【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇   作:照喜名 是空

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死滅回遊・中章
新世界の休日


 

 いろいろ目まぐるしく状況が変わっていたらしい。

『大東京帝国』は鎮圧された。だが高専の手ではなかった。

 術師集団『ミヤコ教』と米軍の共闘、さらになぜか暴走族集団の加勢。

 どういうわけか、最終的にその暴走族が『大東京帝国』を乗っ取ったそうだ。

 特級の島たちはミヤコ婆たちと相打ち。無害な集団になった。

 結局いまは自警団として再出発したらしい。

 

 おそらくこうした統廃合と平定がそこら中で起こっているのだろうな……

 他人事としてみれば戦国時代のようで面白いが……

 どうせ後で自分も参加することになると思うとな。

 

 憂鬱でもあるが、同時に群雄割拠というものに熱いものを覚える自分もある。

 ニュースというものがこれほど面白く、そして必要な時代はそうないだろう。

 かくいう私も今はコガネに『百鬼夜行と東京高専、歴史的和解』のチャプターをニュース代わりに映させている。

 

「九相図を含めた味方側の受肉術師の引き受けに、さらに呪術高専自体のブランド化。それでどうだい?」

「……いいだろう。悪くない話だと思う」

「~~ッ!学長!」

 

 呪術高専の教師陣相手に『支援プラン』を図解付きで説明する夏油とその秘書らしき女。

 五条悟は理解はしてるが納得は出来ないという様子だ。

 

「五条、弁えろ。お前の力ではなく高専の立場をだ。このさき呪術を教える場は増える」

「だから差別化して高級感出してけって?それは僕たちがやるべきことだろ」

「五条……わかっている。だがそのための資金繰りも含めると、日米政府からの投資は必要だ」

 

 これは五条だけではなく周囲の職員にも言い聞かせているな。あるいは自分自身にも。

 

「……御三家の財力を足しても?あっ、宿儺にパクられたんだっけ現物は」

「そうだ。それに虎杖や九相図たちのこともある……今は生徒の保護が第一だ」

 

 東京高専の忌庫への略奪で九相図も奪われ、受肉したものがどさくさ紛れで投降してきたとか。

 決め手は虎杖悠仁もまた羂索にもてあそばれた兄弟であることだったそうだ。

 あの哀れな亡骸にわずかでも救いがあったならば、それでいいのだろう。

 

「わかった。総監部はどうする?」

「総監部はすでに実質的に敵対状態だ。高専が総監部の頭越しに政府と交渉できる体制が整った以上、いずれそうなるのは明白だった。今も木っ端術師を雇ってはすでに何度も暗殺を仕掛けられている」

「なんなら今もめちゃくちゃな死刑命令を乱発しては日本政府を脅しているよ。もう彼らにはなんの正当性も権力もないのにね。どうする悟。私がやろうか?」

 

 五条悟は渋い顔で首を振る。

 

「……楽厳寺学長が軟禁されてんのもそれでか?」

「ちょっと長めの『視察』に行ってもらってるだけさ。それともバカの命令で楽厳寺学長に死ねと?」

 

 まあ、あの方は総監部がヤケクソで出した死刑命令でもやってしまわれるだろう。

 そんなものであの人の手を汚させないためには必要な措置、か。

 まさに緊急事態の中での超法規的措置らしいな。

 

「なら僕がやる。これは僕がやらなきゃいけないことだ」

「……ならば五条、もう後戻りはできん。東京高専は百鬼夜行と組む……いいな?」

「……わかったよ」

 

 五条は深くうなずくと、立ちあがって伸びをして夏油に近づいていく。

 

「は~!お前には一杯食わされたよ傑。僕が出来もしねえと思ってた事をやっちまうんだからな」

「そうだろ?やってみなければわからないものさ、悟」

 

 五条の顔は憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。

 その青い目が澄んでいた。

 夏油が差し出した握手に五条が応じる。

 これにて東京高専だけではなく五条派と夏油派の歴史的和解が成立した。

 

 ■

 

 だいぶ体力も回復してきた。退院も間近らしい。

 私はすでに病院の売店や近所くらいならば出歩ける許可が出ていた。

 

「らっしゃーせー!甘井製菓店の出張サービスだよー!お見舞いに最適っすよー」

 

 菓子屋の出店か。幼き日々の学校の購買を思い出すな。

 

「呪力満点!店長の術式で作った呪力プリン!東京高専お墨付きっすよ!ほらこれ認定カード!」

 

 長めの金髪プリン頭の若い店長が紙皿の上にプリンを術式でポンと出す。

 見事な腕前だ。それに東京高専の出入り業者カード。あれも本物だ。

 

「さあどうぞ皆さん試食して!」

「どれ、一ついただこう……ほう、なかなか美味いな」

 

 手際よく試食皿に切り分けられるプリンを私は一つ貰って食べてみた。

 万が一毒でも反転術式のある私が先に試せばよいのだから。

 味はどれ……ややチープ感はあるが、それでいてバニラエッセンスや香料のバランスが良い。

 そして、くちどけが爽やかだ。プリンなのにさっぱりしていて、それがうまい。

 何と言うべきか……うまいのだがな。

『高級品を食べたことがない者がセンスを生かして美味しさだけを突き詰めた味』だ。

 しかしたまにはこういった物もいいだろう。悪くない味ではある。

 

「いい味だった。10個貰おう」

「あざっす!ラッピングしますか?」

「なに、見舞いに来る家族に食べてもらいたくてな。身内向けゆえラッピングはいらん」

 

 おや、思ったより呪力の回復が早い。滋養食としてもなかなか効くな。

 

「あざす!じゃあ三千円です」

「うむ」

 

 財布を出して現金で買う。この状況になっては電子通貨はな……

 すでにコガネによるポイント決済が通貨代わりになっているらしいが。

 

「あれ?ひょっとして旦那さんも高専の人すか?」

「うむ、京都高専に娘がな。君は東京高専の出入りならば会う事は少なかろうが」

「そっすか……あの、もし虎杖って俺とタメの兄ちゃんに在ったらお礼言っといてください。たぶんあいつ覚えてねえけど、同じ中学でなんつーか……助けられたんです、間接的に」

 

 ほう、あの少年は中学時代から人助けをしていたのか。

 言葉に偽りなしと言ったところだな。やはり見上げた若者だ。

 

「うむ、私もあまり会うことはないが……もし会えば伝えておこう。君の名は?」

「甘井っす。甘井凛」

「覚えておこう」

「あざっす!」

 

 私が商品を受け取るころにはすでに人だかりができていた。

 おそらくは私が毒見をしたことで警戒が解けたのだろう。

 

 ■

 

 土産を片手にもう少し周囲を回る。

 ……しかしすごいな、夏油くんたちは。

 この埼玉郊外の街ですらすでに例のツリーハウスマンションとやらで復興しつつある。

 

 街は石畳の車道に草の絨毯のような歩道、そして何より……

 家が丸々入ってしまう巨木がビルの代わりに立ち並ぶ。

 くりぬかれた窓から暖かな光が漏れ出ている。

 窓にはまっているのはガラスではなく透明度の高い琥珀か?

 

 電柱の代わりに注連縄が大木と大木の間に張り巡らされている。

 なんなら中には手すりがついて橋として機能しているものすらある。

 そしてそのほとんどが美しく苔むしている……

 

「コガネ、音楽かけて。ユーチューブの再生リスト3で」

『OKお嬢ちゃん!イヤホンはいるかい?』

「あーお願い」

 

 公園に来るとコガネをスマホ代わりに持ち歩く者が多い。

 しかし美しい公園だ……

 芝生がキッチリ生えていて木による生きたベンチが並んでいる。

 ここだけは森が途切れていて青空が見える。

 森の心地いい潤った空気と、木の香りが春風に運ばれて頬を撫でた。

 私はベンチに座りつつ花壇の花と周囲を眺める。

 ……よく見ればこの花は花御の術式による精神安定効果のある花だ。

 そうか。あの方の答えがこれか……

 

「コガネー。ポケモン出してー」

『はい坊ちゃん。それとお母さまから伝言です。ゲームは3時間以内にと』

「えー」

「いいから対戦しようぜー」

 

 コガネの機能はもはやとっくにスマホに並んでしまっている。

 音楽を再生するもの、既存のゲームを片っ端から入れて遊ぶ子供。

 平和だ……あまりにも。

 森の中でツリーハウスに住み、式神を使う生活になっても、人々は日常を続けている。

 たくましいものだ……

 

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