迷宮都市の底辺配信者はスキル「ゴミ拾い」で成りあがる   作:ナカザキ

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第4話 パーティーの結成

 シオリが差し出したタブレットの画面に表示された「オリハルコン(微量)」の文字。

 

 

 僕の思考は、一瞬にして停止した。

 オリハルコン――それは、伝説の金属だ。

 

 迷宮でも有数の希少な素材で、ほんの少量でも莫大な価値を持つとされている。主に武具に使われていて、オリハルコンが多量に混じった武器はSランク探索者にでもならないとお目にかかれない。そんなものが、僕が「ゴミ」として拾い集めた石ころの中に混じっていた? 

 

 冗談だろう。

 

「な、なんで……これ、本当にオリハルコンなのか?」

 

 僕が震える声で尋ねると、シオリは何度も頷いた。

 

「うん! 微量だけど、間違いなく、オリハルコンだよ!」

 

 彼女の目は真剣だった。僕の目にはただのガラクタにしか見えないものが、シオリの「鑑定」を通すと、とんでもない価値を秘めているというのか。

 

 この瞬間、僕は初めて、自分のスキル「ゴミ拾い」の本当の可能性に気づいた。

 

 僕が五年間、役立たずだと信じ込んでいたこのスキルは、実はとんでもない宝の山を拾い集める能力だったのかもしれない。ただ、その価値を見抜く目がなかっただけで。

 

「……すごい」

 

 思わず、そう呟いていた。

 僕が驚いていると、シオリは僕の顔を覗き込み、にこりと笑った。

 

「ハルトくん、すごいよ! 私、こんなすごいスキル、初めて見たよ!」

 

 その言葉は、僕の心に深く染み渡った。

 今まで、僕のスキルを褒めてくれた人なんて、一人もいなかった。

 

 みんな、馬鹿にするか、憐れむか、無関心なだけだった。

 

 「役立たず」「底辺」「E級止まり」。

 

 そんな言葉ばかりを聞いてきた僕にとって、シオリの「すごい!」という、何の偽りもない純粋な称賛は、何よりも嬉しいものだった。

 

 彼女のまっすぐな瞳を見ていると、僕の胸の中に、温かい感情がじわりと広がっていくのを感じた。

 

 シオリのような、素直で僕のスキルを真正面から認めてくれる存在が、こんなにも心地いいなんて。僕は、彼女に好感を抱いた。

 

 その時、シオリが僕が集めたオリハルコンを含む「ゴミ」の中から、いくつか素材を選び始めた。

 

「ねえ、ハルトくん。これと、これと……あとこの魔石の欠片、使ってみない?」

 

「え、何を?」

 

「錬金だよ! 私の『錬金術』スキル、まだ始めたばかりだけど、このオリハルコンの欠片と、さっき倒したゴブリンの素材、それにこの魔石を組み合わせたら、もっと良い剣が作れると思うんだ!」

 

 シオリの言葉に、僕は驚いて目を見開いた。

 

 彼女の「錬金術」スキルで作ってくれたD級相当の剣でも十分驚きだったのに、まさか拾った素材を使って、さらに上位の武器を作れるというのか。

 

 シオリは僕の返事を待たずに、拾い集めた素材とオリハルコンの欠片、そして彼女が持っていたいくつかの素材を組み合わせ始めた。

 

 彼女の手元から、淡い光がこぼれ落ちる。

 

 数秒後、光が収まると、そこには先ほどのD級相当の剣とは比べ物にならない、鈍い銀色に輝く剣が握られていた。

 

 刀身には微細な紋様が浮かび上がり、魔力の宿りを感じさせる。

 

「できた! これなら、もっと魔物を倒せるはずだよ!」

 

 シオリは嬉しそうに剣を僕に差し出した。

 その剣は、軽くて扱いやすいのに、ずっしりと手になじむ。確実に、今までの僕の剣より格段に強くなっているのが分かった。

 

 シオリのタブレットに立った今彼女が生み出した剣の情報が映し出される。

「『鑑定』してみるね!」

 

 『黎明の剣』 Cランク

 少女の冒険の始まりを告げる剣。

 オリハルコンが微量に含まれており、その斬撃は岩をも断ち切る。

 

「すごいな、シオリ! これなら……!」

 

「これ、使ってみてハルトくん!」

 

「え、でも……」

 

「いいの! 探索者歴の長いハルトくんが使った方が絶対いいから! それに、オリハルコンはハルトくんのスキルで見つけたんだよ」

 

「分かった……。ありがとう、シオリ」

 

 その直後、奥から一体のオークが咆哮を上げて現れた。

 

 見上げるほど背が高い、筋骨隆々の魔物。

 これまでなら、僕一人では絶対に歯が立たない相手だ。

 しかし、この剣があれば、そしてシオリが傍にいれば――。

 

 僕は新しく錬成された剣を構え、オークに斬りかかった。

 

 これまでかすり傷一つつけられなかったオークの硬い皮膚を、剣はまるで紙のように切り裂く。

 

 シオリも、僕の隙を突いて剣で斬りつけて、オークの動きを鈍らせた。

 連携はまだ荒削りだけど、確実に手応えがあった。数合の打ち合いの後、僕はオークの巨体を打ち倒すことに成功した。

 

「はぁ、はぁ……倒せた……!」

「やったね、ハルトくん! すごいよ!」

 

 肩で息をしながら、僕たちは顔を見合わせて笑い合った。

 

 あのオークを、僕が倒したんだ。

 

 

 その後、僕たちは「ゴミ拾い」の検証をした。

 流石にオリハルコンは出てこなかったけど、ミスリルといった貴重な鉱石も中に混じっていた。

 

 

 やっぱり僕の「ゴミ拾い」はただゴミを集めるだけのスキルじゃなかったのか?

 

 

 このスキル名とその力の詳細は入学した時に、迷宮都市側から教えて貰った。スキルの概要を読み取るスキルの持ち主が迷宮都市の職員にはいるのだ。しかし、あくまで大まかな概要で詳しいスキルのルールや、これからどんな成長を遂げていくのかまでは、読み取ることはできない、とも言っていた。

 

 ――そもそも、ゴミって誰の基準で決めてるんだ? 

 

 ゴミを捨てた人か?

 いや、僕の「ゴミ拾い」は廃棄物以外も回収してくる。

 

 そんな疑問が次々湧いてくる。

 と、同時に、ある思いが頭をよぎった。

 

 この「ゴミ拾い」とシオリの「鑑定」と「錬金術」が組み合わされば、もしかしたら……。

 

 僕は意を決して、シオリに僕の置かれた状況を打ち明けることにした。

 

「シオリ……僕のこと、少し話してもいいかな?」

「うん、もちろんだよ」

 

 僕は迷宮都市の厳しい現実について語った。

 

 迷宮都市アカデミリンスでは、成績を残せなかった人間は、順次外の世界に強制的に返される。

 

 僕は今年で十八歳。高校卒業と同時に外の世界に返されるだろう。

 今のままではここにいられない。

 ろくなバイト経験もない僕が外の世界に出たところで、妹の学費を稼ぐどころではなくなってしまう。

 

「僕は中学生の頃、この街にきたんだ。その頃は、自分もS級探索者になって妹に贅沢な暮らしをさせてあげようなんて、不相応の夢も持ってたよ」

 

 両親は幼い頃に僕らを残して亡くなってしまった。

 頼れる親類もいない。だから、僕はこの町にやってきた。妹は僕と違ってとても頭が良くて、せめて彼女の進む未来は僕が保障してあげたかった。

 

「僕の住んでる町では、他に探索者の才能を持ってる人なんていなかったし、ちょっといい気になってたかもね」

 

 だけど、僕の根拠のない自信はすぐに打ち砕かれた。

 迷宮都市にやってきた僕はどこにでもいる新人探索者――いや、ゴミスキルを持った役に立たない新人探索者でしかなかった。

 

 この一年で、教師陣が納得するだけの「成果」を出さなければならない。それは僕にとって、絶対の使命なんだ。

 

「……だけど、シオリの『鑑定』と『錬金術』があれば、僕のスキルはきっと、本当の力を発揮できる。これは僕にとって最後のチャンスなんだよ」

 

 僕が必死に訴えかけると、シオリは真剣な表情で僕の話を聞いていた。彼女の顔に迷いの色が浮かんだが、やがてその瞳に、強い光が宿る。

 

「分かったよ」

 

 シオリは、まっすぐに僕の目を見て言った。

 

「ハルトくん、私で良ければ、一緒にやろうよ。ハルトくんのスキル、すごい可能性を秘めてる」

 

 シオリはそう僕に憧れの視線を向けた。

 

「でも、すごいなぁ、ハルトくん。妹さんのために頑張ってて」

 

「そんなことない。本当に僕が凄かったら、妹の傍にいてお金をたくさん稼いでる」

 

「いや、ハルトくんは凄いよ。……私、何となくこの街に来たんだ」

 

 ぽつり、とシオリは声の落として囁くように言った。

 僕が色々語ったから、彼女も自分のことを話したくなったのだろう。

 

「やりたいこともなかったし、何か秀でてることもなかった。何となく大学にいって、何となく就職するんだろうと思ってた。だから、探索者の才能があるって言われて、ここに来た。私にも何かできることがあるかもしれないって」

 

 シオリは僕の顔を真っ直ぐ見て、心の奥底に燻っていた思いを救い上げる様に、言葉を紡いでいく。

 

「私……迷宮都市に来たからには、何か見つけたいんだ。自分のしたいことを。ハルトくんと一緒なら、きっと見つけられる気がする!」

 

 シオリに言葉には確固たる決意が込められていた。

 

 僕を信じ、僕のスキルを信じ、そして共に歩もうとしてくれている。

 長年、一人で底辺を彷徨っていた僕にとって、それは何よりも心強い言葉だった。

 

「ありがとう、シオリ……! よろしく頼むよ!」

「うん、よろしくね、ハルトさん!」

 

 僕たちは強く握手をした。

 この瞬間、迷宮の奥深くで、僕とシオリの新たな物語が始まったのだった。

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