迷宮都市の底辺配信者はスキル「ゴミ拾い」で成りあがる   作:ナカザキ

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第1話 迷宮のゴミ拾い

「……はぁ、今日もこれだけか」

 

 僕は小さな溜め息をついた。

 

 薄汚れたゴーグルを外し、額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。

 僕が今いる迷宮の低層は湿度が高い。

 常にじっとりとした空気が肌にまとわりつく。

 

 僕の足元には、スキル「ゴミ拾い」で集めたばかりの「ゴミ」が山と積まれていた。

 

 折れた魔物の角、使い古されたポーションの瓶、擦り切れた布切れ、ガタついた剣の柄……。

 

 どれもこれも、他の探索者なら見向きもしないような、文字通りのガラクタばかりだ。

 

 慣れた手つきで、僕は配信用の小型カメラの位置を調整する。

 誰も見ていないかもしれないけど、これも仕事だ。

 

「えー、今日の『ハルトの迷宮清掃日誌』も、ゴミの山からスタートです。うん、今日も豊作ですね。誰かが落としたっぽい小石、あとは……あ、これは腐りかけのリンゴですね。食べられないかな、うん、ダメだ」

 

 画面の向こうにいるはずの数少ない視聴者に向けて、わざと明るい声を作る。

 

 だけど、その声はどこか虚ろで、疲労を隠しきれていないのが自分でもわかる。

 

 配信のコメント欄は、相変わらず静まり返っていた。

 たまに「迷宮を綺麗にしてくれてありがとう」といった、皮肉とも本心ともつかないコメントが流れる程度だ。

 

 その度に、僕は苦笑いを浮かべる。

 僕がやっているのは、迷宮の清掃活動なんかじゃない。

 

 妹の学費を稼ぐための、必死の「仕事」なんだ。

 とはいえ、実際『ハルトの迷宮清掃日誌』と銘打って配信をしているのだから、視聴者のコメントに反論したりしない。

 このタイトルに変えて以降、ちょくちょく投げ銭をしてくれる人が出てきたのだ。

 僕のギリギリの生活費の一部はそんな投げ銭で成り立っている。

 

 

 ――僕のスキル「ゴミ拾い」は、戦闘には全く向いていなかった。

 

 周囲に散らばる「無価値なもの」を吸引するように集めるだけの能力。

 

 魔物を倒すどころか、身を守るのも一苦労だ。

 だから僕のレベルは一向に上がらない。

 

 学園都市アカデミリンスに来て五年。

 中学二年生の頃から迷宮に潜り続けているというのに、いまだE級探索者のままだ。

 

 ふと、配信の通知がスマホに表示される。友人のものだ。

 

「――お、あいつら、また新しいレアドロップか」

 

 通知をタップすると、そこには友人が手に入れたらしい光り輝く宝具の写真と、「やったぜ!」という興奮したメッセージが並んでいた。

 

「……おめでとう」

 小さく呟くきながら、笑顔のスタンプを贈る。

 

 口ではそう言っても、内心は違う。

 

 ――羨ましい。

 

 どうして僕は、こんな底辺で足掻いているんだろう。

 こんな「ゴミ拾い」で、本当に妹の学費を稼げる日が来るのだろうか。

 

 妹に送る手紙には、いつも「順調だよ」「すごいアイテム見つけたんだ」と嘘ばかり書いている。

 

 その虚しさが、僕の心を締め付けた。

 こんな現状を、妹に知られるわけにはいかない。

 

 この迷宮都市で、青春を謳歌しているのはごく一握りのエリートだけだ。

 

 僕には、そんな眩しい日々とは無縁だった。

 

 部活に励んだり、誰かに恋をしたり、友達と馬鹿みたいに笑い合ったり……。

 そんな「アオハル」を、僕だって経験してみたかった。

 

 でも今の僕には、妹の学費を稼ぐこと以外、何もかもが贅沢な夢でしかなかった。

 

「さてと、今日のゴミ分別、始めますか」

 

 無理やり気持ちを切り替え、僕は拾い集めたガラクタの山に手を伸ばした。

 今日もこの中から、少しでもお金になるものが見つかることを祈りながら。

 

 

 20年前。それは僕が生まれる前のことだ。

 

 関東地方の一角に大穴が無数に開いた。

 前触れは一切なく、誰もがこの未曾有の天変地異に慄いた。

 

 中に突入した命知らずの人間はこうインタビューに答えた。

 

「あれは迷宮だ」と。

 

 中に跋扈するのは既存の生物の枠組みを超えた魔物たち。広がるのは地下とは思えない荘厳な光景――氷山、砂漠、草原、古城……。そして、そこにあったのは人類の英知の及ばぬ財宝・秘宝。

 

 迷宮は危険の宝庫だったが、同時に宝の山だった。

 故に、人はこぞって迷宮に押し寄せた。

 

 迷宮は人の身体も作り替えた。

 中で過ごす人間は、スキルと言う超常の力を行使するようになった。

 

 やがて政府は迷宮が生まれた土地一帯を壁で囲い、人と物の流入を制限・管理するようになった。

 

 迷宮から得られる富も莫大になったが、同時に死者の数も数えきれないほどになっていたからだ。また、迷宮から出土する宝は人類の発展に大きく寄与したが、同時に数々の問題も引き起こした。

 

 政府は壁を作る事で、選ばれた人間だけが迷宮に挑戦できるようにした。

 

 壁の中では町がつくられ、やがて迷宮に潜る迷宮探索者を養成する学園が幾つも設立される。それがこの町の始まりだ。

 

 ―――ここは迷宮都市アカデミリンス。

 

 世界から隔離された迷宮の町。誰もが夢を見れる場所。

 

 僕は神崎ハルト、18歳。

 迷宮都市アカデミリンスのとある学園に通う高校3年生だ。

 

 持っているスキルは「ゴミ拾い」。

 

 レベルは1。

 多分迷宮都市で最弱の冒険者の一人だろう。

 

 これは、そんな僕が迷宮都市で成り上がるまでの物語だ。

 それと、迷宮で「アオハル」を求める物語でもある。

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