【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
死滅回遊の始まった日本を、もちろんアメリカも認識していた。
米軍もペンタゴンもいつでもとびかかれる姿勢にいる。
そして、ホワイトハウス。
三徹目の仮眠から起きた夏油が会議室に入る。
かれこれ数日間は休憩をはさみながら次から次に課題をこなしているタフな会議だ。
「もどったか、ゲトーCEO」
「サイラス長官も少し休まれてはどうです?反転術式は思ってるほど万能じゃないですよ」
白髪痩身の白人にしてエネルギー省長官はパリッと呪力をみなぎらせて五徹目だ。
そしてこの科学者はエネルギー省長官だけではない。
米国の極秘政府下部組織、サイキック研究開発プロジェクトの長でもある。
そして……米国初の『Sクラスサイキッカー』の称号も持つ。
米国現役最高齢の呪術師と言ってもいい。
「いや、今はもう少しこのカースパワーの解析に努めたくてね。何より初の実働案件だ。科学者として政治家として今の私は最高潮にいるのだよ」
「ゾーンに入った時の全能感はわかりますよ。さて挨拶はこのくらいにして……」
「ん、んん。そろそろ説明に入っていいかね?君が寝ている間の課題はファイルにまとめた。後で読みたまえ」
大統領が疲れた様子でスポーツドリンクをグラスでのみ、二人の発言を促す。
「ありがとうございます……なるほど」
夏油はすぐにパラパラとファイルをめくってざっくりと内容を把握した。
「すばらしいですね。術師、いやこっちだとサイキック部隊は三個中隊およそ五百名、バックアップ込みで八百人ですか。練度は?ギャリー中将」
眼帯にひげ面のごつい将軍はニヤリと笑った。
もちろん彼からも術師らしい呪力の漲りが立ち上っている。
「クラスでいえばSクラスは片手で足りる。だが、スープスのワンマン作戦はハナから考えとらん。ゆえにAからBクラスをSクラスと共に運用する訓練を詰んでおる。Cクラスによる後方支援もな……つまり実働可能だ」
大統領が知っていたといわんばかりにニッと笑った。
「すばらしい。君たちとチームを組めて本当に良かった。アメリカのサイキック国策の基礎として我々は歴史に残るだろう。それが人道的な物であった事を私は誇りに思う」
それはまさに普段の演説と同様のアメリカ大統領としてのカリスマある姿だった。
疲れの見えるチームの面々もわずかに微笑んでうなずく。
「さて、夏油くんほかの西側諸国はどうなっている?いや、我々も政府としてやりとりはしているがNGOの立場から現場の声が聞きたくてね」
そして夏油に媚びを見せず、しかしかなり気を使った様子で尋ねる。
「フィリピン、インドネシア、マレーシアは順調ですね。ゆっくりとですが堅実にやってますよ。他はまだ認知と立ち上げの段階です。南アフリカはみなさんご存じの通りとても乗り気ですね。今もアフリカ呪術師部隊をお貸ししてることをお忘れなく」
夏油は『友』であるミゲルとその仲間たちに思いをはせる。
あのサングラスを見ると五条悟をいつも重ねてしまうが。
「今回の件については?」
「ご存じの通りですよ。アメリカがやるならばやる。実地試験として悪くないですからね」
「そうか……」
黒人の側近が静かに告げた。
「大統領。我々はすでに準備ができているということです。あとは大統領が日米の安保に従って『援軍』をよこすか、在日米軍を引き上げるか。二つに一つしかありません。そして『いつ』するかです」
「うむ」
「ご決断を」
大統領は室内の面々の目を見て……そして決断した。
「我々アメリカ合衆国は在日米軍の安全を確保し、日本へ治安維持戦の協力を要請する。日本におけるテロリスト『力の意思』の掃討作戦を行う。作戦名は……」
ぐっ、と力を籠め力強い目線で顔を上げる。
「『インフィニティ・ウォー』!アメリカ合衆国は同盟国でのテロリストによる無政府状態を容認しない!たとえ超能力者だろうがだ!」
拍手の後に真っ先に発言したのは夏油だった。
「マーベル派だとは意外でした。大統領の決断に感謝します。私たち『
フッとサイラス長官が笑う。この老人にはめずらしいことだ。
「たとえそこの中将が賛同しなくても我々は君を支援する。ここまでのベネフィットをもらっておいて誠意を返さないリスクくらいアメリカ人はわかる」
たしかに、大変な『リスク』だった。
虎杖香織の目を出し抜いて術師化薬とその製法をかすめ取るのは。
まるで聖杯を求める旅のような常に悪意と敵がいた危険な賭けだった。
だが私は賭けに勝った。それが全てだ。
「しかし長官、ほぼフリーハンドでは……」
「まあそこはうまくやりますよ。報告・連絡・相談。日本の標語です」
「フン、標語とはできてないからこその目標設定だ。軍人はそんな曖昧なものに頼らん」
会議は回る。その中で夏油は自分に従う二人の少女、そして大勢の仲間を瞼の裏に思い返す。
そして、そのだれよりも強く五条悟の姿を。
「待ってくれ、悟。すぐに駆け付けるよ」
その言葉は侃々諤々の議論の中で埋もれて行った。