新しく書いてる途中の作品に狐ちゃんを主人公で出すか悩む…。
神社の境内は、午後の柔らかな陽光に包まれていた。
あかりはいつものように、ゆるやかな石の坂道をゆっくりと上っていた。
背中には狐ちゃんがぴったりとくっつき、尻尾の鈴をちりんちりんと鳴らしながら、
時々「あかりの髪に顔を埋めて「ふわ……ん」と甘えた声を出す。
少し後ろからは、ぴーちゃんとゴムちゃんがぴょんぴょん跳ねながらついてきている。
本殿の前で待っていたのは、焔月と璃音の母娘だった。
焔月は九本の銀色の尻尾を優しく揺らし、赤い瞳を細めて微笑んだ。
「いらっしゃいましたね、あかり様。今日も遠いところを、わざわざお越しいただきありがとうございます」
璃音も青いリボンを揺らして軽く頭を下げた。
「こんにちは、あかりさん。妹たちも元気そうで何よりです」
あかりは狐ちゃんを抱き上げながら、照れくさそうに笑った。
「お邪魔してしまってすみません、焔月さん。
今日は少しお時間があるので、ゆっくりお話しできればと思って……」
焔月は穏やかに頷き、本殿の横にある茶室へとあかりを案内した。
座布団は人間サイズと狐娘サイズが両方用意されており、あかりは人間用の座布団に座り、焔月は向かいに腰を下ろした。
璃音は少し離れたところで、お茶の準備を始めている。
狐ちゃんとぴーちゃんとゴムちゃんは近くの小さな座布団で「んぴ!んぴぴ!」と鳴きながら、持ってきたポテトチップスを仲間を集めて大勢で食べている。
焔月が静かに湯を注ぎながら、柔らかい声で言った。
「あかり様が来てくださるようになってから、この神社がずいぶん賑やかになりました。」
「娘たちも毎日、あかり様のことを楽しみに待っていますよ」
あかりは少し頰を赤らめた。
「そんな……私なんかじゃ力不足ですけど、
焔月さんや璃音さんが温かく迎えてくださるので、つい足が向いてしまって……」
二人はお茶をすすりながら、最近の出来事や組織の動きについて穏やかに話し始めた。
話が一段落した頃、あかりの視線がふと、焔月の後ろの壁に掛かった小さな棚に移った。
そこに、古びた木製の額縁が一つ置かれていた。
額縁の中の写真——それは、とても古い、色褪せた一枚の写真だった。
写真に写っていたのは、身長30cmほどの小さな狐娘。
銀色の短い髪に赤い瞳、2本の小さな尻尾を広げている、ちんまりとした子狐だった。
白い着物を着て、少し不安げな表情でカメラに向かって立っている。
頭には白い狐の面を小さく乗せ、尻尾の先が少し震えているように見えた。
あかりは思わず息を飲んだ。
「……あれ? 焔月さん……この写真の子……」
焔月が静かに振り返り、額縁に視線を落とした。
その瞬間、焔月の表情がわずかに柔らかくなった。
「ああ……それは、私がまだとても小さかった頃の写真です。今からおよそ1200年ほど前のことですよ。」
「……この神社がまだできたばかりの頃に撮られたものなんです…。」
あかりの目が大きく見開かれた。
「え……せ、1200年……?この子が……焔月さん……?」
焔月は静かに微笑み、写真を優しく見つめた。
「はい。当時の私は、まだ尻尾を完全に生やしきっておらず、魔力も不安定で、よく怖がってばかりいました。」
「母……先代の天狐様が、珍しく魔導カメラを手に入れて、私を無理やり撮った一枚なのです。」
「……今見ると、随分と幼くて怯えた顔をしていますね」
あかりは写真に顔を近づけ、じっくりと見つめた。
銀髪の短い毛並み、大きな赤い瞳、少しだけ不安げに耳を倒した様子、まだ小さくてふわふわした1本の尻尾……確かに、今の焔月の面影がはっきりと残っている。
しかし、現在の威厳ある天狐の姿とは違い、
ただの「ちんまりとした、怖がりな子狐」にしか見えなかった。
「すごく……可愛いですね。今の焔月さんとは全然雰囲気が違うけど、目元や耳の形がそっくり……九本の尻尾も、まだ小さくてふわふわしてて……」
焔月は少し照れたように、九本の尻尾を軽く揺らした。
「ふふ……あかり様にそう言っていただけると、光栄です。」
「当時は本当に小さくて、この神社の先代の天狐様にいつも守られながら育ちました。」
「そして私の魔力が強くなりすぎて周囲を傷つけないよう、毎日厳しい修行をしていた時期でもあります」
焔月が軽く咳払いをした。
あかりは写真から目を離せず、狐ちゃんを抱きしめながら小さくつぶやいた。
「狐ちゃんも……今はこんなに小さくて可愛いけど、何百年か後には、焔月さんみたいに立派な天狐になるのかな……」
その言葉に、焔月は静かに首を横に振った。
「わかりませんよ、あかり様。この子は……私の血を引いてはいますが、私とは少し違う道を歩む子になるかと。」
「この子は、あなたと出会ったことで、
『守られる側』ではなく『守る側』になりたいと心の底から願っているようですから」
狐ちゃんが、あかりの胸で「ふわ!……ん!」と小さく鳴いた。
まるで「そうだよ」と同意しているようだった。焔月は写真をそっと手に取り、あかりのほうへ差し出した。
「この写真……もしよかったら、あかり様にお譲りします。
私の幼い頃の姿を、覚えていてくださると嬉しいです」
あかりは慌てて手を振った。
「え、そんな……大切な写真なのに……」
「いいのです。私はもう、この姿を十分に覚えています。」
あかりはしばらく写真を見つめ、やがてゆっくりと頷いた。
「……ありがとうございます、焔月さん。大切にします。」
「焔月さんが、こんなに可愛かった頃があったなんて……なんだか、意外です。」
焔月は静かに微笑んだ。
その後、二人は写真を囲みながら、焔月の幼少期の話をゆっくりと聞いた。
当時はまだ神社の規模が小さく、狐娘の数も今よりずっと少なかったこと。
魔力が暴走して周囲の花を一斉に咲かせてしまい、困った母狐に叱られたこと。
夜になると怖くなって、母の九本の尻尾の中に潜り込んで眠っていたこと…… 焔月は淡々と、しかしどこか懐かしそうに語った。
璃音も時々補足を入れながら、母の昔話を楽しそうに聞いている。
狐ちゃん、ぴーちゃん、ゴムちゃんの三匹は、話の途中からあかりの膝の上で丸くなり、時々「ふわ……」と寝息を立てながら、大人の会話をぼんやりと聞いていた。
陽が傾き始めた頃、あかりは写真を大切に胸に抱き、
焔月に深く頭を下げた。
「今日は、本当にありがとうございました、焔月さん。」
焔月は優しく微笑み、九本の尻尾を静かに揺らした。
「こちらこそ、ありがとうございます、あかり様。
あなたのような方が、私の娘たちを守ってくださる……
それだけで、私は十分に幸せです。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします」
璃音が茶室の入り口で小さく頭を下げた。
「またいつでもお越しくださいね、あかりさん。妹たちも、きっと待っていますから」
あかりは狐ちゃんを抱き上げ、ぴーちゃんとゴムちゃんを連れて、ゆるやかな坂道を下り始めた。
振り返ると、焔月と璃音が本殿の前で静かに手を振っている。
九本の銀色の尻尾が、夕陽に淡く輝いていた。
あかりは胸に抱いた古い写真をそっと見つめ、小さく微笑んだ。
「焔月さん……昔は、こんなに小さかったんだ……
私も、狐ちゃんたちを、ちゃんと守っていかなきゃ」
狐ちゃんがあかりの胸で「ふわぁ……ん!」と甘く鳴いた。
神社の境内では、今日も数えきれないほどの狐娘たちが、「ふわ!」「んぴ!」と元気な声を上げながら、平和な日常を過ごし続けている。
そしてあかりは、焔月の幼い頃の写真を大切に持ち帰り、これからも神社と、小さな狐娘たちとの絆を、
静かに、けれど確かに深めていくのだった。
今回も読んで頂けて嬉しいです!
誤字などがあると思いますが見つけたら教えてください!