【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇   作:照喜名 是空

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京都高専

 

 京都に戻って休む間もなく京都高専に向かう。

 自身は通っていないが、それでも時々顔を出す場所。

 懐かしい。やはり生まれ故郷に限る。

 

「おーっ!ひと月ぶりなんちゃう?扇おじさん!何もない所やけどゆっくりしてってや」

「まーた学校を自分ちみたいに言う……」

「これも愛校精神やで?」

 

 出迎えるのは直哉と、あれはたしか……庵歌姫といったか。

 遠巻きにちらほら生徒もいる。あとは楽巌寺学長か。

 

「うむ、ひと月ぶりだな。今日はよろしくたのむ。楽巌寺学長もお久しぶりです。お変わりはありませんか」

「年寄り扱いしてくれるな。事実ではあるがの。東京では派手にやったそうだな?」

「お恥ずかしい。年甲斐もなく熱が入ってしまいました」

「ま、慶長のことのようにならんかっただけ及第点か」

「汗顔の至りです」

 

 どうやらあの件はやはりすでに噂になっているらしい。

 まあ、仕方あるまい。後悔はしていない、ゆえに批判は甘んじて受けるべきだろう。

 

「直哉もはりきりすぎておる。ああなっては困るの。ゆえにこちらも丹波篠山に広いグラウンドを用意した」

「恐縮です……ご配慮ありがとうございます」

「その分全力で、とはいわんがまあほどほどにな」

「はい」

 

 やはり学長とは馬が合う。

 在り方が似ているのかもしれんな。

 己はただ一本の剣。振るう相手を選ぶのは握る者。

 良くも悪くもそういうお方だ。

 

「ほなバスで行くん?修学旅行みたいで楽しみやわあ」

「ずいぶんと剣呑な修学旅行だ。直哉、そう肩ひじ張らずに力をぬいてだな……」

「そないに緊張しとるかな?まあ今日は僕の発表会のつもりや。楽しんでってな」

「ああ、期待している。どうだ、学校ではうまくやってるか?」

「それやったらそこの子とあの辺の子はまあ取り巻きやね。加茂の子ともうまあやってるわ。心配いらへんて」

 

 ちらりと後ろを見れば何名かの生徒が私たちに頭を下げた。

 そうか……あの直哉が他家の者に社交的にふるまえているのか。

 友と言える対等なものができなかったのは残念だが、以前に比べれば格段の進歩だろう。

 

「そうか、それはよかった。直哉、当主となれば他家とのつきあいもおろそかにしてはならん。わかっているからこその行動だとは思うがな。それに何より、お前が学校になじめているようでよかった」

 

 私が撫でようとすると、直哉はふいと嫌そうに頭をそらした。

 うむ、今のは私の配慮がなっていなかったな。ここは学校。幼子扱いは恥じらって当然か。

 そうか、そういえばもう高校生なのだな……早いものだ。

 月日があまりにもあっという間だ。

 

「おじさんまでおとんみたいなこと言わんといてや。それに次期当主はおじさんちゃうん?」

「直哉、それはお前までの中継ぎだ。いずれはお前が背負うものと思ってくれ」

「なら、今日の発表しっかり見てってや」

「ああ」

 

 直哉は、中学生のころ甚爾の腑抜けてしまった様子を見てずいぶん荒れてしまった。

 そんな時もあったが、今は大丈夫そうだ。

 

 直哉の中には何か一本筋の通った力への信念がある。

 だが、その信念が揺らがされたのがあの奥方の死んだ甚爾だったのだろう。

 力は必要だ。だが、力だけで全てがなんとかなるほど世の中は甘くない。

 

 中学生でその現実に突き当たるのは少し早かっただろう。

 つらい経験だったに違いない。だが、直哉はそれにめげずに立ち直った。

 私もできるだけ相談に乗り、声をかけたが……立ち上がれたのは直哉自身の力だ。

 直哉、私はお前を誇りに思う。

 

 ■

 

 丹波篠山の山中。

 広大に切りひらかれた杉林に注連縄と呪符が張られた「グラウンド」。

 この細工によりさらに強い帳を下ろすそうだ。

 

 一月前の五条悟と同じように、直哉が一番手として「お披露目」することとなった。

 五条悟との組手も、直哉とのこの組手も撮影されて御三家、高専、総監部に回される。

 いわば今回の臨時講師教室は若武者の初陣なのだ。

 その相手をするのが私とは名誉なことだ。

 

「ええ所やねおじさん。ここなら僕も派手にいけそうや。悟君には負けてられへんよ」

「そうか、来年の交流戦が楽しみだ。存分にやりなさい。私が胸を貸そう」

「ほな、遠慮なく……よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 

 レギュレーションは同じだ。

 レフェリーストップと降参が認められるだけのかなり本気に近い組手。

 呪具すら使ってよい。

 私と直哉は程よく離れた白線に陣取り、互いに礼を交わした。

 

「ほなまあ、見慣れとるかもしれんけど見てってや。僕もこのくらいはできるんや。『射殺せ、神槍』」

 

 直哉の手に脇差が握られる。呪力を固めて作った斬魄刀だ。

 その能力は知っているが、ますます完成度を上げたな。

 

「うむ、相変わらずよい斬魄刀だ。工夫が見て取れる。さらに腕を上げたな」

「せやろ?ほな開示するけど『いうほど術式かかってません、触れれば1秒フリーズだけや。その代わり刀身も柄も伸びます。伸びる速さは音速くらいで、伸びる長さは1,3キロや』」

 

 だろうな、そこからさらに1秒間細胞単位での停止の神殺鎗もある。

 他にも手札もあるだろう。

 それもそのはずだ。斬魄刀は火力に乏しい投射呪法の補助に作った技術だからな。

 ひとえに、兄のため。そしていずれ当主になる直哉のためだ。

 うまく扱っているならばこれに越したことはない。

 

「ならばこちらも抜かねば無作法というもの。『万象一切灰燼と成せ、流刃若火』」

「いきなり呪具のほう抜くん?うれしいわあ……これで思いっきり挑めるっちゅうもんや!」

 

 来る!さすがの速さだ。もう間合いに剣先が来ている。

 だがまだ落花の情をつかうまでもない。

 領域展延を纏い剣で剣を払いのける!

 さらに流刃若火の側の術式をつかい炎を纏わせる。うかつに受ければ溶けようぞ。

 

「おお怖っ。怖いから遠巻きに行かせてもらうわ。『散れ、千本桜』」

「やはりそう来るか!学長、少し派手に行かせてもらいます!」

 

 解号を補助にしての千本桜。

 五条悟の攻めの千本桜に近いが、こちらはさらに洗練されている。

 

「改めて開示するけど『これ花びらの一枚に触れただけでも1秒フリーズや』」

 

 白い呪力により編まれた花びら型の刀片が戦場に広く舞い散る。

 この一つ一つに硬さと刃があって、しかも一枚にでも触れれば付与された術式が発動する。

 さらに花びら自体が投射術式の対象で……

 自在に動かせる花びらと、呪力放出によって飛ばしている花びらが混在する。

 なかなか隙がない呪術なのだ。

 花弁の嵐が私に向かう。いいぞ、うまい使い方だ。

 

「良い手だ!成長したな直哉!」

「軽く全部燃やしておいてヒドいわあ。でもここからや」

 

 千本桜の花弁はすべて炎で燃やして相殺したが、これはまだ序盤。

 直哉の引き出しはこんなものではない。

 

「うむ、魅せてくれ直哉!」

 

 直哉は足裏から呪力放出での空中歩法に加え、神槍を伸ばして上から攻撃してくる。

 突きだけではない。速さを生かして周囲を回りながら長い刀身を薙いでくる。

 私もジャンプで避けがてら空を蹴って空中格闘戦に入る。

 

「アゲてくで!ついてきてやおじさん!」

 

 日の呼吸を交えてのさらに早い移動、それも千本桜を撒きながらだ。

 見た目にも雅でよい呪術だ。しかも確実にこちらの可動域を狭めていく戦法……

 焼けば払えるが、炎を出したそばから炎に隠れてチクチクと突きや薙ぎ払いを加えてくる。

 いいぞ、その調子だ。

 

「どうした?遠くから撫でるだけでは私は倒せんぞ」

「何言うてるん?もう後ろにおるで」

 

 おお!これはヒノカミ神楽のうちの一つ。幻日虹!

 これは動きによる錯覚で残像を作り出す剣技だ。

 それを音速で動ける直哉がやれば残像を見せているうちに背後に回り込める。

 

「それ大丈夫なん?血ぃ出てるで」

「大事ない。攻め手を緩めないのはいいぞ」

 

 いい一撃だった。わき腹から内臓を突かれたからな。

 反転術式で直せるが、直している間はやはり集中力がそがれる。

 並の相手であれば今ので詰みだ。

 私に対して有効手をこの短時間で取れた。

 それは間違いなく五条悟を一つの面で上回ったといえる。

 

「僕なあ、奥さん死んでからの甚爾くんとおじさんの在り方も、おじさんたちの強さをわからんアホ共もなんやごっつ嫌やってん」

 

 直哉はさらに剣でのインファイトを続ける。

 周囲に千本桜の花弁を撒いて逃げ道も絶つ。

 離れれば花弁にふれて1秒の停止から王手。

 近接に付き合って刀を打ち合わせればやはり1秒の停止で王手。

 ゆえに直哉との近接は領域展延を張り続ける必要がある。

 流刃若火の方で炎は維持しているが、これはかなり消費が大きい。

 

「雑魚共は強さをわからんなら黙っとればええ。おじさんたち『あっち側』の強さを持つ人らは……」

 

 直哉は神槍を脇差から薙刀、長巻に打刀、時には槍にすら変えてトリッキーな剣技で私を追い詰める。

 

「せめてちゃんと楽しそうなツラしてえや!強なったらええことあるって言うてくれ!」

 

 回避とフェイント、体捌き。

 長年の格闘経験と直哉の癖を読んでよけ続けているが、なかなかやりおる。

 術式の相性も悪い。

 領域展延を張りっぱなしの消費が地味にきつい。

 ゆえに炎によるリーチの延長を活用していく。

 

「わかっとるんや。強さで何もかも解決するほど世の中甘ないって!せやけど!」

 

 その炎も1秒間の停止による防御でうまく避けている。

 それもそうだ。私自身が私を倒せるように教えたのだからな。

 

「なんでおじさんらはそんなに熱のない顔ができるんや!何やねん、生きるのに飽きましたみたいな顔しよって!僕に夢くらい見させてくれや!」

 

 最後の最後は斬魄刀をあえて消し、意表をついての拳による打撃!

 1秒の停止に加え、その1秒で呼吸と呪力による全力の身体強化!

 頬にいいのが入った。顎が砕けておる。反転術式を回さねば死にかねんな!

 

「領域展開・時胞月宮殿!」

「領域展開・火火十万億死大葬陣!」

 

 直哉の肉肉しい領域と私の炭の領域が押し合う。

 直哉の領域は細胞単位でのフリーズの強制。ゆえに必殺。

 ならばこちらも領域で押し合うために外殻を最大限に硬度に振る。

 

「すまんな、だらしないおじさんで」

「ええんや。だから僕は決めたんや。僕も『そっち側』に行って最高に楽しい背中を見せるてな」

 

 私と直哉は斬魄刀を構え合う。

 片や呪具、片や呪力。

 だが、若き炎は老いた残り火を食える間合いにいた。

 

「だから今超えさせてもらうで!強いもんはそれらしく総取りにいかなならんのや!」

「うむ、それでいい。見事だ……だがならばこそ私は高い壁であらねばならん!」

 

 決着は押し合いで領域が崩れる前につくだろう。

 互いに斬撃を飛ばし合い領域に穴をあけて攻撃を到達させる勝負になる。

 

「死せ、神殺槍」

「真打・残火の太刀。旭日刃!」

 

 さあ、これを超えて見せよ!

 ……速い!なるほど細胞単位での動きの強制を自身に課したか!

 ゆえにあの動きは黄金の回転!

 魂すら焼く旭日刃の炎が直哉の神殺槍によってこじ開けられていく!

 最速・最適の動きか……これほどとは。

 

「詰みや。おじさん」

「……降参だ。見事だ直哉」

 

 喉元のきっちり1センチ先で神殺槍が止まった。

 寸止めすらする余裕があったか。勝負あったな。私に斬り合いで勝つとは。

 そうだ、それでいい。それでいいのだ。

 領域が双方崩れて灰燼と化したグラウンドに二人で降りたつ。

 

「見事だった。降参だ。ありがとうございました」

 

 私が一礼をして直哉も無言で一礼をする。

 そして直哉はガッツポーズを強くすると、天に向かって吠えた。

 

「勝ったでえええっ!これで僕も『こっち側』や!!」

 

 私は今、家の未来、獅子の誕生の瞬間を見たのだ。

 これほどうれしいことはない。

 




アンケありがとうございます!
今後の展開に反映していきます。
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