小さな狐娘と魔法少女   作:う〜☆☆☆

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璃音が小さい時の過去編書きました!


番外編06 『幼い頃の璃音』

 

 

約400年前——神社は、まだ木々が深く、人の気配もまばらな頃だった。

 

銀色の長い髪を風に揺らし、九本の尾を優しく広げた若い焔月は、神社の奥にある小さな祠の前で、静かに座っていた。

 

その腕の中には、たった一本の小さな尻尾をぴんと立てた、身長が30cmにも満たない20cm程度の金髪の小さな狐娘がいた。

 

「んぴゃ!……ふぁ!」まだ生まれて間もない璃音だった。

 

紫色の瞳をうるうるさせながら、焔月の胸に顔を埋め、

小さな手で母の着物の裾をぎゅっと掴んでいる。

 

焔月は優しく微笑み、璃音の金色の髪を指で丁寧に梳いた。

 

「璃音…もう少し大きくなったら、一緒に境内の桜の木を見に行きましょうね」

 

璃音はまだ言葉を話せない。

 

ただ「ふぁ!ふみゅ〜!」と鳴きながら、

母の温かさに包まれて安心したように目を細める。

 

その頃の焔月は、まだ九尾の力を完全に制御しきれず、

神社の守り手として日々を過ごしていた。

 

しかし、璃音が生まれてからは、それまでの静かな日々が一変した。

 

朝になると、焔月はまず璃音を抱き上げ、境内の緩やかな坂道をゆっくりと歩く。

 

璃音は母の腕の中で「ふゃ!」と喜びの声を上げ、

周りの木々や鳥を興味津々で見つめている。

 

「ほら、あそこに花が咲いているわ。きれいでしょう?」

 

焔月が優しく語りかけると、

璃音は小さな手を伸ばして「みゅっ!」と鳴く。

 

まだ一本の尻尾を一生懸命に振って、喜びを表現している。

 

食事の時間は特に微笑ましかった。

 

焔月は台所で小さな器を用意し、りんごを薄くスライスして、璃音に与える。

 

璃音は両手でりんごを抱えるようにして、「んむ……んむ……」と一生懸命に食べている。

 

時々、食べ過ぎて頰がぷくっと膨らむと、焔月はくすっと笑いながら、指で優しく拭ってあげた。

 

「ゆっくり食べなさい。お母さんが見ていてあげるから」

 

璃音は「んみゅっ!」と幸せそうに鳴き、

母の指に自分の小さな手を重ねる。

 

雨の日は特に大変だった。

 

激しい雨が境内に降り注ぐ夜、璃音は怖がって母の九本の尻尾の中に潜り込み、「んみぃ……んみぃ……」と震えながら鳴く。

 

焔月はすべての尾を広げて璃音をすっぽりと包み、温かい霊力で雨音を和らげながら、静かに子守唄のような歌を口ずさんだ。

 

「大丈夫よ、璃音。…お母さんがずっとここにいるから」

 

璃音は母の尻尾の温もりに包まれ、やがて「すー……すー……」と小さな寝息を立てる。

 

焔月はそんな娘の寝顔を、赤い瞳で優しく見つめ続けていた。

 

璃音が少し大きくなり、二本目の尾が生えた頃——焔月は璃音を連れて、神社の外へ少しずつ出かけるようになった。

 

まだ人間の姿を取れるほど力は強くなかったので、二人とも小さな狐の姿のまま、山道をぴょこぴょこと歩いた。

 

ある日、久々に人間の子供が迷い込んできた。

 

璃音は怖がって母の後ろに隠れたが、焔月は優しく璃音の手を引いて、そっと子供の足元に小さなりんごを転がした。

 

子供がりんごを拾って笑顔になると、璃音も恐る恐る顔を出し、「ふゃ…?」と首をかしげた。

 

焔月は静かに微笑み、璃音の耳元で囁いた。

 

「怖がらなくていいわ。優しい人間もいるのよ。いつか、あなたがこの神社を守るようになったら、そんな人たちとも、ちゃんと向き合えるようになってね」

 

璃音はまだ幼かったが、母の言葉を一生懸命に聞こうと、紫色の瞳を真剣に輝かせていた。

 

歳月が流れ、璃音が三本目の尾を生やした頃——焔月は璃音を本殿の前に連れて行き、古い狐の石像の前で静かに語りかけた。

 

「璃音……あなたは私の大切な娘。いつか、この神社の守り手として、たくさんの娘たちを優しく導いてあげて。」

 

「私も……いつか長い眠りにつくかもしれない。その時は、あなたがみんなの『お母さん』になってね」

 

璃音はまだ幼いながらも、母の言葉の重みを少しだけ感じ取った。

 

小さな体で一生懸命に頷き、「んみゅ!……ふあ!」と力強く返事をした。

 

焔月はそんな璃音を抱きしめ、九本の尾で優しく包み込んだ。

 

「ふふ……よく頑張ってるわね。私の誇りよ、璃音」

 

その頃の神社は、まだ娘の数も璃音しか居なく、静かだった。

 

しかし、母と娘の温かい日々が、やがて数千匹にも及ぶ狐娘たちの「家」となる基盤を作っていた。

 

焔月は璃音を育てながら、自分が小さかった頃の記憶を何度も思い出した。

 

母に守られ、食料を分けてもらい、雨の夜に尻尾に包まれて眠った、あの頃の自分。

 

「いつか、あなたも……たくさんの子たちに、同じ優しさをあげられるようになるわ」

 

焔月は心の中でそう願いながら、今日も璃音の銀に近い金色の髪を、優しく、優しく、撫で続けていた。

 

 

 

 

 

時が流れ——今の焔月は、九本の尾を持つ天狐として、

数えきれない狐娘たちを守っている。

 

璃音は立派に成長し、母を支える優しい娘となった。

 

しかし、焔月は時折、神社の奥で昔の記憶を思い出す。

 

小さな璃音が「ふや!…んみゅ!」と鳴きながら、自分の胸に顔を埋めていた、あの温かい日々を…

 

 

焔月は静かに微笑み、赤い瞳を細めてつぶやく。

 

 

「……ありがとう、璃音。あなたがいてくれて、本当によかった」

 

 

神社では、今日も「ふわ!」「んぴ!」と言う鳴き声が、母と娘の優しい絆とともに、静かに、温かく響き続けている。

 

 

 

 

 





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