【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
外で宿儺との激しい戦闘が起きているころ。
虎杖たちは天元の居場所にさらに近い空性結界の迷宮にいた。
共にいるメンバーは恵と脹相、乙骨とリカだ。
「に、しても本当に来るのかなあいつ……」
「来るだろ。宿儺と影武者までして陽動してるってことはその間に確実に来る」
「来る。加茂憲倫とはそういうやつだ」
三人は所在なく空性結界の白い八角形タイルの敷き詰められた部屋をウロウロしていた。
「なんか、来たかも」
リカが何かの気配に気づき、入り口を見る。
そこから出てきたのは壊相のようだった。
「兄さん!散相たちが……!」
「まて、壊相。合言葉だ。加茂憲倫は?」
「……クソ野郎?」
壊相が答えるまでには一瞬の間があった。
脹相は手を打ちあわせ、百斂を構える。それだけで全員に伝わった。
「合言葉なんてあるわけないだろうが!ひっかかったな加茂憲倫!」
「あーあ、バレちゃったか。君が私に一杯食わすなんてこれが初めてじゃないかな?脹相」
壊相だった姿が砕け散り、虎杖香織の姿に戻る羂索。
手にはやはり艶羅鏡典。
他者の斬魄刀を写し取るという最悪の斬魄刀。
「四海啜りて天涯纏い、万象等しく写し削らん……また君らか。我が息子たち」
「加茂憲倫……!いや、羂索!母の恨みを思い知らせてやる!」
虎杖香織はふわりと浮いて上からつまらなそうに溜息をついた。
「またそれか。本当に君たちは普通でつまんないよね脹相。悠仁きみもだよ。なんなんだろうね。私からは普通で面白みのない子しか生まれない因果でもかかってるのかな」
虎杖は苦しそうに眉を寄せ、そして拳を構える。
「だから……だからなんでそんな人を傷つけることしか面白いって言えないんだよ母ちゃん!もういい加減にしてくれよ!」
羂索はゆるりと艶羅鏡典を構え、鼻で笑った。
「人を傷つけない生易しい笑いのどこが面白いんだい?竜戦虎争のハラハラドキドキのアクションの方が面白いだろ?要するにスパイスさ。長生きするとなんにでも飽きてくるんだよね。だから人生にスパイスが必要なんだよ」
羂索の息子たちの呪力ボルテージが高まる。
「それで母ちゃんの都合で誰も彼も踏みにじっていくのが、俺は許せない」
「いいぞ悠仁!お前の身勝手な欲望で踏みにじられた母と弟たちの痛みをお前も味わえ」
リカがつまらなそうに溜息をついた。
「サイッテー……憂太、もうやっちゃおう?このオバサン」
「ああ、リカ……寄越せ、最初から全部だ」
「そうこなくっちゃね!」
乙骨の指輪使用によるリカの完全顕現が始まる。
「典型的な呪詛師だな。自分が面白けりゃ何やってもいい……何も面白くねえんだよお前ら」
禪院恵が拳を突き出す。
「布瑠部由良由良」
史上初、魔虚羅の同時顕現が行われた。
「魔虚羅ね。初手出し得なのはわかるけど、知ってたかな。十種は魔虚羅が核の術式だ。じゃないと一つ一つ術式を持った式神を十体も従えられない。魔虚羅が破壊されればほかの式神も使えなくなるんだ。それでも初手に出していいのかなそれは?」
「つまりお前もやっぱり出されたくないってことだろ」
羂索はふわりふわりと魔虚羅の攻撃を無重力特有の動きで逃げながら刀身のない斬魄刀、艶羅鏡典を振る。
「序盤はこれでいいかな。来い、来訪瑞獣」
艶羅鏡典に刀身が戻る。それは七海の鉈にひどく似た猪野琢真の斬魄刀のものだった。
「行け、獬豸」
片手で顔を隠した羂索が艶羅鏡典を振ると、無数のドリルコーンのような『角』が無数に顕現し、魔虚羅と乙骨たちに降り注ぐ。
その数、千では足りぬ。雨あられのように呪力によるミサイルが降り注いだ。
「させねえ!穿水!」
「おお、お兄ちゃんも行くぞ!穿血!」
「「親殺し行きまぁす!」」
羂索の攻撃をふせごうと兄弟ダブル穿血を連射して撃ち落とそうとする。
「この場面で穿血は凡策だよね。初速がせいぜい銃弾くらいで、よく見てれば怖くない。あとから追尾性を付けたとしてもどうせ遅くなるから当たらない。この場にふさわしい技じゃないよね」
「それはどうですかね。リカ!」
「うん!やっちゃおう!」
乙骨が斬魄刀を片端から生成しては投げつける。
リカはリカ自身のマシンガン型斬魄刀『
石流の銃型斬魄刀を見て数日前に思い付きで作ったそれは一級呪霊ならば一発で祓える威力。
虎杖兄弟の狙撃、乙骨たちの弾幕、禪院恵の魔虚羅による格闘。
そのすべてを羂索は――
「格闘に弾幕。まあ普通だよね。でもこの場は普通じゃないんだよ。とっくに異常なんだ」
艶羅鏡典の刀身がまた変わる。それは虎杖のそれに酷似していた。
「液体って言うのはこう使うんだよ愚息たち。振る舞え、御贄」
羂索が刀を振るたびに津波のような大量の水が押し寄せた。
床にたまり、天上からも滴る。
天井から落ちた水は過冷却により液体窒素並みの極低温になって学生たちを襲う。
床の水は逆に煮えたぎる。
もちろんこの場にいる全員が空中戦闘を可能にする鍛錬は積んでいるが……
「水は張った。じゃあ調理開始だ。うまく避けなよ?『解』」
宿儺を彷彿とさせる無数の斬撃が飛ぶ。いやらしいことに宿儺のように格子状ではなく乱切りだ。
「切れたら電子レンジでチンだ。穿て『厳霊丸』」
艶羅鏡典の刀身がレイピアに代わり、無数の電撃が濡れた学生たちに襲い掛かる。
「あとは軽く焦げ目をつけて出来上がりさ」
炎の壁が同心円状に広がり、逃げ場なく炎を広げる。
「だいたいわかりました。その刀、要するに僕たちの術式と似たようなものでしょ」
炎が去った後、残るのは……未だ、脱落者なし。
形意拳で魔虚羅を宿した禪院恵が『適応』。その陰に虎杖兄弟が避難。
乙骨はリカの陰に隠れ全力での防御。
それぞれ、怪我はあるがまだ反転術式の範囲内。
呪術高専学生チーム、いまだ戦闘可能。
「そうだよ?この艶羅鏡典は他の斬魄刀の術式をいくつもコピーして蓄えておける。本来は呪具としての斬魄刀だけだったけど、がんばって技術の斬魄刀もコピーできるように拡張したんだ。だからここから先は私の術式デッキと君のデッキ、どちらの構築がうまいかの勝負さ」
「俺たちも忘れんなよ母ちゃん!」
「兄弟の絆と母の恨み、侮るな!」
羂索はため息をついて心底つまらないものを見る目で息子たちを見る。
「だからさあ、君たち凡人は場違い……へえ」
「ダブル!」
「超新星!」
羂索の死角にすでに配置された氷の塊と血の塊が手榴弾のように爆ぜた。
しかし、それも虎杖香織の反重力機構の反転により撃ち落とされる。
「ふうん、君がMTG始めた時に無限コンボ1ターンキルで泣かせてやったのを忘れたのかな悠仁。水ってのはこう使うんだよ」
「羂索ゥ!貴様は悠仁にそんなことまで!」
床にたまった水がウォーターカッターとしてひゅ、ひゅ、と全員に向かう。
なんなら壁や天井からも鎌や腕の形状をした、一発貰えばズタズタに切り裂かれるのがわかりやすいものも織り交ぜてある。
360度を気にしながら戦わねばならない弾幕戦が再開した。
「あーもうオバサンうっとおしいよ!」
リカのマシンガン呪力砲が火を噴く。
「だよね。悪いけど僕らはあなたに付き合いません」
「そういうことだ……もう考えるのはやめだ。好きにやらせてもらう。黒めよ、一文字!」
禪院恵の斬魄刀が満を持して登場する。
それはまるで正月の巨大習字で使う槍ほどもある極太筆のようだ。
その炭に染まった筆先からぼとぼとと墨が落ちる。
「この場のすべての黒は、俺の影だ!」
羂索が満たしたはずの水が見る間に黒く染まり、ウォーターカッターが止んで代わりに無数の不定形の式神たちが出る。
蝦蟇、大蛇、満象。
蝦蟇や大蛇が舌を伸ばし、水で加速して体当たりをひっきりなしに行い、満象が墨を吸って羂索にその鼻で吹き付ける。
「チッ、コントロールを奪われたか。もはや消すこともできないな。いいねえ!場があったまってきた!」
「なら俺も混ぜろよ後輩の母ちゃん。あったまって来たんだろ?」
「秤金次か!不死身だけが取り柄ではねえ!」
すでに大当たりを引いている秤金次、参戦。
羂索は火炎と斬撃を併用して射撃戦の構えを取るが自動反転術式により秤はそのすべてを受けながらドロップキック!
反撃で刀を振るおうとした瞬間、拍手がパァンと鳴った。
羂索に手ごたえ、なし!
「水臭いじゃないかブラザーズ!世界を賭けた世紀の一戦だ俺も混ぜてくれ!よろしくお願いしますお義母さん!」
そして高専のジョーカー、東堂参戦。
「いいね、ヒリついてきた」
羂索は舌をぺろりと出して嘲う。
「うげ、ゴリラ……まあいいや役には立つし。いくよ憂太!」
「ああ、攻め時だ。東堂!」
「応!」
そして虎杖が叫ぶ。
「総攻撃だ!いくぞ皆!」
「オーケーブラザー!いつも通りだ!信じろ!進め!」
「ああ!」
秤と虎杖、乙骨が前衛にスイッチし、東堂が戦場全域を見て入れ替え。
恵とリカが後衛で援護射撃。
1級はすでに超え、特級に手がかかりつつある若者たちによる総攻撃だ。
「なるほど!そこのチョンマゲがムードメーカーか!術式も面白い……!なら!」
「させん!今だ乙骨!」
拍手が鳴り、勝負の時が訪れる。
「領域展開 真贋相愛」
「領域展開
羂索の神業、閉じない領域と現代の異能、乙骨ペアの領域が同時に展開した。
「甘いなあ!閉じない領域なら私にだって……何!?外殻の強制付与だと!?これは……天元!貴様の仕業か!」
「遊びは終わりだよ羂索。いい加減にするんだ」
天元の声が響く。
天元により外殻を無理やり付与された羂索の領域はもはや閉じている。
ゆえに、乙骨の領域と押し合いと均衡による両立が起きた。
ならば、顕現する領域とは……
「なんだ……こりゃあ……」
「あ、これ俺ん家のキッチンだ。乙骨先輩のは……剣の丘で結婚式?」
二つの領域が半々で押し合う領域だ。
秤がつぶやき、虎杖が気色悪そうな顔で言った。
「みんな!僕らがとっておきのを探すまで時間を!」
「応!急げよバカップル!虎杖、このクソ親一発殴ってやれ!お前ができる親孝行だ!」
「押忍!」
「舐めてもらっちゃ困るかな、愚息」
そこからは羂索による必中の斬撃、炎、水に対処しつつの格闘戦だ。
炎と斬撃は反転術式で耐えしのぎ、水だけは夏油から差し入れられたとっておきの黒縄の欠片で対処する。
「さてと、そろそろ見つかったかな?それとも時間切れかな?」
「もう見つかってますよ。誅伏賜死。開廷です」
「は?」
羂索の領域が崩壊し、乙骨とリカ、羂索がしばらく消える。
そして皆が息を整えた後……
「
軽蔑の顔で艶羅鏡典をくるくる回すリカと処刑人の剣を構える乙骨がいた。
「なあに、御贄も反重力も私の術式だ。悠仁、君は十月十日私の体内にいたんだよ?術式をコピーする条件内なんだ。外付けのストックが無くなったところで……」
そこでふいに全員にコガネが顕現し、事務的に更新を伝えた。
『死滅回遊は終了しました。これからはソウルソサエティ.netが始まります。更新を始めます。少々お待ちください』
空性結界にノイズが走り、いやにカラフルな結界に変わる。
そう、まるで結界の主が代わったかのように。
「だから言ったじゃろう。妾は天元様で、天元様が妾じゃ!ならば天元様の結界術を受け継げるのは妾を置いて他におらん!」
「羂索、君は何度も何度も術師の呪物化を私に見せてくれた。習得する時間も存分にあった。そして、子供たちの命を奪って命をつないできた私にできる贖罪がこれだ」
空性結界の壁に天内理子の姿が映る。
そして、天元は天内の手の平に口だけが出ている状態だった。
「は?あれ。あ、そうか。じゃあつまり」
「結界そのものが相続、更新される以上天元様の結界頼りの死滅回遊は終わりじゃ!そして融合先の天元様も……」
「私はこれから天内理子に取り込まれる。だから進化もすでにリセットされた。やがて私は消える。お前が求めていた融合先はもうないよ」
空性結界の壁に移される天内理子はめちゃくちゃダブルピースをしていた。
「共存型受肉……!天元!私はこの世界を生きてきたんだ!お前と違って!お前なんかと違って!他人の命にすがって生きる貴様のような化石が私の計画を打ち砕くなどと!」
「祭りは終わりだよ羂索。私もすぐに逝くだろう。もう終わりにしよう、友よ」
その時、東堂の不義遊戯の拍手が鳴り、羂索の目の前にずっと潜伏していた禪院甚爾が心臓めがけて天逆鉾を突き刺してきた。
「えっ?」
「どうだ、術式も呪力もねえ筋肉だけで殺される気分は。最悪の術師様?」
さらに後ろから乙骨の処刑人の剣が!
「処刑執行です」
「あっ」
羂索は自らの死を悟った。
「いやだーっ!私は、私は羂索だぞ!?私の夢を終わらせてなるものか!ここからが面白いはずなんだ!いやだ!いやだやめろ!まだ、まだもっと遊びたい!もっと心から笑える面白いものが……!」
空性結界にプロジェクションマッピングされて天内理子の手の甲の天元が無情に告げる。
「だめだ。終わりだよ、羂索。もう逝く時間だ」
「うわあああーっ!いやだ、私の死に方がこんなつまらないものなんて、いやだ……!あっ」
そして、羂索に処刑の術式効果による死が追いついた。
羂索は何の策もできぬまま、死んだ。
「終わった……のか?」
虎杖がつぶやき、脹相が肩を叩いた。東堂もそれに続く。
「ああ、終わったんだ。奴にみじめな死をくれてやったんだ。母も……少しは浮かばれるだろう」
「そっか……そうだな」
「ああ!俺たちの勝ちだブラザー!」
わぁっと皆が喜ぶ声がした。
羂索は死んで皆に喜ばれる死に方をしたのだ。
「あとは宿儺だけか……」
恵が墨塗れの床に膝をつく。
「いや、見ろよもう向こうも終わりだぜ。よくやったんじゃねえか?恵も」
「そーかよ……」
「お前、また背伸びたか?」
「1センチくらい」
「……そうか」
コガネのモニターの向こうでは、宿儺との戦いも決着がつきつつあった。
■
宿儺との戦いは佳境に入っていた。
日車が宿儺の斬魄刀を『没収』し、さらに五条と夏油による遠隔攻撃。
そこに九十九、直哉、私による近接格闘。
さらに、九十九の作り出した隙に直哉がヒノカミ神楽の本来の形をヒットさせた。
ヒノカミ神楽とは本来十三の型を連続して行い、十三の型は一の型につながる無限の連続攻撃。
その一つ一つが宿儺のような怪物を相手にして逃がさずに攻撃し続けることに特化している。
ましてや直哉と私の二人で13×2で行い続ければ……
「終わりや宿儺!ここからは無限ハメ技ループや!」
「我ら二人による二重ヒノカミ神楽!抜け出せるとは思わないでいただこう!」
宿儺が領域展開をしようと印を結べば日車がその手を狙い『処刑人の剣』を振るう。
「領域てんか……クソが!」
処刑人の剣から逃れるには効果が全身に回る前に刺された部位を切り落とすしかない。
「まだだっ!」
宿儺が影を操り私たちの足元に落とし穴を作る。
だが、それも予想済みだ。私たちは空を蹴って上に上がる。
そして地面にいたのは……
「宿儺、お前は死刑だ」
私の後ろに隠れていた日車が宿儺の腹から顎先までを縦に切り裂いた。
丹田、腹、心臓、顎。
これらを処刑人の剣で切った。
その技の名前は……無明逆流れ。
「丹田と心臓と頭部を捨てられるのならばやってみろ」
「それより辞世の句を詠んだ方がええんちゃうん?最後くらい往生際ようせな」
宿儺は極限の怒りの表情をしたあと、スッと平坦な顔に戻った。
「終わりか」
「そうだ」
「……俺は呪いの王という身の丈にあった人生を生きた。そのことに一片の悔いもない!」
宿儺は天に拳をかざして吠えた。
「俺は、最後まで呪いであったぞ!」
そして、そのままゆっくりと倒れ伏した。
日車が処刑人の剣で頭を刺すが、もう宿儺は動かなかった。
……死んだのだ。呪いの王は。
世界を賭けた戦いは、終わった。
七月一日に立っていたものは呪いではなく、人だ。
人が勝ったのだ。