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神社の最も奥深い間にて——
青い灯りが静かに揺れる部屋で、焔月は九本の銀色の尻尾を優しく畳んで座っていた。
璃音がそっと茶を運んでくる。
「お母様、本当に行くの?」焔月の赤い瞳が、穏やかに細められた。
「ええ。娘たちが人間の世界で、どれだけ安心して暮らせるようになったのか、この目で確かめたいと思っているの」
璃音は少し心配そうに、しかし母の決意を尊重して頷いた。
「わかったよ。気をつけてね?」焔月は静かに立ち上がり、九本の尾を一瞬だけ振った。
次の瞬間、彼女の姿は神社の奥の間から消え、青白い光の渦——人間界へと転移していった。
人間界の夜。星乃あかりの家の近く、静かな路地裏に、淡い銀色の光が現れた。
光が収まると、そこに立っていたのは、人間の姿を取った焔月だった。
身長約160cm、長い銀髪を優しく流し、白と紅を基調とした巫女服の様な着物をまとい、九本の尾は今は完全に隠されている。
ただ、赤い瞳の奥に宿る深さと、周囲に漂う静かな威厳だけが、彼女が「天狐」であることを物語っていた。
焔月はゆっくりと周囲を見回した。
「……ここが、娘達の暮らす街……神社とは空気が少し違うわね。魔力と人間の気配が、混じり合っている…」彼女は静かに歩き始めた。
夜の街灯が銀髪を優しく照らす。
通りすがりの人々は、彼女の美しさに一瞬目を奪われるが、誰も「魔人」だと気づかない。
焔月は完全に人間の姿を完璧に再現していた。
家の前まで来たとき、焔月は小さく微笑んだ。
「ここですね……娘たちの、気配がするわね」インターホンを押そうとした瞬間、ドアが内側から開いた。
「あ……!?」出てきたのは、あかりだった。
買い物袋を提げ、狐ちゃんを片手で抱き両肩にぴーちゃんとゴムちゃんが乗っている。
狐ちゃん達は実は焔月を来る前から「ふわっ!ふわふわー!」と騒いでいた。
あかりは驚いて目を丸くして「焔月さん……!?どうしてここに……?」と言う。
焔月は優雅に一礼し、穏やかな声で答えた。
「あかり様……突然お邪魔して申し訳ありません。」
「娘達の様子を見に来ちゃいました。」
狐ちゃんはあかりの腕から飛び出し、焔月の足元でぴょんぴょん跳ねながら「んぴ!ふわふわー!」と大喜びでまとわりつく。
あかりは慌てて狐ちゃんを抱き上げ、少し照れくさそうに言った。「えっと……どうぞ、中へ。」
「焔月さんが近くに居たんだ…通りで今日は狐ちゃん達が騒がしかった訳だ…。」
そうあかりが呟く。
「焔月さん。璃音さんは一緒じゃないんですか?」
「今日は私一人で参りました。璃音には、神社を守るよう言い置いてきました」
焔月はリビングに入ると、静かに座り、改めて頭を下げた。
「あかり様。娘達をただの魔物ではなく、家族のように迎え入れてくださったこと。心より感謝申し上げます。
組織の方針が全面的に保護に変わった今、ようやく安心して人間界に足を踏み入れることができました」
あかりは紅茶を淹れながら、少し緊張した面持ちで答えた。
「私こそ……狐ちゃんたちと出会えて、本当に幸せですよ。焔月さんが天狐だって知った時は驚きましたけど、
今はただ、みんなが安心して暮らせるようにって思ってます」
焔月は紅茶を一口飲み、赤い瞳を優しく細めた。
「この街の空気……人間と魔物の境界が、思ったより柔らかいのですね。娘たちが街中で見かけられるようになったと聞き、心配と期待が入り混じっていましたが……
実際に来てみて、安心しました。」
「人々が、娘たちを優しく見守ってくれている」
その時、狐ちゃん達があかりの膝から降り、焔月の足元にぴょんと飛び乗った。
「ふわっ!ふわふわー!」と狐ちゃんは鳴く。
焔月は優しく狐ちゃん達を抱き上げ、九本の尾を現して、狐ちゃんをふんわりと包み込んだ。
「よく頑張ったわね、みんな。人間界で、こんなに元気に暮らしているなんて……お母さん、嬉しいわ」狐ちゃん達は焔月の腕の中で「ふわぁ〜!」と長く幸せそうな声を出し、尻尾をぶんぶん振った。
あかりはその様子を見て、胸が熱くなった。
「焔月さん、これからも、時々こうして遊びに来てください。狐ちゃんたちも、きっと喜びますよ!」
焔月は静かに微笑んだ。
「ええ、必ず。あかり様……あなたのような方がいてくださるからこそ、私たちの子どもたちは、人間界でも安心して生きていけるのです」
その夜、焔月はリビングで少しの間、狐ちゃんたちと過ごした。
ぴーちゃんは尻尾を振りながら焔月の周りを回り、
ゴムちゃんはお菓子を抱えて焔月の膝に登り、
狐ちゃんは焔月の頭の上で「ふわふわー!」と鳴き大はしゃぎ。
焔月は三匹を優しく見守りながら、心の中でつぶやいた。
(……人間界は、思っていたより優しい場所ね。これからも、時々こうして、娘たちの顔を見に来ましょうか。次に行くのは魔法少女達の本部ですかね。)
夜更け、焔月は静かに家を後にした。
青白い光の渦が現れ、彼女の姿は再び神社へと帰っていった。
あかりは窓からその光を見送りながら、狐ちゃんを抱きしめて小さく微笑んだ。
「みんな良かったね。ママが来てくれて」狐ちゃん達はあかりの肩で「「「ふわっ!」」」と元気よく鳴いた。
人間界に、天狐・焔月が初めて足を踏み入れた夜。
それは、狐娘たちと人間の、新しい絆の始まりでもあった。
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