苦しめれば苦しめるほどいい出汁が取れる   作:ゼンゼロ2和歌

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始まり

 

 「ん~~~、いい朝だ」 

 

 窓を開けて、腹一杯に空気を取り込む。

 現在午前六時、精一杯伸びをして、窓だけ締め部屋から出る。

 

 朝から鍛錬をするあの人からすれば、これでも遅いくらいだが、流石に誰の命も掛かってないなら俺は命が惜しい。

 本当は、料理の一つでも披露したいが、”右腕”がこんなんではどうしようもない。

 今もジクジクと、神経が焼かれるような激痛が走るが、いつも通りそれを無理やり意識の外へ追いやり。

 パンを焼き、冷蔵庫から牛乳や、マーガリンなど取り出せるものを取り出しておく。

 トーストが出来上がるのを待っている最中手持ち無沙汰になり自然とリモコンへ手が伸びる。

 

 『見てください!ホロウから六課の面々が出てきました!』

 『見てください!!雅様ですよ!!!雅様ーーー!!!!キャー――――!!!!!』

 

 「えぇ、大丈夫なのか?このリポーター……。」

 

 チン、と音がしてトーストが出来上がった事を知らせてくる。

 席から立ち、出来上がったトーストへ手を伸ばすのだった。

 テレビに映る六課の面々、昔は見えたはずのモノがやはり今は見えない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、衛宮士郎の投影が半ば使えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 靴を履き、最後に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、家を出る。

 メモ帳に書いた予定を確認しながら歩く。

 朝、冷蔵庫を見た時に足りなかった物を空白に書き足していく。

 

 「卵、はそもそも俺じゃ手に余るから……、いつも通りパンと……、ついでに茶菓子を買い足しておくか」

 

 そんな事を考えていたら、誰かにぶつかってしまった。

 

 「すみません!、少し考え……」 

 

 どちらかと言えば水色の、色素の薄い髪。

 特徴的な、エルフ耳と呼ばれる、とんがった耳。

 

 「ビビアン……か?」

 

 「え、シロさ……ん…………?」

 

 目を合わせビビアンと呼ばれた少女の瞳が潤んでいく、それが雫となって、地面へ落ちた。

 

 「な!?ビ、ビビアン?!だ、大丈夫か!?」

 

 声を掛け、驚きながらも少女の涙を拭うため、咄嗟に右手でハンカチを取り出そうとして、思い直しゆっくりと左手でハンカチを取り出した。

 

 「ごめんなさい!!!」

 

 「え、」

 

 ビビアンは立ち去ってしまった。

 その場には、彼女にフラレたのだと勘違いして少年を憐れむ民衆と突然のことにハンカチを取り出したまま固まる少年だけだった。

 離れていくその黒い傘はとても遠くて、昔別れたっきりだった旧友との再開は、俺の日常に、そして多分、彼女の日常にも、とても暗い影を落とした。

 

 

 ビデオショップ『Random Play』、俺のバイト先であり、俺を唯一雇ってくれた恩人だ。

 

 「やあ、随分こっぴどくフラレたようじゃないか」

 

 そう言って、このビデオショップの一人目の店長である、アキラが話しかけてきた。

 

 「なんだよ、それ、フラレるもなにも、俺にはそんな相手は居ないぞ?」

 

 こちらをからかうようなことを言うアキラに少し眉をひそめ考える。

 右腕が少しだけ翡翠色に輝くのが見えた。

 

 「それに、俺はアキラほど女性にうつつを抜かす暇なんて無いしな」

 

 「僕だって無いさ、フリーターにはあるかもしれないが」

 

 アキラの言葉に少しの間、睨み合う。

 そこへ、二人目の店長である、リンがやって来た。

 

 「いやいや、お兄ちゃんもシロも大概だから」

 

 はあ、やれやれとでもいいたげにリンは言った。

 …………。

 

 「「お前が言うな!」」

 

 「お兄ちゃんたちってやっぱり、仲良しだよね」

 

 

 そんな一幕がありつつも、各々の仕事に戻る、なんてことはなく、そもそも、お世辞にも大きいとは言えないため、自ずと会話が多くなる。

 

 「で、本当は何があったんだ?シロがフルことはあってもフラレことがないだろ?」

 

 わずかに、熱を持つ右腕を、バレないように少し握りしめて、言う。

 

 「フルもなにも、俺が告白されたことがないのは知ってるだろ?」

 

 苦笑を浮かべてそう返す。

 あくまでも、バレないように。そうしているとリンが口を開く。

 

 「ねえ、いつも、その包帯が巻いてある腕を握りしめてるけど、なにかあるの?」 

 

 剣呑な雰囲気、けれど、その顔はこちらを本気で心配していることが分かる。

 優しい人たちだ。

 だから余計、衛宮士郎(理想の英雄)みたいな人たちを、巻き込むことができなくなった。

 

 「なんでもないさ、ただ、昔大火傷をおって「この前は、義手だっけ?」」

 

 「そして、更にその前は手術痕とか言ってたよね」

 

 アキラとリンに退路を塞がれた。

 

 「いや……、それはだな……」

 

 墓穴を掘った、たしかにそんな事を言ったような気がする。

 衛宮士郎(本物)なら、こんな失敗は侵さなかっただろう。

 

 「シロ、きみ。自分で気づいてるかい?日を重ねれば重ねるほど、足元がおぼつかなくなってるよ」

 

 「歩けないほどじゃないさ、すまない、少し頭を冷やしてくる」

 

 そう言って店を出た。

 

 ービデオショップ『Random Play』店内ー

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「大丈夫、……だと、思いたいが、リン、僕も少し頭を冷やしに行ってくる」

 

 「う、うん、ちゃんと、シロ連れてきてね」

 

 そんな事があった日。

 シロは姿を消した。

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