【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
「身の程は弁えているようだな、雑魚共が。だが宿儺様を前に背を向ける無礼はいただけん」
「まあ、雑魚はいなくてもしょうがないけど、お宝も持って逃げますなんて、ねえ?」
女共の方がトラックを攻撃した。片方は運転席ごと氷漬けに。
片方はアスファルトとタイヤを接着されている。
くそっ……!我が家の財産が。だが金に換えられる物は最悪仕方がない!
よし、バスはもう動き出している……逃げてくれ、皆。
……まて、何と名乗った。宿儺?
「両面宿儺殿とお見受けする。直言をお許しいただきたい」
「……なんだ干物爺が。まあよい、許そう。この中で食いごたえがありそうなのは狐目の小僧とお前くらいか」
これが両面宿儺……なんという膨大な呪力量。その勢いのすさまじさ!
乙骨君より多い呪力など見たことがない!
残火の太刀を構える。先ほど真打にしておいてよかった!
「私がお相手を務めます。何卒後ろの者はお気になさらず」
「……ケヒッ」
宿儺はつまらなそうな顔で空を見上げると、下卑た笑みで指をほんの少し動かした。
……!来る!攻撃範囲、広すぎる!威力、しのげぬほどではない。
ならば!
「千本桜!」
「ほう、俺の術式の見様見真似か?いや、落下の情とやらから独自に似たような技を編み出したのか。感心感心」
これは格子状の呪力を刃物化して飛ばしておる斬撃!
似たようなものをさんざん私は振るってきたのだ。ゆえにわかる。
これはおそらく呪力を刃物にして射出する術式だ!概念系の切断ではない!
しかし今の今ですでに何千発防いだ!?これだけ重い斬撃を!?
「だが、いつまで耐えられるかな。そらそら頑張れ。お前の妻子もあの車の中で応援してるのだろう?」
さらに重く多い斬撃!まるで斬撃の豪雨だ!一太刀たりとて後ろには通さぬ!
まだ耐えられる!斬り返せているぞ禪院扇!逃げてくれ、皆!
「ぬぅああああ!!」
「どうした?侍気取り。少しばかり打ち合ったただけで息切れか?この時代の弓取りは軟弱だな!」
「なあに、まだまだ!」
上げていけ禪院扇!ここでこの男を満足させねば累が及ぶのは妻子だぞ!?
どの道三対一。勝ち目などない!今は大切なものを死んでも守る時!
『通話を開始します』
この数日間ついていたコガネが何かを言うと、斬撃が急に少なくなり始めた。
いや、これは……誰かが共に戦っている!?来るなと言うたのに!誰が!?
『おじさん!魔虚羅と因幡を置いておきます!うまく使ってください!』
気が付けば、傷が癒えておる。この反転術式は……そうか!円鹿と脱兎の合成か!
「情けないな、弓取り。ガキに助けられるとは。だがまあ……そちらが三人がかりというならば」
相変わらず斬撃を出しっぱなしにしている宿儺が取り巻きの女共に目配せする。
「ええ宿儺!私も卓につかせてくれるの?うれしいわ!」
「宿儺様が情けをかけてやればつけあがって……お前ひとりの首で済むと思うなよ」
もとより勝ち目のない勝負だ。勝ち筋がわずかでもあるのならば十分!
「仔細、なし」
火の粉のように全力で千本桜の斬撃を出しながら私は残火の太刀を宿儺に向けて構える。
「少しは楽しませろ、干物」
宿儺は二ッと笑い斬撃をいったんやめ、格闘の構えを見せる。
いいだろう、おとぎ話の怪物に立ち向かうは誉れよな。
「……おとぎ話の鬼退治とは、弓取りの誉れ!挑ませていただく!」
全力でいけ扇!直哉のように速く!甚爾のように強く!蘭太のように器用に!
呪力放出、黄金の動き、呼吸術、空を面でとらえる走り。
その他すべての技を踏み込みの速さにつぎ込んで攻撃の隙間を縫って宿儺に近づく。
「星流れ!」
私とてただ頂点に胡坐をかいていたわけではない。
教え子たちから技を逆に学んでいるのだ。
星流れ、その黄金の回転による最適の動きはすでに動きながらでもできる!
「俺に避けさせるとはな!」
よけられたところに拳!この位であれば刀で逸らせる!僅かばかりならば腕を斬れる!
「おっと、そうだった忘れていた。鈍らとは硬いものだったな」
喋っている間にも無数の蹴りと掴み、拳が絶え間なく続く!
わずかばかり宿儺の皮膚を切れたが、薄い!反転術式で秒もなく治っていく!
「ははは、まるで落ち葉だ。なかなかつかめんジジイよ!」
女共は魔虚羅が相手にしているが……長期戦ならば魔虚羅に分がある!
いいぞ……宿儺と私の戦を邪魔せぬように女共は式神を倒すことに専念している!
相手が舐めているからこその均衡!だがそれでいい!
私のやることは時間稼ぎなのだから!
「楽しんでいただけているならば、重畳!」
「ふむ、ならばもう少し上げてやろう。
遠距離攻撃?ここで!?ならばこちらも撃つ間はある!
「焦熱」「紅蓮」「濯がれた魂」
宿儺が少し面白そうな顔をして笑う。
待ってもらっている……!屈辱!
否、己が弱いせいだ。ならば撃たせてもらう!
右手に残火の太刀。左手に術式反転による氷の刀『大紅蓮氷輪丸』
刀を組み合わせ……!術式合成!放つ!
「虚式 滅導炉矢」
「
相手は炎か!
これが本来の術式か!?呪力特性?複合属性の術式?
そのどれもが間違いかもしれぬ。だが迷っている暇はない!
相殺できるか!?できるはずだ!術式の原理から言えば!
それにしても一旦距離を空けねば!もろともに消滅してしまう!
爆発、閃光、轟音。
「ケヒッ、干物も少しは食べ応えがあるではないか。なあ裏梅?」
「はっ、嵩は減りましたが、これはこれで良い肴になるかと思います。宿儺様」
「宿儺ぁ、ビーエム燃えちゃったわ。どうしてくれんのよこのジジイ!」
無傷……!完全に相殺、か。
バカげた威力だお互いに。
「禪院家の車であればこの後好きにお使いください。ただし私を倒してからですが」
よし、わずかに距離が空いた。命がけで稼いだ距離。命を使って稼いだ時間。
これでいい。最低限の時間は稼いだ。あとはどれだけ粘れるかだ!
「あんたの家の貧乏くさい車なんて要らないわよ!最新式なのよこれ!?」
「よいよい、万。その分はこやつの身体で支払ってもらおうではないか」
「チッ、今日の晩御飯になれるのを光栄に思いなさいよ」
魔虚羅、健在。因幡、魔虚羅が懐に入れているのが最後の一体。健在!
まだいける。まだいけるぞ!私はまだ舞える!
「鬼退治で負ければ食われるのもまた弓取りの誉れ!」
黄金の動きで天地灰燼を放つ。
つまり、この天地灰燼は高火力に加え防御不能の性能を持っている。
触れればその部位から終わりだ。
「いちいち煙たい爺だ!受けにくい効果ばかりつけるとは」
「老いぼれの強さは積み上げた小細工の多さですからな」
「減らず口を!」
宿儺の飛ばす斬撃を空を蹴ることで大きく回避。
隙あらば天地灰燼や旭日刃を細かく入れてしのぐ。
「そら避けろ避けろ!その小細工の引き出しを見せろ!」
出し惜しみなしだ!氷輪丸による氷も出し、それを残火の太刀で水蒸気爆発させ。
近づかれれば拳に対し剣という有利を生かしてカウンターで切りつける!
しかし、やはりどうやっても皮一枚、肉一切れほどで回復されてしまう範囲ばかりだ。
心臓も喉も何度か突いた。手ももう5個は落としておる!
人間ならばとうに死んでいる!
それを平然と反転術式で回復し、こちらに反撃する余裕すら見える。
宿儺の広範囲の格子斬撃と格闘技術だけでこちらは手一杯だ。
これがおとぎ話から出てきた化け物か!
くそっ、もっと深く斬れれば……だが深く踏み込めば反撃を食らう。
相手も頭部だけは死守している。守りが固い。つまり脳が弱点か?
だが、とにかく素早く一撃が重い。
この距離で極ノ番を使うタメができる隙もない。
おそらく一度掴まれれば死。あの手の術式が手からも出ないはずがない!
「しかし、宿儺殿……乙な出会いですな。炎と刃。奇しくも同じ構えとは」
「 な に ?」
かくなる上でさらに時間を稼ぐには……口八丁だ!挑発しろ!冷静さを奪え!
いいぞ、確実に頭にきた表情をしている!
「……なるほど。お前からはそう見えるか。なるほど?一理あるとは認めよう。だがこういう物をなんというか知っているか?」
「雲泥の差で?」
「月とすっぽんだ。お前にはすっぽんがお似合いだ」
「ハ、違いない。それでも!」
均衡はまだ保たれている。しかしそろそろ食い破られよう。
しかしヒノカミ神楽に各種剣術をフルに使ってもなお食らいつくのが精いっぱいの格闘術とは!
面白い……久方ぶりだ。格闘で格上に当たるこの時間!絶対不利!だからこそ燃える!
宿儺……あなたに感謝を。燃え殻に火をつけてくれるとは!
「まあこんなものか。ではそれなりに楽しめた礼に貴様に見せてやろう。呪術の最奥を」
そうだろうな、持っていないはずがない。領域展開を!
「領域展開 嵌合暗翳庭」
「領域展開 火火十万億死大葬陣」
私の領域がぶつからずに上書きされていく……?
なんだこれは。どうやっている!?わからん!わからねば!
いやそもそも十種影法術!?なぜ!?
「さあこれで貴様の死は決まった。貴様のほえ面が見たいので少し話してやるか」
領域の闇の中に宿儺が君臨する。その姿、まさに呪いの王。邪悪の化身!
「……冥途の土産話にはちょうど良いかと」
「ケヒッ、その強がりいつまで持つか楽しみだ、爺。ああそうそうこれだがな、見ての通り十種影法術だ」
やはりそうか……その上で嵌合暗翳庭となれば四方八方から宿儺の分身も出てこよう。
……終わりだ。
だが悔いはない。最後に家族を守って最強の敵と戦って死ぬ。過分な最後であろう。
「なんでも羂索が産んだ器を元に、病院……だったか?アレで医者に紛れて十種使いの小僧の欠片を混ぜ合わせて作った体だそうだ。気色が悪いと思わんか?」
無念だ。まだ生きていたい気持ちもある。
だが……ここでこれ以上頑張るのはこの敵への敬意のためだ。
手を抜いては失礼にあたろう。燃えがらに火をつけてくれたのだからな。
「なるほど、ならば得心が行きました」
「なんだ、もう諦めたのか?やはり貴様はつまらん男だ。ああそれとこの領域は閉じない領域だ。この領域に外殻はない。ゆえに押し合いが発生せんのだ」
「ほう、最後に焼き付ける光景として十分な神業……!ですが、勝負を捨てるは、無粋……!」
私は残火の太刀を構え、相手も印を構える。
「龍鱗」「反発」「番いの流星」
「焦熱」「等活」「褪せた魂」
これを四方八方で宿儺の分身も唱えるのだから本当にたまらない。
これは死ぬ前に一太刀与えられれば十分、という勝負だ。
私が死ぬのは決定事項にすぎない。
「解」
「旭日刃!」
この場は片手を守らない縛りにより威力向上した旭日刃による落花の情で受けきる!
自分でもなぜこの期に及んでまだ生きるために力を振り絞っているのかわからん!
ただの負けず嫌いかもしれんな!
「フン、俺の解と打ち合えるとはな。だがまあそれだけだ。さあ死ね往生際の悪い爺」
「ふ、ははは……!剣に生きて58年!ならばみじめに死ぬは必至!さあみじめに死ぬのだ!」
「やかましい」
「殺してみせろ!宿儺ァ!みじめに死ぬのだ!武辺者はみじめに死ぬのだ!」
片手を失い、反転術式を全力で回し。
そして四方八方から宿儺の分身に囲まれ、足を掴まれ殴られ斬られ続ける。
だが私の心は奇妙な爽やかさに包まれていた。
「やれやれ、今夜は爺のタタキか」
もうこの暗さが領域の影なのか、失明したのかはわからない……
暗い。暗い……
ああ、これが死か。これでいい……私は満足だ。
どこかで、パァンと拍手が鳴った気がした。