【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
「強いというだけで求められて、それに応えるのが愛、か……」
五条はどこかで感心したように宿儺の言葉を嚙みしめていた。
「わからんでもないで?ムカつけば潰す、気に入れば構う。別に普通やん」
「まあ、たしかに強いというだけで恵まれてるのはその通りだね」
夏油と直哉もうなずきながら観戦している。
次々と双方の戦力が潰し合っているが、彼らの顔にはまだ余裕があった。
「なんで犯罪者に常識説かれなあかんねん。ほんなら奪うなやって話や」
「そこで強者の身の丈ってのがつながるんじゃないかい?まあ、平安人らしいよね」
「拳の現金決済ゆうワケやね。ふざけるなや、僕の家の財産取られてんねんで」
天元はそれを眩しそうに聞いていたが、やがてぽつりとつぶやいた。
「……そろそろだな」
画面の中で、宿儺が初めて膝をついた。
■
「何……?これは……?チッ、異国人共の術式か!大量の術式開示の中に混ぜたな!?」
宿儺の身体に大量の黒い薔薇の模様が刻まれていた。
『その通り。私の術式反転『心を戻す精霊術』は人の心を癒すだけの術だが、それには沈痛、麻酔効果もある。開示したはずだが?気をつけろと言っただろう』
宿儺の身体に走る強烈な激痛。それは体そのものが分解されている感触だ。
『そしてその黒い薔薇ですが、私たち兄弟の術式、蝕爛腐術です。私の血を浴びたものは生きたまま分解される……言ったはずですが?』
「チイッ、領域に降っていた血の雨か!」
『そして私の名前は壊相……呪胎九相図の次男です。羂索……いや加茂憲倫!私たちを、母を弄んだ報いを今受けなさい!友の死をもって!』
万や裏梅、烏鷺も苦しそうな顔をする。そして御厨子を模したお堂にいた羂索もわずかに手足に黒薔薇がつき、顔をしかめている。
「大きくなったね壊相……でも私たちが何の対策もしていないと思ったらそれは甘いんじゃないかな?」
『……あなた、本当に加茂憲倫ですか?体が変われば血の耐性も変わるのですか?そうではありませんよね』
「はは……ごめんね香織さん。バレちゃった」
宿儺は心底興味ない者を見る目で虎杖香織の影武者を見て、ため息をついて首を振った。
「やれやれ、一杯食わせられたな、凡夫共が。そろそろ遊びも終わりにするか。おい羂索の連れ。使え」
「あっ、はい。じゃあ……契象。皆さんも楽園で会いましょう」
虎杖香織の影武者……すなわち夫である虎杖仁は懐から契約書の形をした呪具にライターで火を灯すと、和紙でできた契約書と共に、彼の身体も燃えていく。
それと共に裏梅たちも含めて毒も傷も消えていく。
高専で直哉がアレ僕ん家のやつやん、盗品やんけ、とキレていた。
「では見せてやろう。本物の呪術というものを!」
宿儺の身体がはじけ、煙が止んだ後に見えたのは四本の腕と腹に口のある異形の姿の宿儺だった。
「このうっとしい領域も終わりだ。凡夫なりには頑張ったものではないか?」
宿儺が腕を構える。
「布瑠部由良由良」
ガコンッとどこかで音が聞こえた。
その意味は、すでに『彼』はこの領域に対する耐性を獲得したという事だ。
その名は――
「やれ、魔虚羅」
異戒神将魔虚羅の八握剣が振り下ろされ、複合領域があっけなく壊された。
この時点で東京高専までの距離……400m。
■
「さあ、そろそろ僕たちの出番じゃないの?」
「だね。始めようか」
「ほな、打ち合わせ通りにやね。一級と学生さんチームはここの守りや。特級大人組は宿儺いくで」
五条君の呼びかけに夏油と直哉が答える。
「甚爾くんと真希ちゃんのフィジギフ組は潜伏、伏兵や。ええ感じの所で横やり入れてや。頼むで」
「おう、フル武装二人分たぁ豪華だな」
「倉庫呪霊かあ……飲み込むのに勇気要るよな」
フィジカルギフテッドたちは芋虫型の倉庫呪霊を体に巻き付け、さらに腰に斬魄刀や小さ目の呪具も持っている。
私と真希は一度に限り戦場からの離脱と反転術式による回復の効果のあるペンダントを首にかけていた。
真依と真理の合作だ。
「東堂と憂憂のテレポ組と護衛に冥冥さんもバンバン離脱者を頼むわ」
「今回はギャラがいいからね。その分の仕事はするさ」
「姉様、うれしそうですね」
「言っておくが、俺が戦った方がいいと判断したら俺はやるぞ」
「そのへんはお任せや。柔軟性を維持しつつ臨機応変に言うやつやね」
実際、すでに彼らは何度も離脱や撤退を行っている。
冥冥が怪しげな外人から買ったという『再契象レシート』という呪具。
これで回復していなければ倒れていただろう。
おそらく虎杖仁が使ったのも御三家の忌庫にあった似たような呪具のはずだ。
「じゃあ出撃前に気合入れていこうか。円陣組もう」
「サッカーじゃないんだからさ、悟。でもいいね」
「ほないくでえ……呪術高専、ファイトーッ!」
『おーっ!』
そうして、五条、夏油、九十九、日車、直哉、そして私が窓に足をかけて出撃していく。
必ず勝たねばならん戦いだが、必ずしも勝てるとは限らんのが戦いだ。
それでも、明日の日を見るために征くのだ。
■
現場ではすでにミゲルたちアフリカ呪術部隊に加え、ラルゥたち百鬼夜行が宿儺を押しとどめていた。
「遅いヨ夏油!こっちはもうヘトヘトだヨ!」
「どうした黒いの!踊りはもう終わりか?俺と殴り合える奴が海外にいたとはな!」
「愚痴らないのミゲルちゃん!役目は果たしたわ……」
「させるか!うっとおしい『手』を使いおって!」
ミゲルとラルゥはミゲルが宿儺と格闘を行い、そこにラルゥが『心身掌握』で横槍を入れる。
宿儺がいい当たりを出そうとすればラルゥに『掴まれ』て決定打を出せないようだ。
それでも、何人もアフリカ呪術部隊が地に倒れているが。
そこで夏油と五条がまず先鋒に出た。
「タッチ交代だ!次鋒は僕が貰うよ!」
「ありがとうミゲル。下がっててくれ」
「サンキュー!こいつめちゃくちゃタフだヨ!」
ミゲルたちは夏油の呪霊に乗って後方へ離脱する。
「させん!」
そこに宿儺が『解』を撃とうとするとすでに五条による『蒼』の引力で狙いをずらされる。
「それこそさせねえよ」
「無下限呪術か!とすれば貴様は五条のガキか!」
すでに戦線はあちらこちらで開かれていた。
宿儺の女たちと九十九、日車、直哉が戦っている。
信者たちの生き残りと満を持して出てきた米軍サイキック部隊が戦い合っている。
そして、私もその狂乱の中に入る。
「禪院もいるぞ!宿儺!この盗人が!」
「くたばり損ないのジジイが!盗んだのではない、奪ったのだ!」
「ならばこれも持って行け!千骨!」
義手に仕込んだからくりが作動する。
まず使うは甚壱の術式から真理と真依が再現した無数の拳のコピー!
纏う呪力で肥大した拳を何百と叩きつける!
「愉快な体になったなジジイ!残りの手足も捥いでやろうか」
「おっと僕を忘れちゃだめだよ」
「私もね」
五条が蒼の引力で宿儺の体勢を崩し、そこに夏油が低級呪霊による特攻でダメージを稼ぐ。
「ええいうっとおしい!ならばこうだ。宿れ魔虚羅!」
魔虚羅の法輪が宿儺の頭の上に浮かび、手には輝く剣が握られる。
「ジジイ、貴様の呪力にはすでに適応したぞ!炎にもな!」
「ほんなら僕も忘れたらあかんなあ。『死せ、神死槍』」
「援護射撃しておくよ!行け凰輪!」
ならば、とこちら側は相手をスイッチする。
直哉の神死槍による一秒停止。さらに全身の細胞に対する強制停止。
そこに九十九による仮想の質量を付与した式神による攻撃!
「ぐぶっ!」
宿儺の脇腹に大き目の穴ができ、全身から血が噴き出す。
「宿儺様!」
「おっと、させない。行け冬将軍」
宿儺の援護に女たちが駆けつけるが、もう遅い。こちらはスイッチを完了していた。
「おどきなさい爺!」
「断る」
ドレスの女の術式は空間の操作の類だろう。
ならば黄金の回転とはまさにそういった概念的な防御を崩すためのものだ。
「星流れ」
「かっ……!馬鹿な、空間の面を、切るだと……?」
「空間操作による防御があるのならば、それを崩す技もまたある。それだけのことだ」
あまり人の歴史を舐めるなよ、人を辞めたものよ。
赤いドレスが女の頸動脈から噴き出る血でみるみる更に赤く染まっていた。
「宿儺を殺させるものですか!行け真球!」
「それは武器だな?そして殺意を持って振るったな?開廷だ。領域展開 誅伏賜死」
「宿儺ァァ!」
万が日車の術式に引きずり込まれる。
王手だ宿儺!
「舐めるなよ……領域展開 伏魔御廚子」
来た!宿儺の閉じない領域だ!
「させへんよ。殲景・千本桜景厳」
宿儺の領域が完成すると同時に直哉が一秒停止による防御を付与した千本桜の結界を我々を囲むように配置した。
すぐに宿儺の『解』による五月雨が行われ、無数の斬撃が降り注ぐが、そのほとんどが直哉の千本桜に相殺されて対処可能な範囲に収まっている。
さすがだ。強くなったな直哉……!
「そろそろ私の術式にも適応されるな……アゲていくぞ凰輪!」
「こういう時呪霊操術は便利だよね。行けジャガンナート」
そこを九十九が仮想の質量で押しとどめ、さらに夏油が呪霊で引き潰す。
さらに、五条悟が詠唱を始めた。
「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる」
そして五条悟自身も斬魄刀・天鎖斬月を使い、鎖によるトリッキーな攻撃に月牙を織り交ぜて攪乱する。
「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形」
千本桜で降り注ぐ宿儺の斬撃を防御する。なにかもうこの斬撃も慣れてきた。
仲間に行く斬撃を撃ち落とす余裕すらある。
私もお前に適応しているぞ宿儺!
「結合せよ 反発せよ 地に満ち、己の無力を知れ! 拡張術式 黒棺!」
宿儺に刺さった天鎖斬月から黒い刀身が溶け出してあっというまに黒い立方体になる。
その中からはガコンガコンと高速で法輪が回転する音がしていた。
そして、宿儺の領域が崩れ落ちる。
「斬魄刀は術式を付与できる、自分の呪力を固めて作った武器だ。なら斬魄刀の中は術者の領域と言えるだろ?そして斬魄刀の形は自由だ。敵を囲む箱型の斬魄刀があったっておかしくない。その黒棺の中は無量空処と同じ、無限の情報空間だ。無限の適応に無限の情報。さあどうなるかな」
そして、40秒ほどの間我々は裏梅に対処できた。
「宿儺様!宿儺様を解放しろ!この下郎共が!」
「できん相談だな。貴様らはそう言ってきた者を嘲けり笑ってきただろう」
「この狼藉者どもがーっ!」
必死の形相で吹雪や氷を飛ばしてくる裏梅だが、炎と氷ならば相性として私が勝つ。
義手に仕込まれた機能をさらに使う。
『飛び猿の忍び斧』。これは呪具に恵の十種のうち満象の『重さ』を加えた斧だ。
重さ1トン近くになった斧が氷で防御する裏梅の首にのしかかっていく。
「離せ!従者とは主の最後までを見届けてから死なねばならんのだ!」
「……左様に申すならば先に逝って黄泉路の先駆けになるがよいでしょう」
「貴様ぁーっ!」
やがて、万と宿儺の拘束が同時に解ける。
満身創痍で意識が混濁しつつもなおこちらを睨む宿儺。
法輪はガコンガコンと異常な速度で回転し……やがてガコ、ガコと不自然に止まり、崩れ落ちた。
「オーバーヒートしちゃったみたいだね、魔虚羅」
「く、そ……ぎょ、玉犬!くそ!ならばこうだ!」
液体金属を新たに構築して宿儺の元に駆けつける万がこちらにも攻撃してくる。
だが玉犬は出ない。どうやら魔虚羅の破壊により損傷がほかの式神にも及んでいる。
だがそれでも次善の策を出してくるのが呪いの王だ。
式神ではなく、十種影法の影を操る力を使い、不定形の影で応戦してくる。
何なら裏梅を押さえつけている私にも影で石を投げてくる。
影から出る手でひっかき、なんとか斧を押しとどめようとすらしてくる。
「裏梅、宿儺を守るわよ!」
万が攻撃してくるが、液体金属など容易に蒸発させられる。
「万……宿儺様を、頼む」
手ごたえ、あり。裏梅の首から血しぶきが私にかかった。
今の私は鬼の形相であろうな……
「馬鹿!チクショウ……宿儺!今は少しでも傷をいやして……」
夏油と直哉が万を攻撃する。その間も五条と日車が遠隔で宿儺を叩き続けていた。
無限の情報でほとんど朦朧としながらなおも格闘を続ける力はあるとは。
まさに呪いの王だ。
「させへんて」
「なぜこの数の呪霊の嵐をさばき切れるんだい!?火事場の馬鹿力とでもいうつもりか。この女誑しめ!」
宿儺を守るように万の球体が構築される。
私も切ってみるがなかなか硬いな。だがなかなかだ。
「直哉!いくぞ!」
「せやね。回転の奥義っちゅうやつをよく見ときや」
黄金の回転による斬撃により、金属の真球という『防御』はあっけなく割れた。
だが切り抜くことはできん。宿儺の『解』により剣筋をそらされた。
そこから出てきた宿儺は万を抱きしめ、そして地面に優しく下ろした。
万はあれは……死んでいるな。
「……呑め、野晒」
万の手に抱えられた抜き身の斬魄刀を宿儺が構える。
解号と共に、形は変化して巨大な戦斧へと変わった。
斧はチェーンソーのように細かく振動し、空気の面を叩き続け……
やがてバチバチと黒い火花を帯び始める。
そうか、何万回も一瞬で空気の面を叩けば、1回は黒閃を出す。
その繰り返しで自己強化を重ねる……そういう斬魄刀か。
「今までは行きがかりだった……だが、今、明白に俺自身の意志で貴様らの目的をへし折ってやりたくなった」
側女は倒した。最大の脅威である魔虚羅も壊した。
……だがここからが本番だ。
窮鼠猫を噛むが始まる。
「貴様らに勝った後に、巨大呪霊を連れて日ノ本を潰す。貴様らが守っている他者とやらを悉く殺してやる」
呪いの王の本気の呪詛の言葉。
その威圧に息が詰まりそうだ。
「それはまだ気が早いんじゃないの?」
「せやね。君らが始めたことやん。やり返されたくらいで何言うてはるの?」
「悪いけど踏み台になってもらうよ、呪いの王」
五条、直哉、夏油が息を整えて軽く返す。まだ意気軒昂といったところか。
「第二ラウンドだ宿儺。六対一だけど……卑怯とは言うまいね?」
九十九の言葉に合わせ、私と日車が無言で斬魄刀を構える。
「かかってこい羽虫共が!」
人外魔境東京決戦はついに終盤へと進んでいく。