【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇   作:照喜名 是空

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東京事変2

 

「開けえ!京都高専や!今日を以ておどれらは呪詛師や!令状もあんで!開けえや!」

 

 戦の開幕を告げたのは直哉だった。

 この戦い、直哉と私が陽動として正面から強制捜査というテイをとる。

 この隙に甚爾が潜入して虎杖香織の居所と内部を探る。

 五条悟が近くのビルの屋上から後詰めとして突入準備をすでにしている。

 

「シカトこいてんとちゃうぞボケコラァ!今日からおどれら犯罪者やっちゅうてんのや!開けえ!虎杖香織ださんかい!」

 

 直哉はチャイムを高速連打して大きな正面玄関をドンドンと叩く。

 さすが直哉だ。大阪府警のモノマネが上手い。

 なお、帳はもうすでにこの宗教施設の境界を外殻に躯倶留隊が敷いている。

 さらに東京高専の補助監督と窓の総動員で周辺避難も今現在しているらしい。

 終わればさらに二つ目の帳を下ろすそうだ。

 

「あかんわおじさん。開けへんわ。ならしゃあない、午前六時一二分の今を持って強制執行や」

「ああ、ドアを……直哉!」

「わぁっとる!」

 

 ドア内部からの攻撃!

 私と直哉は飛びのき、空中を走る。そして二つの扉合わせて4mはある両扉から水があふれ出てくる。

 あの色からしてたぶん毒も入っていよう。電気も流すかもしれん。

 だが。

 

「今の攻撃を以て公務執行妨害と呪術既定第七条により武力行使を行う」

「よーするに死にたいやつからかかってきいや。僕はおじさんほど優しないで」

 

 直哉と私で一瞬のアイコンタクト。

 直哉が前衛、私が後詰めか。たしかに直哉の術式は拘束するのに合っている。

 直哉、お前の術式こそ最も優しいではないか。

 

「うおおお!聖戦だ!」

「聖戦!聖戦!」

「聖戦の時来たり!」

 

 白に青の軍服めいたものを着た集団が斬魄刀もどきを振り回している。

 あれは単に呪力を固めて作った武器、刀ですらないが技術的には『浅打』だ。

 金槌やトゲ棍棒、ナイフにヌンチャク、か……自由というか、未熟というか。

 

「最近のアホは活きがええね。ほな散れ、千本桜。止りや」

 

 直哉の手から、戦場全域に向かって白い花びらが舞う。

 

「一度だけ言う。動かば斬る」

 

 どうやら、投射術式の千本桜の連打の中にあってそれを打ち消せる術式の者がいる。

 それも十人単位で。あれは領域展延などの呪力操作ではない。そういう術式だな。

 

「そうはいくかぁああ!聖戦だ!」

「カーラケーヤに続け!行くぞ!」

「……あい分かった。我が蛮行を恨むがよい……天地灰燼」

 

 今やおなじみ、燃える月牙だ。

 もはや群衆とすら言える数の信者たちはさくりと焼けて、骨すら炭になり。

 ただその場にはガラス状になった地面と何が何やらわからない灰と炭だけだ。

 

「ひゃ~えげつなぁ。オイコラまだやるんかボンクラ共」

「お、おおおお!!殺せ!殺せ!体制側の犬どもを殺せ!」

「あ、そう。まだまだ元気いっぱいやね。そう来な」

 

 再びのアイコンタクト。

 こうなっては施設を建物ごと爆撃する。

 とにかく結界など張れぬように隠れる場所を潰していく。その手はずだ。

 最悪は蒸し焼きになるな。だがもはや憐れみはない。

 やらねばやられる。警告はした。それだけだ。

 

「ほないこか。射殺せ神槍」

「万象一切灰燼と成せ。流刃若火」

 

 教団のあるこの施設は東京の郊外にある。

 そして郊外にあるからには、施設自体は複数の建物がある大規模なものだ。

 そのビル群を直哉は伸ばした神槍で丁寧に外壁だけスライスしていった。

 壁を失い、丸裸になってぐらつくビルに私がそっと火を流し込む。

 悲鳴すら残さず、何十人もが灰になった。

 

「おっ、硬ぁ。領域展開しとんのか。ほな困ったなあ……なんちゃって」

 

 直哉は神槍に領域展延してさらに突く。あっけなく外殻に小さな穴が開いた。

 そして今の直哉ならばそれだけで十分。

 まるでミシンかマシンガンのように恐ろしい速さで領域ごと穴だらけにした。

 

「虎杖香織!手下をやられて高みの見物か!出てくるがよい!」

「辞世の句くらいは聞いたるから出てきたらどうなん?」

 

 そこで一つの建物から発煙筒の赤い煙が噴き出てきた。

 さらに青い煙も。

 これは甚爾の符丁だ。

『虎杖香織発見、自分はすでに脱出済み、攻撃OK』という意味だ。

 

「そこか!出てこぬのならば建物ごと焼くまで!出てこんか!」

「もうええわおじさん。僕がつついたる」

 

 その瞬間、殺気!

 私たちは飛びのくと、その場に何か黒い球体があった。

 回避!球体が爆発する!毒の可能性も考えて距離を多めに……

 そう思っていると、上からパチパチと拍手が聞こえた。

 

「どうも、初めまして。虎杖香織と名乗っています。あら、さすがは特級の二人ですね。隙がありません」

 

 にこにこと人のいい主婦のように微笑みながら、虎杖香織は出現した。

 まったく攻撃の前兆が読めなかった。そしてこの呪力量、その洗練された流れ。

 やはり只者ではない。

 なにしろ、上下逆さまでなおかつ髪が垂れ下がっていない状態で空に浮いているのだから。

 

「一応聞く。この場で捕まるつもりも、介錯を受け入れるつもりもないな?」

「それは聞くのも野暮というものですね禪院扇さん」

「そうか」

 

 直哉も私もうかつに攻め込めない。

 この感覚、間違いない……この女、戦闘面でも特級。それも最上級クラス!

 

「ほんなら今更何しに来たん?おもろい言い訳聞かせてくれるん?もうこうなったら殺し合いしかあらへんと思うけど」

「そうですね……渋谷と新宿、梅田に名古屋、呉に仙台、あとは……京都とか」

 

 この女……!やはり部下をすでに動かしていたか!

 くそ……やはり、一手遅れていた……!すまん兄者……!

 

「私には今でいう特級の友達が多くてね。彼らに遊び場を分けてあげようと思うんだ」

「それが素なん?えぐいわあ、これやから嫌いなんよ。受肉体って」

 

 直哉はこの状況を理解してなお飄々と舌戦を繰り広げてくれる。いいぞ……!

 

「まあわかるよね。じゃあもう遅いし折角だから聞いていってよ。私の計画ってやつを」

「……いいだろう、それ自体が言霊や術式開示のようなこちらへの呪いにならないという縛りであれば」

「いいよ縛るよ。実はね、昨日のうちにずーっと昔から仕掛けていた呪術を遅延発動させたんだ」

 

 くそっ……皆、無事でいてくれ……!

 兄者、甚壱、蘭太……!任せるぞ……!

 

「君たちがこうまでして恐れた術師化薬なんだけどさ、アレもう水道とかお菓子に混ぜてバラまいちゃったんだよねえ。三〇年くらいかな。ずっとね。そのすべての発動を今まで止めてあげてただけだったんだよ」

「ほーん、ご苦労さんやね。ほんならええやん。それが君らのパラダイスなんやろ?まあここのはみんな死んだけど」

「いやいや!ほかにも千年くらい集めた術師コレクションも受肉させたんだ。今頃みんな久しぶりの現世を楽しんでるんじゃないかな」

 

 私たちはこの会話自体がすでに何らかの術中かもしれぬと慎重に距離を取りつつ隙を窺う。

 

「だが、それで満足するのであればこうはなっておるまい。貴様よもや、ポラリス様だの聖戦だのという世迷事をまだ宣うつもりではなかろうな?」

「いやするよ。とりあえずもうそろそろ主要都市10個に結界を張ってその中で殺し合いをしてもらうつもりだ。そうだな……いわば術師版深道バトルロイヤルをみんなにやってもらう。それで呪術の使い方を知ってもらうんだ」

「させぬ!」

 

 私は月牙を放つが、虎杖香織が手に持った刀身のない刀で弾かれた。

 この感触は呪具、それも斬魄刀!?

 刀身のない斬魄刀、四角を二つ重ねた星形の鍔……ならばあれは艶羅鏡典!

 なんということだ。最悪の斬魄刀が最悪の女の手に渡ってしまった……!

 

「話は最後まで聞いたほうがいいよ。君にとって得だから。それで皆が呪術に慣れたころに、大雑把に言えばそれでも残ってる非術師を使って彼らの魂を捏ねて一つにまとめてみたいんだ。バトルロイヤルもそのためのいわば供物だよ」

 

 この女、あの教義のほぼすべてが事実だったのか!

 なんという女だ。正気のまま狂いきっている。

 

「そんなん僕らがさせるわけないやろがドブカスが」

 

 直哉はさりげなく帯に入れた発信機を使ったようだ。

 ……それもバレていようがな。

 

「ご清聴ありがとう。ちなみに動機は長生きしてると新しいものが見たくなるからさ。ワクワクするだろ、いまだ誰も見たことない最大級の呪霊、あるいはその進化の先ってやつ」

 

 理解できるのが吐き気がする!そうだ、私も人生に飽いていた。

 新しいものが何もなくなった世界に渇きを覚えていた。

 だが実行する者があるか!

 

「もうよい。貴様は、存在してはならぬ化物だ。貴様は呪いそのものだ」

「なら祓うのが僕らの仕事だよね?」

「どーせもうだいたい発動しちまってんだろうが、それはお前を殺さない理由にはならねえよな」

 

 これで特級四人勢ぞろいだ。

 しかし誰かは小手調べで命を張らねばならん。

 ならばそれは老い先短い私がやるべきだ。

 

「あっはっは!鬼殺隊みたいなことを言うよね禪院扇。思えばアレも楽しかったな……」

「貴様……アレにも!」

 

 よし、このまま怒りにかられたテイで行こう。

 落ち着け禪院扇。怒りは剣を鈍らせる……

 

「ああうん、無惨が鬼になった薬、あれが今回撒いたやつのプロトタイプだよ。鬼退治はみんなよく踊ってくれて面白かったな。今日もそうなる」

「貴様ー!」

 

 旭日刃で様子を見る!

 虎杖香織がガラスのごとく砕け散った!?手ごたえ、なしか!

 ならばこやつは。

 

「君たちもこれからの世界をぜひ彩ってくれ。やってみると楽しいよ」

 

 幻影……!

 術中でもないが、最初からスカされていたか……

 その瞬間、帳を破って光が入ってきた。

 この熱、この空気の震え!これは爆弾!

 

「抑え込めーっ!」

 

 いかん甚爾は生身!よし!直哉の停止による防壁の後ろに隠れたな!

 残日極衣を広げ、逆に爆発を包む!残日極衣の熱ならば逆に爆炎を吸収できる!

 くそっ……爆炎が早過ぎる!支えきれんだと!?

 

(僕にも出番もらっておくよ)

 

 そう、五条の目が言っている。

 さらにその上から五条は無下限のバリアを逆に爆風を包み込む形で展開したようだ。

 いいぞ、かなり抑え込めている!少なくともこちら側には炎も熱も来ていない!

 最初の光熱だけでもかなりのものだったが……

 

「僕が!禪院を!守るんや!」

 

 私の極衣、五条の無下限、さらにその隙間を直哉が停止の壁で覆っていく。

 神槍を伸ばした先に停止の壁を貼り付けて。

 その剣捌きはまさに精密なマニピュレーターのようだ。

 

「持ちこたえよ!我らの後ろには牙なき民草がいる!」

「かなり爆発範囲が広いね。おまけに見たことがないほど強力だ」

「なんやもうへばったんか悟君!?僕はまだいけるで!」

「直哉、一点だけ斜め上に向けて開けて爆発を逃せ」

「せやね。ヤカンみたいなもんや。圧力逃がすならそこやね」

 

 爆発がやんだ後には地平線まで見渡す限りの瓦礫ばかり……

 我らが守った場所はなんとか原型を保ってはいるが。

 くそっ!敷地の外に爆弾をしかけて物理的に帳を突破するとは。

 

「なあ、叔父貴。反転術式って放射線もいけたっけ?」

「わからん……やってみぬことには……」

 

 この殺傷範囲……よもや核か……?

 




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