【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇   作:照喜名 是空

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知らないけどよくある天井

 目が覚めた。

 目に映るのは白いまだら模様の天井。

 緑色のカーテン。ピッピッと音を鳴らす心電図。

 椅子でうとうとしている妻。

 そうか、病院か……?

 

「ここは……?」

「あなた!」

 

 妻がバッと起きて私に駆け寄る。

 

「私は……生きて……?いるのか……?」

 

 ナースコールを押しつつ、妻は涙ぐんで私の両肩をさする。

 

「ええ、ええ!もちろんですとも!京都高専のみなさんに助けていただいて……!」

「……そうか。礼を言わればな……娘たちは?一族の皆は?」

「みんな無事です!あなたのおかげで……!」

「そうか……ならば、それでよい。少し、寝る……」

「ゆっくり休んでください。まだまだ時間はあるのですから」

「うむ……」

 

 私は安堵して眠りにつく。そうだ、死滅回遊は……どうなったのであろうな……

 

「う、うむ……」

「あ!お父さん!よかった、起きてくれて……!本当に良かった……!」

「親父……まだ痛むところとかあるか?」

「お父さん!よかった……!お母さんお父さん起きたよ!」

 

 再び目が覚めるとだるさはかなり消えていた。

 あちこちが古傷のように痛むが、問題はない。

 今はただ、皆が無事ならばそれでよい……

 

「あれから、どうなった……?私はどれほど」

「あれから半月くらいだよ。羂索の側からゲームの延長と期日を申し出てきて、まだ猶予がある」

「……どれほどだ?残り時間は」

「まだ半月以上あるから安心してくれ。親父はゆっくり体を直してくれればいいから」

 

 そうか、反転術式を使わねばな……自力で治してもこの程度か。

 すでに反転術式で治された後という事だな。

 

「あと、医者の家入さんからの伝言だけど『放射線量は思ったよりなくって、大丈夫なラインだった』ってさ」

「それは直哉たちもか?」

「うん。みんな無事。でも……親父の左腕は、残念だけど」

 

 そうか、手は治らなかったか……あれほどの事があって片腕で済んだのならば安い事……

 ん?感覚がある。動かすと……義手か、これは。

 

「義手か。ついているだけマシであろう。なあに、これも使いこなしてみせようぞ」

 

 笑ってみせはするが、やはり喪失感がないわけではない。空元気だ。

 だが空元気を出せるくらいには回復した。

 

「与と真依と真理がメカ丸の余ったパーツ使ってなんとか……動かせるならよかったよ」

「そうか、お前たちが……与くんにも礼を言っておかねばな」

 

 なるほどだからアームズテック社の商標が入っているのだな。

 

「私たちはお父さんの体型に合わせるのを手伝っただけだから……与くんも、それを聞いたら喜ぶと思う」

「その、お父さん。いろいろつけられるようにしたから……だから、大丈夫」

 

 手を動かして義手を見てみる。

 金属製の堅く頑丈そうなサイボーグの腕……少し白っぽい骨が手甲を着けたようなデザインだ。

 指先はちゃんと人形のような球体関節の指がついている。

 

「うむ……支障なく動く。見事だ。これなら……」

「大丈夫だ、まだ寝ててくれよ。暇ならコガネに高専のみんながいろいろ映像つめこんでくれたから」

 

 体を起き上がらせようとすると、真希がそっとベッドに肩を押し付けて寝かせようとしてくる。

 まったく急に年寄りになったかのようだ。

 

「そうか……では久々の休暇と思って今しばらくは身体を休めていよう」

「ああ、頼むよ」

 

 しばらくして妻が戻ってきてすりおろしたリンゴをくれたり、医者の家入君から話を聞いたり。

 ややあわただしい時間が続いた。検査や汚れを落とすための入浴などいろいろあった。

 だが、ようやく椅子に座ってのんびりできる程度には治った……

 

「なあ、お前。私はもう大丈夫だ。娘たちのそばについていてやりなさい」

「わかりました。お食事はここの棚に、冷蔵庫にも飲み物を入れておきました。リハビリもいずれやってくれるそうです。なのであなたも今はゆっくりしてください」

「ああ。苦労を掛けたな……」

「いいえ、それもあなたが私たちを守ってくれたからこそです。それでは、明日また参ります」

「うむ、お前たちもゆっくり休みなさい」

「はい……!」

 

 妻がぺこりと頭を下げ、私は病院の個室で静かにしていた。

 新聞に雑誌、妻が持ってきてくれたのか愛読書もある。

 老眼鏡に虫眼鏡までおいていってくれたとはいえ、いま細かい字を読むのもな……

 そうだ、皆がコガネに映像をと言っていたな。

 

「コガネ、皆が置いて行ってくれたという映像のリストは見れるか?」

『はい、旦那様。私の腹のモニタをご覧ください』

「うむ……ではこれを頼む」

『わかりました、旦那様』

 

 どうせ暇なのだ。状況把握がてら見ておくか。

 

 ■ 

 

 タイトルは『五条悟、夏油と激動の再会』か。

 まあ再会できたならそれでよかった。どれどれ。

 

「どの面下げて帰ってきたんだよ傑」

「こっちは援軍つれてきたんだよ悟」

 

 東京高専らしい一室。五条悟は怒りの顔で、スーツを着た夏油傑は涼しい顔で対峙している。

 

「羂索のクソ女のたくらみをスルーしてご立派な理想を実現しに来たんだろ!?」

「……否定はしないよ。ある程度の犠牲を看過した。それは私の罪だ」

「それでご両親マレーシアに招待して自分はオトモダチとビジネス!?ふざけんなよ」

 

 夏油がため息をついてソファに座る。

 土産らしき飲み物類を紙袋から出して自分もそのうちの一つを手に取った。

 

「批判は甘んじて受けるよ。それよりも、これからのことだ」

「そのこれからってのはそこら中のコロニーや瓦礫になった街を呪霊もどきを使って森にしちまったのと何か関係があるのか」

 

 五条悟もソファにつき、飲み物の一つを手に取った。

 缶ビールらしきそれをプシュと開けて勝手に呑みだす。

 夏油の差し出した乾杯が空を切る。

 

「花御が作ってくれたツリーハウスマンションに問題が?インフラも通ってるんだよ?短期的にはあれで充満した呪力をある程度晴らすことができた。羂索の計画を後ろ倒しにもできた」

「街なくなっちゃったんだけど?どうすんだよこの後」

「瓦礫を撤去して仮設住宅建てるより早いじゃないかどうせ街ごと建て替えるんだ」

 

 ここで夏油はピーナッツか何かの袋を開けて机に置くと、真顔ではっきりという。

 

「……悟、もう何度も言ったけど私は文明をリデザインするつもりでいる」

「だから森でコロポックルみたいに暮らせって!?妄想も大概にしろよ」

 

 ……今はそんなことになっているのか。

 たしかに窓の外から見る緑が妙に多い気がする。

 あの太い木に灯っている明かりはそういうことか?

 

「大雑把に言えばその通りだ。コガネを見ただろ?あれを応用すればスマホ要らずさ。いまアメリカで家庭用発電機を呪力で動かす研究がアツいんだ。車のエンジンにももうすぐ応用できる。なあ悟。森に住んで、スマホを式神で、電力を呪力で代用出来たらそれはだいぶクリーンな世界じゃないか?そしてそれはもう出来る範囲なんだよ。妄想じゃない」

「そういうことを言ってんじゃねえんだよ。それは何百万の犠牲を出してまですることなのかって話だよ」

 

 夏油はすこし黙って缶ビールを飲んだ。

 そして五条をしっかりと見て真顔で言う。

 

「そこまでしてやるべき事だった。そもそも呪術規定8条『秘密』は9条『保護』に反している」

「……またそれかよ」

「何度でも言うよ。世間の大多数が知らずに、少数が血を流す代わりに特権を得る……これで遵法的になるわけがないんだ。治外法権を作ったら無法地帯になるのはあたりまえなんだ、悟。それで傷つくのは非術師や弱い術師……弱者だ」

 

 夏油の独演会はまだ続く。

 五条は耳にタコができたという顔で眉をしかめていた。

 

「世間から認知も名誉もなしに戦う義務があるというのはね、特権意識を持たなきゃやっていられなくなる。その結果がずっと昔からの総監部の腐敗ぶりだ。私は今でも秘匿私刑は法的に立て付けが悪いと思っているよ」

「そこだけは賛成だな」

「だろう?筋の話もしようか。呪霊被害は誰にとっても他人事じゃない。なのに一部が名誉もなくやらされていた。なら、誰にとっても他人事じゃなくすればいい。皆が自分でやればいいんだ」

「……言いたいことは解った。で、だからそれは犠牲を出してまでやることなのか?」

 

 今度は夏油が沈痛な顔になった。

 それは五条悟でもこの話がわからないのか、という失望だ。

 一理ある。一理あるがなあ……しかしなあ……

 

「少なくとも私()()にはそうだった。悟にはそうじゃなかった。それだけさ」

「……わかりあえないってことがわかったよ。もう世間はお前の方向に舵を切ってるのもな」

「そうだね。何が正しかったのかは歴史が決めることだ。そして私たちには支持がある」

「要するになし崩しで変えたかっただけだろ」

「そうだよ。これが汚い大人のやり方さ。悟、僕らはもう大人なんだ」

 

 何というか、良くも悪くも大人になってしまったのだな、夏油君……

 

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