【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
それからしばらくして、五条悟、夏油傑、禪院直哉、共に特級術師に昇格した。
それでも直哉は『まだや、こっち側でもピンキリあるんや』と不満そうだが。
そして、奇妙な依頼が東京高専に打診されたと聞いた。
それは『星漿体、天内理子の『調査』および呪詛師集団Qからの護衛』。
天内理子は数年前より盤星教の分派
『時の器の会』と『力の意思』。
時の器の会は非術師のただの宗教。何かやれるとしても資金力を生かして呪詛師を雇う程度……
だが『力の意思』のほうは術師集団。というか集団ですらない。
なんでも虎杖香織と名乗る主婦が始めた術師の規範を教えとして広めるネットワーク……
互助会のようなものらしく、ゆるく広いつながりとして呪術界で頭角を現し始めている。
奇妙な女だ。
野良の呪術師?しかし高専に気づかれることもなく天元の教えを広めている……?
誰かの受肉体ではないか?そういう噂もあるが、のらりくらりと尻尾を掴ませない。
たしかに教え自体は術師向きの倫理でしかなく、その内容もまっとうだ。
記録にある天元様の発言とも一致する……
しかし、なぜただの主婦がこれだけのことをできたのかうさん臭さしかない。
だが、教えそのものがまともで、虎杖某も星漿体の軟禁しか動きを見せていない。
それも『天元様ならば少女を犠牲に延命せずとも必ず自己を保てる』とあくまで信仰のテイをとっており……
そこを論点に、しかも天元様が自己を保つための方法を理論的に間違っていない方法で説かれれば……
そこに天元様からの鶴の一声で『適切に保護されているのならば、天内理子には手出し無用。進化についてはなんとかする』とのお達しがあった。
まあ、そうなれば高専も総監部もなかなか反論しづらい。
そうこうしているうちに天元様の同化限界も近づき、そこで高専側は一手を打った。
『ならば天内理子が人道的な扱いを受けているかどうか、せめて確認させてほしい』と。
これを断れば武力介入の余地が生まれるという総監部らしい手だったが……
意外にも虎杖夫人はこれを受託。
そして、まさに『何事もなく』本当に何不自由ない暮らしをしていると確認が取れてしまった。
しかも天元様が同化限度を超えて進化が終わったら解放するという約束まで取り付けて。
呪詛師集団Qは
この情報が上がってきたのは御三家として五条悟の動向を知るという名目であがってきたが……
奇妙に、胸騒ぎがした。
とくにこの報告書を書いている夏油傑の筆致が妙に「力の意思」を弁護している所が。
『日本人全員の術師化による呪霊発生抑止プランは一考に値すると報告者からも推挙する』
『虎杖氏のプランは術師による産業振興も考慮に入れられており、この点からも呪術界存続への配慮が見られる』
『また、『力の意思』の唱える術師の倫理は至極まともで、穏健な教えに思える』
など……たしかにそれぞれの計画や教え自体は魅力的で、しかも現実的だ。
怪しい主婦の主催する怪しい宗教団体という色眼鏡を外せば、私自身グラリと来た。
だが、それでも剣士としての勘が何かを訴えているのだ。
呪術規定の『世に呪いを広めることなかれ』という主義に接触するのもそうだ。
しかし、それ以上に勘が何かを叫ぶ。
あまりにも都合がよすぎる。
こんなに何もかも丸く収まるうまい話があるはずがない。
何より、ところどころ計画の実行者の善意と倫理観に任せすぎているところがある。
もし仮にこの虎杖夫人が悪意を持っていたら悪用できる場所が多すぎる。
時々、怪しいのだ。
それでも私にはせいぜい知り合いに声をかけて怪しいぞと警告することしかできん。
くれぐれも慎重に考えてくれと。
そしてそれは総監部も同じだったらしく、『天内理子の安全は確認した、事態の推移を注視する』と黙殺することにしたらしい。
虎杖夫人の口車に乗るわけでもなく、しかし潰すほどでもないと。
計画するだけならばしょせん面白い夢物語でしかないと。
どうせできるわけもないとタカをくくっていた。
かくして、世は事もなく進んでいく。
総監部は星漿体への興味を失い、天元様の結界もあいかわらずある。
ならばそれでよいではないか、という話になった。
せいぜい、術師に『力の意思』を要注意団体として周知しただけだ。
それでこの件は完全に終わった。
ありふれた、なんてことのない些細な任務……
そう、私の日常にも埋もれて行った。
私はそのことを死ぬまで後悔することになる。
甘かった。あまりにも甘かった。
なぜあの胸騒ぎを軽く扱ってしまったのだと。
■
人工的な術師の生産。
実はこれ自体はもう千年前に成功してるんだ。ひどくコスパは悪かったけどね。
特級呪薬とでも言えばいいかな。貴重な素材をふんだんに使ってできるのは一回分……
でも、それで私が再現しようとした術師は誰だと思う?
そうさ!宿儺さ!ただ出来たのはかなり重い天与呪縛を素材に使ってたった一人。
あれはひどい出来だったよ。
まず日光に弱い、食人衝動はまあいいとして……おつむも弱かった。
呪霊も呪力も認識できない術式が使えるだけの術師もどきさ。
ただ、血を媒介に他者を術師もどきにすることはできた。
彼は鬼と名乗っていたけどね。
あれはなかなか面白く踊ってくれたよ!おかげで大正時代まで千年もいろいろ遊べたし……
鬼殺隊のがんばりにはたまに感動してウルッときたし、騙して悪いなあとも思ったね。
まあ、あの鬼を倒せて、産屋敷家の呪いも解いたんだからいいじゃないか。知らぬが仏さ。
その時に弱点である日光と食人衝動は克服できた。
ここまでくればあと一歩さ!
だからその頃加茂憲倫になった。
鬼の量産には血液を操作する赤血操術が最適だからね。
だからそのために呪胎九相図を赤血操術術者を量産する試作品として作ったんだが……
あれもやはり試作品さ。精神面が普通過ぎた。がっかりだよ。
その点、鬼は面白かったんだけどね。
ああ、話がそれたね。
とにかく、それで私は赤血操術の術師ならば量産できて。
そこから鬼を量産することまではこぎつけたんだ。
ここまでが日露戦争時あたりかな。
あの頃は楽しかったなあ、政府に潜り込んで好きなだけ実験ができた。
他国も似たような実験してたりでかなりインスパイアされたよ。
組織も作って実験は進んだ……
それでも、鬼の量産技術から一歩進んで術師の量産技術にできたのはごく最近かな……
学窓会って今どうなってんだろ。
新しいテーマを見つけたのかな。不死仲間に渡しちゃったけど。
でも、ついにできたんだ、ノーリスクの術師化薬がね。
あとは昔に作った赤血操術師の量産レシピを使えば……
可能な限りの多くを術師にできる。
ん?九相図は呪霊とのハイブリッドをつくりたかったんだろって?
それもあるよ。
でも必要なのは確実に術師を生産するラインだよ。
そのサンプルのために取った手段の一つに過ぎないさ。
言っただろ、試作品って。
サンプルがあれば学窓会なら量産できる。
学窓会?
私が友人たちと作った組織なんだけどさ。
もともとは呪霊や呪具の収集、封印を目的とした組織だったんだ。
でもしょせん人さ。欲を煽るのは簡単だったよ。
なんだかんだで国益を求める軍人と好奇心を満たしたい学者の集まりだ。
面白ければなんでもいい分派を作るのは難しくなかったね。
そして彼らにはある研究テーマを渡した。
『収集物の再現』つまり……『完全なるクローン人間の量産』をね。
その過程で『術師の再現』や『術師化薬』ができたってわけさ。
納得したかい?
もうすでにいろんなところの貯水槽に薬を混ぜてあるんだ。
表の会社で出した食品に混ぜたりね。
この作業は三十年くらいずっとやってるかな?
術師の呪物化は千年やってるんだから追加の作業も余裕さ。
あとはこの呪具で遅延発動させるだけ……最高に愉快な手札だろう?
何が言いたいかって?サブプランはあるってことさ。
無為転変がなくても術者は量産できる。
そして、呪霊操術もマストではない。
コナはかけてるけどね。あんな若造騙すのはワケないさ。
融合先として天元の『死体』さえ押さえていれば操る必要もない。
だから死滅回遊に必要なのは天元そのものよりも結界の操作権。
それはこっちでもうなんとかなる。
ああ、もちろん。君の言う通りだ。
無為転変はあればすごく便利だ。でもマストじゃない。
わかるかい?お願いするのは君たちの側ってことさ。真人。
さあ!ともに作ろうじゃないか。呪術全盛の世を。
それを生贄にして君たちの神を!
楽しくなるよ。