万物を撃ち抜く魔法《至高の魔弾》 作:ガキパト
あと今更ながらVengeance始めましたがマップが広いですね。こりゃ大変だ
ピクシーからのアドバイスもありこの世界を楽しもうと決めたあなた。しかし、いざやろうとなっても何をすればいいのか全く思い付かない。
あなたがまだヒトだった頃のメジャーな楽しみ方は、知り合いとレジャースポットに行ったり、カラオケやゲーセンに行ったり等々。だがこの世界にそんなものはおそらく無い。
しかもあなた自身に問題がある。無意識に放出している魔力によって良からぬものが寄ってくるのだ。ゼーリエに指摘されて初めて知ったのだが、どうやらあなたの魔力の質が魔族や魔物の好むものらしい。
別に戦うこと自体は吝かではないのだが、町が荒れるとゼーリエとフランメから非難の声。観光する場所が無くなったら元も子もないじゃんと、ピクシーからも指摘される。劣勢だ、あなたは口を噤んだ。
しかしそうなるとあなたに出来ることは殆ど無くなってしまう。これは死活問題だ。今のところ選択肢に挙がるのがゼーリエの解析(戦闘)に付き合うか、フランメにあなたの魔法を見せるかの二つしかない。
これには思わずあなたは顔をしかめる。滅多に表情に出さないあなたの深刻さを察したのだろう、ピクシーが可哀想なものを見る目であなたを見つめた。
「えっと~、ナニか魔力を抑える装置とか作れないの?魔石とか宝玉とかに溜め込んだりとか」
「ほう?魔力を溜め込む?詳しく聞かせろ」
ピクシーの提案がゼーリエの琴線に触れた。フランメはまたか……と慣れた様子。ピクシーから根掘り葉掘り情報を聞き出した彼女が気持ち声を弾ませた。
「時間が掛かるが、魔力を抑える装置が作れそうだ。おそらく三日もあれば事足りる」
「知識も技術もあるから質が悪ぃんだよな師匠は」
目が据わっているフランメの小言を華麗に無視し、早速と言わんばかりに自室へと向かったゼーリエ。この調子だと本当に三日間部屋に籠るだろう。
ただ話を聞いただけでそれを再現できるというのは紛れもない天才だ。あなたは素直に感心した。これで性格がアレでなければもっと称賛していたのだが。まぁご愛嬌ということだろう。
それから装置ができるまでの期間を、フランメとの親交を深める(戦闘)ことで退屈を忍んだあなた。相手は嫌々やりますよといった雰囲気だったのだが、想像以上にセンスがあり、ヒヤリとさせられる場面も幾つかあった。持ち前の才覚と師からの教えをしっかりと習得しているようだ。
後にフランメはその時の経験を「同時に魔族100人と戦った方がまだマシだった」とコメントしている。
「完成したぞ。これが魔封じの腕輪だ」
宣言通り三日間かけて作られたそれは、古い樹木が円形にねじ曲がっている見た目だ。一見すると只の飾りにしか見えないが、僅かに滲み出す魔力がそれを否定する。
「お前たちの言う魔石のように魔力を貯める仕様にはしなかった。お前の魔力は馬鹿みたいな量をしているからな、どうせすぐにパンクする」
魔封じの腕輪を指先で回すと、あなたに投げ渡す。
「だから抑えることに特化した。腕輪なのはお前の魔力を循環させるためだ。その腕輪でお前の魔力を巡らせて、大気の魔力と調和させる」
わかったような、わからないような。微妙な心境を読み取ったのだろう、改めてゼーリエが説明してくれる。
「問題なのはお前の突出した魔力量だ。それを誤魔化すには根本から抑えるか偽装するか。今回は偽装する方に舵を取った。木を隠すなら森の中というだろう?つまり、お前の魔力を辺りの空気に放出して違和感なくさせるというのが腕輪の機能だ」
今度こそあなたは理解した。外れ値のあなたを全体の魔力量を上げることによって無理やり枠に入れるようなことをこの腕輪は可能にするらしい。
しかしあなたは自分の魔力が放出されることに変わりない事実が気になった。それは大丈夫なのかとゼーリエに問う。
「それは心配しなくていい。お前の魔力を大気の魔力で希釈し、より広く浅くばらまかせるからな。具体的な数値はわからんが、お前の魔力量なら世界全体の魔力の質が変わってもおかしくないかもな」
それに魔族は空気を襲わん、とゼーリエは短く吐き捨てる。なるほど、ならば大丈夫かとあなたは安堵する。
――ありがとう、ゼーリエ
「礼には及ばん。どうしてもと言うならこの先も私の解析に付き合え」
ツンとした口振りだが、思いやりを隠しきれていない。だがそれを指摘するほどあなたは野暮ではない。
その代わり今日は解析に長く協力しようとあなたは心の中で決めた。
◇
腕輪を貰った次の日、あなたは早速町に出掛けることにした。昨日あれほどの戦闘を行ったのにもう行くのか!?とフランメは呆れた表情をしていた。心配はしていない。
短くはない期間あなたと過ごしたのだ。フランメはあなたの埒外さは身に染みていた。
「やはり最初に行くなら王都だろう。あそこなら大抵何かはある」
いつもより艶々とした顔でゼーリエは言う。昨夜の戦闘が終われば暫く会う機会がない彼女は、全力であなたにぶつかってきた。
最初と比べれば見違えるほど成長したゼーリエは、あなたも集中して相手しなければならないほどに強くなっていた。防御魔法は全て反射魔法に変わり、攻撃魔法だけでなく独自の強化魔法を開発した彼女の立ち回りは見事としか言い様のない。
一対一ではもう勝ち越すのも厳しくなってきた。その事実にあなたのプライドが刺激された。それによって今回の旅行は、観光の他にひっそりと修行も含まれていた。
「王都はここから北西に進めば着くはずだ。もしわからなくなっても辺りの村に聞けば一発で済む」
「まあどうせ師匠は千里眼で見てるから心配するだけ無駄だろうけどな」
「要らないことを言うな。そうだ、久しぶりに直々に鍛練してやろう。そうすればその無駄口も叩かなくなるだろう」
「失言だった……」
呆然とするフランメを一瞥して合掌する。まあ彼女なら心配しなくてもなんとかなるだろう。
――世話になった
あなたは二人に向き直り改めて頭を下げた。戻るための情報は得られなかったとはいえ、この世界のことについてや魔力の問題を解決してもらった。感謝してもしきれないほどの恩がある。
――困ったことがあれば頼れ。言っておくが力仕事以外は大して力になれんぞ
「知ってるさそんなこと。だが、まあ悪くない。いつか気が赴いたら呼んでやる」
「殆ど師匠がやったことだから私に礼はいらないけどな。だけどその時が来たら頼らせてもらおうか」
二人は穏やかに微笑み、二人らしい言葉を返す。あなたそんな光景を目に焼き付けた。
すると周囲の魔力が荒ぶり、ピクシーが勝手に出てきた。
「アタシからもありがとね。この世界のニンゲンも悪くないって知れたよ」
いつものようにあなたの肩に腰掛け、あざとい笑みを浮かべた。ゼーリエたちも慣れたもので、互いに別れの挨拶を交わしていた。
あなたはそれが終わるタイミングを見極め、ゼーリエたちのいる家に背を向け歩きだした。
――じゃあ、またな
そしてあなたは振り向かずに足を一歩、二歩と踏み出す。あなたは気づいていなかった。その足取りが軽くなっていることに。
ゼーリエはそんなあなたの背中を見て微かに笑う。悪魔といえども、楽しむ心は持っているのだと。
彼女たちはあなたの姿が見えなくなるまで、静かに見守っていた。
それは火を灯すと、まるで意思があるように燃え盛った。それは何を示しているのか、灯火は語らない。
だがそれに関係なく、持ち手は導かれるのだろう。
メノラーを持つものには運命が訪れる。それが例えまだ見ぬ強敵の襲来でも、己の死であったとしても、持ち手には等しく運命が訪れる。
果たして誰が明日を掴むのか。宵闇たる死を乗り越えるものは現れるだろうか。
メノラーは火を灯す。その者を求めて。