拙い所も多々ありますが優しくして欲しいにゃん♡
呪術界には御三家と呼ばれる名家がある。昔々のそのまた昔から続くような古い家系で、呪術師の名家足らしめる相伝の術式を幾つも抱えている。
その御三家のうち一つ、禪院家の分家の一つである背弦家は御三家に次ぐほどの名家だった、らしい。
禪院家で非ずば呪術師に非ず、呪術師に非ずば人にあらず。
前時代的を通り越してトチ狂った価値観を備える禪院家をして、外部の余所者でありながら歴代当主の懐刀として重宝する呪術師を排出する名家、もとい都合の良い存在が背弦家だった。
そんな背弦家が没落し始めたのが、だいたい100年前。
より具体的には御三家たる加茂家から加茂憲倫という呪術界の汚点とまで呼ばれる呪術師の悪行が判明した頃。
呪霊の子を孕むという特異体質の娘を保護した、という名目で屋敷に閉じ込め、呪霊との間に子を孕ませて堕胎させる。繰り返す度9つの産まれ損ねた水子は後に『呪胎九相図』と呼ばれる特級呪物へと認定された。
それらを始めとした彼が為した悪行の数々はさすがの御三家たる加茂家といえども庇い切れる物では無く、時を同じくして他の御三家も自己保身のために、身内の恥を切り捨てようとしたのだ
それで尻尾切りされたのが背弦家であり、没落の要因だった。
なにせ優秀な呪術師を“産み出す”為に、女は胎盤の頭数として、男は蠱毒の末の種馬として使われていたのだから。──もっとも本家本元たる禪院家も似たような事をしているが、それよりも外聞の悪いものだった。
人と呪霊という違いはあれど、やってる事は加茂憲倫の所業と大差ない。切り捨てられるのも当然と言えた。
それでも優秀な術師を輩出し続けた名家の血筋には違いなく、ただ捨てるには惜しいと、3つ目の御三家たる五条家から秘密裏に匿われて、細々と蠱毒を続けている。
それが現代まで続く人間の養殖場たる背弦家の実態であった。
そして、そんな家に転生してしまった場合の心境を答えよ。
「あっう〜 / ふぁっきゅー」
「チヒロちゃんが喋った!」
「ハクねーちゃんの事呼んだんじゃない?」
「ご飯かなぁ お腹減ってるのかなぁ」
今が西暦何年なのか知る手段は無い。この部屋に時計やカレンダーといった現代的な物は存在していないからだ。
少なくとも平成という時代の前世を知る自分からして、古めかしいという印象の純和風の屋敷の一室にて、籠の中の赤子を子供達が取り囲んでいた。
この赤子というのが自分こと“背弦 チヒロ”という赤ん坊で、つい最近になって前世の記憶を思い出した転生者である。
取り囲む幼女ABCは同じく背弦家の子供達。背弦家ではポコジャカ子供を産ませては、その世話係を少し成長した子供にやらせるのだ。
増えた子供の世話は沢山の子供達で賄う。なんて効率的な管理体制なのだろう! クソが。
「ニイナお姉ちゃんはご飯の準備中だし ハクお姉ちゃんは…」
「じゅじゅちゅの練習だってさ」
「ミルク飲むかなぁ? 飲まないみたい」
自分が声を上げたのをなんらかの問題発生と捉えたのか、幼女達は籠ごと自分を抱き上げると、襖を開けて廊下へと繰り出した。
籠の中かつ花柄の“おくるみ”で過剰梱包されている身としては運搬する幼女ズの顔と廊下の天井くらいしか見えないが、それだけでも古い屋敷というには色落ちしておらず、小綺麗な印象があった。
ぺたぺたと裸足で歩く幼女の足音を聞く傍らで、聞き馴染みの無い音がした。未だ座らない首をえっちらおっちら動かして視線を変えた先には、幼女三人衆より少し年上そうな少女が棕櫚箒にて廊下を清めていたのだ。
「あら、どうかしたの?」
「ホシお姉ちゃん! あのねチヒロちゃんが喋ったの!」
「今からハクねーちゃんにほーこくするんだ」
「もしかしたらミルクじゃないのも食べたいのかも」
「そう、この子は随分と早いのね。呪霊騒動の時も静かだったし、早熟なのかしら?」
「すごいでしょ!」
「私たちが育ててるもん」
「ミルクもたくさん飲むよ」
「でも気をつけなさい。産まれたばかり赤子は簡単に死んでしまうのだからね」
はーい! と揃った返事をしながらに立ち去る幼女ズに揺らされつつ、今の状況へ思い至って冷や汗をかいた。
赤子が簡単に死ぬ、というのは自然の動物として考えれば当然なのだが、人として考えれば嫌な予感がしないはずもない。
自分の知る現代日本の医療環境があれば、死亡率は極めて低く抑えられているはずだろうが、このような環境では最善の治療方法が見守ると祈祷くらいしかないやも知れぬ。
そう怯えている間に幼女ズは目的地に到着したらしく、これまでと違って金具で文様が施された重々しい扉を三人がかりでようやっと押し開けた。
「ハクお姉ちゃん! チヒロちゃんが喋ったの!」
「あうーって言ってた」
「やっぱりご飯がいいのかなぁ」
「そう、素晴らしい事だわ」
部屋の中に入れば、これまでの雰囲気が一変した。
和風らしい木目を見せる天井と漆喰塗りのしっとりとした壁面は、不規則に貼り付けられた無数の札に覆い尽くされ、空間そのものを異界さながらの場所にしている。
四方を取り囲むように注連縄が巻かれていて、要所に燭台の上へと蝋燭の火が灯されるが、照明としてあるよりかは、部屋の輪郭を影で覆い隠すために置かれているかのような印象すら感じる。
その部屋の中央にて正座をするのも、また少女なれど、異様さを隠していなかった。
巫女服に似せた様相の装束は、蝋燭の揺らめく灯りに光と影を作りだし、日本人形じみた影の立つ美形を際立たせている。
なにより、蝋燭よりも遥かに強い燃え滾るような真紅の眼と人間とは思えぬほどの幽鬼めいて褪せた白髪。
子供とは思えぬ超然とした雰囲気は生前の成人男性であった時ですら、怯えて一歩引いてしまうだろうと思えるほど。
それを赤ん坊の自分が見てしまったら。
言わずもがなである。
「ホンギャアアア!?」
「泣いちゃった!」
「あちゃあ」
「おかゆ持ってくる!」
「あらあらあらあら」
自分の出した涙とよだれと叫び声で視界不良と呼吸不全になりながらも見えた物は、取り乱した幼女三人衆と、それと同じくらいに慌てるハクと呼ばれた白髪赤眼の少女。
見た目に反して中身は相応に子供なのだな、と赤子のように泣き喚く自分を棚に上げて、そのような感想を抱いた。
◆ ◆ ◆
じゅじゅさんぽ
「あんよがじょーず、あんよがじょーず」
屈辱である。あえてもう一度言おう、屈辱である。
目の前にて幼女が手の平を叩いている。そこを目掛けてハイハイ歩きをする赤ん坊、背弦チヒロたる私に表情筋がもっと発達していたのならば、それはもう凄い形相だっただろうに。
「チヒロちゃんは歩くのじょーずだねぇ」
「でもご機嫌ナナメじゃない? 疲れたのかな?」
「おなかすいたのかも」
この屈辱を一秒でも早く断ち切るため、幼女の胸元へ飛び込むようにしてハイハイ業務を終わらせた。手早く終わらせないと、この鬼畜幼女は少しづつ遠ざかって無限に歩かされるのだ。
あとはもう歩きたくないと言わんばかりに、全身で幼女の服にしがみつく。これもこれで屈辱だが、ハイハイを続けるよりかはなんぼかマシだ。
「やっぱりおねむかなぁ」
「ずっとハイハイさせたりするから…」
「ミルクつくってくるね」
「だってチヒロちゃん可愛いんだもぉ〜ん ねぇ〜」
屈辱である。まだろくに喋れない赤子相手に責任転嫁するんじゃあない。
頭を撫で散らかすな。こちとらまだ髪の毛も生えそろって無いんやぞ。将来ハゲたらどうしてくれる。
そんな事を考えていても、歩き回って疲れてしまえば眠くもなる我がベイビーボディ。
ウトウトしたのも束の間、気付けば眠ってしまっている。そうして腹が減る頃には昼夜を問わず勝手に泣き出して食事を要求するのは、我が身なれど本当に申し訳ないと思う。
だが
「ほんぎゃぁぁああ!」
「ありゃ こんどは“おしめ”かぁ」
「替えの肌着まだあったっけ?」
「まだ眠いよぉ」
寝転がった姿勢のまま、足を持ち上げられ下半身の清掃が行なわれる。
泣き声とともに、涙がほろりと溢れた。
あぁ、屈辱である。
本当に、本っ当に申し訳ないと思っている。
それでも言わせてくれ。
屈辱である。
じゅじゅさんぽいる?(純粋な疑問
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構わん、行け(継続
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こんなんじゃ満足できねぇぜ(増加
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そんなもの、ウチにはないよ…(減少
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おかか(絶無
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ヒンメルならそうした(作者にお任せ
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ばなな(ばなな