後日談です!
後日談 小さな狐娘と魔法少女
あれから1ヶ月後——あかりのアパートは、相変わらず小さな騒がしさで満ちていた。
夕方6時半。
キッチンでは鍋がぐつぐつと煮立つ音が響き、部屋の中にはカレーとご飯のいい香りが広がっている。
「あーもう、ちょっと待って! 今作ってるから!」
あかりがエプロン姿で慌てながら声を上げると、
足元で三匹の狐娘たちが大合唱を始めていた。
「ふわっ! ふわふわー!」
「んぴぴ! んぴぴぴ!」
「ふあっ! んー!」
狐ちゃん、ぴーちゃん、ゴムちゃんの三匹は、あかりの足にぴったり張り付くようにまとわりつき、小さな手で足を引っ張ったり、靴下の先をぺちぺち叩いたりしながら、「ご飯よこせー!」「早くちょうだい!」「ご飯!ご飯!」と全力の動きでで主張している。
特にここ最近、三匹の食欲が明らかに変わっていた。
最初は果物だけで満足していたのに、長い人との生活に慣れると、果物だけでは物足りなくなってきたらしい。
今では——カレー、炒め物、焼き魚、おにぎりなど——人と同じ食事を強く欲しがるようになっていた。
「んぴぴぴ! わふー!」
ゴムちゃんが一番積極的で、あかりの足に飛びついて「早く早く!」と全身でアピールしている。
ぴーちゃんは鉛筆飾りをぶんぶん振りながら、椅子に登ってテーブルからキッチンを覗き込んでいる。
狐ちゃんは少し控えめだが、それでもあかりの足元で「ふわー!ん!」と催促を続けている。
そこへ、インターホンが鳴った。
あかりがエプロンのまま玄関へ向かうと、ドアを開けた先に立っていたのは、天城静華と月見凛の二人だった。
凛はいつもの穏やかな笑顔で、静華は少し疲れた様子ながらも、柔らかい表情を浮かべている。
「お邪魔します。あかり、ご飯の時間だった?」
「今日は大事な話があるの」
二人が部屋に入ると、狐ちゃんたちが一斉に反応した。
「ふわっ!」
「んぴ!」
「ふあー!」
三匹はすぐに凛と静華の足元に駆け寄り、
「食べ物分けて!」「何か食べさせて!」
という感じで小さな体をぴょんぴょん跳ねさせながら鳴き始めた。凛がくすっと笑った。
「相変わらず元気ね……でも、ずいぶん大きくなった気がするわ。果物だけじゃなくなったの?」
あかりは苦笑しながら鍋をかき混ぜた。
「もう完全に人の食事に染まっちゃって……果物だけじゃ物足りないみたいで、毎日カレーとか炒め物とか欲しがるんです…。」
「特にゴムちゃんは、今日はおかわり前提で鳴いてます…。」
静華がソファに腰を下ろしながら、少し真面目な顔になった。
「まぁいいわ。今日はこの子達の話も含めて、正式に報告に来たの」
あかりは火を弱め、エプロンを外しながら二人に向き直った。
「……上との協議、終わったんですか?」
凛が静かに頷いた。
「ええ。昨日、ようやく最終決定が出たわ。私たちを中心に、何度も会議を重ねて……他の魔法少女たちや組織の上層部とも、かなり長い議論をしたの」
静華が続けた。
「結果は——『狐の魔物たちは、基本的に保護対象とする。人間への害を与えない限り、討伐は行わない』という方針が正式に決まったわ。」
あかりの目が少し大きくなった。
「本当ですか!」
凛が割り込むが優しく微笑みながら説明しだした。
「ただし、条件がいくつか付いている」
「まず、狐娘たちが人間を積極的に害さないこと。次に、もし害を人間に与える魔物と行動を共にしている狐娘がいた場合は、その個体だけは例外として対応する可能性があること。」
「そして、最後に——あかり、あなたが『狐娘たちの監視・管理責任者』として、組織に登録されることになったわ」
静華が少し苦笑しながら付け加えた。
「要するに、あなたが狐ちゃんたちの『保証人』になるってことよ。何か問題が起きたら、あかりが責任を持つ形になる。」
「……まあ、実際には私たち二人も全面的にバックアップするけどね」
あかりは少し驚いた顔で、でもすぐに嬉しそうに微笑んだ。
「私が……保証人……わかりました。引き受けます。
狐ちゃんたちを、ちゃんと守ります」
足元で三匹は相変わらず「ご飯をよこせ」と鳴いている。
「ふわぁぁっ!」
「んぴぴぴぴ!」
「ふあー! んー!」
狐ちゃんがあかりの足に飛びつき、ぴーちゃんは椅子から飛び降りてくるくる回り、ゴムちゃんは床を転がりながら尻尾をぶんぶん振っている。
どうやら「保護が決まった!」という空気を、なんとなく感じ取っているようだったが、ご飯の方が先らしい。
凛が三匹を見て優しく言った。
「狐ちゃんたちも、ずいぶんあかりに懐いているわね。
生活にすっかり慣れて、人間と同じご飯を欲しがるようになったなんて……本当に家族みたい」
静華が少し声を低くして、本題の続きを話し始めた。
「ただし、中にはまだ反対意見も残っているわ。『魔物はいつ裏切るかわからない』という声もあった。」
「だから、当面はあかりの部屋周辺と、この街だけを特別保護区域として扱うことになったの。」
「他の地域で狐娘を見かけた場合は、まずは連絡を入れて、確認を取るようにって指示が出てて現れる頻度によって保護区を広げるらしい。」
あかりは真剣な顔で頷いた。
「わかりました。私も、狐ちゃんたちが絶対に悪いことをしないように、ちゃんと見守ります。」
「……それに、璃音さんや焔月さんとも、これからもちゃんと連絡を取っていきたいと思います」
凛が微笑んだ。
「ええ。私たちも時々、神社の方へ顔を出そうと思ってるわ。」
「焔月さんも璃音さんも、とてもいい方たちだったもの。狐娘たちの平和を守るために、協力していきましょう」
その時、キッチンのタイマーが鳴った。
「あ、カレーできた!」
あかりが慌てて立ち上がると、三匹の狐娘たちが一斉に「ふわー!」「んぴぴ!」と大興奮。
ゴムちゃんが一番先にキッチンへダッシュし、ぴーちゃんが椅子を登ってテーブルに陣取り、狐ちゃんは歩いてテーブルに向かっていく。
凛花と静華も笑いながら席に着いた。
「せっかくだから、私たちもご一緒させてもらおうかしら」
「いいですよ。今日は、狐ちゃんたち用にも多めに作ってあるので」
あかりは大きなお皿にカレーをよそい、狐娘たち用に小さなお皿を三つ用意した。
ご飯もふっくら炊けたものを、三匹が食べやすい大きさに小さく分けて乗せる。
「はい、どうぞ! 今日はにんじんも入れてみたよ」
三匹は自分の小さな皿の前に座ると、目をキラキラさせてスプーン(焔月が持参させた)でむしゃむしゃと食べ始めた。
「んむ! ふぁむ! んぴぴ!」
「ふわぁ〜〜…!」特にゴムちゃんは幸せそうに頰を膨らませ、尻尾を高速で左右にぶんぶん振りながら夢中で食べている。
ぴーちゃんは時々スプーンを止めて「んぴ!」と満足げに鳴き、狐ちゃんはあかりの隣でちょこんと座り、時々
あかりのスプーンをチラチラ見ながら、「ふわ!」と「おいしいよ!」と言いたげに声を出す。
凛が温かい目でその様子を見ながら言った。
「本当に、すっかり家族ね……前は、果物だけで満足してたのに」
「今日は連れてきてないけど、スーちゃんも最近食欲が凄いのよね…」
静華が小さく笑った。
「生活に慣れるって、こういうことなんでしょ。これからは、もっとちゃんと栄養を考えないとね」
食事が進む中、三人はゆっくりと今後のことを話し合った。
組織の方針が決まったことで、狐娘たちに対する風当たりは確実に弱まる。
ただし、完全に安心できるわけではない。
だからこそ、あかりが保証人として責任を持ち、凛と静華がバックアップする体制が整えられた。
あかりはカレーを食べながら、小さくつぶやいた。
「これで……狐ちゃんたちが、安心してここにいられるんですね」
狐ちゃんが、あかりに空になった小皿を押し出して「ん!」と力強く頷くような仕草をした。
ゴムちゃんも二杯目を要求するように、空になったお皿をあかりのほうへ押し出して「ふあっ!」と鳴いている。
ぴーちゃんは満足そうに「お腹をぽんぽん叩きながら、髪飾りを触って喜んでいる。
凛が優しく言った。
「これからも、みんなで支え合いましょう。焔月さん達とも、ちゃんと連携を取って」
静華が頷いた。
「ええ。私たち三人で、狐ちゃんたちの未来を守っていきましょう」
窓の外では、夜の街の灯りが優しく輝いていた。
あかりのアパートでは、魔法少女三人と小さな狐娘たちによる、温かく、賑やかな夕食の時間が続いていた。
狐ちゃんたちは今日も元気にご飯を食べ、尻尾を振りながら「んぴ!」と鳴き続けている。
1ヶ月前には想像もできなかった、穏やかで幸せな日常が——今、ここに確かにあった。
一方その頃、スーちゃんは凛から隠しておいたチョコレートを頬張っている。
「ふわ~!」
(甘〜い!)
「んぴー!」
(おいしー!)
いつもは凛が管理していて食べさせ過ぎをさせないようにしているが、今日は凛が居ないので好きなだけチョコレートを頬張っている。
番外編を今後は出していくのでよろしくお願いします!