人生初となる二次創作をよろしくお願いいたします
新都沿岸地区
同・防衛大学付属高校僚アパート。
同・219室
玲奈「ふあぁ……。眠い、死ぬほど眠い……」
玲奈は、まるで重力に逆らっているかのような重たいまぶたを必死にこすりながら、ふらつく足取りで寝室を出た。髪はボサボサ、パジャマの襟元も少しはだけている。
リビングに入ると、そこには既に朝の支度を完璧に整えた同居人、蒼が立っていた。
蒼「あら玲奈、ずいぶんと酷い顔をしていますね。何かあったのですか?」
蒼は手にしたトレイをテーブルに置きながら、わざとらしく小首をかしげて見せた。その涼しげで聖母のような微笑みが、今の玲奈には少しだけ癪に障る。
玲奈「……誰のせいでこんなに眠いと思ってるんだよ! 昨日の今日で、よくそんな他人のふりみたいな質問ができるね!?」
蒼「心外ですね。それもこれも、貴女が帰りが遅くなった挙句に課題を溜め込んでいたからでしょう? 締め切り直前になって泣きついてきたのはどこの誰でしたか。結局、徹夜で付き合わされたのは私の方ですよ。自業自得というものです」
玲奈「……ぐ、はい。その通りです。おっしゃる通りでございます……」
ぐうの音も出ない。玲奈はしおしおと肩を落とし、リビングの椅子に力なく腰掛けた。
蒼はそんな玲奈の落ち込んだ様子を見て、ようやく本物の、少しだけいたずらっぽい優しさを孕んだ笑みを見せた。
蒼「ふふっ。反省しているならよろしい。それより、朝食はもうできていますから、温かいうちに食べてしまいましょう」
玲奈「うん……ありがとう。いただきます……」
差し出されたのは、湯気が立ち上るコンソメスープ。玲奈が一口それを口に運ぶと、じわりと野菜の甘みが体中に染み渡っていく。
玲奈「はぁぁ……。やっぱり、蒼の作るスープは最高だなぁ……」
幸せを噛み締める玲奈の横で、蒼はテレビのリモコンを手に取った。BGM代わりにつけられた画面には、端正な顔立ちのAIアナウンサーが映し出され、抑揚の少ない、しかし明瞭な声で朝のニュースを読み上げている。
『――次のニュースです。昨日未明、新たにドレッドノート級主力戦艦が十隻、さらにアンドロメダ級の改装型が三隻、完全な状態で発見されました。連邦軍はすでに専門の調査団を派遣。保存状態は極めて良好であり、現在は再起動に向けた補修作業に入ったとのことです』
その瞬間、玲奈の目がぱちりと開いた。
食パンを口に運んでいた手は止まり、食い入るようにテレビの画面を見つめる。画面には、巨大な地下ドックに整然と並ぶ、無機質ながらも力強い巨艦たちの姿が映し出されていた。
玲奈「にしても、またドレッドノートかぁ……。一体当時の人類は、どれだけの数を作ったんだろうね?」
蒼「さあ……。記録によれば、当時は滅亡の危機に瀕していたとか。よほど切羽詰まっていたのでしょうね、彼らも」
玲奈「そうかもね。でも、これだけの艦隊が『新品』で見つかるなんて、何度聞いても信じられないよな」
玲奈は感慨深げに呟いた。
この「奇跡」が始まったのは、今から十年前――西暦2189年のことだ。
発端は、ありふれた山岳トンネルの拡張工事だった。
最新の掘削機が岩盤を貫いた先、そこには存在し得ないはずの広大な空洞が広がっていた。調査隊が足を踏み入れたそこにあったのは、超近代的な、いや、現代の技術を遥かに凌駕する巨大造船廠(ぞうせんしょう)だったのだ。
後の年代測定によると、その施設が封印されたのは約五万年前。
しかし、タイムカプセルの中にあったかのように、設備は当時のままの光沢を保っていた。それどころか、並んでいた巨大な宇宙戦艦たちは、まるで昨日完成したばかりのような美しさで鎮座し、管理コンピューターすらもスリープ状態で主の帰還を待っていたのである。
そこから人類の歴史は加速した。
コンピューターから解析されたデータ。そこには、空間そのものをエネルギーへと変換する『波動エンジン』と、その鍵となる『波動コア』の設計図が記されていた。
同様の「遺構」は世界各地で次々と発見され、その情報は瞬く間に全人類へ共有された。
玲奈「しかしまあ、発見からたったの数年で、人類が宇宙の覇者気取りなんだから。進歩が早すぎるっていうか、なんというか」
玲奈は最後の一口のスープを飲み干し、ふぅと息をついた。
蒼「ワープ航法様々ですね。それまでは火星に行くのでさえ大冒険だったというのに」
蒼の言う通りだった。
恒星間航行――すなわち「ワープ」が可能だと判明した瞬間、国家間の小競り合いなど過去の遺物となった。人類は史上初めて『地球連邦』として一つにまとまり、狂熱とも言える勢いで銀河へと漕ぎ出したのだ。
西暦2192年。
ワープ航法を手にした人類は、太陽系の外へとその勢力を爆発的に広げた。わずか数年で天の川銀河の一帯を勢力圏に組み込み、人類は永遠に続くかのような「繁栄の黄金時代」を迎えると、誰もが思っていた。
そんなことを思っていると、蒼が声を掛けた。
蒼「……玲奈? またぼーっとして。ニュースの内容にワクワクするのは勝手ですが、早く着替えないと学校に遅刻しますよ」
玲奈「あ、着替えるから待ってよ!」
玲奈は慌てて椅子から立ち上がり、制服をひっ掴んで洗面所へと駆け込んだ。
玲奈「待った、蒼!」
玲奈は寝癖も構わず、弾かれたように部屋を飛び出した。
しかし、静まり返った廊下に、追い求めた親友の姿はない。あるのは、冷え切った朝の空気と、わずかに残る彼女の石鹸の香りだけだった。
玲奈「蒼のやつ……置いていくなんて、ひどくない!?」
ぶつぶつと文句を垂れた、その瞬間だった。
制服のポケットでスマホが「ブブッ」と、どこか皮肉めいた振動を鳴らす。
画面を覗き込むと、案の定、送り主は蒼。そこには、彼女らしい律儀でありながらも、少しだけ悪戯っぽい一文が綴られていた。
『ごめんさいね、先に行ってます! あ、あと、今の時刻をちゃんと確認した方がいいですよ?(笑)』
玲奈「時間……?」
嫌な予感が背筋を駆け抜ける。
玲奈はぎこちない動作で、壁に掛けられた古めかしい時計に目を向けた。
玲奈「げっ! やっばい、あと十分!?」
心臓が跳ね上がった。玲奈は慌てて寮の部屋に引き返し、カバンをひったくるように掴む。戸締りもそこそこに、サンダルに近い履き潰したローファーに足を突っ込み、階段へと飛び出した。
玲奈「なんで呼んでくれないんだよ、もう!」
早朝の学生寮に、玲奈の情けない叫びがこだまする。
階段を二段飛ばしで駆け下り、エントランスを突き抜け、勢いそのままに外へと躍り出た。
肺に流れ込む春の冷たい風が、痛いくらいに喉を刺激する。団地を抜け、緩やかなカーブを描く通学路へ。視界の端で通り過ぎる街路樹が、まるで玲奈を急かすように後ろへと流れていった。
玲奈「はぁ、はぁ……っ、やっと見えた!」
乱れる呼吸を整える余裕などない。
視線の先、丘の頂にそびえ立つのは、自分たちの通う学び舎――白亜の校舎が朝日を浴びて輝いている。
だが、その輝きさえも、今は「遅刻」を宣告するカウントダウンの光にしか見えない。
玲奈「ラストスパート! 行くよぉぉ!」
気合を入れ直し、最後の一歩を踏み出す。太ももが悲鳴を上げ、心臓が爆音でドラムを叩く。
そんな必死な玲奈の視界に、ふと、異質な光景が飛び込んできた。
この土壇場で、まるで優雅な散歩でも楽しんでいるかのように、悠々と坂を歩く女子生徒の背中。
玲奈「おーい! 紗紀(さき)ーっ!」
その呼びかけに、彼女――徳川紗紀は、面倒そうに首だけをこちらに向けた。
紗紀「……はぁ」
玲奈が隣に並ぶと同時に、深いため息が返ってくる。
紗紀は冷ややかな瞳を玲奈に向け、眉根を寄せて不機嫌さを隠そうともせずに言い放った。
紗紀「朝っぱらからお前の暑苦しい顔を見るとか、マジで最悪なんだけど」
駆け上がってきた玲奈に対し、挨拶代わりの辛辣なジャブ。これこそが、紗紀の日常運転だ。
玲奈「相変わらず手厳しいなぁ……。それより紗紀こそ、どうしたの? そんな余裕かましてて、また遅刻しちゃうよ」
紗紀「……別に、余裕なんてない。ただの、時間配分のミス」
紗紀は視線を逸らし、気まずそうに唇を噛んだ。
玲奈「何やって遅れたの? 忘れ物?」
紗紀「……エンジン、いじってたの」
玲奈「エンジン?」
玲奈が首を傾げると、紗紀はわずかに頬を朱に染め、ボソリと付け加えた。
紗紀「――波動エンジン! ちょっとノズルの微振動が気になって。……まあ、結局私の気のせいだったんだけど」
玲奈「それって、実習用の!? すごいじゃん! やっぱり、伝統ある徳川家の血筋っていうか、機関科トップは格が違うね!」
玲奈が素直な感嘆の声を上げると、紗紀は耳まで真っ赤にして声を荒らげた。
紗紀「うるさい! ……ほんと、お前のそういう所、本当にイライラする!」
彼女の名前は、徳川紗紀。
伝説的な機関士を祖父に持ち、兄は今の学校を主席で卒業したという、いわばエリート一家のサラブレッドだ。しかし、彼女自身はその「偉大すぎる家族」の影に強くコンプレックスを抱いている。
いつもツンツンと棘を立てているのは、誰よりも繊細で、誰よりも「自分自身」を見てほしいという、彼女なりの防衛本能なのかもしれない。
そんな二人の会話を切り裂くように、丘の上から無慈悲な音が響き渡った。
『――キーン、コーン、カーン、コーン……』
高く、澄んだ、終わりの合図。
玲奈「これって……まさか、予鈴!?」
玲奈の顔から血の気が引く。
すると、さっきまで悠然としていた紗紀の態度が一変した。
紗紀「やばっ! ……玲奈、もたもたしてんじゃないわよ!」
紗紀はスカートを翻し、それまでの落ち着きが嘘のような俊足で駆け出した。
玲奈「ちょ、ちょっと待ってよ! 置いてかないでー!」
今度は玲奈が追いかける番だ。
朝の光を浴びながら、二人の少女は互いの背中を追うようにして、全力で丘の上のゴールを目指していった。
玲奈&紗紀「「……ギリギリセーフッ!!」」
教室の重たい扉を、玲奈(れな)と紗紀(さき)は弾かれるようにして開けた。
二人の声が綺麗にハモり、静まり返った教室内を大きく揺らす。
担任「ギリギリなもんか! この大馬鹿者どもが!」
教壇に立つ担任の怒声が飛んできた。
ピリついた空気の中、クラスメイトたちの視線が痛いほど突き刺さる。
担任「いいか、また二人揃って遅刻だ。……まあいい、今日は大事な講義の途中だ。さっさと席について、耳に穴をかっぽじって聞いておけ!」
玲奈&紗紀「「……はい」」
しおしおと肩を落とし、二人は這うようにして自分たちの席へと向かった。
着席するやいなや、担任は呆れ顔をホワイトボードへと戻し、そこに映し出された不気味な影——「宇宙怪獣」の資料を指し示した。
宇宙怪獣。
それは人類が築き上げた「繁栄の黄金時代」を一夜にして瓦解させた、絶対的な災厄の代名詞だ。
担任「いいか、奴らが現れたのは今から三年前。西暦2196年、人類の版図が天の川銀河を越え、大小マゼラン雲にまで達しようとしていた、まさにその時だ」
担任の淡々とした言葉が、教室内を冷やしていく。
事の始まりは、小マゼラン外縁部で起きた正体不明の襲撃事件。
異星文明の遺産である『デストリア級』の遺跡艦を運んでいた輸送船団が、影も形もない何者かに飲み込まれた。
発見された船体には、鋭利な爪で引き裂かれたような深い傷跡と、鋼鉄を易々と噛み砕いた巨大な歯形だけが残されていたという。
担任「当初は新種の宇宙生物かと思われた。だが、その一年後……。奴らは天の川銀河へと牙を剥いたんだ」
当時の最新鋭艦『ドレッドノート級』が応戦し、辛うじて撃退には成功した。
しかし、その戦闘記録には、逃げ惑う乗組員たちが無残にも「捕食」される絶望的な光景が克明に刻まれていた。
当時、まだ幼かった玲奈の記憶にも、その光景は焼き付いている。
テレビの画面越しに見た、大人たちの青ざめた顔。世界中を飲み込んだ、震えるような静寂とパニック。
以来、奴らは正式に「宇宙怪獣」と呼称され、人類は生き残るために「地球防衛軍」を設立した。
玲奈たちが通うこの「地球防衛大学付属高校」も、その過酷な最前線へ若者を送り出すための下部組織に過ぎない。
この三年間、戦況は悪化の一途を辿っている。
計り知れない物量を誇る怪獣たちの前に、人類は大小マゼランを放棄。防衛線は今や、シリウス系にまで後退していた。
担任「……以上が、現在までの経緯だ。試験に出るからな、しっかり覚えておけ!」
担任が締めくくると、教室内にはタブレットのスタイラスペンが走るカリカリという乾いた音だけが響いた。
けれど、窓際の一番後ろの席で、玲奈はペンを動かそうとはしなかった。
玲奈(……あんなのと、本当に戦えるのかな)
玲奈は、ただ不安げな瞳で窓の外を見つめた。
どこまでも澄み渡り、突き抜けるように青い空。
けれど、その美しい空の向こうにある暗黒の宇宙では、今この瞬間も、人類を喰らい尽くそうとする「怪物」たちが、じわじわとこの地球を狙っている。
玲奈の小さな胸を、冷たい予感だけが静かに締め付けていた。
いかがでしょうか?
今回は玲奈の日常と世界観の説明をメインに書きました!
特に世界観の説明は苦労しました。
ヤマトの登場を待ってくださった方には申し訳ございません。ヤマトは次回登場します!
運命の出会いと発進②をお持ちください!