『我が征くはIS学園成り!』   作:ひきがやもとまち

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第21章

 途中で紆余曲折あったIS学園臨海学校の二日目。

 主にハイドと、少し束さんのせいでゴタゴタしてから千冬姉が【学園警備主任公認・特別外部招待客】という臨時の肩書きを学園執行部から正式に取ってきて、ようやく事が進んで超不機嫌になった束さんを宥めながら箒に頼まれて造ったらしい第四世代専用機《紅椿》のお披露目とセッティングを終え、その超絶性能について語って『スゲ~』『天才のIS開発者超スゲ~!』と生徒達の驚愕を得られたことで、やっと束さんの機嫌を直ってくれた頃のこと。

 

 そう言えば、昔から束さんて他人を本気で無視してたけど、たまに自分のこと無視されたときは不機嫌そうにしてた時あったなぁ~とか。

 そんな忘れてたIS生まれてない時代の束さんについて思い出していた俺の耳に、慌てたような山田先生の声によって―――事件の第一報はもたらされたのだ。

 

「たっ、た、大変です! 大変なんです! お、おお、織斑先生っ!!」

 

 いつも慌てている山田先生が、いつも以上に慌てまくった大声で叫びながら走ってきて、千冬姉が鋭い目つきを変える。

 

「こ、こっ、これをっ!」

「どうした? ――む、コレは・・・・・・特命任務レベルA,現時刻より対策をはじめられたしだと・・・?」

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働していた――」

「しっ。機密事項を口にするな。生徒達に聞こえる」

「す、すいませんっ・・・・・・」

 

 小声で何やら会話している途中で、周囲から生徒達の視線を気にしてか手話でやりとりを始めたのだ。

 しかも普通の手話ではなく、千冬姉が昔、日本代表だったときに数回だけ見たことあるものに似た、おそらくは軍関係の暗号手話と思しきやりとり。

 何が起きたのかまでは分からない。だが、なにか緊急の異常事態が発生したことだけは確かなようだった。

 

「・・・・・・いったい、何が起きたっていうんだ・・・?」

 

 我知らず緊張しだした身体に震えが走った俺は、無意識レベルの呟きを口にしてしまっていたらしい。

 たまたま隣にいたハイドが、俺の緊張に共鳴するかの如く、いつもとは打って変わった真剣な表情を浮かべて危機感を露わにして―――

 

「分からん・・・・・・情報が少なすぎるからな。分からんが、しかし恐らく・・・・・・」

「おそらく・・・・・・なんだ?」

 

 相手も自分と同じく緊張しているのだという事が伝わってきて、俺は生唾を飲み込みながらハイドが抱いている懸念を今度は俺が共有しようと問いを発し、

 

 

「うむ、あくまで恐らくでしかないのだが・・・・・・織斑君が一人で解決するよう求められるであろう。

 古来より、高性能機でありながら欠陥が一つあるからと欠陥機扱いされて乗り手がいなかった試作機を与えられた新人パイロットには、初めて到着した場所で『緊急事態発生』の知らせを持った使者が駆け込んでくると最終解決役を一任され、ぶっちゃけ問題そのものごと丸投げされ、なんとか解決できても賞賛は得られず説教と痛みだけをもらって割が合わない幕引きを見るという、悲しい宿命と悲劇的な運命を背負わされた存在であるが故に・・・・・・」

 

 

「嫌すぎる運命だなオイ!? どんな呪いだッ!!」

 

 

 あまりにも不吉すぎる俺の未来予想図を、俺自身に予言してきやがった友達甲斐のない友人みたいななんかに向けて、俺は全力で非難の怒鳴り声を上げていた!!

 別に名声とか賞賛とか欲しいと思って戦ったことは一度もねぇけど、さすがにコレは酷い! 酷すぎる!! 労働基準法ぜんぜん守る気ねーじゃねぇか! どんなブラック企業だ!?

 ヘラクレスの名前が「女神ヘラの試練」って意味だと知った時ぐらい不本意だわ! 不本意すぎる運命だわ! 鼻水吹きかけたぞ!?

 

 

「解かっておる! 君の心の痛み、このシュトロハイド―――痛い程によく解かるのだ!!

 解かるのだが・・・・・・しかし!! コレはどうしようもない宿命でもあるのだ織斑君よ!!

 時に天は、自らの愛した英雄に試練を与え、その試練を乗り越えた英雄は更に愛して更にパワーアップした試練を与え、それをもクリアーした英雄には超愛するようになって超キツい試練を与えて乗り越えることを要求し――期待に応えられぬ者には死あるのみ!!

 ・・・・・・そういう愛し方しかできぬ歪んだ愛情の持ち主こそが、全ての者の父たる神なる存在というもの。

 父から生まれし子である限り、人は皆、誰一人として神の愛情からは逃れられぬものなのだ・・・・・・。

 故に受け入れよ! そして、乗り越えるのだ!! クイーンズ剣士イチカ・オリムラ卿!!

 IS王に、君が成る日のために今日の試練があるのだと割り切って!!!」

 

「お前の中で神様って、どんな存在として定義されてんだ!? 完全に人格破綻しまくった子供の愛し方わからない今時の親子問題の典型じゃねーか!!

 あと、その呼び方は断るって言ったよな確かさぁ!?」

 

 ギャースカ、ギャースカと! 一時的にだけでも山田先生が来てからの緊張感忘れて騒ぎまくる俺とハイド!

 分かってる! こんなことやってる場合じゃないってのは分かっているんだ!

 仮にハイドの言うとおりの結果になったとしても、それが終わった後に言われたんだったら俺にもショック受けながら受け入れられる心の余裕ぐらいは出来ている自信があったとも思う!

 

 だが、しかし! しかしだ! “これから俺がやらされるかもしれない事”として、一応は友達の口から本人に言っていい話じゃねぇぞ今のは本当に!?

 少しは聞かされる方の気持ちも考えてからものを言え―――ッッ!!

 俺としては正当な権利としての叫びと怒りを実際に声に出して、途轍もなく割に合わない運命を公務員志望だった俺に押しつけようとしているかもしれない天に向かって糾弾した、その瞬間!!!

 

 

「うるさいわバカ愚弟共が―――――ッッ!!!

 とっとと専用機乗りは全員集合しろボケ――――――――ッ!!!!」

 

「了解です織斑先生すいませヒデブッフゥゥゥゥッッ!?」

 

 

 ズバコォォォォォォォォッン!!!と。

 盛大に千冬姉からのツッコミ折檻チョップを脳天に叩き込まれて砂地に沈み、箒とか鈴に引きずっていってもらいながら臨時作戦会議室へと移動する俺。

 

 俺こと、織斑一夏にとっての【シルバリア・ゴスペル事件】はこうして始まりを迎えたのだった――――ガクリ。

 

 

 

 

 

 

 

「――では、現状を説明する」

 

 そして意識失ってる間に運ばれて目を覚ました後、俺たちは旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷に集められ、千冬姉に届けられた指示の内容を説明されていた。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代軍用IS【シルバリオ・ゴスペル】が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの報告があった」

 

 軍用IS? それが暴走? いきなりの説明に面食らってしまった俺は周囲を見渡し、臨時の作戦指揮所になった大広間に集っている普段からの仲間たちに視線をやる。

 全員が全員、厳しい顔つきになって千冬姉の説明を聞いている。

 俺や箒と違って正式な国家代表候補生として鍛えられた者たちは、こういった事態に対しての訓練も受けているものなのかも知れない。

 

 ・・・あと余談でしかないんだけど、俺や箒と違って各国から来てる代表候補生たち全員が、千冬姉の説明を「正座」の姿勢で拝聴してたりする。

 今までだったら、あんま気にならなかった事だろうとは自覚しているんだけど・・・・・・一人だけ胡座かいてるドイツ代表候補生が隣にいるせいで、なんか気になっちまって・・・。

 

 これはいかんな、うん。駄目だ。俺もラウラを見習って真剣に話を聞くため集中集中。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。

 教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう。意見がある者は挙手するように」

「はい、織斑先生。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

 セシリアが真っ先に手を上げて質問して答えを得て、こういった事態に対しての訓練を受けてきた専用機持ちたちによる議論が開始される。

 ・・・・・・要するに、即席の専用機持ちになったばかりな俺と箒には、いまいち付いていけん状態が続いてんだけれども・・・・・・あと専用機持ちだけど、ハイドも。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型・・・・・・わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかもスペック上では、あたしの甲龍を上回ってるから向こうの方が有利だし・・・」

「この特殊射撃が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも分からん。偵察は行えないのですか?」

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

「一回きりのチャンス・・・・・・ということは、やはり一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

「・・・・・・成る程な。事態は見えてきた」

 

 セシリア、鈴、シャル、ラウラの千冬姉、山田先生まで加わった議論の末、最終的にハイドが総括するかのような言葉を発して、ゆっくりと瞼を開いていき、周囲に座した各国の専用機持ちたちを順繰りに眺め回していきながら心持ち姿勢を正させられるような気分にさせられる中で彼女は語る。

 

 

「つまり―――なんかよく分からないが強そうな相手に、一か八かで当たって砕けろギャンブル大作戦ということであるなッ!!」

 

『『『言い方が悪いッ!! 言葉と表現をもっと選んでオブラートに!!!』』』

 

 

 いつも通りハイドによる、身も蓋もない自分たちが置かれた状況認識が一言だけで終了させられてしまい、大いにやる気を削がれながらも皆が見ている先にいたのは・・・・・・え? 俺?

 

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「え・・・・・・?」

「それしかありませんわね。ただ問題は――」

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから移動をどうするか」

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

 さも規定事項であるかの如く、専用機持ちとしての訓練受けてない俺が行く前提で進んでいく会議の流れに、俺はたまらず声を上げる!

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

「「「「当然」」」」

 

 別々の意見を言い合ってた四人の声が、今この時だけは完全にハモって、一人だけの俺に再度の反論の余地を完全になくさせられちまうだけだったけども・・・・・・

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし自信がないのなら無理強いはしない」

「千冬姉・・・いえ、織斑先生。やります。俺が、やってみせます」

 

 尊敬する千冬姉から言われた言葉で、俺はわずかに及び腰になっていた自分の尻を蹴り飛ばす覚悟を決めて、決意と共に断言して答えていた。

 そして男が一度やると決めた以上は、もう後には戻れない。手のひら返しは男のやることじゃない。やると言ったからには、必ずやり遂げてみせる。それが・・・・・・男ってもんだ!!

 

「・・・大丈夫だ、織斑君。案ずることはない、心配はいらん」

「ハイド・・・・・・」

 

 決意を決めて、千冬姉に対して決然と顔を上げた俺の肩を、励ますようにポンと力強く叩いてくれながらドイツの代表候補生でもある小さな女子高生は不敵な笑みを浮かべ、

 

 

「何故ならば・・・・・・何時ものことであるからな!

 今まで君が関わってきた事態に、訓練ではない実戦でなかったことは多くあるまい。

 今に始まったことではないのだからな、そう気張ることもあるまいよハッハッハ」

 

「せっかく決めた覚悟と決意に水差すようなこと言うんじゃねぇ―――ッッ!!!」

 

 

 そんな風に、これから死地に赴こうとしてる友人の現状を楽しそうに笑い飛ばすクソッタレな俺の女友達みたいなもんなドイツ代表候補生のチビッコ女子高生のハイド!!

 

 いや確かに言ってることは間違ってないんだけれども! 正しいんだけれども!

 鈴の時には無人IS《ゴーレム》と戦って足止めする役を自分から買って出たの俺だし、ラウラの時にはVTシステムとかいう代物で黒く染まった千冬姉の偽物IS相手に生身で向かって行きたがっちまったばかりなのも俺なんだけれども!!

 

 それでも何て言うか・・・・・・今回のは軍用ISだから、なんか違うような気になれてたはずだろう!?

 なんかこう―――軍隊!な言葉のイメージで! 平和主義の日本人的に!なんか!!

 

「・・・あ~・・・・・・言われてみたら、あたしも一夏のことシールドダメージ突破させる攻撃力で本体にダメージ貫通させて、『殺さない程度にいたぶる』ぐらいのこと試合前に言っちゃってた記憶があるようなないような・・・・・・」

「そう・・・ですわね・・・。わたくしも極たま~にですが、一夏さんをブルー・ディアーズのライフルで殺す気まではなくとも撃ってしまっている事がないことはありませんし・・・」

「わ、私はそのような非常識な行いをしたことは一度もないぞ! ただ、お前に問題があった時だけやむを得ず成敗するため真剣で斬りかかっているだけであって・・・・・・だ、だいたい修行をサボっているからあの程度の斬撃すら簡単に避けることが出来んのだ愚か者め!!」

 

 と、周囲の外野たちから有り難くなさ過ぎる、普段からの俺の私生活が訓練より実戦的だったことを示すいろいろな出来事について語ってもらわれちまったため反論が難しくなり、さてどう言い返してやろうかと周囲全部を眺め見返していた丁度その時。

 

「あー・・・コホン。――では全会一致で切り込み役も決まったようだし、次は作戦の具体的な内容に入る。現在この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれか――」

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!!」

 

 と、突然ここにいる誰の者でもない声が聞こえてきて、しかも声の発生源は天井から。

 全員が見上げると、部屋のど真ん中の天井から束さんの生首が、逆さに生えてきていた丁度その瞬間だったのである。

 

「・・・・・・山田先生、室外への強制退去を」

「えっ!? は、はいっ」

「とうっ★」

 

 千冬姉が嫌そうな声で山田先生に指示を出し、山田先生が動き出そうとした瞬間。

 束さんは、くるりんと空中で一回転して着地しようと天井から飛び降りてきて――――

 

 

「曲者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

「うぬほわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

 ザシュウウウウウウウッ!!!

 ハイドが持ってきた長槍で天井を下から突き刺して束さんのお尻の穴をもう一個増やそうと・・・って、何やってんだコイツはぁぁぁぁぁぁぁッ!?

 

「し損じたか! だが、逃すものか! 逃すものか!! 逃すものか曲者めぇぇぇぇぇぇぇッい!!!」

「ちょっ!? やめ! 危なッ!? 束さんのお尻は槍の的じゃないからね!? ふんぐおォォォッ!!」

 

 ズバシュ! ズバシュッ!! ズバッシュゥゥゥゥッ!!!

 回避しても回避しても連続で放たれ続けるハイドによる【曲者三十段突き(後に聞いた技名ハイド命名)】

 そして必死に、槍の穂先から逃れるため動き続ける束さんの・・・・・・お尻。

 

 上下左右とスゴい勢いで振り回し続けられる、抜群のスタイルを持つ束さんのお尻って言うのは多分、本来だったら色っぽく見えるもんなのかもしれんけど・・・・・・。  

 何故だろう・・・? 今の俺には束さんの揺れまくる尻姿に、コレッポチも色気を感じる気になれそうもない・・・・・・。

 

「落ち着け、ローゼンバッハ。相手の尻だけでなく、顔もよく見てやれ。そいつは私の知人の篠ノ之束だ」

「むむッ!? おお、言われてみれば確かに君こそ織斑教諭の友人女性くん! いや失敬。天井に潜み作戦会議を盗み聞く者、即ち他国の間者かと思ってしまったのでな。申し訳なかった、許されよ」

「毎度思うが、お前は一体どこの国の出身者なんだ・・・? あと、その槍はどこで見つけて、どこから盗み出してきた・・・・・・」

「これは心外な仰りようですな織斑教諭くん。普通に旅館内で飾られていた物を借りただけですぞ?」

「女将―――――――ッッ!?」

 

 凶器の出所が判明したため、急きょ呼び出される女将さん。

 彼女曰く。

 

「・・・申し訳ございませんでした。あくまで和風旅館のオブジェとして飾っていた物でしたので本物だとは思わなくて・・・。

 それに本物だったとしても、このご時世では槍なんて使う人がいるとも思ってませんでしたし・・・・・・」

 

 との事だった。

 まぁ普通そう考えるだろうな。誰だって次世代兵器ISが既存兵器を倒したことで生まれた今の時代に、天井に潜む曲者倒そうと槍で突きまくる奴なんていると思わないもんな。

 ・・・俺の場合はIS学園で、初めてのルームメイトだった幼馴染みに日本刀で斬りかかられるのが日常化しちまってるけど・・・・・・これが普通の感覚だとは流石に思わん。って言うか思いたくねぇ。

 

 

「・・・はぁ、はぁ・・・まったく~・・・。遺伝子を改造して強化してなかったら、死なないまでもお尻に二つの穴が開いちゃうところだったじゃないか・・・・・・ッ!! これだから外人女は嫌いなんだ!!

 ――まっ、そんな価値のないどーでもいい外人女は置いとくとして、ちーちゃんちーちゃん♪ もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!

 ここは断・然! 紅椿の出番なんだよっ! だって紅椿にはパッケージなんかなくても超高速機動ができるんだから!!」

「なに?」

 

 驚いたような千冬姉の疑問に答えるようにして、束さんが展開させた複数のディスプレイ。

 

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ! これでスピードはばっちり!

 そして心優しい束さんが説明してあげましょ~、そうしましょ~。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第四世代ISの装備なんだよー」

『『『『第・・・・・・四!?』』』』

 

 この場にいる誰もを唖然とさせるような数字を発して始められた、束さんによる箒の専用機でもある第四世代IS【紅椿】の詳しい説明。

 その内容はISの知識などほとんど持たない素人の俺でも呆れて物も言えなくなるほど束さんらしい、天災と呼ばれる由縁を思い知らされた凄まじすぎる内訳。

 

「・・・成る程。相分かった」

 

 だが、やはり時代限界を超えた超技術の塊でも、コイツにかかれば形無しだったようでもあり。

 

「理屈については全くよく分からなかったが・・・・・・少なくとも、この紅椿という名の【ドダイ】に乗れば織斑君が戦場まで届くということだけは分かった。

 良かったではないか織斑くん! おめでとう! わざわざタクシーを作って送り届けに来てくれた謎の外国人女性くんには感謝の言葉もないというもの!

 ありがとう! 国籍不明な謎の外国人の女性くん! ダンケシェーンである!!!」

 

「だ・か・ら!! 束さんは日本人だっつってんでしょーが出会った瞬間から今の今まで、不幸の極みに邂逅してしまった時には絶対に!! 脳ミソないのかい君は!?」

「うむ。無い」

「ないの!? 脳ミソ入ってないの君って!?」

 

 ハイドからの即答に、流石の束さんも少しだけ驚いたように声を上擦らせる。

 いやまぁ、いくら何でも冗談だろうと思ってはいるんだろうけれども――ハイドの場合は絶対にそうだと言い切れないところがあるからチト怖いのも確かなわけで・・・・・・

 

 もし凄腕スパイパーからヘッドショット食らって、脳ミソ撃ち抜かれたはずの直後に立ち上がって話しかけてきたら、どうしよう・・・?とか。

 そんなあり得ない妄想展開を、本気で心配したくなるようなところがハイドにはあるんだ本当に。いやマジで。

 

 まぁ、そんなこんなで作戦と実行役の人員は決定され、俺と箒は白式と紅椿で戦場に向かって、他の皆は俺たちのサポート。そういう役割分担が決まってから約三十分後。

 

 

 

 時刻は十一時半の砂浜に、俺たちは立っていた。

 

「来い、白式」

「行くぞ、紅椿」

 

 全身をぱぁっと光に包まれ、ISアーマーが構成される。

 7月の陽光が容赦なく降り注いでる砂浜に、俺と箒はわずかに距離を置いて並んで立ち、他の仲間たちは指揮所の中から俺たちを見送る形となる。

 ハイドも今回ばかりは居残り組だ。いくらアイツでも第二世代ISの飛行速度では、白式にも紅椿にも絶対に追いつけないからな。こればっかりは仕方が無い。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

 作戦の性質上、移動の全てを箒に任せて俺は背中に乗ってるだけになる。そのことを最初に聞かされた時の箒はイヤそうにしてたが、今では妙に機嫌が良くなりすぎてるように感じられていた。

 

「それにしても、たまたま私たちがいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせればできないことなどない。そうだろう?」

「ああ、そうだな。でも箒、先生たちも言ってたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦では十分に注意して――」

「はは、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいい」

「・・・・・・」

 

 さっきから、この調子なのだ。専用機が手には入って嬉しいのは分かるが、浮かれすぎではないだろうか?

 俺はどうもスッキリしない不安を抱えたまま、箒の操る紅椿の背中へ乗った。

 

『織斑、篠ノ之、今回の作戦の要はワンアプローチ・ワンダウンだ。短時間での決着を心がけろ』

「「了解」」

『――それと織斑。これはお前だけに聞こえる通信内容だが、どうも篠ノ之は浮かれている。あんな状態ではなにかしでかすかもしれん。いざという時はサポートしてやれ』

「わかりました。ちゃんと意識しておきます」

『頼むぞ。―――では、はじめ!!』

 

 再びチャンネルを俺と箒双方に聞こえるオープンに戻してから作戦開始を告げられ、俺たちは空へと舞い上がる。

 見送るのは旅館に残る、3人の女性と4人の少女たち。

 

「・・・大丈夫ですかしら? 篠ノ之さん、通信内容から見て相当に舞い上がっているようでしたが・・・」

「と言って、僕たちの機体だと手伝いに行くことも無理だしね・・・」

「信じて待つことしか出来ない、って立場はけっこうキッツいわよね・・・・・・あたしはもう二度とやりたくないわ・・・・・・」

 

 少女たちが、胃の辺りを擦りながらの囁き声を黙って聞きながら、やがてハイドは瞳をゆっくり開けていき・・・・・・

 

 

「喜べ少女たちよ! 君たちの願いの叶え方が今、ヒムロめいたぞッッ!!!」

 

「「「うわッ!? び、ビックリした・・・・・・っ!」」」

 

 突然の大声を出されてビックリ仰天した少女たちであったが―――その驚きは早計に過ぎたらしい。

 次なるハイドの行動と発言は、少女たちと女性たち、誰にとっても予想の斜め上を突っ走るようなアイデアに基づくものだったのだから―――

 

 

「空を飛んで行こうとすれば、織斑君たちに追いつけず助太刀が出来ぬ!!

 なれば、泳げばよい! 海を泳いでついて行けば飛行速度など問題にはならんのだからな!!」

 

「「「「・・・・・・はい? 今、なんて・・・・・・」」」」

 

「安心したまえ諸君。私はドイツの河童と呼ばれたほどの漢だ」

 

「「「「いや、聞いてないし。

    そもそもドイツに、カッパいないし。あと女だし」」」」

 

 

 色々ツッコミ所ありまくりと言うより、ツッコミ所をなくせば存在ごと消えて無くなりそうなレベルのアホ発想に基づくハイドの提案。

 だが本人はやる気満々らしく、『おいっちに~、さんし。おいっちに~、さんし』と海を泳いでついて行くため準備運動を始める始末。

 

 

「あははは~。さっすが外人女は図々しい上に突飛なこと考えつくね~。そんな原始的なことやっただけで束さんが開発した第四世代IS紅椿に追いつけるんだったら、世界中全ての国と政府が苦労してるはずないじゃ――――」

 

「よし! 準備完了! いざ出陣!! とおッ!!」

 

 

 そして気合い一閃、海へと飛び込んでから―――バタフライで泳ぎ始めるハイド。

 

 

「ずおりゃあッ! ずおりゃあ!! ずおぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 バシャンッ! バシャンッ!! バシャシャシャシャーン!!!!!

 

 

 

「・・・・・・現在、ローゼンバッハさんの第二世代ISゴールデンバウムの最高ノットが、紅椿の最高速度を超えました。あと数十秒で追いつきます・・・」

「どうえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!? なんで!? どうして!? そんなこと科学的にあり得ない! こんな現象は科学的にあっていいはずがないィィィィィィッ!!!!???」

 

 

 

 こうして、陸でも海でも空中でも、不安要素を抱えながらシルバリオ・ゴスペル戦が待つ水平線へ向けて、IS学園一年生組は突き進み始める開幕のベルが鳴る!!

 

 ・・・・・・それが誰にとっての悲劇で、誰にとっては喜劇で終わるか・・・・・・今はまだ誰も知らない・・・・・・。

 

 

 

つづく

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