ちなみに牙突はするのかと言われたら…………多分やりません笑。
「特別調査員ですか?」
「あぁそうだ、何でも市長が派遣させる調査員らしい」
新たに発生した共生ホロウに派遣されたHIA調査員であるケインは、先輩である調査員と談笑していた。
「ケインは新人で知らないとは思うが、特別調査員と言っても我々の警護等が主な仕事さ
あまり堅苦しい態度でいる必要はないさ」
「は、はぁ……わかりました」
調査員となって数ヶ月のケインは、聞き慣れない単語に多少困惑している。
講座や研修でも、特別調査員という項目がなかったがホロウという特殊な環境に対応するために新たな役職が増えてもおかしくはないと納得していた。
「ここは比較的微弱なホロウで消滅が予測されているとは、ホロウレイダーやエーテリアスが襲ってこないとも限らない
注意しておけよ」
「は、はい!」
先輩の警告をきちんと聞き入れ、気合いを入れ直すケイン。
比較的微弱なだけであり、危険地帯である事に変わりはない。
少しの油断が命取りになる事は、先人達の犠牲が証明している。
「さて、俺も調査を開始しないと」
聞きに表示された観測機器を抱え、慣れた手つきで電源を起動しケインは周辺のエーテル濃度の観測を開始する。
「濃度は安定値、平均よりもやや低めか」
計測値を入力しデータファイルへと纏める。
観測場所を変えては、それらを繰り返す。
地味な作業でこそがあるが、これが新たなホロウが発生した際の対応マニュアルとして役に立つならばとケインは懸命に作業を続けた。
「おーいケイン!
そろそろ休憩の時間だ」
「わかりました!」
ケインが作業に集中していて、時計を確認するとかなりの時間がたっていた。
先輩の声掛けを聞き、急いで拠点としているキャンプへと戻る。
「ほら、これ飲めよ」
「ありがとうございます」
先輩から渡された飲料缶を受け取り、プルタブを開けて口内へと飲み込む。
キンキンに冷えた飲料が疲れた体に染み渡る。
「くぅぅ!美味いなぁ!」
「ははっ、元気がいいね」
あまりの美味しさに歓喜の声が出るケイン。
仕事終わりの酒場でビールを飲み干すおっさんかよと先輩に突っ込まれてしまう。
「しっかしよく働くねお前さんは
俺らは比較的安全が確認された場所での調査が仕事だけど、そんなに若いのによくこんな危険な仕事をしようと思ったな?」
たわいも無い世間話の合間に先輩から調査員になった経緯を聞かれたケイン。
少しの沈黙の後、恥ずかしそうに頬を掻きながら、
「俺の父親は調査員だったんですよ
まあ有名って訳でもない普通の調査員でしたけど……」
「だったって事は………」
少し切なそうな顔をしてケインは言葉を続ける。
「はい、11年前の旧都陥落の際に……亡くなりました…」
「すまん……嫌な事を話させてしまったな」
余計な事を話させてしまったと後悔する。
だがケインは、
「でも俺は父を誇りに思ってます……
生き残った同僚の方が言ってましたよ、最後の最後まで調査員としての使命を全うしたって
だから俺、父の仕事がどんなに凄い事なのか知るために調査員になりました」
恥じること無く、己の全てを打ち明けるケイン。
同情でも慰めが欲しい訳ではない。
父親が歩んだ道を自信が見てみたいという強い信念を見せる。
「凄いなお前のお父さん、俺なんかは……まあ給料がそれなりに高いからなんて今の話聞いて他の誰かに気軽に話せなぇよ」
「そんなことないですよ、大なり小なり人には事情がありますから」
ケインは先輩にフォローを入れつつ、飲料缶をゴミ箱に入れる。
「休憩時間終わるんで先にいますね」
「おお気をつけてな」
「ふぅ……」
午後も変わらずに測定を続けるケイン。
その場の測定値の入力を終えて、歩きだそうとした時、
「え?」
身体の重力が無くなるのを感じる。
歪な空間の裂け目が開き、ケインは為す術なく落ちていく。
「うわあぁぁぁぁ!?」
ホロウ内の空間は非常に不安定。
それ故に空間の裂け目が突如として現れる事などがある。
こうした突発的な事故は日常茶飯事であり、ケインは運が悪かったとしか言いようない。
裂け目をくぐった先は、先程観測をしていた場所よりも崩壊しかけているコンクリート造りのビルに、瓦礫の山。
まだHIAの方でも観測していない未登録の場所だと理解した。
「まずい!急いで隠れないと!」
慌てたケインは瓦礫の山へと身体を隠す。
未登録の場所。
それは危険性がはっきりとわかっていない未知の場所であるという事。
『■◾︎■■』
瓦礫の山から現れた人の形を成した歪な姿。
悲鳴のようなノイズ音を響かせながら、ゾンビのようにゆらゆらと周辺を歩き回る怪物。
『エーテリアス』
大小異なる結晶に身体が覆われ、左右非対称の歪な腕。
到底ながらこのような化物に対応する武器も何も無いケインは息を潜めて隠れる他なかった。
「(最悪だ、よりにもよってエーテリアスの群れに遭遇するなんて)」
エーテリアスよりホロウレイダーの方が幾分かマシであっただろう。
意思疎通ができない怪物よりも、危険ではあるが話ができる人間の方がまだ助かる見込みはあった。
「(とにかくここを離れて………)」
ゆっくりと忍足でエーテリアス達から離れようとした時、
<ゴトォ>
ケインはうっかり足元の瓦礫に触れ、それが倒れてしまう。
『■◾︎◾︎■■◾︎■!』
その音に気づいたエーテリアス達は、一斉にケインの方を向く。
気づかれてしまったケインは全速力で走る。
戦う術はない。
逃げる他無いなら全速力で走り、生存への可能性に賭ける。
「ウォォォォォ!!」
逃げる逃げる逃げる。
ケインは後ろを振り返らずに、懸命に走る。
エーテリアス達もまたケインを逃がさんと追跡。
「はぁはぁはぁ!」
瓦礫の間をすり抜けるように走り、エーテリアスを撹乱しようとするケイン。
しかしエーテリアスは瓦礫を砕きながら追いかけてくる為、効果はあまり意味がなかった。
「くそ!」
息を整える暇もない。
体力も残り僅かなケイン。
足腰も全速力をキープするのは不可能。
「あっ……」
突起した瓦礫に足を掬われる。
全速力で走っていたため、地面に強くぶつかり衝撃をモロに食らって転んでしまう。
「うぅ……」
今の転倒で足首を挫いてしまったケイン。
痛みで動けない上に、エーテリアス達はお構い無しにケインへと近づいてくる。
「(もうダメか………)」
ケインの脳内に浮かぶ走馬灯。
家族との食事、学生時代のたわいも無い生活、父との思い出。
母親の反対を押し切って調査員となったと言うのに、父親よりも早くに死んでしまうかもしれない今。
「(母さん……父さん……ごめん)」
目の前に迫るエーテリアスの凶刃。
若くして死ぬ事に心の中で謝罪するケイン。
ゆっくりと目を閉じて、死を受け入れる。
「右へ避けろ」
突如として聞こえてきた誰かの声。
死の淵で聞こえた幻聴か。
しかし、どうせ死ぬかもしれないならこの声の言うことを聞いてみようとケインは身体を右へと逸らす。
次の瞬間、
『■◾︎■◾︎◾︎◾︎◾︎■!?』
強い衝撃と共にエーテリアス達が吹き飛ばされる。
「な、何だ……?」
唐突な出来事に混乱するケイン。
そんな彼に近づく影。
「到着が遅れて済まなかったな」
後ろを振り返るケイン。
先程の声を発した主であろう男が立っている。
「あ、貴方は…」
上下紺色の洋装制服に身を包み、左手に刀を握っている。
その傍らには浅葱色の羽織を着たボンプがいた。
「ホロウ特別調査員、斎藤一だ
そこで大人しくしていろ、すぐに片付ける」
<御仁、拙者が御守りするでござるンナ>
斎藤はケインの前に立ち、刀を構える。
そしてボンプのシンパチはケインの横に立って、スタンバトンを構えて守る姿勢に入った。
『■■■◾︎◾︎■■!!』
体制を立て直したエーテリアスが斎藤に一斉に飛びかかってきた。
そんな危険な状況であろうとも斎藤は臆することなく、軽く息を吐き、呼吸を整える。
瞬間、
「空天……」
斎藤の姿がぶれる。
霞のようにゆらゆらと輪郭が無くなっていく。
「一殺!」
『■■◾︎◾︎◾︎◾︎■!?』
次の刹那。
音が遅れてやってくる。
刀による一閃が、見えた頃には斎藤は横を通り過ぎていた。
両断された身体がずるりと落ちると、エーテリアス達は断末魔を上げて消滅する。
「す、凄い……」
何が起きたか分からないケインは、思わず呆けてしまう。
十体以上はいたであろうエーテリアスを、刀の一振りで全て消滅させてしまった斎藤を見入ってしまっていた。
「……ふぅ」
斎藤は刀を鞘に収めて、ケインに手を伸ばす。
「立てるか?」
「は、はい!」
斎藤の手を借り、ゆっくりと立ち上がるケイン。
多少の痛みこそあれど、歩く事に支障はない。
<御仁、出口まで案内するでござるンナ>
シンパチは二人を先導し、出口へのルートを案内する。
周囲への警戒も怠らず、いつでも戦闘態勢に入れるように。
「助けていただきありがとうございます
なんとお礼を言っていいか……」
「気にするな、これが俺の仕事だ
それにあと少し遅ければ、お前はエーテリアスの餌食だっただろう」
生き残ったのはお前の頑張りだと遠回しに伝える斎藤。
ケインもそれ以上は何も言わず、軽く会釈をする。
『ご主人、出口でござるンナ』
「すまんな、シンパチ」
出口まで目前。
斎藤は油断せずに、気を張り巡らせている。
「あと少しだ、痛むとは思うが辛抱しろ」
「は、はい、ありがとうございます」
ホロウの裂け目を潜る。
歪な空間を抜けて、元の世界へと帰還する。
「た、助かった……」
死にかけた地獄から解放されたケインは、気が抜けてその場でへたり込む。
「俺の仕事はここまでだ、位置情報をHIAの連中に送ったから回収してもらえ」
踵を返し、斎藤は再びホロウへと入ろうと歩き出す。
「ま、待ってください!」
ケインは斎藤を呼び止める。
斎藤は足止めて振り返る。
「今日は本当に、本当にありがとうございました
貴方は命の恩人です、だから今度お礼をさせてください」
命を救われた。
感謝してもしきれないケインは斎藤へのお礼をさせて欲しいと懇願する。
しかし斎藤は、
「要らん」
とバッサリとケインの申し出を両断する。
「そ、そうですよね、不躾なことを言ってすみません……」
初対面の人間に対して言うべき言葉ではなかったと反省するケイン。
だが斎藤は再びケインに近づき、目線を合わせて膝を着く。
「礼は確かに要らん
だが強いて言うなら立派な調査員になれるように努めろ
今度は自分が誰かを助ける番になれ……それだけだ」
そう言い残すと斎藤は立ち上がり、ホロウへと消える。
<ご主人はぶっきらぼうだけど、御仁の事を心配してるのでござるンナ
だから立派な調査員になってご主人を見返して欲しいでござるンナ>
シンパチがケインにフォローを入れる。
言葉こそ冷たいが、心配をしてくれた事が何より嬉しいと感じるケイン。
<それじゃあ御仁、拙者も仕事に戻るでござるンナ>
シンパチも斎藤の後を追いかけ、ホロウへと消える。
その後、ケインは他の職員に回収されて病院へと入院した。
「斎藤さん……貴方や親父のように立派な調査員になって見せます」
新たな目標を胸に、ケインは調査員としてより仕事に励むのであった。
[to be continued]
牙突じゃないだと!?
流石にやりませんよ、私ではるろ剣の斎藤さんを扱いきれません笑
オリジナルの斎藤一として見て貰えたら幸いです。