私、篠ノ之箒は今この時、人生の絶頂期にあった。
今を喜べなければ、私の人生に華はないと確信するほどに。
小学4年生の頃に転校させられ離ればなれになってしまった、幼馴染みの一夏と6年ぶりに再会できることが分かったのは、単純に世界初の男性IS操縦者発見のニュースで名前が流れていたのを見つけた時のことだった。
その時にはIS学園を受験して入学が決まった後だった私は、学園内のどこかで再会できるかもしれないと胸をトキめかせつつ入学式の日を待ち望んでいたものだったが・・・・・・あろうことか相手と私が配属されたのは同じクラスで、一ヶ月だけとは言え部屋割りも同じ。
あまつさえ、一夏には専用機として白式が与えられ、純白の機体を操りながら空を舞い、剣を振るう姿はその・・・・・・ま、まるで白馬の王子のようで悪くはなかったのだ、うむ。
正直、運命を感じずにはいられないほど、劇的すぎる幼馴染みとの再会だった。
見違えるほど男らしくなっていた幼馴染みと、男が入れるはずもない女子校だったIS学園で偶然にも再会し、百人以上いる新入生から30人だけが集められたクラスメイト同士となり、純白の専用機を与えられ強敵と戦いながら試合中に奇跡を起こす―――武士といえども年頃の娘として、恋物語の始まりを期待せずにはいられない・・・・・・それほどの運命的な再会。
―――だと言うのに、次から次へと現れては一夏と私との間に入り込んでくる、別の女たち・・・ッ。
分かっている! 分かっているのだ! 恋とは戦争であり、彼女たちが悪い訳ではない程度の道理は私とて、よく心得ている! だが、しかし! しかしである!!
私が気にしていたのは、公平ではないという事なのだ! 彼女たち全員にあって、私だけにない特別な条件の有無は、恋愛という戦争においても公平性に欠けること甚だしいというものである!! 機会均等を強く要請したい!!
――その想いが岩をも通すことができたのか、いま私は遂に、望み続けた“他の者たちと同じ特別”を・・・・・・否!
他の者より遙かに優れた特別な機体を、私だけが手に入れることが出来たのだ!
これで私も一夏の隣でパートナーとして、共に戦うことが出来る! 戦友として守られるだけの存在でい続ける必要がなくなったのだ! 他の者と同じ、一夏と同じ戦場で戦い絆を深める機会を手に入れた! これでもう自分の魅力以外の理由で他の者に後れを取る恐れはない!
同じ条件で競い合えるなら、私には他の者たちに負けないだけの自信と自負があった。
剣の修行で鍛えているのでスタイルの良さには密かに自信がある。む、胸も・・・・・・一夏の気が引けるのなら、お、男だから仕方がないと多少は押しつけてやる程度の使い方ならしてやっても良いし、それだけでも勝てる程度には――うむまぁ、ハハハ。
――そして! 何より、私専用機として新たに与えられた第四世代機《紅椿》!!
現行機を遙かに上回る圧倒的な性能! 圧倒的な速度とパワー!! 武装も私の剣術と相性が抜群に良い!! この機体を手に入れた今の私と一夏が組めば、出来ぬ事など何もなく、勝てぬ相手など存在しない!!
・・・・・・そう確信して悦に入っていたのだが―――
「青い海~♪ 白い雲~~♪ 気持ちよく浸っている私を邪魔する者は~~~~♪♪♪
誰だっ!? 誰だッ!? 誰だ~~~♪♪ 空の彼方より来たりし白きベル~♪♪♪
シルバリオ・ゴスペールな~ら♪ 鐘を鳴らしておけば良いのだよ~~~~~♪♪♪」
・・・・・・眼下で第二世代機使ったまま歌いながら、背泳ぎで平然と付いてきてる変な生き物を見せつけられる前までは浸っていられた話だったのだがな!!!!
「一夏―――ッ!!! アレは何だ!? 一体アレは何なのだ!? 私にも解るように説明しろ―――ッ!!」
「なんだも何も、ハイドだろう。俺たちと同じ1年1組の生徒で、ドイツ代表候補のクラスメイトだ。それ以上でも以下でもない」
「解っとるわそんなことぐらい! 私が聞いているのは、アレは“本当に人間なのか”ということだけだ!!
姉さんが造った第四世代機の紅椿の最高速度に、背泳ぎで追従できているのだが!?」
「まぁ、ハイドだからな。仕方がないさ」
「ISは本来、宇宙用に開発されたはずの存在なのだぞ!? 地球上での使用時はリミッターがかけられるとは言え、既存兵器では決して及ばぬ高機動こそが売りの次世代兵器なのだが!?」
「まぁ、ハイドだからな。仕方がないさ」
「貴様その一言だけで全ての疑問に回答できると思い込んでないか!? この軟弱者がぁぁぁぁぁッッ!!!」
私は怒鳴り、この世全ての理不尽が人の形を取っているかの如き存在を見せつけられる怒りと鬱憤を一夏にぶつけるのだが―――くぅぅッ!
背中に乗せて飛んでいる体勢では、手も足も刀すらも届かせることが出来ん!! やはり信条に背いてまで男を背中に乗せたのは間違いだったと言うことか―――っ!!
「箒、進路が少しズレてきている。色々言いたいことがあるのは痛いぐらいに分かりすぎるが・・・・・・今は目の前のことに集中しよう。そうじゃないと振り回されるだけだ。
いや本当に、冗談でも何でもなく、真面目な話として」
「くぅッ! そのような正論で誤魔化そうとする軟弱振り・・・・・・っ! 帰った後は覚えておけ一夏!! 私は決して、この恨み忘れてやったりしてやらんからなッ!?」
私の上から正論述べてくる一夏に向かって私は歯をむき、背中の後ろに向かって勝って帰った後の思い知らせ方法を幾つか検討しながら軌道を戻し、シルバリオ・ゴスペルの予測侵攻ルートに合わせて紅椿の位置を修正し直す。
悔しいが、今は一夏の言うことの方が一理ある。軟弱さを叩き直すのも思い知らせるのも、そして理解不能な存在に対して納得のいく説明を求めるのも、今だけは後回しにすべき問題であり、当面の敵である軍用ISの迎撃にこそ意識を集中させるべき戦況だったのは間違いではない。
『織斑くん、篠ノ之くん。痴話喧嘩でイチャつくのは仲良きことで美しい限りだが・・・・・・どうやら一事終了すべき時のようだぞ。敵がきた。二時の方角よ』
「なんだと!? 一夏ッ!!」
「今確認した! たしかにハイドの言うとおりの方角に機影が見える! 銀色の奴だ、間違いない!!」
見晴らしのいい位置と体勢にある一夏がハイパーセンサーを使って確認し、我々とシルバリオ・ゴスペルの戦闘は確実の距離まで近づいたことを知った私の身体に緊張が走る!!
・・・・・・それにしても、ハイパーセンサーを使って空の上から見つけるより先に、海を背泳ぎで進んでる奴が、どうやって見つけることが出来たのだろうか・・・?
後に本人から聞いてみたところによれば、
「気配を感じたからだ。言葉で説明するのは難しいのだが・・・・・・たとえば、プレッシャーと言うか、邪悪なオーラ力と言うべきなのか・・・。
あるいは、凄まじい気とか、恐るべき戦闘力とか、霊圧とか霊力とか魔力とか、なんとなくの虫の予感とか。そんなものを感じた気がしたのだよ、キュピーンとかの感じでな。
君にも分かるだろう? 分かるはずだ。分からなければおかしい」
という事だったが・・・・・・なるほど。まったく分からん。
まぁ今はそれは関係ないとして、
「加速するぞ! 目標に接触するのは十秒後だ。一夏、集中しろ!」
「ああ!分かった!」
スラスターと展開装甲の出力をさらに上げる私!
その頭上で、一夏は集中したまま冷静さを失っていない視点で見た戦況から、見方に対して的確な指示を出す!!
「ハイドは後方援護を頼む! いくらお前でも、空中戦では速度で俺たちに追従できないからな! 何かあった時には殿と俺たち二人の回収を頼む!!」
『むぅ・・・確かに。我が愛機ゴールデンバゥムの機動性では、君たちの速さに合わせて戦うは不可能。此度は後方支援に徹せざるをえんか・・・・・・泳いで戦うことさえ出来れば、簡単に追いつける相手なのだが、うぅ~む・・・』
――なんか色々と矛盾してること言ってるような気がしなくもなかったが・・・・・・紅椿の凄まじい速度で福音との距離が高速で縮まっていっている途中だったから、ハウリングとかで聞き間違えたのだろう。間違いない。
「うぉぉぉぉっ!!」
私の背中で、一夏が零落白夜を発動させると同時に、瞬時加速を行って一気に間合いを詰めようとするのを実感させられる!
我々二人と、暴走した軍用IS銀の福音との最初の戦いは、こうして火蓋が切って落とされたのだった!!
そして・・・・・・それは一つの悲劇の始まりでもあったことを、今の私はまだ知らない。
知ることが出来ていなかったのだ―――
「う~~~~む。誠にもって如何したものか・・・。
戦友たちが敵と矛を交え合い、自らの命と誇りをかけ合い、どちらが上か男と男の真剣勝負をしている中。
果たして、何もせず安全な後方から眺めているだけで良いものか否か・・・・・・それが問題であるな」
と、一夏&箒コンビが銀の福音との戦闘を開始して、最初の一撃目が躱された後、二対一の優位性を活かし、奇襲の勢いに乗ったまま一気に押し切ろうという戦術で挑み始めたばかりの頃。
戦場から少しだけ離れた位置で、ハイドは懊悩の表情を浮かべて、海の中で泳ぎながら激しく葛藤し続けていた。
ちなみに今の泳ぎ方は、泳ぎながらでも弓矢が放てる昔ながらの戦国古式泳法。
だから海の中でも、腕を組んで悩みのポーズができます。
何の意味も効果もありませんが、ただ見た目が滑稽になってるだけですが。
「――否ッ!! 敵と戦う戦友と共に戦って守らずして、なにが対等の友人か! 同盟関係か!!
無論そのような支援を決して否定するものではないが・・・・・・っ、共に戦える力を持っているならば、やはり戦場を共にして轡を並べ、共に征服と栄光と勝利の美酒を分かち合うことこそ至上とすべきが漢というもの!! それこそが真なる漢ロード!!!」
と言う結論に達したらしい。置いてかれてから数秒後には速攻で。
とは言え、空を高速で飛び回って戦う敵を相手に、コチラも攻撃を届かせるには第二世代IS《ゴールデンバゥム》では些か以上に遅い。遅すぎる。スローディーだ。
「ふぅ~む、地上戦であるなら走って補填すればどーとでも出来るのだが・・・・・・。
やはり大空という戦場は、海から発して数億年の生物である人類にとって未知の世界。まだまだ遠い場所であると言うことだな、うぅ~~~~む」
ウンウン唸りながら、なんか使えそうなものはないかとキョロョロ辺りを見回してみて。
「・・・おおっ!? これは! まさに天啓! 友を救うため天が与えた聖剣とはコレのことか!!
さぁ、今行くぞ織斑くん! 岩から引き抜きし聖剣を手に私が行くまで無事でいてくれた前ぇーッ!! とぉぉぉりゃぁぁぁぁぁッッ!!!」
――という流れで、なんか見つけて、なんか手に取って、なんか使って空中戦を手伝うため援軍に行くことにしたらしいハイド。
大丈夫なんだろうか? ・・・・・・大丈夫じゃないんだろうなぁ、おそらくはだけども・・・。
そして、その頃。
「くっ! このっ・・・・・・箒っ! 援護を頼む!!」
「任せろ!!」
一夏と箒のコンビプレイで迫る銀の福音戦は、第二段階に移行しつつある段階まで至っていた。
2機がかりの斬撃に対して、泳ぐかのように踊るように、ひらりひらりと紙一重の回避行動でダメージを避けながら翻弄し、銀色の翼であるスラスターの中に隠された砲口で狙いをつけてから大量の光弾を斉射する特殊な戦い方に、一夏も箒も攻撃が当てられずに攻めあぐねていたのである。
「箒、左右から同時に攻めるぞ! 左は頼んだ!!」
「了解した! 任せろ!!」
爆発するエネルギー弾を主武装とし、命中精度は高くなくとも連射速度と弾数とで圧倒しようとしてくる、奇抜な形状とは裏腹に回避に特化した実用レベルが高い機体の福音に対して、力づくで防御を突破して接近し、隙を突く以外にないと判断した二人。
「一夏! 私が動きを止め―――」
箒から一夏に対して、囮になる旨を告げようとした、まさにその時!!
「織斑くん! 篠ノ之くん!! あ~~~ぶないぞ――――ッ!!!」
と、どっかのバカから大声が聞こえてきて、センサーにも一瞬なんか気になるもんが感じられたような気がしたから、
「ハイドか!? 一体なん―――」
必死の表情のまま一瞬だけ振り向く箒と一夏。
その二人の視線の先には今――――《岩》があった。
岩である。
石の塊のデカい奴が、一夏と箒の目の前に猛スピードで高速接近している最中だった。
一夏が乗った状態の白式と、ほぼ同じ全長ぐらいのサイズを持った大岩が・・・・・・第三世代IS並の速度で二人が左右から斬りかかろうとしていた先の福音まで、直線軌道に並んでる空間を横切る形で―――巨大な岩の塊が、猛スピードで高速接近してきてて、今にも二人にぶつかる0コンマ1秒前ぐらいの距離まで近づかれちまっていた、その直後の出来事だったので・・・・・・
「って、うわぁぁぁッ!?」
「危ねぇぇぇぇぇぇッ!?」
『・・・・・・ッ! ・・・ッッ!!!』
一夏と箒、あとオマケに福音も慌てて回避。大慌てで緊急回避である。余計なこと考えてる余裕など一切なく、ただ全速力で飛び退る!! それしかねぇ!!
ブォォッン!!!
と、ものスッゴい風圧で轟音響かせながら大岩は、ギリギリのところで一夏と箒と、あとついでに銀の福音も回避に成功して事なきを得て、爆発するエネルギー弾とか比べものにならないほどの馬鹿デカさと質量持った超巨弾が通り過ぎていくところを目撃して冷や汗を垂らし合う。
「な、なんつー危なっかしい攻撃方法を・・・・・・当たるどころか、掠るだけでISエネルギーどんだけ持ってかれるか分かったもんじゃねぇぞオイ。
こんな攻撃をする奴は、一人しかいない! そうだろぉ!? ハイドォォッ!!」
『如何にも!! 我こそはIS学園1年1組所属! 泣く子も黙るドイツ代表候補生!
人呼んで、ドイツの青い雷! その強さは計り知れず!!
シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ、16歳であ――――る!!!!』
「知ってるわぁぁぁぁぁぁぁッッ!? そんな言われんでも分かってること今更聞く気はないわッ!! なにしやがんだって聞いてんだよ俺はよォッ!?」
一夏、さっき箒から言われて無視した言葉を、今度は自分が言う版の巻。
因果応報と言えば因果応報なのかもしれんけど、一番悪い奴には特に何のペナルティも与えられたこと一度もないので微妙な概念でもあったりはする。
『いや何。君たちばかりを戦わせていたのでは、やはり心苦しかったのでな。
私も戦いたかったのだが、やはりISの速度までは、力と想いだけではどーすることもできず困っていたのだよ』
「・・・ほう、そうか。それで?」
『うむ。そこで考えた結果、岩を投げて投石で援護射撃をしようと結論に達した。
海面に突き出している岩礁を引っこ抜いて投げつけていれば、その内一発ぐらい当たるかもしれんと、私はそのように考え、そのように実行した。嘘偽りは一切ない』
「いや、おかしいだろ!? 嘘偽りない方がおかしいだろう!? なんでIS使ったとは言え、そんな馬鹿デッカすぎる大岩引っこ抜いて投げつけてこられ―――危ねぇぇぇぇぇッッ!?」
『ふぅぅぅぅぅッッん!!!!!』
ブォッン!!と、再びの大岩投擲。
流石の福音も、エネルギー弾より遙かにデカすぎるし堅すぎる大岩相手には、小型爆弾程度の爆発力でどうにかできるサイズではなく、ひたすら回避しながら隙を見出す以外に取るべき道が他になくなり、立場逆転させられて敵の方に逃げてくるから、巻き込まれないよう敵が逃げ出し、なんかよく分からん変な追いかけっこを空中で演じる羽目になってしまい。
『どぉぉりゃ! そぉぉりゃッ!! ふんぬらばァァァァァッッ!!!!』
「うおっ!? ちょっ! 辞め! 危なっ!? うおわぁぁぁッ!!??」
「ひっ!? まっ!ちょ! ひぃっ!? ヒィッ!! ひぃやぁぁぁッン!!??」
『・・・っ! ・・・・・・っっ!! ・・・・ッ!・・・っっ!!』
ブゥッン! ブォンッ!! ブォン!ブォン!ブォォッッン!!!
連続して放たれまくる、ハイドの恐るべき腕力によって投げ飛ばされる大岩攻撃の連射性能を前にして、さしもの最新鋭機3機とパイロットたちも手も足も銃弾すら出せずに逃げ回り続け、もはやこれまでと追い詰められかかったまさにその瞬間のこと!!
『むぅッ!? いかんっ、弾切れである! 補給してくる故、テキトーな弾になりそうな岩礁を探してくるまでしばし待つが良い!! とぉぉッう!!!』
と、勝手に割り込んできた変な奴が、勝手に玉切らして勝手にどっか泳いで行っちまったことで、ようやく戦場に平穏が戻ってきてくれた・・・・・・。
「・・・今だ! 隙あり―――ッ!!!」
「え!? 箒ッ!?」
箒が大岩の弾丸の雨を、皆で一緒に紙一重で躱し終えた後。
ようやく一段落して安堵して、全員が動きを止めてた一瞬の隙を突いて福音へと急速接近。
福音もギリギリのところで反応して、迎撃と回避のため光弾を斉射するが、一瞬遅い。
言葉通り、出来た隙を突くことが出来ました。・・・・・・卑怯だけどね。
試合や訓練じゃなく実戦なので、致し方なし。
「・・・っ! La・・・!!」
「――あ!」
だが一夏は、箒に合わせて福音へ向けて突撃することなく、真逆の方向の海面に向けて機体を急速降下させ、福音から発射されていた一発の光弾を追いかけるため最大出力で追跡し始める。
「一夏!? 何をしている! せっかくのチャンスを――」
「船がいるんだ! 海上は先生たちが封鎖したはずなのに――ああくそっ、密漁船か!」
最大出力で飛びながら一夏が答え、答えると同時に右手に握っていた零落白夜の光が薄れて消えて、白式の展開装甲が閉じていく。
エネルギー切れだった。最大にして唯一のチャンスと、そして作戦の要を同時に失った彼らに、もはや勝機は1ミリグラムも残ってはいない。
「馬鹿者! 犯罪者などをかばって・・・・・・・。そんなやつらは―――!」
「箒!!」
「ッ――!?」
「箒、そんな―――そんな寂しいこと言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴のことが見えなくなるなんて・・・・・・どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ」
「わ、私・・・私、は・・・・・・」
明らかな動揺を浮かべる篠ノ之箒と、妙に穏やかそうな表情と声音で説教しはじめる、一本だけの刀しか取り柄のない欠陥機のパイロットで、特殊機能失った今は量産型の打鉄IS操縦者ぐらいの強さしか持ってない状態の織斑一夏くん。
それでも双方共に、言っている言葉そのものには重みがあるやり取りだった。
箒は、日頃から思い人の幼馴染みを殺すつもりで日本刀ブン回し、相手が避けてくれてるから結果論で殺さずに済んでる殺人未遂連発してるけど、今のところ殺すことに成功してなくて治外法権のIS学園生徒だから犯罪者にはなっておらず。
一夏の方は先月に、企業スパイで身元偽って不法入国と入学してきて刑務所入るつもりだった男装少女を、法の裁きから逃れさせるため校則を利用した共犯者になったばかりの少年犯罪者候補である。
互いに立場と経歴を考え合わせると、なかなかに深いことを言い合っていた者同士であったのだが・・・・・・どうやら箒の方には、そこまで考えれる自己客観視能力は一夏以上になかったらしい。
「箒っ!? マズいっ!! 箒ぃぃぃぃぃッ!!」
動揺のあまり、両手で顔を覆って刀を落として光と共に消え去るのを見て、一夏は相手がエネルギー切れになり具現維持限界と呼ばれる状態に陥ったことを悟ると、零落白夜を維持できなくなった長いだけのポン刀を投げ捨てて、箒に向かって残されたエネルギーで瞬時加速。
暴走してるから先程の意趣返しって訳ではないだろうけれど、福音はエネルギー切れになったISアーマーしか持たない紙装甲になった箒に狙いを絞り、一夏は敵の攻撃から箒を守るため、箒と福音との間に割り込んで、そして―――連続一斉射。
「ぐわあああっ!!!」
箒をかばうように抱きしめた瞬間、その背中に無数のエネルギー弾の爆発を受け、骨が軋む音を聞きながら一夏は、一度だけ箒を見てから―――瞼を閉じ、意識を失った・・・・・・。
「一、夏・・・? 一夏っ? 一夏! 一夏ぁっ!!」
――私が我を取り戻した時、目の前には一夏の顔があり、そして・・・・・・疲れたように瞼を閉じていく姿だけがハッキリと瞳に映っていた。
その姿を見ただけで私には解った。理解できた。―――私のせいだ、と。
私は“また”、やってしまったのだ。以前と同じ過ちを・・・二度と繰り返さぬと誓った失敗を、またしても私は犯してしまい―――そして最愛の人が傷つく理由になってしまったのだ、と・・・・・・。
「ああ・・・一夏、一夏っ。私の・・・・・・私が悪いから・・・っ!」
私は彼を抱きしめて、無防備なまま海へと落下し続けていく。
福音はどうなったのだろう? ・・・いや、もうそんな事はどうでもいい・・・一夏を私のせいで傷つけてしまった今となっては、私にとってはもう本当に・・・・・・
「・・・一夏・・・」
私は気絶したまま眼を覚まそうとしない一夏の身体をソッと抱きしめる。
あるいは、福音のエネルギー弾が私たち二人を狙って放たれ、共に死ぬことになっても構わない。一夏と共に死ねるのならば、私にとっては本望だ・・・。
「一・・・夏・・・・・・」
私は彼を抱きしめながら、気絶している彼の顔に、静かに自分の唇を寄せていく・・・。
海面までの距離は近い。あと僅かだ。あるいは冥府までの距離かもしれない。
そう思うが故に、私は伝えたい時に、聞いてもらえていた時に、言っておかなかった言葉を伝えたくて、でも手遅れで・・・・・・そんな想いを言葉ではなく、行動に込めて。
私は暗い海をバックにおいた一夏の顔に、ゆっくりゆっくりと自分の顔を近づけていき、そして――――
「篠ノ之くん!! 危な―――――――ッッい!!!!!」
ドゲシィィィィッ!!!
「ふぶべぇっ!?」
・・・・・・後頭部に全力キックを食らって、衝撃で顔面が前方に押し出され、目の前に迫っていた一夏の顔と顔面衝突して色々な部分が接触しまくり合い。一瞬だけだけど一夏と同じく暗い意識の底まで記憶を飛ばし。
「ひでブボでぶちゅーッッ!!??」
ドッボーン!!!と、もの凄い勢いで海に向かって全力激突させられながら、海水とか鼻水とか涙とか、色々な液体が絶対防御分のエネルギーすら使い果たして、ただのズブ濡れになった女子高生と男子高校生でしかない身体と服の中に入り込みまくり。
私と一夏は一緒になって、土左衛門みたいな状態で海面に上がってきて息をして、酸素を補充するのがやっとの有様になってしまってたのであった。
「ぶえほッ!? ゲホッ! コホッ! ぺっ!ぺっ! か、海水が・・・っ、思った以上にしょっぱッ!?」
「危ないぞ篠ノ之くん! 戦場で敵を前にしながら立ち止まるなど、正気の沙汰ではない!! 戦えぬなら一刻も早く織斑くんと共に撤退を! ここは私に任せて早く退けぇい!!」
「い、いやあの・・・・・・言ってることは尤もだとは思うのだが、お前もう少し人の気持ちに配慮ってものをだな・・・・・・」
「人命優先である!! 人の命は何よりも重く重要なるもの!! それとも君は織斑くんの命より、自らの見栄えや美しさをこそ尊ぶとでも言うつもりなのかね!?」
「うぅ・・・・・・くそぅ・・・・・・この状況下でも言い返せないとは・・・・・・ううぅぅ、惨めだぁ・・・・・・」
こうして、私と一夏によるシルバリオ・ゴスペルとの最初の戦いは終わりを告げさせられ、私は気絶している一夏を引っ張りながらズブ濡れ姿でひたすら泳ぎ、惨めに敗走してきた落ち武者のような有様で旅館へと帰り着くことが出来、この戦いは完全に私たちの敗北で終わった。
そして、この戦いは私のファーストキスが、うやむやの内に失っていて、直後に頭ぶつけたせいで碌に記憶に残っていないという、悲劇を心に強く長く刻みつけられることになる。
ファーストキスは・・・・・・唇が切れた血の味がした。
「さぁ、ゴスペラーズ君だかガスパール君とやら!
織斑くんたちの撤退が完了するまでの間、この私がお相手しよう! だが心するがいい!
織斑くんは、必ずやこの海へと戻ってきて、君との決着をつけることを!! 生きてこそ手にできる栄光を手にするまで、彼は君との決着をつけるため追い続けるであろう!
私はその為の前座に過ぎぬ存在! ここで君が倒されることはないが、追撃はさせぬ!!
さぁ、どこからでも掛かってカマ――――ッンであ~~~る!!!」
・・・・・・もうコイツ一人に任せて倒してもらった方が早そうなのだが、こういう理屈でやってくれそうにない。
そういう奴がハイドなのだと理解させられた、私にとっての臨海学校2日目はこうして半分ほど終わりを告げる。
つづく