの所のを孕ませやがって・・・」
頬のあたりが削ぎ取られた様にへこんでいる。
「ザルド・・痩せたなぁ。」
ザルドがこうなった原因の男・・アル・クラネルとの出会いを振り返ろうとした。
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朝の光が差し込んで、部屋の床にほんの少しだけ歪んだ四角い図形を描いた
休日というのは素晴らしい。
厳密には自営業の極致である冒険者という仕事に休みなどあるのか?という疑問はあるが
心地のいいベッドの中で夢の大海を楽しんでいる時
ヒュー・・・
という隙間風の様な音がする。
窓辺を見た瞬間、それは豪快に砕け散りガラス特有の綺麗な音を立てて割れた。
弾丸となった団員は生きている。
門番が俺の部屋まで飛ばされてきたのだ、これだけの事が出来るのは彼女しかいないだろう。
ファミリアにとっては驚天動地の大事件だろうが、俺にとっては幸運だ。
普段は会いに来てくれない彼女の事だ、きっと・・・ふふふ。
俺は瞬時に着替え避妊の道具を忘れずにポケットに突っ込んだ。
「いつも土曜は会いに行かない俺にわざわざ会いに来てくれるとはなぁ・・・」
毎日会っていたら流石に嫌われてしまう、その為には偶には会わない日も必要である。
前にそう言った時は舌打ちされたものだ。
「着いて来い、会わせたい奴が居る」
門柱にもたれ掛かっていたアルフィアはこちらを一瞥した後にそう言って歩き出した。
・・・会わせたい奴か…はっ、これはもしや御両親への挨拶という奴なのでは?
母はヘラで父はゼウスか・・・。
ちょっと怖いな
「あぁ大歓迎だ。出来ればメーテリアも同伴してくれると嬉しいが」
彼女はへラ・ファミリアの中で唯一仲が良い子だ。きっと、助け舟を出してくれる。
「...多分ゼウスの方とは初めての顔合わせになるけど、大丈夫かな?」
アルフィアは此方を見向きもしなかった。
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そこには猿轡によって唸るだけの縛られた男が居た。
「誰これ」
絶対にへラ・ファミリアではない。大丈夫か?
「見るに堪えない目をしている
存在しているだけで害を及ぼす犯罪者だ。取り敢えず深層の染みにしてやれ」
男の目には涙が浮かんでいる。
こんな奴では深層の魔物に勝てないだろう。
「なぁ、賠償金とかで済ませてやったらどうだ?」
実は結構持ってるから、後でこっそりと払えば良い。
問題は発生しない。
「そいつはメーテリアに手を出した、万死に値する。」
ダメだこれ。
「ビクトールが手を汚す必要はない、闘技場にでも放り込めばいい」
運び屋もねぇ、犯罪者扱いされるんだよ。
見殺しにするんだから。
「いや、しばらくうちのファミリアが使うから」
あそこ以外ならば逃げる事も可能だ。
とはいえだ。
流石に勝てる筈もないモンスターと戦わせて見殺しにする訳にはいかない。
「どういう場所なら戦いやすい?」
と聞いたところ
「スピードを活かせる広い場所」
と言われた
配送サービス ビクトールは1時間もかからずに玉座の間へ辿り着いた。
だが部屋の主は居ないらしい。
さて・・・やるか。
相手も既に身構えている。
殺さんから安心しろ。
得物は不殺の棒 奴は初心者らしい安い短剣。
20秒も持たない事は子供にも理解できることだった
数秒で終わると思った。
だが兎の如くそいつはしぶとかった。
手加減をしているのもあるが、男は常に紙一重で避け続ける。
LV3・2の男がLV10の攻撃を避け続けるというのは異常だ。
・・・興味が湧いた。
「君・・名前は?」
「アル・クラネル」
クラネル・・・クラネルか。
「お前、どんな冒険がタイプだ?」
嘗てのスキルが蘇る。
「人を笑顔にするアルゴノゥトみたいな冒険かな」
その瞬間…脳裏に浮かび上がった
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「メーテリアさんを僕にくださいお義兄さん!!」
それを拒絶する。
「俺とアルフィアの目が黒い内はお前にあの娘はやらん。
大切にして、あんなに出来た子に成長した、お前などにやれるものか!」
「育てた訳でも無いのに何を偉そうに」
アルフィアは隣でボソッと呟いた。
話し合いでは埒が明かず、俺たちはダンジョンに向かった。
戦いの前に俺は条件を設定した。
「殺さない」これは相手にとって有利なルール。
「武器とする棒が壊れたらアルの勝利」一見するとこれも有利なルールと思えるが、lv10の打撃は小指をタンスにぶつけるどころではないのだ。
俺が棒を振るう。
もちろん奴は避けられない
「あぁぁッ!!!」
「どうした若造!!」
圧倒的・・・・圧倒的暴力!
殺さない様に鈍器で攻撃し続ける。
なすすべなくやられるアルはそれでもなお諦めない。
そして遂に・・・棒が壊れた。
「天晴だアル・クラネル。お前を認めよう」
そうして結婚した二人の間には可愛い男の子が生まれた。
目は父親似でそれ以外はメーテリア由来のその子・・・ベル・クラネル
妻の尻に敷かれた夫に合掌しつつ
俺とアルフィアはベルを甘やかし続けた。
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「ベルは良い子に育ったよなぁ・・・」
あふれ出そうになる涙をこぼさない様に上を向くも、鼻水が決壊してからはもうとめどなく溢れてしまった。
アイツはもう出て行ってしまったが、立派な冒険者となっているだろう。
「どうやら俺たちは
生き別れて漸く再会できた義弟を力いっぱい抱きしめる。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」
腕の関節が有り得ない方向を向いているブラザーを揺さぶる。
「おい
生成されたウダイオスを片手で倒し応急処置を試みる
ダメだ・・上手くこう・・・フィットというか、何か出来てない気がする。
「これを使え。」
裏でスタンバってたアルフィアがポーションを投げる。
「お前はこんな所で死ぬような奴じゃない。さぁ
それでも全快とはいかなかった。
背負って帰るしかないだろう。
「癪だが、認めてやろう。私もソイツの勇姿に思う所が無かった訳では無い。」
厄介な姑と舅は静かに、本人の知らない所で男を認めた。
後日全身骨折の治療費とブラザーのランクアップの知らせを聞かされた。
俺はそこそこのお金と避妊具を渡した。
最初は目を合わせてくれなかったが、避妊具を見てから態度が変わり最後にはキチンと話す事が出来た。
俺は笑顔で病室を後にした。
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長い回想はアル・クラネルという人間を思い出させるには十分だった。
あの道具高かったんだけどなぁ・・アルフィアとの情事じゃ使えんな。
「やべぇよ。やべぇよ。・・・腹がいてぇ・・うぅ」
顔を真っ青にした男は一体何に怯えているのだろうか?
「おま、ヘラは嫉妬深いだろう?」
聞いたことはある。
「でも、メーテリアは既にクラネルを名乗っている。『素直に祝福しろ』それだけが必要だろ部外者は。」
ザルドは壊れた玩具の様に首を横に振る。
「違うんだよ・・・違うんだ。神と人間の愛は違うんだよ・・・。」
身体をガクガク震わせながら続ける。
「アルは俺たちの家族だ、その子も家族だろ。
だがそれはヘラも同じ、きっと奪いに来る。
ヘラと争う気はない、でも俺たちはアルに頼られたら断れない」
あの神そんな奴だったのか・・・。
「俺とアルフィアは認めてくれてるのにな。」
「それはお前がヘラ以上にイかれてるからだろ。」
即答ッッ。
「でもな・・俺が・・・俺たちが一番嫌なのは争いじゃないんだ。」
「生まれてくる子供にファミリアを押し付けたくないんだ」
ヘラに取られれば初の男性、守り切れば自動的にゼウス。
確かに、子供から選択の自由と喜びを奪うのは酷な事だ。
「つまり、俺が守れということだな。」
やれやれまた面倒な事を連れて来てくれる。
ザルドの肩に腕を回しながら笑顔で答える。
「言われなくても、弟と妹の未来ぐらいは守るさ。」
ザルドは何も言わなかった。
ここで男泣きを期待していた俺は少しがっかりしたが、やっと楽しそうに酒を飲む顔が見れただけで意外と満足できた。