外伝01 『青と赤』
これは、星乃あかりと狐ちゃんが出会ってから少しした後の別の狐娘の話。
夜の路地裏は、冷たい風と魔物の咆哮が交錯していた。青い髪の狐娘は、ビルの隙間にあるゴミ箱の陰に小さく身を隠していた。
彼女の髪は珍しい明るい水色で、紫色の瞳が緊張に細められている。
身長は約30センチ。
白と黒を基調とした小さな着物を着て、頭には青いリボンを付けていた。
その視線の先では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
青い衣装の魔法少女——名前は藍原 みずき。
彼女はそこそこの実力の中堅の魔法少女で、
武器は両手に握った二本のコンバットナイフだった。
刃は魔力で強化され、青白く輝いている。
「くっ……!」みずきは素早い動きで魔物の攻撃をかわし、
右のナイフで切りつけ、左のナイフで牽制する。
しかし、相手は中級の魔物。
再生力が高く、動きも素早い。
みずきは徐々に追い詰められ、壁際に背を預ける形になっていた。
狐娘は息を潜め、隠れたままその戦いを見つめていた。
紫色の瞳が真剣に、しかし少し不安げに揺れている。彼女の足元には、大きな武器が置かれていた。
青が基調の白い刃の大剣。
長さは約150cm——狐娘の身長の5倍近くもあり、
彼女が振るえるような大きさでは到底ない。
剣の表面には淡い青い魔力の紋様が浮かび、
柄の部分に小さな鈴が付いている。
狐娘は時々その大剣に視線を落とし、
小さく耳をぴくぴくさせながら、
戦いの行方をじっと見守っていた。
みずきがナイフを交差させて魔物の爪を防いだ瞬間、
魔物が大きく咆哮し、尾のような触手を振り回した。
みずきは体勢を崩し、吹き飛ばされ壁に少しめり込んだ。
「っ……!」青い狐娘の瞳が、わずかに揺れた。
彼女は隠れたまま小さく体を前傾させ、
まるで「今、飛び出そうか……」と迷うような仕草を見せた。
しかし、結局動かなかった。
ただ、足元の大きな青い大剣を、
小さな手でそっと触れるだけだった。
みずきは歯を食いしばり、
再び立ち上がってナイフを構えた。
汗が額を伝い、息が荒くなっている。
魔物は容赦なく迫り、彼女をさらに追い詰めていく。
狐娘はゴミ箱の陰で体を小さく丸め、
紫色の瞳を大きく見開いたまま、
戦いの結末を息を潜めて見つめ続けていた。
青い髪の狐娘と、
彼女の足元に置かれた大きすぎる青い大剣。
そして、追い詰められていく青い衣装の魔法少女…
青い髪の狐娘は、ゴミ箱の陰からこっそり出てきた。
彼女の紫色の瞳には、強い緊張と迷いが浮かんでいる。
小さな手で、足元に置かれた巨大な青い大剣の柄を握った。
「……ふわ……」
刃は白く輝き、青い魔力の紋様が淡く浮かんでいる。
普通の狐娘なら到底持ち上げられない重量級の武器だが狐娘は両手で柄を握りしめ、
必死に力を込めた。
「ん……んぴ……!」しかし、力が入らない。
彼女たちには、驚異的なパワーがあるはずなのに、
肝心な時に全く出てこない。
怒りや危機感が足りないと、本能的な力が発揮されない——それが狐娘たちの特性だった。
結果、狐娘は大剣を「引きずる」しかできなかった。ガリガリ……ガリ……重い刃がアスファルトを擦る音が、路地に響く。
狐娘は小さな体を前傾させ、両手で柄を握りしめながら、一歩一歩、ゆっくりと前へ進み始めた。
尻尾が緊張で硬く立っている。
その間にも、戦況は悪化の一途をたどっていた。
みずきは、壁際に追い詰められ、息を荒げていた。
両手のコンバットナイフはすでに傷だらけで、
魔物の爪が彼女の肩を浅く切り裂いていた。
「くっ……!」みずきは左のナイフで魔物の攻撃を弾き、右のナイフで反撃を試みるが、魔物の再生力は予想以上に速い。
触手のような尾が再び振り下ろされ、
みずきは体勢を崩して片膝をついた。狐娘はまだ遠い。
大剣を引きずりながら、
必死に近づこうとしているが、
距離はまだ10メートル以上ある。
小さな足で重い剣を引きずるのは、
想像以上に時間がかかっていた。
「ふわ……んぴ……!」狐娘の息が上がる。
紫色の瞳に、焦りと悔しさが浮かぶ。
この大剣は、彼女が尻尾の中にしまい込んで持ち歩いていたもの。
特別に「扱える人物」が限られた、強力な武器だ。
狐娘は長い間、適正者を探し続けていた。
そして、ようやく見つけた——
それが、この魔法少女だった。
しかし、今はまだ遠い。
大剣の重さに足を取られ、思うように進めない。みずきは歯を食いしばり、再び立ち上がってナイフを構えた。
魔物が大きく跳びかかり、
彼女の体を壁に叩きつけようとする。
狐娘の瞳が、わずかに揺れた。「ん……んぴぃ……!」彼女はさらに力を込めて大剣を引きずる。
アスファルトに刃が深く食い込み、火花が散る。
小さな体が震え、息が荒くなる。
それでも、彼女は一歩、また一歩と、
魔法少女に近づこうとしていた。
みずきは魔物の攻撃をなんとかしのぎながら、
路地の奥に視線を走らせた。
そこに、小さな青い影と、
重いものを引きずる音が聞こえる。
彼女は一瞬だけ目を細めたが、
すぐに魔物の次の攻撃に集中せざるを得なかった。
狐娘はまだ遠い。
しかし、彼女の紫色の瞳には、
強い決意が宿っていた。
この大剣を、この魔法少女に託すために——彼女は小さな体で、必死に大剣を引きずり続けていた。
路地裏に、重い刃が地面を擦る音と、魔物の咆哮、そして小さな狐娘の「んぴ……!」という、懸命な鳴き声が響き渡っていた。
その頃、魔物の咆哮と激しい戦闘音で路地裏は満ちていた。
狐娘は、大きな青い大剣を必死に引きずりながら、
小さな体を前傾させて一歩、また一歩と進んでいく。
しかし、やはり重い。
剣の重さで、アスファルトに刃が深く食い込み、火花を散らしている。
「ふー…ふー…ムッ!」息が上がるが進み続ける。
だが、紫色の瞳に、焦りと諦めが混じり始めた。
そして…
もう……駄目だ……
魔法少女はもう壁際に追い詰められ、
魔物の爪があと少しで彼女に届こうとしている。
自分はまだ遠い。
この大きな剣を、到底間に合わせられない。狐娘の足が、ふらりと止まった。
(……もう、間に合わない……)
その瞬間——横から、小さな手がすっと伸びてきた。
その手は、狐娘と同じくらい小さな手だった。
青い髪の狐娘が驚いて横を見ると、
そこに、赤い髪の狐娘が立っていた。友達だった。
赤い髪に赤い瞳、頭には小さな黒いリボン。
彼女は無言で大剣の柄に自分の小さな手を重ね、
一緒に握りしめた。
目が合う。赤い髪の狐娘は、静かに首を横に振った。
「ん〜ん」と言いながらまるで「諦めちゃ駄目だよ」と言いたげに。
その瞳には、強い意志と優しさが宿っていた。
青い髪の狐娘の瞳が、わずかに揺れた。
「……ふわ……?」赤い髪の狐娘は、もう片方の手で青い髪の狐娘の肩を軽く押し、一緒に力を込めて大剣を引き始めた。
ガリガリ……ガリ……二匹の小さな体が並び、
重い大剣を二人で引きずりながら前へ進む。
まだ遠い。
しかし、諦めかけた青い髪の狐娘の足取りに、
再び力が戻った。
赤い髪の狐娘は、時々「ん……ん!」と短く鳴きながら、
青い髪の狐娘を励ますように横目で見る。
二匹の尻尾が、緊張と決意で少し硬く立っている。
その間にも、戦況はさらに悪化していた。
みずきは、一撃を何とか避け逃げ回っていた。
そして壁に背を預け、息を荒げながら二本のコンバットナイフを構えていた。
肩から血が流れ、左腕の動きが鈍くなっている。
魔物は再生を繰り返しながら、
ゆっくりと、しかし確実に彼女を追い詰めていく。
みずきは歯を食いしばり、
最後の力を振り絞ってナイフを振り上げた。
その時、二匹の狐娘はまだ数メートルほど離れた場所にいた。
大剣を引きずる音が、路地に小さく響く。
青い髪の狐娘は、赤い髪の友達に支えられながら、
紫色の瞳に再び光を宿した。
「んぴ……!」と鳴き赤い髪の狐娘は頷き、さらに力を込めて剣を引く。
二匹の小さな手が、大きな大剣の柄をしっかりと握りしめ、「諦めない」という意志を、静かに、しかし確かに示していた。
路地裏の闇の中で、二匹の狐娘と、彼女たちの大きな青い大剣が、まだ遠い戦場に向かって、ゆっくりと、しかし確実に近づいていく。
絶望的な静けさに路地裏は包まれようとしていた。
限界を迎えたみずきは、壁に背を預けたまま膝をついていた。
魔物の攻撃を受け流した瞬間…
両手に握っていたコンバットナイフの刃が、ついに限界を迎えた。
二本のナイフが同時に折れ、地面に落ちる乾いた音が響いた。
みずきは力なく手を下げ、肩で荒い息を繰り返した。
血が左腕から滴り落ち、青い衣装をさらに暗く染めていく。
「……もう……無理……」彼女は小さく呟き、へたり込んだ。
魔物は獲物が抵抗をやめたのを見て、ゆっくりと首を傾げ、どうやって食べようかと楽しむように、大きな影を彼女の上に落としていた。
その光景を、二匹の狐娘は剣を必死に引きずりながら見ていた。
青い髪の狐娘は、まだ大きな青い大剣を必死に引きずっていた。
しかし、距離はまだ遠い。
隣にいた赤い髪の狐娘が、突然小さく「んぴ…!」鳴いた。
その声には、強い決意が込められていた。
彼女は柄から手を離し、魔物に向かって一直線に走り出した。
小さな体が、夜の路地を駆け抜ける。
魔物はへたり込んだ魔法少女をじっと見下ろしながら、
ゆっくりと舌なめずりをしていた。
その瞬間、赤い髪の狐娘は魔物のすぐ横を駆け抜け、
自分の尻尾の中に手を突っ込んだ。
次の瞬間取り出したのは大型のライフルだった。(狐娘専用サイズ)
そして、——爆発音のような鋭い発射音が路地に響き渡った。
きつね工房製の自衛用の対魔物ライフル。
狐娘サイズに調整された、強力な単発式ライフルだった。
赤い髪の狐娘は尻尾からそれを素早く取り出し、
魔物の横腹に一発撃ち込んだ。
魔物が大きくよろめき、苦痛の咆哮を上げた。
即座に撃たれた方向に振り向き、赤い狐娘を追いかけ始めた。
魔法少女のみずきは、へたり込んだままその光景を見た。
「……え……?」
赤い何かが、魔物の視線の先を全力で逃げている。
よく見るとそれは、赤い毛の狐耳と赤い毛の尻尾のある赤い髪の小さな女の子だった。
赤い髪をなびかせ、必死に路地を駆けている。
赤い髪の狐娘は、魔物の注意を自分に引きつけるために、走り出したのだ。
彼女は魔物の巨体を振り切りながら、
小さく、しかし懸命に鳴いた。
「んぴぃぃっ!」その声は、青い髪の狐娘に向けたものだった。
「今だよ! 早く!」青い髪の狐娘は、友達の考えを理解した瞬間、紫色の瞳に強い光を宿した。
「ふわっ……!」彼女は死ぬ気で大剣の柄を握りしめ、
小さな体を前傾させて全力で引きずり始めた。
ガリガリガリッ!!重い刃がアスファルトを深く削りながら、今まで以上に速く前へ進む。
息が荒くなり、足がもつれそうになるが、
彼女は歯を食いしばって走った。
赤い髪の狐娘は魔物を誘導しながら、路地の曲がり角を何度も曲がり、魔物の注意を自分に集中させ続けている。
みずきは壁に寄りかかったまま、
その光景を呆然と見つめていた。
二匹の小さな狐娘が、自分を助けるために命がけで動いている——その事実に、彼女の胸が熱くなった。
青い髪の狐娘は、まだ遠い。
みずきも自分から青い髪の子に向かって走り出す。
狐娘のその小さな手は大剣の柄を離さず、
死に物狂いで引きずり続けていた。
路地裏に、重い剣が地面を削る音と、魔物の咆哮、そして二匹の狐娘の懸命な「んぴ!」という鳴き声が、響き渡っていた。
夜の路地裏は、魔物の咆哮と激しい足音で満ちていた。
赤い髪の狐娘は、魔物の注意を自分に引きつけるために全力で逃げ続けていた。
小さな体で路地の曲がり角を何度もすり抜け、
魔物の爪や触手が掠めるたびに、危うく体を翻して避けている。
青い髪の狐娘は、その光景を必死に見つめながら、大剣を引きずっていた。
「……ふわ……んぴ……」彼女の紫色の瞳に、強い不安が浮かんだ。
友達が攻撃を避けている姿を見て、
「もし傷ついたら……」という思いが胸を締めつける。
その不安が、徐々に別の感情に変わっていった。
(傷つけたら……許さない……!)と怒りが、熱い塊となって体の中に湧き上がった。
普段はほとんど出ない、狐娘たちの本能的なパワー。
危機感や怒りが重なった瞬間、
青い髪の狐娘の小さな体に、驚異的な力が宿った。
「ふわっ……!!」彼女は大剣の柄を両手で強く握りしめ、
死に物狂いで振りかぶった。
そして——「んぴぃぃっ!!」と鳴きながら全力で大剣をぶん投げた。
重い青い大剣が、夜の闇を切り裂いて飛んだ。
150cmの巨大な刃が回転しながら弧を描き、
魔法少女・藍原みずきのすぐ近くの地面に、
深々と突き刺さった。
ドゴォンッ!!地面が震え、アスファルトに大きな亀裂が入る。
大剣は柄まで深く埋まり、青い魔力の紋様が激しく輝いた。
みずきは、呆然とその大剣を見つめた。
「…これは…」
とみずきが呟いたその時、青い髪の狐娘が全力で駆け寄ってきた。
息を切らしながら、みずきの足元にぴょんと飛びつき、
小さな指を赤い髪の狐娘が逃げている方向に向けた。
「ん!ん!ふあ!ふわぁ!!」彼女は必死に鳴きながら、
「友達が危ない!」「あの剣を使って!」「助けて!」という気持ちを、
全身で伝えようとしていた。
紫色の瞳が、必死さと怒りとで潤んでいる。
みずきは一瞬だけ狐娘の顔を見て、
すぐに状況を理解した。
「……安心して……」と狐娘に声を掛けながらみずきは地面に刺さった大剣に手を伸ばした。
柄を握ると、意外なほど軽く感じられた。
理由は分からないが、
彼女の手にぴったりと馴染む。
みずきはゆっくりと立ち上がり、
大剣を構えた。
青い髪の狐娘は、足元で、
「ん! ふわっ!」と何度も鳴きながら、
赤い髪の友達が逃げている方向を指差し続けた。
赤い髪の狐娘は、まだ魔物を誘導しながら、
路地の中を走り続けている。
彼女の小さな背中が、魔物の影に飲み込まれそうになっていた。
みずきは大剣を両手で握りしめ、
深く息を吸った。
「……わかった。
あなたたちの気持ち、ちゃんと受け取ったよ」
青い髪の狐娘は、みずきの言葉を理解したように、
「ふわっ!」と力強く鳴いた。
青い髪の狐娘は、足元で小さく震えながらも、
紫色の瞳に強い信頼を浮かべて、
魔法少女の背中を見つめていた。
今後も番外編は投稿するのでお願いします!
外伝は外伝の章の所に入れるので番外編が読みたい方は番外編の章をみてくださいね!