小さな狐娘と魔法少女   作:う〜☆☆☆

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番外編17 『親の訪問』

 

神社の最も奥深い間にて——

青い灯りが静かに揺れる部屋で、焔月は九本の銀色の尻尾を優しく畳んで座っていた。

 

璃音がそっと茶を運んでくる。

 

「お母様、本当に行くの?」焔月の赤い瞳が、穏やかに細められた。

 

「ええ。娘たちが人間の世界で、どれだけ安心して暮らせるようになったのか、この目で確かめたいと思っているの」

 

璃音は少し心配そうに、しかし母の決意を尊重して頷いた。

 

「わかったよ。気をつけてね?」焔月は静かに立ち上がり、九本の尾を一瞬だけ振った。

 

次の瞬間、彼女の姿は神社の奥の間から消え、青白い光の渦——人間界へと転移していった。

 

人間界の夜。星乃あかりの家の近く、静かな路地裏に、淡い銀色の光が現れた。

 

光が収まると、そこに立っていたのは、人間の姿を取った焔月だった。

 

身長約160cm、長い銀髪を優しく流し、白と紅を基調とした巫女服の様な着物をまとい、九本の尾は今は完全に隠されている。

 

ただ、赤い瞳の奥に宿る深さと、周囲に漂う静かな威厳だけが、彼女が「天狐」であることを物語っていた。

 

焔月はゆっくりと周囲を見回した。

 

「……ここが、娘達の暮らす街……神社とは空気が少し違うわね。魔力と人間の気配が、混じり合っている…」彼女は静かに歩き始めた。

 

夜の街灯が銀髪を優しく照らす。

 

通りすがりの人々は、彼女の美しさに一瞬目を奪われるが、誰も「魔人」だと気づかない。

 

焔月は完全に人間の姿を完璧に再現していた。

 

家の前まで来たとき、焔月は小さく微笑んだ。

 

「ここですね……娘たちの、気配がするわね」インターホンを押そうとした瞬間、ドアが内側から開いた。

 

「あ……!?」出てきたのは、あかりだった。

 

買い物袋を提げ、狐ちゃんを片手で抱き両肩にぴーちゃんとゴムちゃんが乗っている。

 

狐ちゃん達は実は焔月を来る前から「ふわっ!ふわふわー!」と騒いでいた。

 

あかりは驚いて目を丸くして「焔月さん……!?どうしてここに……?」と言う。

 

焔月は優雅に一礼し、穏やかな声で答えた。

 

「あかり様……突然お邪魔して申し訳ありません。」

 

「娘達の様子を見に来ちゃいました。」

 

狐ちゃんはあかりの腕から飛び出し、焔月の足元でぴょんぴょん跳ねながら「んぴ!ふわふわー!」と大喜びでまとわりつく。

 

あかりは慌てて狐ちゃんを抱き上げ、少し照れくさそうに言った。「えっと……どうぞ、中へ。」

 

「焔月さんが近くに居たんだ…通りで今日は狐ちゃん達が騒がしかった訳だ…。」

 

そうあかりが呟く。

 

「焔月さん。璃音さんは一緒じゃないんですか?」

 

「今日は私一人で参りました。璃音には、神社を守るよう言い置いてきました」

 

焔月はリビングに入ると、静かに座り、改めて頭を下げた。

 

「あかり様。娘達をただの魔物ではなく、家族のように迎え入れてくださったこと。心より感謝申し上げます。

組織の方針が全面的に保護に変わった今、ようやく安心して人間界に足を踏み入れることができました」

 

あかりは紅茶を淹れながら、少し緊張した面持ちで答えた。

 

「私こそ……狐ちゃんたちと出会えて、本当に幸せですよ。焔月さんが天狐だって知った時は驚きましたけど、

今はただ、みんなが安心して暮らせるようにって思ってます」

 

焔月は紅茶を一口飲み、赤い瞳を優しく細めた。

 

「この街の空気……人間と魔物の境界が、思ったより柔らかいのですね。娘たちが街中で見かけられるようになったと聞き、心配と期待が入り混じっていましたが……

実際に来てみて、安心しました。」

 

「人々が、娘たちを優しく見守ってくれている」

 

その時、狐ちゃん達があかりの膝から降り、焔月の足元にぴょんと飛び乗った。

 

「ふわっ!ふわふわー!」と狐ちゃんは鳴く。

 

焔月は優しく狐ちゃん達を抱き上げ、九本の尾を現して、狐ちゃんをふんわりと包み込んだ。

 

「よく頑張ったわね、みんな。人間界で、こんなに元気に暮らしているなんて……お母さん、嬉しいわ」狐ちゃん達は焔月の腕の中で「ふわぁ〜!」と長く幸せそうな声を出し、尻尾をぶんぶん振った。

 

あかりはその様子を見て、胸が熱くなった。

 

「焔月さん、これからも、時々こうして遊びに来てください。狐ちゃんたちも、きっと喜びますよ!」

 

焔月は静かに微笑んだ。

 

「ええ、必ず。あかり様……あなたのような方がいてくださるからこそ、私たちの子どもたちは、人間界でも安心して生きていけるのです」

 

その夜、焔月はリビングで少しの間、狐ちゃんたちと過ごした。

 

ぴーちゃんは尻尾を振りながら焔月の周りを回り、

ゴムちゃんはお菓子を抱えて焔月の膝に登り、

狐ちゃんは焔月の頭の上で「ふわふわー!」と鳴き大はしゃぎ。

 

焔月は三匹を優しく見守りながら、心の中でつぶやいた。

 

(……人間界は、思っていたより優しい場所ね。これからも、時々こうして、娘たちの顔を見に来ましょうか。次に行くのは魔法少女達の本部ですかね。)

 

夜更け、焔月は静かに家を後にした。

 

青白い光の渦が現れ、彼女の姿は再び神社へと帰っていった。

 

あかりは窓からその光を見送りながら、狐ちゃんを抱きしめて小さく微笑んだ。

 

「みんな良かったね。ママが来てくれて」狐ちゃん達はあかりの肩で「「「ふわっ!」」」と元気よく鳴いた。

 

人間界に、天狐・焔月が初めて足を踏み入れた夜。

 

それは、狐娘たちと人間の、新しい絆の始まりでもあった。

 

 





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