【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇 作:照喜名 是空
「おじさん、俺より強いんだって?じゃあ試そうぜ、どっちの呪いが強いかを」
兄と縁側で茶を飲んでいたある日のことだ。
禪院家のすべての結界を一瞬で突破されて白髪の少年が庭にいた。
白髪、碧眼、着物姿。その物言い。
そうか、あれが五条の神童か。
「お前は、五条の……試すとはおだやかではないな」
私は兄をちらりと見る。兄がうなずいた。
どうやら穏便にと言う方向性はあっているようだ。
「何、ビビッちゃってんの?それとも刀がなければ戦えないの?じゃあ持ってくるまで待ってやるよ。早くしなよ時間ないんだからさ」
「五条の坊よ。これは珍しい客人だ。ならばもてなすが禪院の流儀……見た所組手をご所望の様子。ついてこられよ、道場がある。庭で致すのも一興だが、こういうのは場を整えた方が雅と言うもの」
また兄をちらりと見る。うなずいた。これでよいらしい。さすがだ兄者。
「まあ、俺らが暴れたら庭ぐちゃぐちゃなのはわかったよ。お客扱いなら、あんまり待たないよ俺」
私は出来るだけ社交的な笑顔でうなずき、席を立って道場へ案内する。
その隙に兄が事態を収拾するためにそっと離れた。
「ああ、万事心得ておる。なあに任されよ。すぐに立ち合おうではないか」
「は~、なんか普通って感じだね。そんな強そうなのに」
「覇気がない老骨でも、童の遊び相手位はつとまろうとも」
「は?ガキって言った今?」
そうして軽口をたたきつつ道場についた。
道場では躯倶留隊が甚壱の元で稽古をしていた。
甚壱は五条悟を見て一目でただごとではない、と気づき私の目を見た。
私はできるだけ平然とうなずく。心配するなと。
「ああ、甚壱。すまないが客をここでもてなしたくてな。立ち合いをお望みだ。すまんが道場を貸してもらう。かまわんな?」
「扇さん。……わかった。それでいいんだな?当主様は?」
「もちろん話は通っている」
「……フゥーッ。俺は当主様の方に行ったほうがいいんだな?それもこいつらといっしょに」
「ああ」
もちろんこの会話の意味は穏便に皆を避難させろ、に他ならない。
隊の皆もただ事ではない空気に気づき、得物を収めて私を見る。
「急な話で済まんな。何しろ時間がないそうだ。客人をお待たせするのも申し訳ない」
「……わかった。稽古は中止だ!蘭太、直哉。お前たちはこいつらを連れて当主様の元に行け!」
「は、はい!わかりました甚壱さん!直哉さんも速く行こう」
「……わかったわ、お客様のためやもんなぁ?」
直哉は五条の坊をただならぬ目で睨んでいた。
「直哉!」
「はいはーい、そない言わんでも聞こえとるよ甚壱くん」
甚壱が直哉を怒鳴りつけて急がせる。
実際いつこの五条家の爆弾が爆発するか私にもわからんのだ。
「で、内緒話は終わった?」
横にいる五条悟が呪力を練り始める。
待っていられないという雰囲気だった。実際、家を抜け出してきたのだろう。
穏便に……時間を稼ぐ。そして五体満足で帰っていただく。
それがおそらく兄の狙いだ。ここはうまくお茶を濁して健全な組手でもてなした、とするべきだろう。
「ああ、お待たせいたした。ではここを使おう。互いに開始線の位置に立ち、礼と共に組手を始める……それでかまわんな?」
「構うよ。おじさん呪術師で剣士じゃん。例の刀を使えとは言わないけどさあ、木刀も持ってこないって俺をナメてない?」
「……では、お客人も何か得物を」
「いらねーっつってんじゃん。早くやろうぜ」
あまりにもわがまま勝手なボンボン仕草に苦言を呈したくなる。
しかしお客としてもてなすというテイだ。我慢しよう。
私は木刀をわきに抱え、白線の位置についた。
「特別特級術師、禪院扇。よろしくお願いします」
「ただの五条悟でーす。よろしくね。じゃあやろっかぁ!」
呪力が練られ、一瞬のうちに青い呪力塊がまるで早撃ちのように何発も飛んでくる。
おそらくこれが「無限」。ただの呪力塊ではない。打ち合うべきではない……
回避一択!
青い無限を逃れつつ五条悟に近づくルートはすでに見えている!
「はぁっ!」
弾幕をするりと抜ける。こんなものは早く避ける必要はない。
落ち着いて隙間を歩けばよい。
呪力強化を木刀の頑丈さに振り、五条悟に8割くらいの鋭さで足を狙った切り上げを行う。
ふわり、と何かに阻まれた。この手ごたえは呪力防御ではない!術式だ。
これも無下限の力なのか!?
真綿に包まれるように阻まれておる。刃を引き、構え直す。
「へえ、やるじゃん。でも俺素手でも強いよ」
なるほど、たしかに早く、強い。年の割に巧妙だ。
だが体術ならば剣の道理が生きる!
床を足で打ち、空を面でとらえて駆け巡り、もう一度木刀を振る。
だが振った先にはすでに私を見ている五条悟の青い瞳があった。
「へえ、速いね」
「なんの!」
傲慢だが穢れなき瞳。
私のあのくらいの年のころに比べればなんと真直ぐな瞳か。
五条家はどうやら昔の禪院家にくらべればずっとまともらしい。
「よそ見するなって!やっぱ舐めてるでしょ」
木刀はやはり無下限らしき術式に阻まれ届かない。
だが反撃をもらう前に引く。
続いて例の青いのが今度は散弾のようにばらまかれる。
だが、やはり記憶の中にいる猛者達に比べると甘い。
狙いが雑だ。弾帯の速度が遅い。避けるのは十分に可能。
横目で見た破壊跡を見るに破壊力こそ強いが、毒のような複雑なギミックはない。
「なに、ずいぶんと真直ぐな目をされていると思ったまで」
「ねー、このまんま千日手ってやつ続ける?刀なり術式なり使おうよ」
「あくまで組手でのもてなしであって、刃をぬくわけには」
「じゃあ抜かせてやるよ!」
今度はがむしゃらな突撃だ。
素手による拳撃はずいぶん鋭い。才を感じる。
とくに呪力操作の精密さと滑らかさは私に迫るほどだ。
だがそれだけだ。
直哉や蘭太より三段上ほど、素手の勝負でいえば甚壱とどっこいだろう。
だが甚爾には遠く及ばない。
つまり、避けられる。ただ歩いているだけでな。
拳の範囲よりほんの指一本外れていればいいだけ……
だが、こちらからどれだけ木刀を振ってもふわりと結界のようなものに止められる。
たしかにこれは千日手だ。
無下限は無限を操る術式、とは聞いたことがある。
ならばこれは……
「私と客人の間に無限の距離を持ってきたのか?」
「正ッ解!で、どーすんの。これが禪院家のもてなし?ぜんぜん食い足りないね!腹ペコで客を帰すのが禪院のやり方かよ!」
「……左様か」
ならば少しばかり大人げない手を使わせてもらう。
私はわずかに距離を稼ぐと構えをした。
これはシン陰流でも簡易領域でもない。
ただの技だ。されと人が連綿と紡いできた技だ。
「……虎眼流、星流れ」
「へえ、縛りか。それとも簡易領域……いや、落花の情?乗ってやるよ!」
構えを取り、技の名を開示し、さらに様々な縛りを重ねたこの技。
元より威力の高い技だが、縛りによりさらに磨きがかかった。
デコピンの要領で刃先をつかんで溜めて振る。
その際に刀の柄を滑らせて間合いを長くする。
それだけの技が、縛りと呪力により変貌を遂げる。
世界を貫通する斬撃に
木刀の刃は五条悟のこめかみにかすり、脳をわずかに揺らし、薄皮一枚だけ血を流させた。
かくっ……と一瞬だけ五条悟は膝をつき、3秒ほどで体勢を立て直し、不思議そうに額から出る一滴の血を手に取って眺めた。
「……あれっ。あれ!?マジで!?すげえ!どうやったのおじさん!何やったかまるでわからねえ!無下限に近い感じか?なんだこれマジわかんねえ」
「……悟殿。これにて引き分けといたしましょう」
私の顔には歪んだ笑みがあったかもしれない。
あとで刀禅にはげもう。
それに、この技は疲れるのだ。
星流れの術理に加え、本来投石術であるはずの技の術理まで混ぜておる。
元々は戦国時代にあったとされる甲冑型呪具による防御をすり抜ける……
いや、こじ開けるためのしろものだからな。
これには極限の黄金比での体捌きが求められる。
まるで馬が草原を走るときに、走るための身体に感謝するかのように。
水がガラスのコップを流れるように……
そうあるべき流れとでも言うべき、あまりにも滑らかな動きがこれを可能とする。
……要するに精妙な技なのだ。
「おいおいなんで?ここからが面白いんだろ!」
「そうですなあ。悟殿。で、あればこそです。また会う時まで取っておくのが楽しみになりましょう」
私は兄の気配を感じていた。で、あればすでに状況は解決したはずだ。
「お客人、お迎えが来ておるぞ。今日はこれでお開きとしようではないか。子供は親御の迎えで遊びから帰るもの。さあ、もう時間だろう」
兄の後ろには真っ青な顔をした五条家の者たちが十人ばかり勢ぞろいしていた。
「げっ……はーっ、ちぇっ!ちぇーっ!なんだよもう時間切れじゃん。なんだよもーっ、大人ってずるくない?」
「悟様!」
五条家の者たちは怒り心頭の様子を抑えて五条悟を囲む。
「若様がお手数をおかけいたしました」
「うむ!なあにこうしたことから数百年の両家の因縁が解れていくと儂は期待しておる。正直、もてあましておるのだろう?」
「我々からはなんとも……ほら!悟様!」
兄者が五条家の者に笑いかける。
こうしたところが政が上手いのだろうな。
「わかったよ……じゃあまたなおじさん!」
五条悟が私に手を振った。
頭を下げるべきか考えたが、両家は対等なのだから私も手を振り返す。
「当主様からしっかりとお叱りをうけてもらいますからね!」
「その前にアンタも叱られるだろ」
「だとしてもです!では、失礼いたしました」
五条悟はおつきの者たちに両手をしっかりとつかまれて去っていく。
その顔はどこか楽しそうだった。
思えば、武者修行に出ていた私もあんな顔をしていたかもしれぬ。
「うむ!またな!五条の坊!」
この状況で豪放に笑って見せる兄はやはり度胸があるのだろう。
「いずれまた。今度はもう少し穏便に来られよ」
「じゃあなー!」
私は軽く頭を下げて去っていく五条家の者たちを見送った。
そして姿が見えなくなると、兄と二人してそのへんの廊下の椅子に坐り込んだ。
「なんとか……なったな。よくやった」
「ああ、なんとかなった。兄者よ、あれはもっと伸びるぞ」
「……だろうな、これを奇貨とするしかない、か……こういうことがあるからこの世は面白い!」
「……面白い、か。たしかにな」
五条の坊との組手は久しくなかった対等の闘いを感じさせた。
術式を攻略するあの感じ。手ごたえを感じた。
もう何年かすればもっと手が付けられなくなるだろう。
だが、そのいつかを私は待ち遠しく感じるのだ。
なお、五条悟の無限を破るには単に領域展延をつかえばよかったのだと気づくのはだいぶ後になる。
>世界を貫通する斬撃
宿儺のとはちょっと仕様が違ってどっちかといえばタスクACT4です
完全なる防御概念貫通攻撃って感じですね
でもいろいろごちゃまぜなので全身の細胞が回るとか魂まで跡形も残らないのはオミットされています。
そもそも手加減してますしね。