迷宮都市の底辺配信者はスキル「ゴミ拾い」で成りあがる   作:ナカザキ

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第3話 銀髪の転校生

学園に到着し、自分の席に座る。

 午前中は座学で、昼からは迷宮での実習になっている。

 

 今は4月の終わり。桜もとっくに散り、何処かけだるげな雰囲気が教室に漂っている。とはいえ、今週を乗り切れば、いよいよGWだ。といっても、やることは迷宮でのゴミ拾いと配信ばかりだろうけど。

 

 朝のホームルームを終えると、担任の教師がいつもと変わらぬ声で話し始めた。

 

「皆に紹介する。今日からこのクラスに転入生が来ることになった。天王寺シオリさんだ」

 

 がらりと教室のドアが開き、一人の少女が中へと入ってくる。

 

 僕たちの学園都市アカデミリンスには、二百近い学園が存在する。そして、この都市では新学期以外にも、優秀な子供が定期的に魔力パッチテストで呼ばれてくるため、転入生が来るのは珍しいことではない。

 

 けれど、それでもやはり新しい顔ぶれは皆の注目を集める。

 

 教室のざわめきの中、僕の視線も自然と彼女へと向かった。

 

 彼女は、月の光を吸い込んだような、銀色の髪をしていた。

 外の世界では滅多に見かけない髪色だけど、迷宮都市ではそう珍しいものでもない。

 

 迷宮から漏れ出る魔力の影響で、人の髪の色が変化することは偶にある。

 彼女の銀髪も、そういった類のものなのだろう。とはいえ、ここまで色が変わるのは珍しい。

 

 整った顔立ちに、肌は透き通るように白い。

 

 容姿は文句なしに可愛い、と思った。ライカとタメを張れるくらいだ。

 ただ、どこか視線が宙を漂っているような、ぼんやりとした印象を受ける。

 

 黒板の前に立ったシオリは、少し戸惑ったように一礼し、小さく自己紹介を始めた。

 

「天王寺シオリです。えっと……今日から、よろしくお願いします」

 

 簡潔で、どこか自信なさげな自己紹介だった。それでも、彼女の容姿の良さに、男子生徒の間からは小さな感嘆の声が漏れる。女子生徒たちは、好奇心と少しの警戒の目で彼女を見つめていた。

 

「よし、天王寺。席は……神崎の隣が空いているな。そこへ座ってくれ」

 

 担任の言葉に、僕は小さく目を見開いた。

 シオリは、僕の隣の空席をちらりと見て、ゆっくりと歩み寄ってきた。その視線が、一瞬だけ僕と重なる。

 

 「よろしくお願いします」

 

 僕自身は特に何も思わず、ただ「よろしく」と小さく頷いた。シオリも小さく頷き返し、僕の隣の席に腰を下ろした。

 

 これで、僕の隣の席はぼんやりとした可愛い銀髪の少女で埋まった。

 

 

 午後の授業は、迷宮への実践訓練だった。

 

 数名のグループに分かれ、それぞれが指定された迷宮へと潜る。僕とシオリは、同じ班になった。人数から足りなかったため、僕とシオリの二人だけだ。

 

 クラスメイトからの、どこか嘲り混じりの視線を感じる。

 

「神崎さん。そんなゴミ拾いが相棒で大丈夫?」

 

 意地悪なクラスメイトがわざとらしい声で僕を揶揄う。

 僕は何も言い返さず、ただ黙っていた

 

 僕の現状は、学園中が知っている事実だ。

 ここで何を言っても、無駄なだけ。

 

 迷宮都市アカデミリンスには、大小様々な迷宮が存在する。

 今日僕たちが訪れたのは、初心者用の「試練の迷宮」だ。

 薄暗い洞窟のようなオーソドックスな迷宮である。

 

「迷宮に潜るのは初めて?」

 

 迷宮の入り口ゲートをくぐりながら、僕はシオリに尋ねた。

 空気がひんやりと冷たく、土と埃と、かすかな魔物の獣臭が鼻をくすぐる。

 

「はい。生まれて初めてです」

 

 シオリは少し緊張した面持ちで、だけどどこか期待に満ちた表情で周囲を見回している。

 

「というか、敬語じゃなくていいよ。同い年でしょ」

「そ、そうかな。わかった。よろしくね、神崎くん」

 

 とシオリははにかむ。

 その笑顔につい僕は勘違いしそうになり、咳払いして会話を続ける。

 

「迷宮都市に来たのは?」

「3日前だよ」

「そっか、じゃあ基本的なことを確認しておくね」

 

 僕は先輩として、彼女に説明していく。

 

「この迷宮は20年前に突然現れた。迷宮都市には大小多くの迷宮がある。迷宮っていっても中の景色は様々で、草原や砂漠の迷宮だってある。迷宮は下に下に続いていて、この「試練の迷宮」は全5層。迷宮の中ではかなり浅いかな」

 

 シオリはふむふむと、頷きながら聞いている。

 

「僕たち迷宮探索者は、基本的にはこの迷宮都市の生徒で、迷宮に潜って人類の科学を超えた財宝や素材を持ち帰るのが本分。学園には無数の探索者養成学校があって、僕らみたいな生徒が日々訓練してるんだ」

 

 足元には、探索者たちが残していった足跡や、壁に刻まれた無数の傷跡が見える。

 

「迷宮から漏れ出た魔力で、スキルって力を発現する人間がいる。それはすごく貴重で、だいたい十代の頃がピークで、あとは衰えていく。だから迷宮都市の上層部は、日本の子供たちに魔力のパッチテストをして、見込みのある子をここに呼んでるんだよ。迷宮都市の生徒は皆何かしらのスキルを一つ持ってる」

 

 シオリは真剣な眼差しで、僕の説明に耳を傾けていた。

 

「うん。私もそうだよ。一月前のパッチテストで、魔力があるのが分かって、スキルも2つもてるかもしれないって言われて――」

 

「2つ! 凄いね。 ほとんどの人は一個だけだよ」

 

 僕は声を上げる。エリート候補だ。

 正直、僕が通う学園のレベルは迷宮都市全体で見ても高くはない。どうしてシオリのような才能ある探索者が僕らの学園にやってきたんだろう。

 

 ……やっぱり、年齢が問題だったんだろうか。

 

「シオリさんのスキルは何? あぁ、言いたくないなら秘密にしてていいよ。そういう人もたまにいるし」

 

「ううん、大丈夫。私のスキルは「鑑定」と「錬金術」だよ」

 

「へえ、どっちも支援職だ。だけど、綺麗に2つのスキルがかみ合ってる。レベルを上げると、多分どこからも引くて数多だよ。特に大きなクランほど支援職を欲しがるからね」

 

「そ、そうかなっ? ところでハルトくんの―――」

 

 とシオリが僕に尋ねたところで、僕は「静かに」と声を落とした。

 

「魔物だ」

「あ、あれが――」

 

 小さなゴブリンだった。まだこちらには気付いていない。

 

「まず僕が注意を引き付ける。君は後ろから攻撃をしかけて」

「う、うん」

 

 シオリは「魔法袋」から銀色の剣をとりだす。魔法袋とは中に小部屋ほどの容量を持つ袋のことだ。「錬金術」などで作成することができる。買うと高いので、僕は持っていない。

 

 ちなみにシオリが握りしめている剣も結構な業物だ。多分D級相当はあるだろう。

 

「良い剣だね」

 僕の短剣はもう刃がボロボロだ。

 

「あっ。もう一本あるから使って」

「あ、ありがとう」

 僕は素直に剣を受け取る。これではどちらが、初心者なのか……。

 

「よし、いこう!」

「うん!」

 

 ゴブリンは粗末な棍棒を振り回しながら襲いかかってくる。

 初心者用の迷宮なので、そこまで強力な敵ではない。

 

「シオリ、大丈夫か?」

「はい!」

 

 シオリは僕が構えるD級相当の剣をしっかりと握りしめていた。

 

 僕たちは二人がかりでゴブリンと対峙した。僕が剣でゴブリンの注意を引き、シオリが隙を突いて攻撃する。連携はぎこちないが、それでも何度か剣を振り回し、ようやくゴブリンが力なく地面に倒れた。

 

「はぁ、はぁ……」

「や、やったねハルトくん!」

 

 息を切らしながらも、シオリが満面の笑みを浮かべる。

 僕も、普段一人で迷宮に潜っている時には感じられない達成感があった。

 

「やっぱり誰かと一緒だと楽だな。普段はもっと苦労するんだ」

 

 ゴブリンは弱いといっても、小柄な子供がこん棒をもって本気で振り回してると考えて欲しい。そこそこ脅威だろう?

 

「ハルトくんは誰かと一緒に潜ったりしないの」

 シオリが不思議そうに首を傾げた。

 

「最初の頃は、そんなこともあったけどね。僕のスキルは役立たずだから、結局、みんなと組んでも足手まといになるだけって思われちゃってさ」

 

 僕は苦笑しながら、自分のスキルを説明するように、手を軽く前に出した。

 

「ほらね、僕の「ゴミ拾い」ってこんな感じなんだ」

 

 僕のスキルが発動すると、地面のひび割れの間から、あるいは朽ちた木片の陰から、埃を被った小石、錆びた釘、使い終わった魔石の破片など、様々な「ゴミ」がフワリと浮き上がり、僕の目の前に集まってくる。

 

 僕は肩をすくめた。

 これが、僕が五年かけて磨き上げてきた、僕の全てだった。

 

 「うーん、一応「鑑定」しておく?」

 

 と言いながら、シオリはゴミ山にに目を向ける。

 

 シオリは、自分の手に持っていたタブレットを取り出し写真で撮影した。タブレットの画面に、解析中の光が走る。

 

 へえ、解析結果をそうやって他の人にも見せれるんだ。

 「鑑定」のスキルの中でも、結構珍しいタイプなんじゃないかな。

 

 数秒後、タブレットの画面に表示された文字を見て、シオリは息を呑んだ。

 

「――っ、まさか……嘘でしょ!?」

 

 震える声で、シオリが呟く。

 僕の目の前にあるのは、ただの石ころとガラクタの山だ。一体何が、彼女をそこまで驚かせているのだろうか。

 

 シオリは信じられないといった様子で、僕の顔とタブレットの画面を交互に見た。そして、震える指で画面を僕に向けた。

 

「ハルトくん! これ、見て!」

 

 彼女の画面に表示されていたのは、僕が拾った小さな岩の欠片の鑑定結果だった。そこに記されていたのは、信じられない文字。

 

 「オリハルコン(微量)」

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