小さな狐娘と魔法少女   作:う〜☆☆☆

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新しく書いてる途中の作品に狐ちゃんを主人公で出すか悩む…。


番外編04 『幼い焔月の写真』

 

 

 

神社の境内は、午後の柔らかな陽光に包まれていた。

 

あかりはいつものように、ゆるやかな石の坂道をゆっくりと上っていた。

 

背中には狐ちゃんがぴったりとくっつき、尻尾の鈴をちりんちりんと鳴らしながら、

時々「あかりの髪に顔を埋めて「ふわ……ん」と甘えた声を出す。

 

少し後ろからは、ぴーちゃんとゴムちゃんがぴょんぴょん跳ねながらついてきている。

 

本殿の前で待っていたのは、焔月と璃音の母娘だった。

 

焔月は九本の銀色の尻尾を優しく揺らし、赤い瞳を細めて微笑んだ。

 

「いらっしゃいましたね、あかり様。今日も遠いところを、わざわざお越しいただきありがとうございます」

 

璃音も青いリボンを揺らして軽く頭を下げた。

 

「こんにちは、あかりさん。妹たちも元気そうで何よりです」

 

あかりは狐ちゃんを抱き上げながら、照れくさそうに笑った。

 

「お邪魔してしまってすみません、焔月さん。

今日は少しお時間があるので、ゆっくりお話しできればと思って……」

 

焔月は穏やかに頷き、本殿の横にある茶室へとあかりを案内した。

 

座布団は人間サイズと狐娘サイズが両方用意されており、あかりは人間用の座布団に座り、焔月は向かいに腰を下ろした。

 

璃音は少し離れたところで、お茶の準備を始めている。

 

狐ちゃんとぴーちゃんとゴムちゃんは近くの小さな座布団で「んぴ!んぴぴ!」と鳴きながら、持ってきたポテトチップスを仲間を集めて大勢で食べている。

 

焔月が静かに湯を注ぎながら、柔らかい声で言った。

 

「あかり様が来てくださるようになってから、この神社がずいぶん賑やかになりました。」

 

「娘たちも毎日、あかり様のことを楽しみに待っていますよ」

 

あかりは少し頰を赤らめた。

 

「そんな……私なんかじゃ力不足ですけど、

焔月さんや璃音さんが温かく迎えてくださるので、つい足が向いてしまって……」

 

二人はお茶をすすりながら、最近の出来事や組織の動きについて穏やかに話し始めた。

 

話が一段落した頃、あかりの視線がふと、焔月の後ろの壁に掛かった小さな棚に移った。

 

そこに、古びた木製の額縁が一つ置かれていた。

 

額縁の中の写真——それは、とても古い、色褪せた一枚の写真だった。

 

写真に写っていたのは、身長30cmほどの小さな狐娘。

 

銀色の短い髪に赤い瞳、2本の小さな尻尾を広げている、ちんまりとした子狐だった。

 

白い着物を着て、少し不安げな表情でカメラに向かって立っている。

 

頭には白い狐の面を小さく乗せ、尻尾の先が少し震えているように見えた。

 

あかりは思わず息を飲んだ。

 

「……あれ? 焔月さん……この写真の子……」

 

焔月が静かに振り返り、額縁に視線を落とした。

 

その瞬間、焔月の表情がわずかに柔らかくなった。

 

「ああ……それは、私がまだとても小さかった頃の写真です。今からおよそ1200年ほど前のことですよ。」

 

「……この神社がまだできたばかりの頃に撮られたものなんです…。」

 

あかりの目が大きく見開かれた。

 

「え……せ、1200年……?この子が……焔月さん……?」

 

焔月は静かに微笑み、写真を優しく見つめた。

 

「はい。当時の私は、まだ尻尾を完全に生やしきっておらず、魔力も不安定で、よく怖がってばかりいました。」

 

「母……先代の天狐様が、珍しく魔導カメラを手に入れて、私を無理やり撮った一枚なのです。」

 

「……今見ると、随分と幼くて怯えた顔をしていますね」

 

あかりは写真に顔を近づけ、じっくりと見つめた。

 

銀髪の短い毛並み、大きな赤い瞳、少しだけ不安げに耳を倒した様子、まだ小さくてふわふわした1本の尻尾……確かに、今の焔月の面影がはっきりと残っている。

 

しかし、現在の威厳ある天狐の姿とは違い、

ただの「ちんまりとした、怖がりな子狐」にしか見えなかった。

 

「すごく……可愛いですね。今の焔月さんとは全然雰囲気が違うけど、目元や耳の形がそっくり……九本の尻尾も、まだ小さくてふわふわしてて……」

 

焔月は少し照れたように、九本の尻尾を軽く揺らした。

 

「ふふ……あかり様にそう言っていただけると、光栄です。」

 

「当時は本当に小さくて、この神社の先代の天狐様にいつも守られながら育ちました。」

 

「そして私の魔力が強くなりすぎて周囲を傷つけないよう、毎日厳しい修行をしていた時期でもあります」

 

焔月が軽く咳払いをした。

 

あかりは写真から目を離せず、狐ちゃんを抱きしめながら小さくつぶやいた。

 

「狐ちゃんも……今はこんなに小さくて可愛いけど、何百年か後には、焔月さんみたいに立派な天狐になるのかな……」

 

その言葉に、焔月は静かに首を横に振った。

 

「わかりませんよ、あかり様。この子は……私の血を引いてはいますが、私とは少し違う道を歩む子になるかと。」

 

「この子は、あなたと出会ったことで、

『守られる側』ではなく『守る側』になりたいと心の底から願っているようですから」

 

狐ちゃんが、あかりの胸で「ふわ!……ん!」と小さく鳴いた。

 

まるで「そうだよ」と同意しているようだった。焔月は写真をそっと手に取り、あかりのほうへ差し出した。

 

「この写真……もしよかったら、あかり様にお譲りします。

私の幼い頃の姿を、覚えていてくださると嬉しいです」

 

あかりは慌てて手を振った。

 

「え、そんな……大切な写真なのに……」

 

「いいのです。私はもう、この姿を十分に覚えています。」

 

あかりはしばらく写真を見つめ、やがてゆっくりと頷いた。

 

「……ありがとうございます、焔月さん。大切にします。」

 

「焔月さんが、こんなに可愛かった頃があったなんて……なんだか、意外です。」

 

焔月は静かに微笑んだ。

 

その後、二人は写真を囲みながら、焔月の幼少期の話をゆっくりと聞いた。

 

当時はまだ神社の規模が小さく、狐娘の数も今よりずっと少なかったこと。

 

魔力が暴走して周囲の花を一斉に咲かせてしまい、困った母狐に叱られたこと。

 

夜になると怖くなって、母の九本の尻尾の中に潜り込んで眠っていたこと…… 焔月は淡々と、しかしどこか懐かしそうに語った。

 

璃音も時々補足を入れながら、母の昔話を楽しそうに聞いている。

 

狐ちゃん、ぴーちゃん、ゴムちゃんの三匹は、話の途中からあかりの膝の上で丸くなり、時々「ふわ……」と寝息を立てながら、大人の会話をぼんやりと聞いていた。

 

陽が傾き始めた頃、あかりは写真を大切に胸に抱き、

焔月に深く頭を下げた。

 

「今日は、本当にありがとうございました、焔月さん。」

 

焔月は優しく微笑み、九本の尻尾を静かに揺らした。

 

「こちらこそ、ありがとうございます、あかり様。

 

あなたのような方が、私の娘たちを守ってくださる……

それだけで、私は十分に幸せです。

 

これからも、どうぞよろしくお願いいたします」

 

璃音が茶室の入り口で小さく頭を下げた。

 

「またいつでもお越しくださいね、あかりさん。妹たちも、きっと待っていますから」

 

あかりは狐ちゃんを抱き上げ、ぴーちゃんとゴムちゃんを連れて、ゆるやかな坂道を下り始めた。

 

振り返ると、焔月と璃音が本殿の前で静かに手を振っている。

 

九本の銀色の尻尾が、夕陽に淡く輝いていた。

 

あかりは胸に抱いた古い写真をそっと見つめ、小さく微笑んだ。

 

「焔月さん……昔は、こんなに小さかったんだ……

私も、狐ちゃんたちを、ちゃんと守っていかなきゃ」

 

狐ちゃんがあかりの胸で「ふわぁ……ん!」と甘く鳴いた。

 

神社の境内では、今日も数えきれないほどの狐娘たちが、「ふわ!」「んぴ!」と元気な声を上げながら、平和な日常を過ごし続けている。

 

そしてあかりは、焔月の幼い頃の写真を大切に持ち帰り、これからも神社と、小さな狐娘たちとの絆を、

静かに、けれど確かに深めていくのだった。

 

 

 






今回も読んで頂けて嬉しいです!
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