【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
北東とか北西くらいの角度はある。
死滅回遊1
「くぅ~っ!あなたと巡る現世はいいわねえ、宿儺」
宿儺はだるそうに長髪を奇抜に結った女の肩に腕を回した。
だが宿儺は女にではなくもう一人の腹心に声をかける。
「くっくっく、女子供がうじゃうじゃいるわ。飯も悪くない。腕を上げたな裏梅」
飛騨高山の国道を真っ赤なオープンカーが走っていく。
座席の中央には
呪いの王、両面宿儺だ。
「はっ、ありがとうございます!この時代の食材はなかなかに味が良く。殊勝な民草です、宿儺様に献上するにふさわしい品を用意しているとは」
車を運転しているのは白髪おかっぱの女性に見える。
高級な着物を見事に着こなしながら、しかし車の運転はぶれひとつない。
「さすがは我が家のメイドさんね~。そうだ、秋葉原に寄ることがあったらメイド服も二人分調達しましょう。あの街滅ぼして盛大にパーティーしましょ。使用人も術式良いのを何人か……」
宿儺が万の肩を掴む力を強める。
「万、裏梅は俺の片腕だ。無下にすることは許さん。分際をわきまえろ」
「ごっ、ごめんね宿儺。そうよね、私たちはあなたの愛する者だものね」
宿儺はフン、と鼻を鳴らすと不器用に万と呼ばれた
「宿儺様……!裏梅はそのお言葉だけで十分でございます。私は幸せです」
「このまま両手に花、酒池肉林の最高の現世帰還パーティーを続けましょう!羂索もいい世の中作ってくれたわね~!」
そう言って笑う彼らの後部座席にはクーラーボックスに丁寧に調理された人肉と美男美女の生首が詰まっていた。まるで彼らの車を彩るかのように。
「フン、貴様らが羂索にお仕着せの器を作られて、現世に戻ってもう十年か……毒されたな。人間の気まぐれというものに……おそらくは、俺も」
笑顔の万の差し出す酒杯を眺め、カッと飲み干すと風を感じるように空を見上げる。
「消費社会か。いいだろう、俺が消費するにふさわしい満艦飾よ」
その言葉に裏梅と万は顔をとろかせる。これこそ仕えるにふさわしい雄だと。
「はい!すべては宿儺様のための供物です!」
「なんでもできるって素晴らしいわね~!さあ、何からしましょうか?村三つはもうやったし……」
「ハッ、焦るな。目についた端から悠々と食らえばよい。選び放題だ」
真っ赤なオープンカーは山中を抜け、街に差し掛かる。
響かせる笑い声は王者のそれだった。
■
あの爆発をしのぎ、信者共を切り伏せたのちに我々は生存者を救助し、状況の把握につとめた。
主要都市十か所で同様の術師集団による無差別テロが発生。
東京、大阪、京都、仙台はほぼ壊滅……だが、おそらくはまだ戦っているこちら側の者がいる。
さらにその主要都市は黒い結界に覆われ、入った者は殺人を強制される「死滅回遊」などというデスゲームが始まっているらしい。
その上、おそらく我々は被爆している……
「どうする?こーなっちゃとりあえず安全な拠点を確保すんのがセオリーだけどよ」
「まずは東京高専を奪還して硝子に診てもらわない?反転術式回し続けてればたぶん死なないとは思うけど」
五条悟と甚爾が真っ先に声を上げた。
ここはあの『爆心地』からおよそ十キロの廃校の体育館だ。
爆発まで窓や監督職員たちが周辺住民の避難誘導をしていた先でもある。
「しかし時間が惜しい。反転術式で被爆による病を押しとどめられる可能性があるのならばせめて私だけでも京都を奪還したい。御三家は間違いなく狙われる……すまん、これは私情だ。だがこれだけの規模の戦い、ある程度手分けして当たるのも手ではないか?」
浅ましい。解っている。だがそうだとしても私は家を守らねばならんのだ。
一人の父として……!すまん、皆……
「ほんならこうしよ。悟君と甚爾くんは東京高専取り戻してみんな治療や。僕らはまあ、最悪死ぬか一生反転術式まわしっぱや。僕と扇おじさんが最速で御三家守ったる。そしたら悟君も安心して攻めに出れるやろ?」
「いいね直哉。それで行こう。高専の奪還ができたらまずは通信の回復だ。式神でも呪具でも無線でも何でも使おう。ケータイはもう使い物になんねえし」
「わかった。その前に……なんだ、シャワー浴びといたほうがいいんじゃねえか?こればっかりは被爆直後に洗い流すしかねえんだわ」
たしかに……急がねばならんな。しかも残酷なことだが戦力の高いものから優先せねばならん。
「それはもうちょい早う言ってくれへん甚爾くん。でも悪ないわ。今のまま慌ててとんぼ返りしてもアカンやろ。切り替えてこ。こっからは防衛戦や。長丁場になるからペース配分考えてかな」
「そうだな、勝利条件が今変わったというやつだ。一時間で支度と休憩を終えて、二手に分かれよう。すまん、五条君。信朗たちは甚爾につける。よしなに使ってくれ。甚爾、皆を頼む」
「おう、任せとけ」
「シャワーかあ、五月にプールは寒いけど仕方ないね」
冷水でシャワーを浴びるのは滝行とでも思えばさしてつらくはない。
むしろ頭が冷えてきた。
不思議だ、武者震いすらない。ただ、冷静に家を守ることを考えている。
いや、それもそうか。私にはこうした戦いのほうが向いている。
ならず者どもから家を守る。単純な話だ。
何が飛び出してくるかわからぬ策士を相手にするよりずっと。
戦おう。戦い抜いて、守り抜こう。
待っててくれ、妻子たちよ……!信じているぞ、兄者!