【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇   作:照喜名 是空

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真希が扇を親父ではなく父さんと言っているのはまだ小さいからですね。
まあ若干のゆるゆる時系列なのでご愛敬ということで……


双子

 五条の坊の襲撃は家の者たちにとって良い刺激になったようだ。

 負けていられぬ、そういった覇気を特に直哉から感じる。

 最近はよく甚爾に稽古をつけてもらっているようだ。

 

 やや焦りを感じるが、それでも甚爾と稽古をしている直哉は本当に楽しそうだ。

 なんとか空を面と捉える技を再現しようとしている。

 この分では1秒間の停止を主軸に据えた兄者とは違う形の仕上がりになるかもしれん。

 

 おそらくは一回り小さな甚爾と言う形になるだろう。

 先達として思う所はあるが、それが直哉の進みたい道ならばまあ仕方ない。

 いずれ己の道も見つけてくれると兄者は信じている。ならば私も信じるほかあるまい。

 

 そして、そんなうちに娘たちも呪術を習い始めた。

 だがやはり呪術において双子とは難しきもの。

 真希はわずかな呪力が縛りになってフィジカルギフテッドをうまく使えぬ。

 真依は術式の呪力消費に苦しんでいた。

 

 我が子の苦しむ様に臓腑が焼かれる思いだ。私たちがちゃんと産んでやれれば。

 幾度そう妻と話し合ったかわからぬ。

 だが結果はかわらない。過ぎたことを悔やんでも仕方ないのだ。

 もう少し前向きに双子の呪いを解く方法を見つけてみせる、と私は妻を励ました。

 

 それから私は禪院の忌庫に入り浸り、久方ぶりに呪術の仕組みを習いなおした。

 兄とも何度も話し合った。

 たとえば何かいい式神や呪霊はないか。

 他にもっと良い呪具はないのか。海外はどうだ。

 都合よく縁だけ切れる術式などないのかと。

 

 結果として言えば……あった。

 安井金比羅宮。

 非術師でも結果が出るほどの強力な縁切り神社。

 おそらくは神がいる。

 そこに一縷の望みがあるかもしれぬ。

 

 流刃若火をたずさえ、私は娘たちを連れて東大路へと急いだ。

 妻もついてきた。

 その目は決死のものだ。

 場合によっては「縛り」として生贄になることもためらわぬ。

 そう、わかった。夫婦の仲だ。わかるものだ。

 

「よいのか」

「ええ、私も禪院の女。覚悟はできています」

「……その時は、共に」

「あなた、ですが」

「親が子の足を引っ張るなどあってはならぬ。子は……家の未来なのだ」

「わかりました。地獄へも共に参りましょう」

 

 娘たちは遠くで先に進んでいたが、何かを察したのか振り向いた。

 

「……おとうさん?」

「とうさん……」

「よいのだ。何でもない。ただ、忘れてくれるな。お前たちは我が人生の誇りだ。何があってもな」

「おとうさん、私」

 

 私はただ微笑んで首を振った。皆まで言わずに良い。

 

「それでも、お前たちの父は呪術師なのだ。娘の呪いも解けぬのであれば私は恥ずかしくて生きておられぬ」

「……おとうさん」

「わかった、とうさん。でも、死ぬ前提でやるなよ。とうさんはどんな戦いでも諦めない人だろ」

「わかっている。良く育ったな。真希、真依」

 

 静かに娘たちを抱きしめ、目の前の黒々とした神社を見る。

 幸い、兄が夜明けまでは人払いをしてくれた。帳も下ろしてある。

 今夜で、決める。

 

 目の前にドーナツ型の呪符を張られた大岩……御神体がある。

 千か万にも達する符はそのすべてが縁切りのために書かれた願いだ。

 それはまさに呪い。

 御神体そのものが呪具であり神だと私の呪術師としての感覚が言っている。

 

 まずはきちんとお参りし、娘たちにそれぞれ符を持たせ、ドーナツ側の輪をくぐらせる。

 符にはこう書かれている。

 

『私たちの双子としての縁を切り、姉妹として縁を結び直してください』

 

 ……と。

 二人がご神体をくぐった瞬間に異変は起こった。

 

『舞え』

『神楽を奉納せよ』

『剣士よ』

 

 声が、聞こえた。ご神体から。

 真依と妻も顔を見合わせた。真希は気づいていない。

 つまり、これはここの神の言葉なのだろう。

 ならば、私にはちょうど今まさにささげるべき舞がある。

 

「……ヒノカミ神楽にて。朝まで舞いまする。これは縛り。ゆえに、何卒神直びにて娘たちの縁の結び直しをお願いいたす」

 

 さあっとぬるい風が吹いた。

 やれ、ということなのだろう。

 私は静かに流刃若火を抜き、神楽を始めた。

 

 これはある地方都市に武者修行に行った際にそこの門下生からならったもの。

 彼は喜んで古文書を見せてくれた。

 そこには千年に至る呪詛師と思わしき者との戦いが記されていた。

 

 これは、その中興の祖が編み出した退魔の舞い。

 神楽そのものが剣術の型になっているのはなかなか興味深いが、その根幹にあるのはある特殊な呼吸だった。

 これはおそらく呪力のない者が「縛り」だけ課して疑似的にフィジカルギフテッドになるための技術。

 禪院家の呪術書にも一説として呪力と縛りは別々のシステムではないか?という考察があった。

 

 どうやら、それは当たりだったらしい。

 莫大な肺活量を求められる呼吸をするにつれ、疲労が薄れ、力が湧いてくる。

 だがこのままでは肺がもたん。

 ゆえに反転術式を回しつつ神楽を舞い、呼吸を乱さず朝まで続ける必要がある。

 

 過酷な縛りだ。だが、今こそ命を燃やせ。

 地獄を見てでも娘たちを救うのだ。

 

 何時間がたっただろう。

 娘と妻は跪いて目を閉じて祈り続け、私は頭がもうろうとしつつも舞い続けている。

 

 やがて、己の身体に何かを感じ始めた。

 妻と娘の身体にも、「なにか」が重なって存在しているのを私は認識した。

 

 まるで黒閃を決めたときのようにその「なにか」の核心をつかみつつある感触がある。

 そして空が白み、太陽が見えた瞬間……私は理解した。

 それは「魂」なのだと。

 

 そして娘たちの魂は細い帯でつながっている。

 あれを絶たねばならない。あれこそがおそらくは双子の縁そのものだ。

 だがどうすればいい?この場で空間を絶つ斬撃を進化させる?何に?

 魂を断てばよいのか?それとも世界?あるいは因果?

 

 そう、迷った時、師の声が聞こえた。

 

『扇よ。見えたようだな。儂を解放せよ。真打のわしであれば魂とて焼き尽くせよう』

「師よ……感謝いたします!我今こそ悪縁を絶たん!真打……残火の太刀!」

『叫べ!この技は……』

「極の番……!」

 

 脳裏にしっかりと思い浮かんだ。これが魂を焼き尽くす刃!

 残火の太刀の本質は……魂を斬る刀!

 

「旭日刃!」

 

 妻の横をすり抜け、真依と真希の間の帯を断ち切る。

 極限まで圧縮した炎を刀に纏い!

 これが私の全力だ!焼けよ、焼けよ!悪縁を、呪いを灼き溶かせ!

 

 じゅ、と私たちをあれほど苦しめていた悪縁は飴のように焼き切れた。

 神社の境内の砂利も深くえぐれたように蒸発させてだ。

 

 その瞬間から真依の身体から莫大な呪力が。

 真希の身体から呪力が消え、代わりに巨大な存在感が。

 それぞれせき止められていたダムを解放したかのようにあふれ出たのだ。

 

 ……成功だ。

 

 思わず私は膝をついてしまう。

 

「金毘羅の神よ……感謝いたします」

「おとうさん!」

「とうさん!」

「あなた……!」

 

 私は微笑んでいたと思う。朝日に照らされた我が最愛の家族に。

 

「お前たちは……我が人生の、誇りだ。何度でも言うぞ。生まれてきてくれて、ありがとう」

「ええ、あなたたちを、産んでよかった!おめでとう」

「ありがとう、ありがとうございます。お父さん……」

「とうさん……これが私の力だってのか……ありがとう、もう休んでくれよ」

 

 言われずとも、もう限界だ。

 意識が暗く、落ちる……

 

 ■

 

 私が目を覚ましたのは三日後だった。

 肺にわずかな損傷とひどい筋肉痛があったが、反転術式で緩和した。

 まあ明日には道場に立てるだろう。

 

「無茶をしたな、扇」

「多少の無茶で娘たちの未来が切り開けるならば、安いものだ」

「お前でも筋肉痛になるんだな」

「私も驚いた」

 

 見舞いに来た兄者はやはり自らりんごをむいてくれた。

 やはり、昔から変わらぬ気遣いだ。

 リンゴの堅い果実が、私の勝利の味に思えた。

 

「それで、娘たちは?」

「呪力は安定しておる。見違えるばかりよ。誇れ、お前が勝ち取った結果だ」

「……ああ」

「今は休め。体が治れば……久しぶりに組手でもしようではないか」

「……兄者」

「なんだ?」

「……ありがとう」

 

 兄者はフッと笑って親指を立てた。

 

「安いものよ」

 

 今はただ、眠ろう。泥のように。

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