ブルーアーカイブ 蒼穹に煌めく白銀の翼   作:A-Kye[アキ]

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第一章 皇帝と鋼鉄の獅子編②

「幸い、死傷者は一人もいなかったわ」

 

 いまだあちこちで煙が上がり、混乱が広がる中、状況確認を終えたリオが戻ってきた。

 

「そうか、それは良かった。みんなすまなかった。今回は完全に俺の落ち度だ」

 

 先生は深々と頭を下げる。

 

 油断、だった。カイザーコーポレーションがシャーレの技術を手中に収めようとしていた事なんて前々から分かっていたことだ。

 

 今までそうして衝突を繰り返してきたはずなのに、鋼鉄大陸での一仕事を終え、羽目を外し過ぎていたのかもしれない。

 

「せんせのせいじゃねぇよ。悪いのは全部カイザーだ」

 

 リオと一緒に来ていたネルの拳が、先生を小突く。

 

 その小柄でありながら力強い一突きには、この場にいる生徒たちの総意が込められていた。

 

「そういってくれるなら、気が楽になる」

 

「それにしてもいい度胸してるぜ。うちに直接殴り込みに来るなんてよぉ」

 

「我々メンバー全員不在だったから、入念に計画されていたのかもしれない。校門に待機していた部隊もブラフだった」

 

 カリンの差し出したタブレットに襲撃時の校門の様子が映し出されていた。

 

 戦闘真っただ中だというのに、セミナーで生徒が見せてくれた状態とほとんど変わっていなかった。

 

「これだけの戦力、すぐに準備できる規模じゃないしな…レヴィやあの白い戦闘機がここに来ることを事前に知っていた、ってことか」

 

 どこかで情報が洩れたのは確実だ。しかし、問題は日程連絡は口頭でしかしていないことだ。それもユウカやノアくらいにしか話をしていない。

 

「となると、内通者がいるってことか。このミレニアムに」

 

「まさか。あのカイザーと繋がりを持つ生徒がいるっていうの?」

 

 キヴォトス全土で見ても悪徳企業と名高いカイザーコーポレーション。かつてカヤを唆して悪事を働いた前科も記憶に新しい。

 

 そんな連中と進んでつるもうとする人などいないに等しいと言いたいところだが、やはり人と言うのは、追い詰められていたりするとそういった連中でも藁にも縋る思いでその手を取ってしまう。

 

 大方研究資金の援助でもちらつかせたのだろう。

 

「内通者のあぶり出しは私がやるわ。今は攫われた彼女のことを考えないと」

 

「リオの言う通りだ。すまないがみんな、力を貸してくれ」

 

「『すまない』は余計だぜ、せんせ。うちらにとっても、レヴィは大切な仲間なんだからよ」

 

 ネルの笑顔につられて、先生も思わず眉間のしわが消える。

 

 最初の頃は色眼鏡で見られてばかりだったが、今ではこんなに多くの人達に慕われている。

 

「けど、どこに連れていかれたか分からないんじゃ、策の練りようが無いと思うのですが」

 

「カイザーの施設を片っ端から潰していけばいいんじゃねぇの?」

 

「ネル先輩。いくら相手が悪徳企業だからって、やりすぎは良くないですよ」

 

「いいじゃねぇか別に。無くなって困るものでもないし」

 

 いつものネルとユウカの口論が始まるが、それをよそに先生がカリンのタブレットを借りて地図を出す。

 

「連れていかれたおおよその位置は分かる。いつもあちこち行くから位置情報を記録するようにしていてな。あんな体で機能してるか怪しかったが、ぎりぎりまで頑張っててくれてたみたいだ」

 

 地図上に表示された赤い印が、ミレニアムから一定間隔で移動していく。

 

 そしてとある場所でその表示は消えた。

 

「ここって…」

 

「カイザーの連中め、よほどの砂好きらしい」

 

 無限に広がる砂の中に点在する埋没したビル群。もはや人が住む場所ではないその場所は、カイザーとの因縁の場所、アビドス自治区。

 

「なら、学区外活動になるわね」

 

「自由に行動はできないですね…」

 

「そこは大丈夫だ。”先生”に任せてもらおう」

 

 先生はそのままスマホで誰かに電話をかけた。

 

 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

「…メイド服がダメな理由が分かったよ」

 

 先生が連絡した相手であるアビドス高等学校に向かう道中、カリンは照りつける太陽の光で煌めき滴る汗をぬぐう。

 

「それに、話には聞いていたが、想像以上に砂漠化が進んでいるんだな」

 

 見渡す限りの砂のバイキングの中に建物が点在している。先生の言葉が無ければ、こんなところにまだ学園があるなど信じられなかっただろう。

 

「俺が初めて来たときよりも進んでるな…。今の校舎もいずれはまた移転を検討しなくちゃいけない」

 

 私生活でさえ何不自由ないカリンは、目に写るこの光景だけでも衝撃だが、すでに何度も移転を経験しているという事実に、文字通り言葉を失った。

 

「カイザーや不良共と違って、自然災害はどうしようもできないからな。うまく付き合っていくしかないのさ」

 

 ふと突然爆発音が響き渡り、校舎の方で黒煙が立ち込める。

 

「先生!」

 

「ああ!」

 

 二人は急いで校舎へ向かい、校門から少し離れたところで様子をうかがう。

 

「どうだ?」

 

「あれは…先生、カイザーだ」

 

 王冠をかぶったタコのマークが刻まれた兵士や戦車が、校門前に陣取っていた。

 

「なんだって?連中、今更アビドス高校に何の用だ…」

 

 ずいぶん前にゲヘナやハイランダーも巻き込んだ企業間抗争でアビドスとカイザーの因縁は決着がついた。

 

 砂漠にある自分たちの拠点に出入りするだけならまだしも、アビドス高校に手を出す理由はない。

 

「逆恨みだろうか」

 

「…カイザーならあり得ない話ではないな」

 

 そんな話をしている間に、攻撃が再開され始めた。

 

「一般兵20、重武装兵5…校庭には生徒らしき人影は見えないから、まだ中かもしれない」

 

「よし。カリン、ここから援護射撃を頼む。俺はその隙を突いて中に入って彼女たちと合流する」

 

「分かった。くれぐれも無茶はしないでくれ」

 

 ライフルのバイポットを展開し、カリンは狙撃体勢に入る。

 

「分かってるよ。じゃあ、行くぞ!」

 

 合図とともに先生は駆け出し、中央に陣取っている重武装兵1体に発砲する。

 

「何だ?」

 

 重武装兵は打たれた方向にのそのそと振り返ると、その脳天により強力な一撃が叩き込まれた。

 

「(相変わらず物凄い腕だ)」

 

 その後も、先生に注意が向いた敵を的確に撃ち抜いていく。

 

 そしてそのまま駆け抜けていった先生は、バリケードを乗り越えて校舎入口に転がり込む。

 

「ふぅ…頑丈な連中だぜ。9mmじゃ傷もつかねぇ」

 

 弾種を切り替えリロードしていると、生徒が一人駆け寄ってきた。

 

「先生!来てくださったんですね」

 

「よう、アヤネ。他のみんなは?」

 

「ノノミ先輩はホシノ先輩を呼びに行っています。シロコ先輩とセリカちゃんは…」

 

 アヤネの視線が向いた先を見ると、今にも突撃していきそうなセリカを二人のシロコがなだめていた。

 

 そして先生の存在に気が付くと、突撃の矛先をこちらに向けて迫ってきた。

 

「先生、一体どうなってるのよ!カイザーが今更うちにちょっかい掛けてくるなんて。借金は無くなったはずでしょ?」

 

「ん…銀行強盗できなくなった」

 

「…気にするところそこなの?」

 

「…とりあえず状況整理しようか」

 

 シロコがボケてシロコがツッコむという珍妙な状況をよそに、先生は外の状況を説明する。

 

 途中でノノミとホシノも合流し、通信越しにカリンも交えて作戦会議を始める。

 

「最優先は重武装兵だ。ホシノとカリン、二人であたってもらう。一般兵は残りのみんなで抑える」

 

「うへぇ~、おじさんが前線かぁ」

 

 ホシノは愚痴るように言ったが、その声には微かな緊張感が混ざっていた。

 

「行けるか?カリン」

 

「問題ない」

 

 カリンはライフルの照準器を通して敵の配置を確認する。

 

「じゃあ行くわよ!」

 

 セリカの号令と共に二人のシロコが素早く動いた。シロコと大シロコが左右から同時攻撃を仕掛け、敵の注意を分散させる。

 

 そこにノノミの大口径ガトリングが唸りを上げ、牽制射撃を開始する。

 

 そしてそれに対してガード体勢に入った重武装兵に、カリンの一撃が直撃する。それに続くようにホシノのショットガンが火を噴く。

 

「今だ!」

 

 先生の合図とともに全員が一斉に突撃。

 

「ん…油断大敵」

 

「ん、今度は私達の番」

 

 混戦状態となり、慌てふためく兵士たちに、シロコーズは一撃を加える。

 

 潜り抜けた修羅場で培われた連携攻撃にただ硬いだけの重武装兵は次々と崩れ落ちた。

 

「残敵、残り僅かです!」

 

 アヤネの報告が響く。

 

「ラストスパートだ」

 

 カリンの援護射撃のもと、もはや消化試合の様相を呈していた。

 

 やがて銃声が止み、硝煙のみが漂う中、先生は意識の残ってた兵士一人に銃口を突き付ける。

 

「さて、答えてもらおうか。目的はなんだ?」

 

「ははは!何されようが、口は割らねぇぞ!」

 

 戦闘中から感じていたが。明らかに異常なテンションで話すその兵士に違和感を感じつつも、先生は兵士の右脚を撃つ。

 

「ぐぅ!…はっ、いくらでも撃つがいいさ…。所詮俺らは捨て駒。お前らさえ潰せれば!」

 

「どういうことだ」

 

「すぐ分かるさ!そら、奴が来た…」

 

 先生がさらに問い詰めようとその引き金を引こうとしたその時、辺りが不意に暗くなった。

 

 時すでに遅し。文字通りと言うのは存外珍しいものだ。

 

 先生がその違和感に気づき振り返った時には、その鉄の塊はすでに行動を完了していた。

 

 大きな振動と共に巻き起こる砂煙。

 

 しばらくの沈黙の後、中からカリンが先生を抱えて出てきた。

 

「助かったぜカリン」

 

「先生!カリンさん!」

 

 アヤネたちが大慌てで合流する。

 

「ご無事で何よりです。いったい何があったんです?」

 

「新手だ」

 

 カリンは、先生を下ろすとライフルを構え直す。

 

 いまだ立ち込める砂煙の中で、何か巨大なものがうごめくのが見える。

 

「来るぞ!」

 

 カリンの声と同時に一発の砲弾が飛んでくる。

 

 その一撃と共に、砂煙の中から現れたそれは、あまりにも見知った姿をしていた。

 

「あれって…レヴィ?」

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