合法ロリ呪詛師さんじゅうろくさい   作:Giromaty

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03 呪符

 

 自分の普段着は、古くなった男物の着物を修繕して縫い上げた継ぎ接ぎだらけの着物である。見た目は悪いが、隙間風はお手製パッチワークで塞がれて、中身には綿と布の切れ端が詰められていて思ったよりも温かい。

 六歳になっても未だ弱いお腹も温められて、むしろ脱ぎたくないくらいなのだが、今日ばかりはそうもいかない日であった。

 

 基本的な子供屋敷の毎日のスケジュールは、早朝から午前中は屋敷外の分も含めた朝食作りと昼飯の準備。

 午後は屋敷外から来る“大人”による授業、もとい背弦家の女はかくあるべしとの洗脳。

 その後は同じく屋敷外の夕飯の準備と細々とした雑事を終わらせれば、各自の思い思いの時間だ。とはいえ、基本は皆子供なので夕ご飯を食べ終わった辺りから寝落ちする子もちらほら。

 

 そんな日常なのだが、週に三日ほど自分を含めた幾人かは食事の準備やら赤子の世話を免除される日がある。

 その免除組の共通点とは、呪力と術式を持っている事。すなわち仕事の代わりに呪術のトレーニングが充てられるのだ。

 

「幼女に巫女服って… 良い趣味してるよなぁ、本当に」

 

 着物を脱いで、準備された巫女服に着替える。当然ながらサブカル的な露出の多い腋巫女服ではなく、頭と手以外を外気に晒さないようなちゃんとした物だ。

 着るだけでも工程も多く、なんなら着る前に水浴びをしろだの前日の食事がどうだのと何かと面倒臭い。呪いを扱うのに神道に倣ってどうするのやら。

 

「チヒロちゃ〜ん 着替え手伝ってぇ」

 

「はいはい、ちょっと待ってろナツ…… それ、何と何処と結んだ?」

 

「お腹の帯を先に結んだら簡単に着れると思ったのぉ」

 

「ものぐさするからそうなるんだ。 …ほら、出来たぞ」

 

「へへ、ありがと」

 

 着替えの為の更衣室。その隣にて紅白の斑模様となっていた同い年の幼女、ナツを仕立て直すと、子供そのものの頬を赤く染めてはにかんだ。

 自分と同い年で、呪力と術式の両方を持っているのはナツ一人だけである。

 呪力を扱える子は幾人かいるが、少なくとも背弦家では術式が無いと呪術師としては認められないらしい。その上、術式にも格があるらしく、そこでもランク付けされている。人生ガチャが多すぎる。

 

「そーいや、今日も先生が来ないらしいな」

 

「そうなの? …よかったぁ、先生って怖いんだもん」

 

「何考えてるか分かんないもんな」

 

 練習場に向けて歩きつつ、雑談がてらに軽く話せば、ナツは周囲を気にしながら胸を撫で下ろした。

 

 基本的に女児だけが暮らすこの屋敷に大人が踏み入る事は少なく、食材の運搬係を除けば、先生と呼ばれる教員役の大人だけが日に数度出入りする。

 そこで名の通りに先生として一般常識やら基礎的な学業やらを教える──前世の知識と比べるとだいぶ偏った“一般常識”のように思える──のだが、彼らは常に顔を隠しているのだ。

 

 白い黒子頭巾、とでも言うべき物だろうか。白い布地で頭頂部から首までを覆い隠して、手袋と無地の着物を着て、皮膚の一片も晒していない。その上、声色や声量もずっと一定で出来の悪いラジオ越しに話しているよう。

 体格差や普段の癖などから幾人かの先生がいるのは把握しているが、教える内容も態度も変わらない彼らを好んでいる子は少ないように見える。

 

 そんな事を話している間に廊下の突き当りの部屋、金具で補強された重厚な扉の前に着いた。

 自分にとってはほんの数日前に来たばかりの場所ではあるが、産まれたばかりの頃の思い出がどうにも脳裏に貼り付いて離れない場所でもある。

 

「失礼します」 

「失礼しまぁす」

 

 二人がかりで扉を押し開ければ、その奥には思い出通りの光景が広がっている。

 壁面を張り尽くさんばかりの無数の御札。四方を囲む注連縄、それらを照らす微かな燭台。

 そして、当時は見かけただけでギャン泣きしてしまった白髪赤眼の少女の姿も…

 

「…あら、掃除中だから少し待ってね」

 

 和ハタキを持った状態でそこにいた。

 当たり前なのだが、この屋敷にいる少女という時点で自分と立場はさほど変わらないのだ。だから平日には普通に掃除やら料理を作っているし、赤子の世話もしている。 

 ただ巫女服が恐ろしく似合っており、超然とした雰囲気と普段の姿がどうにも結びつかないもので、本人は普段通りに振る舞っているのだろうが、練習場以外で見かけるたびに困惑してしまう。

 

「手伝います」 

「おそーじします! ハクお姉ちゃん!」

 

「そう…? じゃあ燭台でも磨いて貰おうかしら」

 

 些か早めに来てしまったせいだろう。一番手に来ておいて、何もせずに待っているのも居心地が悪い。

 言われた通りに燭台を布巾で磨いて、ぼんやりとそこらを眺めていれば、否が応でも壁面に貼られた呪符に目が行った。

 

 元々は漆喰塗りの蔵であったのだろう。微かな照明によって真っ白な壁面が照らされているが、それ以上の面積が呪符によって覆われている。

 五芒星や九字切りの紋様などサブカルで見たことのある御札や、見たことのない文字だか模様だかがびっしりと書かれた札もある。

 貼り方も秩序立ったというよりも、空いてるスペース目掛けて投げつけたら上下反転しちゃったぜ、みたいな雑な感じ。

 たぶんA型が見たら発狂する。

 

 そんな事を考えながらに掃除をしながら待っていれば、そうしばらくもしないで術式持ちの呪術師の卵が総勢20人ほどが集まってきた。

 もっとも、呪術師とは言うが呪術を使う事などほとんど無いのだが。

 

「それじゃ揃ってきたみたいだし練習を始めましょうか。今日も先生が来れないみたいだから、いつも通りに呪符を作って貰うわ」

 

 そう言って無地の和紙を一人に数枚づつ配られた。これに呪力を込めながら書き込む事で、この部屋にも使われているような呪符となるのだ。実に背弦家らしい実益も兼ねるような練習である。

 呪符の出来が良いものは屋敷外部へと持ち出されて、男衆が訓練に使ったり通貨を稼ぐために売りに出される事もあるらしい。

 

「にしてもチャンポンが過ぎるだろ…」

 

「ちゃんぽん?」

 

「独り言だ」

 

 隣の机で書き始めた子を見れば、そちらは五芒星。あちらは九字切りの紋様だったりと様々。

 こちらも硯で墨を磨って、和紙へと筆を走らせる。そこに書きつける文字は「急急如律令」だ。

 現代的に言う所の「なるはやでよろ」にでもなるのだろうか。意味合いとしてはさほど間違ってはいないはず。

 ともかく、神道に倣った格好で、道教のおまじないの言葉が、呪力を込める事で、ちゃんとした効果を持つ呪符として成立してしまうのだから、呪力という存在の節操の無さに驚きやら困惑やらが隠せない。

 いや、逆に呪術的に極めて有効な手段だから、宗教の壁を超えて共有の内容が使われているのか?

 

「ナツちゃんはこっちで呪力の練習ね」

 

「はーい。じゃあね、チヒロちゃん」

 

 此方が人型印刷機となっている間にナツは上座の方に呼び出された。

 私達よりも幾らか年上の子が多い集団にナツだけが呼び出されるのは、彼女が特別な術式を持っているからだ。

 

 術式の中でも格付けがあるらしく、より“呪術”らしい術式──丑の刻参りに似た術式なんかがそうらしい──や、由緒正しい術式──血を操ったり、影から動物を出したり等──は御三家でも重宝されるらしく、雑務を兼ねた練習より優先して行なわれるのだ。

 その覚えがよければ背弦家から晴れて外部へと嫁入りが果たされるとか、どうとか。

 

 その点、ナツは特上の素晴らしい術式を持っているらしく、かの家に嫁げたのであれば背弦家の復興も有り得るのだとか。そう先生達が話しているのを盗み聞きしたのである。

 

「お家の為に、ねぇ」

 

 そういう時代であるのならばしょうがない、との諦めもつくが、それはこの子達にとっての幸せなのだろうか、と疑問も脳裏によぎる。

 遠目に見る上座のナツは、普段はあまり関わらない年上の子達に囲まれながらも、なんだかんだ楽しそうにしている。

 

 外の世界を知らない雛鳥は巣立つ事無く、養鶏場でいずれ卵を産むのか。それが幸不幸など他人が評価するものでもないのだと分かってはいるのだが、どうにも。

 

(ま、所詮我が身は6歳児だし。考えててもしょうがないんだけどさ)

 

 手に負えぬ事ばかり悩んでも、それは杞憂というもの。

 とりあえず今は出来る事を。とりあえずは呪符がどんな仕組みで動いているかの観察でもしながらに、黙々と書き写しを続けた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 じゅじゅさんぽ

 

 

「あ、やっと見つけた。チヒロちゃん、何してるの?」

 

「ん? ナツか。呪骸を作ってるんだ」

 

「じゅかいん?」

 

「じゅ・が・い。いつも作ってる人形の正式名称だよ」

 

「ほへぇ~」

 

 目の焦点が合わないアホ面を浮かべるナツを放っておいて、目前の机の上に散らばる布地や材木の欠片を小刀で削って成形する。

 なぜか知らないが毎夜毎夜に人形を作っている内に指先が妙に器用になってしまった。

 あまり自覚は無かったが、やはり子供の体なだけあって物覚えもそう悪くないらしい。

 

「でもこの人形、全然可愛くないよ?」

 

「そりゃ人形劇で使う用の呪骸じゃないし」

 

「…でも、なんていうか。ぶちゃいく」

 

「そんなにかぁ?」

 

 とりあえず形になっている人形を持ち上げて見る。

 だいたい20cmくらいの無機質なマネキンである。手足はあるが指は無く、足も単純に木の板が張り付けてあるだけだ。

 求める機能としては十分なのだが、ちょっと寂しいのででっぱりのようなシンプルな頭にデフォルメした顔を彫り込んだ。

 それがどうにもお気に召さないらしい。

 

「うん。へんな顔。無理やり笑ってるみたい」

 

「普通の笑顔のはずなんだが…?」

 

「あと、こっちから見ると転がったブタに見える」

 

「ブタ…? 人の顔が…?」

 

 そんな馬鹿な、と思って部屋の前を通りかかった他の子に聞いてみても

 

「きっしょ」

「あわれ」

「失敗作の末路」

「猫ちゃんに似てるんじゃない?」

「猫には全く似ていません!!!」

 

 などと散々な評価。

 おかしい…! 何故だ、普段作る絵本に似せた人形は普通に高評価なのに、自分のセンスで作った途端にこの扱い。

 普通に心が折れそうである。

 

「ま、ここはナツお姉ちゃんに任せなさい!」

 

「同い年だろ」

 

「私のほうが三ヶ月お姉ちゃんだもん!」

 

 そう宣うナツ大画伯の指導の元、幾つかの改善や、他の意見も取り入れて作成された人形は見違えるような出来となった。

 綺麗な装飾とデフォルメながらも美しいたおやかな笑みを浮かべる姿は、どこに出しても恥ずかしくない、さながら絵本のプリンセス……

 

「おい、コレは人形劇用の呪骸じゃないって言ったよな??」

 

「え、え〜… そ、そうでしたっけぇ〜?」

 

「下手くそな嘘付くくらいなら正直に言えっ!」

 

「だって新しい人形劇見たかったんだもんんん〜〜!!」

 

 そんなこんなで新しい呪骸は人形へと転職し、人形劇のバリエーションが増えた事で皆は喜んだ。

 最前列にて満面の笑みで拍手をするナツの頭には大きなたんこぶが一つあったそうな。

 むべなるかな。

 

 

じゅじゅさんぽいる?(純粋な疑問

  • 構わん、行け(継続
  • こんなんじゃ満足できねぇぜ(増加
  • そんなもの、ウチにはないよ…(減少
  • おかか(絶無
  • ヒンメルならそうした(作者にお任せ
  • ばなな(ばなな
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