【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
途中休憩をはさみ、時にはレンタカーで直哉がバイクを借りて。
二人乗りしてまで京都へ急ぐ。
途中の街も呪霊と呪術を使った争いばかりだ……
挑んでくるものだけ片付け、帰宅を急ぐ。すまぬ……!
休憩の中で刀禅をしたとき、師の悔やむ声が聞こえた。
そして知った。羂索という邪悪を。
討たねばならぬ。何をもってしても。すべての不幸の元凶を。
それが呪術師としての使命だ。
『よう!俺はコガネ!』
無視して結界を抜けると、そこはやはり戦場……
街に、空に、呪霊と術師が蔓延り、そこら中で戦っている。
「真希、真依、真理……!家は、皆は……!」
「あとちょっとやでおじさん。あれちゃうん?僕が千本桜で道つくるからついてきてや」
禪院家の方に巨大な要塞ができている。たしか……あの様式はモットアンドベイリー!
趣味の一つとして城塞のジオラマを作っていた時、長寿郎殿に見せたものだ!
円墳のような丘の上に要塞を、その下に城下町を。
そしてそのすべてを囲うように掘と塀を。
丘の上の城は物見やぐらと砲台になり、城下町が城を守る防壁になる仕組みだ。
丘の斜面は急なうえに罠だらけで、城下町を正面から攻略しなければならない。
そういう仕組みで、しかも堀を掘った土ですぐ作れる。簡易だが強い城……
「ああ、直哉。さすが最速だ。成長したな」
「あの風雲禪院城、おじさんが作っとったプラモやん。大丈夫や、まだ戦ってるわ。いくで!」
「ああ、乗り遅れてはならん!」
直哉が両手から千本桜を流しつつ、その後ろを私がついていく。
こうすることで1秒停止の千本桜による防壁のトンネルを最速で駆け抜けていくのだ。
空に回廊ができた。
呪詛師どもの攻撃をものともせず私たちは帰還する。家へ!家へ帰るのだ!
「兄者ーっ!」
丘の上の要塞。そこの屋上で兄者は長寿郎と共に陣を張っていた。
こちらをみるとニッと笑って直哉と私が入れる分だけ結界に穴をあける。
「ハッ、思ったより早い帰りだったな」
「すまぬ、兄者……罠だった。虎杖香織はあの世迷い事を本気でやる気だ」
「お前が責任を取る事ではない。わしの作戦が甘かった。それだけよ」
私は息を整えている間に直哉が話す。兄者もところどころ怪我をしておる。
とくに片腕がひどい。包帯と軟膏まみれだ。なんということだ……
「ただいま、おとん。ほんで被害はどうなっとるん?もちろん我が家と御三家やで」
「おう、良く帰った。加茂と五条は五条派の者は皆うちに避難して今この通り籠城中よ」
「籠城て。相手は?あと京都高専はどうなん?」
「虎杖香織の手の者もいれば野良の呪詛師に、目覚めたてのチンピラ。四方八方すべて敵だ。そして高専はまだ落ちておらん。故に双方を援軍として互いに籠城しておる」
なるほど、籠城は外からの助けが前提の戦術。
ならば籠城している味方の城が二つあるならば、余裕のある方が包囲された方を助ければよい。
相互に外の敵を掃討しつづければかなり持つはずだ。
うむ、さすがだ兄者。
「それで、兄者……妻と子は、こちらの被害は!?」
「案ずるな、お前の妻子はシェルターの守りに充てた。周辺住民も保護せんといかんからな」
「無事なのか……!真希、真衣、真理……!兄者……かたじけない……!」
思わず涙ぐんでしまう。情けないことだ。大の男が……
「フン、会って一休みしろ。休んだら無線を受け取って前線に向かってもらう」
そうだ、こちらの被害も言わねばならぬな。
「うむ!……そうだ、甚爾と信朗だが、生きておる。今は東京高専で治療を受けるために向こうの防衛に行ってもらっておる。隊士は……すまん。半数は死なせてしまった」
「そうか。甚爾に治療がいるほどとはな……何を使われた?」
「おそらく、核だ」
兄者の目が見開かれた。驚くのは無理もない。
まして相手が平然と核を使うとなれば、今後ずっと核を意識しておらねばならん。
「……そうか。お前らは?」
「おそらく、被爆した。反転術式を回してはいるが……どれだけ効くかはわからん」
「わかった。近くの病院か消防署を当たってガイガーカウンターを手配しておこう。今は休め」
この状況でも豪胆さを崩さぬ兄者を心から尊敬する。これが将の器というものだ。
「……すまぬ、兄者」
「言うな。お互い様だ」
お互い、苦虫をかみつぶした顔になってしまう。
見渡す限り敵だらけ、いつ終わるかもわからぬ戦……どれも、初めての事だ。
これが戦か……
「ほんなら虎杖香織について詳しいことは僕が言うとくわ。おじさんはさっさと会いに行き」
「すまんな、直哉」
「ええて。どうせ長丁場や。頑張ってこ」
「ああ。お前も休めよ、直哉。兄者もな」
「ぼちぼちな」
「フン、案ずるな」
二人に礼をして『城下』の禪院家邸宅に向かう。
シェルターは……こっちか!
「真希!」
「お、親父……!帰ってきてくれたんだな……」
真希は地下シェルターの入り口で三輪とともに門番をしていた。
思わず小さなころのように抱きしめてしまう。
真希の照れた声で正気に返り、そっと離した。
「ああ、お父さんが帰ってきたからにはもう安心だ。大変だったな。よう持ちこたえた」
この状況の責任の一端は私にあるというのはいったん置いておく。
それよりも娘たちの不安に寄り添わねば。私は父なのだから。
「そっか……父さん、私、初めて人を殺しちまった……」
真希が私を父さんと呼ぶなどいつぶりか……その声の震えに胸が引き裂かれそうだ。
何をやっていたのだ禪院扇!お前がしくじらなければ!私が……もっとうまくやれていれば。
「真希……」
「わかってる。相手は呪詛師だ。やらなきゃやられてた……そこはいいんだ。それに、真理に人殺しをさせずにすんだしな……」
術師の家系はみなこの苦難を乗り越えていかねばならん。
治安を守るためには、罪を犯したものを時に殺さねばならん。
……因果なことだ。だが、誰かがやらねばならんことだ。
「真希、よくやった。お父さんは真希の味方だ。……誰かがやらねばならんことだ。それをやったお前は立派だ。何度でも言うぞ、よくやった」
「そっか……父さん、ありがとう。中に入ってくれ。母さんたちも不安がってる」
「ああ」
重い二重扉が開いていく。開いた瞬間を三人で警戒しつつ、私は速やかに入る。
「扇さん、ちゃんとお父さんやってたと思いますよ。あの……与くんのこと、ありがとうございました」
そういえば与くんの手術は間に合ったらしいな。
今は東京高専にいるだろうが……
「お気に召さるな。アレについては御三家としてやるべきことをやったまで」
「それでも、うれしかったです」
「そうか」
そうか、この笑顔……三輪くんにとって与くんはそれだけの笑顔をするに足る男なのだな……
■
妻と娘たちと抱き合って無事を喜んだ。
だだっ広い地下シェルターに設置された仮設住宅の中にいた。
ほかの避難民もそれぞれの仮設住宅にいるのだろう。
とにかく、みんな無事でよかった……!
「あれ、帰ってきたんですか扇おじさん。姉さんが炊き出しやってますから豚汁食べてったほうがいいですよ」
「恵くんか。甚爾は無事だ。今は念のため東京で治療を受けておる」
「そうですか、まあ僕も父がこのくらいで死ぬとは思ってません」
そう言いながら安堵が隠せておらん。まあこの年頃では父親とはそういうものか。
素直ではない。だが青年とはそれでまったくよいのだ。
「そうだ、高専はどうなっておる?」
「空とべる西宮と俺でメッセンジャーやってます。今んところは無事ですね。でもさっき直昆人のおじさんがルール改定したんでもうケータイ使えるみたいですよ。基地局が物理的に吹っ飛んでなければですけど」
恵くんが差し出す無線を受け取る。
これでとりあえずはこちらの戦線に復帰できるな……
津美紀くんたち若い女衆の出す豚汁は温かった。禪院家の味だった。
体に力がみなぎってくる。
守るのだ。この家を。たとえわが身が朽ち果てても。
命捨てるはいまだ。動け禪院扇!
■
前線では甚壱と蘭太、家に残した躯倶留隊と灯が賊の掃討を続けている。
むろん私も参加した。
押し寄せる賊を片っ端から斬っては、死体の山を骨も残らず焼く。
避難民を脅かさぬように、こっそりとだ。死体は長寿郎が術式で集めてくれた。
この陰惨な作業は2日ほど続き、終わったころにはとりあえず周辺の治安は回復した。
「叔父貴、もう充分だ。賊はしばらくは来ないだろ。叔父貴のおかげで俺も蘭太も休めた」
「隊の士気も充分です!交代しましょう!」
「しかし」
そうは言ってくれるが、外の呪霊も祓わねばならん。京都高専の情況も気がかりだ。
死滅回遊のルールも兄者の追加した『外部との連絡』に加えて……
他プレイヤーによる『得点の受け渡し』『他プレイヤーの情報開示』まで行っているからな……
盤面もさぞや変わっているだろう。いかん、考えすぎだな。
「大丈夫です、扇先生。僕ら加茂も五条もいます。主流派じゃないですけどね」
「加茂君……わかった、気を使わせてしまったな。そうだな……少し休ませてもらう」
加茂憲紀くんも変わったな。髪を切って精悍になった。
何か吹っ切れた様子だ。
「母と弟の一家まで避難所を手配してくれたんです。僕らにも恩返しさせてください」
「わかった、好意に甘えよう。だが同盟相手を守るのは当然のこと。君も気にしてくれるな」
「はは、わかりました。半日は休んでてくださいね」
どうも気が咎めるが、まあ長丁場だ。
それにここが安定すればほかの平定に『進軍』せねばならんしな。
今のうち休んでおこう……
■
シェルターに入り、シャワーを浴び、妻子とともにゆっくりと食事をとる。
妻たちの話では恵君もよくシェルター内の揉め事を仲裁しているそうだ。
さらに高専と往復して砦の外でも戦っている。
そうか……もうそこまで大きくなったのだな……
強さを疑ってはいないが、良く戦っている。
「お父さん、なんかネットでもすごいことになってるよ。いろんな組織が勝手にいろんな宣言出してる」
「ふむ……聞かせてくれ。だが真依、こういった時はあまり動向を探らぬ方が良い。不安なのはわかるがな」
「うん、メンタルに良くないのは解ってる。こういう役立ち方も……私も後で少し休む」
「それがいい。不安なことがあれば言いなさい。大丈夫だ。ここは安全だ」
「うん……」
そんな炊き出しのスープと米、缶詰の魚を食べながらの食事。
妻も連日の炊き出しで少し疲労が見れる。
真理はそこまで作業はしていないが、家に一人でいるのは子供にとってはつらかろう。
守らねば……それだけではない。脱出もそろそろ視野に入れるべきだ。
大丈夫だ。お父さんが日常を取り返してやる。必ず……!
「で、組織なんだけど……まず、『バウンス』って呪霊の組織が人間を滅ぼして呪霊の世界を作るとか言ってる……たぶん、動画に出てた人たちは特級。4人くらいいたかな」
「……なるほど。けしからん奴らだな」
「東京では島ってヤンキーみたいな人が『大東京帝国』っていうのを作って炊き出しで例の薬を配ってるんだって。五条先生と何度か戦ってるけどお互い威力が強すぎてうかつに戦えないみたい。ずっと膠着してる……」
動画を見てみる。
島という小柄な覚醒型プレイヤーともう一人子供の受肉型のプレイヤーによる集団か。
まとめ動画を見るに、まぎれもなく特級。それも最上位クラス。強い……!
参謀を名乗るこのパンチパーマの男……
術師としては弱くとも、こやつがブレーンだ。
こやつを倒せば集団としては崩壊するだろう。
どうもパフォーマンスに出ている術師部隊もせいぜい三級だからな。
「なるほど、強いな……だが、五条君ならばなんとかできよう」
「そう?よかった……あっ、でもいいニュースもあるよ。これなんだけど」
「……夏油君か。ここで出てくるとは」
夏油君は『
動画には大統領が出ているが、合成ではあるまいな?
いや、本物だ。テレビのニュースでも大統領が同様の演説をしている。
しかし本当ならば心強い。米軍が自衛隊と共同で治安維持戦をするらしい。
その際に呪術高専側の術師と共闘するとのことだ。
米軍と共同作戦か……日本男児として心が躍るな。
「信じるべきか、疑うべきか……兄者に言っておこう。うまくすればお前たちを避難させられるかもしれん」
「……父さんは?」
真依は不安そうに私を見る。妻も私を見るが、その目には覚悟があった。
「私は戦う。禪院家の男たちもな。牙なき民草のために。それが術師の使命なのだ」
「そうだね、私たちは……足手まといになっちゃうよね……でも」
ここで妻が静かな強さをたたえて真依の肩を撫でた。
「真依。そこまでわかっているなら、腹をくくりなさい。私たちは生き延びて家を繋ぐのよ。あなたたちが生き残って家庭を持てるなら、それは私たち親の勝ちなの。解るでしょう。生きなさい」
妻の目にはしなやかな強さがあった。
ならば安心だ。逃げた先でも娘たちを守ってくれよう。
だから私は征けるのだ。
「うん……真理も、だよね。じゃあお母さんは?真希お姉ちゃんは?」
「真理も真依も私が守ります。真希は……あの子には戦える選択肢があるわ。できれば私たちと一緒に逃げてほしい。でも、術師として戦うというのなら……」
私もうなずく。本当に、強い妻を持ったものだ。
「真希には戦いを選ぶ権利がある。それが強さということだ。むろん親としては逃げてほしいが」
「そっか……わかった」
「すまんな。私たちの背に乗っているのはお前たちだけではない。牙なき民草すべてなのだ」
「うん、わかってる……また、皆でご飯食べれるよね?」
「うむ、信じてくれ。約束だ」
「わかった、信じる。なら私は真理を守る。お姉ちゃんとして。生き残るから、必ず」
真依の目には今まで見た事のない力が宿っていた。
これが守るべきものを背負った力か。大人になったな、真依。
私は、この先何度食べられるかわからぬ大切な飯を食った。
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