『我が征くはIS学園成り!』   作:ひきがやもとまち

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第10章

「ふむ。ここが、2015室だな」

 

 IS学園にある学生寮でラウラ・ボーデヴィッヒは目前にある部屋番号を確認していた。

 千冬を取り戻すという目的を果たしたら、即座にドイツへ帰国する予定でいるとはいえ、さすがにそれまで学園の中を野宿して過ごすわけにもいかない。自分は平気でも規則にうるさい織斑教官が黙っていないだろう。

 

(大事を成すためにも、小事にこだわるべきではない。

 私が倒すべき敵は、織斑教官の七光りでしかない愚弟ただ一人で十分なのだからな)

 

 そう割り切って、しばらくの間はIS学園の流儀に合わせてやろうと忍従を己に課す決意を固めるラウラ。

 と言っても、せいぜいが一緒の部屋で生活するのを許してやると言う程度の我慢でしかない。馴れ合うつもりは些かもないし、そもそもISをファッションかなにかと勘違いしているような平和ボケした素人共と自分のようなプロの軍人が認識を共有できるとも思っていない。

 

 人は平等ではないのだ。選ばれた者には相応しい待遇と、いるべき場所と言うものがあって然るべきなのだから・・・・・・。

 

 ガチャ。

 

「失礼する。同室になったラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 ノックもせずに扉を開き、最初で最後の挨拶と自己紹介を済ませると『これで義理と礼儀は果たした』とばかりに、今後一切の私語と無駄話と無益なコミュニケーションは断絶する方針を決めながら部屋に入っていくと―――――、

 

 

「おおっ! 同室になった者かね!? ようこそ、私が与えられた自室へ! 何もないところだが寛いでくれたまえ。遠慮は無用だ。これから一年間よろしく頼むぞ! ハッハッハ!」

 

 

「・・・・・・」

 

 バカが全裸で仁王立ちして歓迎してくれていた。

 全裸である。他に表現する言葉が存在しないほどの全裸でしかない。

 左手を腰に当てて右手にグラスを持ち、小さな胸を高々と反らしながらラウラよりも低い高さにある目線の位置を上向きさせて見上げてきながら、この上なく偉そうな態度で自分の赤い左目と見つめ合わせてくる漆黒の双眼。

 

 シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ。

 同じドイツ人で専用機持ち同士でもある彼女となら、転校してきたばかりでも気兼ねせずに済むだろうという学園側の気遣いという余計なお節介がラウラを絶望のドン底に叩き落とすことになるなど知る由もなく。

 

「・・・・・・・・・」

 

 悲惨な運命と向かい合わせられたラウラは、ただでさえ無表情な顔に一切の感情を表に出さぬよう改めて封印を施してから深呼吸して意識を整え、丁度いい機会だから今度こそハッキリとこいつには言うべきことを言ってやろうと口を開いた。

 

「・・・たしか、ローゼンバッハとか言ったな? 本来言ってやる義務のないことだが同じ部屋になった誼で一度だけ忠告してやる。私に話しかけ――」

「うむ! 君の言いたいことはわかっている。出会いを祝して乾杯をしたいというのであろう? 無論、準備は常に用意万端整えているとも! 安心したまえ心配は要らん! 何故なら人との出会いは常にいつどこから始まるのか解らぬものなのだから!!」

「・・・・・・」

 

 ――聞いてねぇし。聞いてくれねぇし。聞いてくれる気さえ持ち合わせてるかどうか解らねぇし。

 主観でしか物事を見ようとせず、判断もしない独善の局地を地で征く征服王ハイドにとって、ラウラの抱える心の闇は面白くないから興味を持たない、どうでもいい代物だったので完全無視されていた。気にもとめられていないし、気付いてすらいない。

 

 彼女のポリシーは至ってシンプル。

 

 

『面白いことは良い事である! 即座にやろう!

 面白くないことは良くないことだ! 即座に捨ててしまおう! やらなくて良い!』

 

 

 ――ただ、此の一文に尽きるのである・・・・・・。

 面白ければそれでいいのだ。面白くなければそれは悪いことなのである。

 ある意味で非常に正しく、原始的な倫理観の持ち主と言えなくもなかったが、原始的すぎて原始人よりも単純化されてしまっているのが一番の問題点とも言えるかもしれないけれども。

 

 

「赤と白、君はどちらの方が好みかね? それともここは出会いの記念に特別な一本でも開けるかね!?」

(日本の国立高校の学生寮で、冷蔵庫の中身が酒一色!!)

「・・・うむ! 決めたぞ! コレだ! 62年物、シャトー・サンフリュール! 最後の一本だが、君との出会いを祝って飲み干せるならシャンパンも本望であろう。

 そうは思わないかね? マイ・シスターフレェンド!!」

(関係断絶宣言しようとした相手から友達宣言された上に姉妹宣言!!)

「では、乾杯! プロージット!!

 ・・・ゴクゴク・・・うむ! 美味い! もう一杯! うおりゃーっ!(ガッシャーン!)」

(飲み干したグラスを床に叩きつけて砕いたぁぁぁっ!!

 ドイツの伝統だが、今のタイミングでやる意味なかったぞ!?)

 

 訳分からん行動を貫き通しまくるハイドのペースに振り回されるばかりで、さっきからちっとも声を発することが出来ていないことに気付いてないラウラ。

 

 ――このままでは不味い! なにかよく分からないが不味い気がする!

 

 軍人としての本能から危機を察したラウラは、戦略的撤退を決意してやむを得ずに権道を用いるを由とした。

 

「・・・私は長旅で疲れた。到着早々だが寝させて頂く。酒宴が開きたければ一人でやるのだな」

「うむ、そうか。それは残念だが致し方なし。寝ようとしている者の隣で騒ぎ立てるは人の仁義に反する行為。酒宴はまたの機会にして私も寝に入るとしよう」

 

 あっさりとラウラの口実に乗せられるハイド。

 基本的には、相手が嫌がることを好んでやりたがる人物ではなく、悪意やら作為やらを理由として意図的に人を攻撃するタイプではまったく無いのが彼女の性格である。

 

 単に、主観でしか行動しないから悪意も作為を必要とせずに他人に対して迷惑かけまくってるだけなのであり、悪気と呼びうるものは一切持ち合わせてないから本人自身は迷惑かけてることに気付いていないだけなのである。

 

 ・・・要するに、一番性質の悪いタイプと言うことだ。

 気付かぬは本人ばかりなところが、割と本気で最悪すぎる・・・・・・。

 

「では、おやすみ! ・・・く~・・・・・・ZZZ」

「早い!? ベッドに入ってから寝るまでが早すぎる!!」

 

 先にベッドへ潜り込んだラウラよりも早く寝につく後発組のシュトロハイド。

 就寝の挨拶をしてから熟睡までにかかった時間、およそコンマ6秒以下という驚異的な数字に、軍人として睡眠の重要性を叩き込まれて強制睡眠の心得もあるラウラでさえ大声を出すほど驚愕させられてしまった。

 

 ハイドは、やりたいと思えば三日三晩ぐらい起きっぱなしでの全力殴り合いが可能な体質の持ち主であると同時に、眠ろうと思えば場所を選ばず一瞬で熟睡することができる体質をも持ち合わせていた。

 ついでに言うと、起きたいと思ったときに睡魔を1ミリグラムも引きずることなく完全覚醒することが出来る体質でもあったりする。

 

 なんかもう、人体の限界超えまくってる気がするのだが、今さらと言われてしまえば今さらな気もするので大したことなく感じられてしまうところが一番厄介なハイドの体質なのかもしれなかったけども。

 

 たとえ理由が何であろうと、同じ屋根の下で寝起きを共にするルームメイトにさせられた者にとっては恐怖しか感じようのない摩訶不思議なクリーチャーである事実に変わりはない。

 

 

(い、一体この学園はナニを生徒として入学させてしまったのだ・・・?

 ――だが、諦めん! 諦めんぞ! 必ずや織斑教官を取り戻し、ドイツへ帰国してやる! こんな人外魔境ごときに負けてなどなるものか! 負けはせん! 負けはせんぞ! 必ずや生きて織斑教官と共に故国の地を踏んでみせるのだ!

 生き延びるぞ―――――――ッ!!!!!)

 

 

 

 ・・・遠い極東の海に浮かぶ辺境の島国にある学校で、ナチスドイツ風の軍服をまとった少女が、ユダヤ人みたいな台詞を心の中で絶叫しながらIS学園転校初日の夜は更けてゆく。

 

 恐怖と混乱のあまり深夜遅くまで寝付けなかったラウラであったが、本当の衝撃は翌日の朝に訪れることを、この時の彼女はまだ知らない。

 

 運命の朝に目覚めたとき、人の形をした悪夢の運命は、彼女に向かってこう告げてきた。

 

 

 

「そう言えば昨晩は自己紹介が中途で終わってしまっていたな! すまない!

 改めて説明させて頂こう! 私の名はシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ! ハイドと呼んでくれたまえ! IS学園では1年1組に在籍しているドイツの専用機乗りだ!

 それで? 君の所属クラスとホワッチュアネーム!?」

 

 

「同じクラスで、昨日貴様に蹴り飛ばされた転校生なのだが、何故知らない!?」

 

 

 人の内心に関心を示さない、表に現れてハッキリ見える楽しさだけで物事を判断する地獄初の統一王に、倒した敵を覚えておける記憶力など存在しない。

 

 今目の前に立つルームメイト、ラウラ・ボーデヴィッヒこそが彼女にとって今のラウラの全てであり、昨日蹴りくれて倒した『片目に眼帯を付けた山賊ウルフ』とラウラは完全に別人ということで結論が出されている。

 

 王は一度下した決定を覆さないものだ。絶対に。

 

「む? どこかで私と君は邂逅していたと言うのかね・・・? ハッ! まさか!

 生きていたのかマイケェェェェェェル!!!!!!」

「誰だマイケルって!? アメリカ人か!? ドイツ人だぞ私は!!

 そして私はこれでもオ・ン・ナ・だ!!!」

 

 

 ・・・朝目が覚めても、ラウラ・ボーデヴィッヒの悪夢は終わりそうにない・・・・・・。

 

 

 

つづく

 

 

 

『おまけ』

 

ハイド「ちなにみだが、マイケルとは猫の名前である。私が昔アニメで見た中に出ていた」

ラウラ「知らんわ! そんなもん!?」

ハイド「いや、君がなんとなく猫に似ている気がしなくもなかったのでな。許してくれたまえ、この通りだ。ハッハッハッハ!!!」

ラウラ「全っ然謝ってるようには見えないのだが!?」

 

 ・・・この後日、自分が本当に猫になる原作をラウラはまだ知らない。

 余談だが、ハイドは地獄で王をしていたときにペットとして猫を飼っていた。

 名前は『タマ』。種族は『ヌエ』。

 

 

ハイド「いや、猫が懐かしくなって探したのだが、彼の国には生息していなかったのでな。似たペットが住んでいないか適当に探してたら、いた。だから飼った。それだけである」

 

地獄兵共『こんな人相手に挑めるほど、俺たち常識知らずじゃありません。無理です』

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