【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
『また会えるよね』
それから、また月日が過ぎた。
私たちには新たな娘が生まれ、真理と名付けた。
幸いにしてと言うべきか、今回は双子ではない。
また三人目も娘なのだからと私たちはこれ以上の子を求められなくなった。
私は妻によく頑張ったと礼を言い、新たな子を娘たちと抱き上げる。
小さく、温かい命よ。
子らを見ているとどうしてこの世に呪いなどあるのかと不思議になってしまう。
命とはこんなにも温かいものなのに。
日々は忙しくすぎていった。
特級がこれだけいるのでなんとか回ってはいる。
だがやはり日本全国津々浦々の呪いを鎮めていくのでやっとだ。
この間も七海くんと灰原くんが産土神に犠牲なく勝ったと話題なくらいだ。
あまりにも特級呪霊が多すぎる。抜本的改革など夢物語だろう。
そんな中で五条悟と夏油傑の対立が少しづつ深まっていった。
学生の頃の『弱者生存、そのための術師』という夏油君の思想は先鋭化した。
もはや学生同士の笑い話のトーンではない。
あの虎杖香織や九十九由紀の唱えた思想。
『術師化による全人類の進化』という思想に本人たち以上に傾倒しているらしい。
さらに困ったことに夏油君が助けた被害者たちを巻き込んでかなり大きな組織も作り始めた。
そして、夏油本人が『力の意思への長期潜入任務』を打診したとき……
五条悟の堪忍袋の緒が切れた。
東京高専で激しい言い争いがあったそうだ。
術式こそ使わないものの呪力強化をした殴り合いで校舎の一部が倒壊。
夏油傑は長期謹慎を言いつけられた。
夏油は大人しく謹慎したのちに申し訳程度に任務を受けるのみになった。
今はそのほとんどを海外で取り巻きと過ごしている。
おそらく「人類の術師化」を研究しているのだろう。
その前段階として自分の手勢を作っている……そんなところか。
その頃から五条悟もまた取り巻きを増やし始めた。
かつて兄者が言ったとおりに。
御三家の中で立場の弱い者に手を差し伸べる形で影響力を伸ばしている。
とくに加茂家に。
我々禪院家も当初の兄の計画通りそこに乗る形で五条派に与している。
呪術界は五条派と夏油派が大きなうねりとなっていた。
二人とも、気づいたのだろう。
『世の中を動かしたければ強く賢い仲間を育てたほうが良い』と。
もはや政にうとい私でもわかる。
これは、乱が来るかもしれないと。
娘たちが京都高専に入学したのは、そんな折だった。
■
「真希、真依、入学おめでとう。よい入学式であった」
「大げさだなあ、普通の入学式だったよ?」
「そうそう、そんないつも難しい顔してると真理が泣いちゃうだろ親父?」
禪院家の息のかかった料亭で私たちはささやかな祝いの席を催していた。
「すまんな、このような時期にお前たちの身の振り方を思うと心配でな……」
「任務だって、舐めちゃいないけど大丈夫だって。この間おじさんと恵君の三人で魔虚羅調伏して盛大にお祝いしたばっかじゃん」
まず、巨大なネズミの回し車のような器具を禪院家お抱えの職人に注文させた。
そこに五時間貫牛を走らせ続ける。
甚爾と真希も同じように威力を貯め続けられるタイプの特級呪具を回し続け……
魔虚羅が顕現した瞬間に同時攻撃して消し去った。
これでいいのかと思うが、これ以上は考えられなかった。
今では恵はいざとなれば八握剣だけ顕現させて自在に操るまでに至っている。
「まあ今あやしい術師集団がウヨウヨいるって話だしさ。私はそんなの興味ないけどお姉ちゃん騙されそうで怖いんじゃない?」
「私そんな馬鹿に見えるのか?親父」
妻が真希の頭をこつんと小突く。
「これっ、お父さんを困らせてはいけませんよ。一番のお姉ちゃんなんだから……」
「まあ、真理に恥ずかしいような怪しい奴らにはついてかないよ。それでいいじゃん?」
「もうまたそんな口をきいて……」
やれやれ、家族とはいえ女三人集まれば姦しいな。
「ん、まあそのなんだ……呪術師において高専生とは半分社会人といえる。そして二人とも十六……元服の年だ」
ここで私は合図の拍手を一つ二つする。
真理とその式神が大きな細長い包みを背負ってきた。
「じゃーん、おめでとうおねえちゃんたち」
「真理!えっ、いいのか料亭で式神使っちゃって。それに、その包みって今年二回目の誕プレ?」
「えへへ、びっくりしたでしょサプライズだよ」
真理の式神はぬいぐるみのようにかわいらしいものだが、十にも満たぬ身で見事に操っている。
さすが私たちの娘だ。
「父さんと母さん、そして真理からの元服のお祝いだ。よく大きくなった二人とも。お前たちがどんな大人になるか私は楽しみだ」
「……これ今あけていいやつ?」
真希は楽しそうに尋ね、私はうなずく。
「これ斬魄刀じゃん……そうか、だから元服の日にね。ひょっとしてこれ」
「真依おねえちゃんとつくったの!」
「お父さんが材料費出してくれたし、帯とか飾りの買い付けはお母さんがやってくれたんだよ」
そういう真依の元にも一本の斬魄刀。
もちろん呪力の塊であるはずもなく、真依が刀身を構築術式で作り出したものだ。
拵えや飾りは妻が選んだものを真理が呪具化して織り込んである。
「二刀一対の斬魄刀……名を『双魚理』だそうだ。詳しくは真依の口から聞くと良い」
美しい刀だ。四角い鍔にやや長い鎺の部分が真鍮色。
柄尻の部分に鎖のような輪。
それ以外は特色はない地味な刀。
だが、そこが品が良くなにより剣士として見て重心や形がしっかりしている。
質実剛健さの中に女らしい繊細さのあるデザイン。
「もしかして術式まで入ってんの?やるじゃん真依」
「真理のおかげだよ。入ってるのは呪力の吸収と放出で、蓄積もちょっとならできるよ」
「ふたつの刀で呪力のやりとりもできるからなんかあったときにべんりだよ!」
真理の術式は『触媒から式神を作り出す』というものだ。
元となる呪具や呪物があればそこから己の呪力で式神を作り出せる。
それが術式のあるものならば術式も式神に継承される。
その上その式神を別の呪具に宿らせるのだからたまらない。
しかも、この子の初めての術式発動ときたら……
四歳の時に自力で呪具化したクレヨンで絵をかいて、その絵から式神を出したのだからな。
うちの娘は天才ばかりだ。感謝せねばならない……
「へえ、使い勝手いいじゃん。ありがとうな二人とも。でも真依は自分で作った刀でいいのか?」
「うむ、なのでそれを作るために真依には忌庫の鍵を渡してある。もう自分の判断で呪具を触っていい年だろう」
真依には今まで私の監督下でしか呪具を触らせていなかった。
だがもういい年だ。ちょうどよいプレゼントであろう。
飾り気はないがな。それに、それだけではない。
「おねーちゃん、ついでにマシンガンも買ってもらってたもんね!」
「こらっ、真理……ま、まあそういう事だから大丈夫だよ!」
「そうか。それならプレゼント返しはしなくてよさそうで安心したよ」
「まりは?まりのぶんは?」
「今度プリキュア買ってやる。任務でもらった金でたくさんな」
「わーい!」
「これこれ、気の早い事……まったく真希はいつも真理を甘やかしているのだから……ふふ」
妻と娘たちが笑っている。
うむ、いい宴になった。これこそ私が守るべきものだ。
守り抜いて見せる。政からも。戦からも……