【完結】残火の太刀を持ってるタイプの禪院扇   作:照喜名 是空

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漏瑚

それは躯倶留隊の任務の付き添いの帰りだった。

思えば躯倶留隊も強くなった。

 

呪力放出と呪力操作の合わせ技で「飛ぶ斬撃」を皆が習得してからかなりたつ。

呪力操作で呪力を薄く、鋭く刃にして、それを呪力放出に乗せて飛ばす。

誰が名付けたか「月牙」の愛称で呼ばれる技術だ。

 

ゆえに、三人がかりでならば一般隊士でも一級呪霊を倒せるかという試金石的な任務だった。

首尾は上々、さしたる負傷もなく呪霊は倒された。

私が剣を抜くこともなかった。

……成功だ。

 

だがその気のゆるみがいけなかった。

生きて帰るまでが任務と子供でもわかっていることだというのに。

 

私たちのベンツが先導、隊士たちのハイエースが後ろについて高速道路を降りてやや人寂しい道を走る。

その時、悪寒がした。

これは、呪力!それも並大抵ではない。特級……!それも中堅以上!

 

「扇様……?なにか、おかしいような」

 

運転手ですら何かにきづいたようだ。

間髪入れず私は指示を飛ばした。

 

「敵襲!すぐに止めよ!後続に連絡!最優先だ!」

「はっ!」

 

さすがは家に仕えて長い窓だ。即座にハザードランプからのクラクション三連。

この合図で敵襲が伝わる手はずだ。

急ブレーキの加重をいなし、私はすでにシートベルトの帯を焼き切っていた。

 

「私が出る!生存を最優先に家まで撤退!」

「はっ!扇様、せめて帳を!」

「無茶はするな!逃げよ!」

 

ドアを開けて流刃若火をたずさえて外に出る。

いかん!ハイエースに火球が!

 

「ぬうっ!天地灰燼!」

 

呪力を飛ばす「飛ぶ斬撃」に呪力特性を付与して放つ。

それだけの単純な技術「燃えながら飛ぶ斬撃」。

だが、飛んでくる火球に間に合うか!?

 

「月牙!」「げつっ、月牙!」「今だ訓練の成果を見せろ!月牙!」

 

その刹那、ハイエースの天井を突き破っていくつもの月牙が飛び、わずかに火球をそらし、私の天地灰燼がそのすべてを相殺した。

……間に合ったのだ!

月牙を編み出したのは無駄ではなかった、あの僅かな抵抗が命をつないだ!

 

「信郎!撤退だ!逃げよ!」

「扇さん、しかし!」

「私一人ならばなんとかなる!」

 

出ようとする信郎に私は刀を構えたまま止める。

 

「足手まといってわけですかい……了解!ご武運を!」

「死ぬでないぞ!」

 

くそ!ダメ押しの火球に虫型の式神まで!

だがこのような時のためにつくっておいた技がある。

落花の情の自動迎撃と燃えて飛ぶ斬撃を組合せ、領域範囲を「守るべき範囲」と同期させ……

迫りくるすべてを飛ぶ斬撃で撃ち落とす!

 

つまりはCIWSやファランクスとよばれる現代兵器と同じ発想だ。

それもいつしか落花の情の派生であることからこう呼ばれた。

呪力による刀片が桜吹雪のようだと。それは――

 

「落花の情が崩し!千本桜!」

 

まるで焼夷弾のような爆撃をすべて迎撃し、撃ち落とす!

よし、ベンツとハイエースが踵を返して走っていく。

おや、帳が降りた。

 

「まったく、撤退を最優先としろといったのに……」

「ハ、弱者の醜いあがきだ。小細工を弄し、みっともなく逃げる。貴様らにはお似合いの様だな」

 

相手はすでにそこにいた。

道路の真ん中に降り立つ小さな影。

老人ほどの大きさの人型。火山のような頭に単眼。

人間のような服を着た呪霊。

人語を介している……やはり特級か。

 

「……目的を聞いておこう」

「探りを入れても無駄だ」

「否。ただ何のために私とお前が命をかけるのか、それを知らぬまま死ぬのは哀れと思ったまで」

 

呪霊の顔が目に見えて怒りに染まった。

見た目通り熱くなりやすいようだ。

ただ本音で語っただけなのだがな。

 

「哀れだと……?これから死ぬ貴様が?わしに?」

「どちらでもよい。この戦いに何の意味があるか知りたくなったまで」

「醜悪。弱者の戯言だ……だが知りたいならば聞かせてやろう!」

 

そう言って呪霊は手を広げて演説し始めた。

聞いてやろう、何のために死ぬのかくらいは。

 

「貴様のその余裕ぶった態度!そのような嘘、欺瞞!そのような表に出す偽善はすべて偽り!人を呪う心こそ真実!ゆえに……その呪いから生まれた我らこそ真の人間!呪いこそ真に純粋な感情なのだ!」

 

そこまで言って私をにらみつける。

 

「ならば、まがい物は消えてしかるべきだ……ゆえに最も邪魔な貴様から消してやろう」

「……なるほど、そうか」

「そうか!?そうかだと!?返す言葉もなしか!語るに落ちたな!」

 

議論をお望みのようだ。ならば返そう。

闘いの前にはふさわしい。

 

「……一理ある。たしかに呪いこそ偽りがない。正の感情はいわば雑味。そう断じる考え自体は理解できた」

「ならば」

「だが、私はその雑味も捨てたものではないと思っている。ゆえにお前と剣を交えるのだ」

 

もう信郎たちはすっかり逃げおおせただろう。帳も十分。

互いの理由もわかった。ならばもう何も案ずることはない。

奇妙に高揚した空気が漂った。

ああ、これは……互いに屠るに十分な敵、という理解だ。

 

「くっくっく……驕り、偽善!なるほどやはり貴様はわしと雌雄を決せずにはいられんらしい!」

「ふっ……そのようだな、呪いよ」

 

はっはっは……という笑みから全力の戦闘態勢に入るまで互いに一瞬だった。

 

「ヒャアッ!」

「はっ!」

 

ぼこり、と私の足元に小さな火山ができてまるで光線のように火を噴く。

だがそれを見る頃には私はすでに空を蹴って斜め上に逃げていた。

 

「避けるか!弱者らしい!」

「弱者か……ならば火山の呪霊よ。人の火を味わうがよい!」

 

ギアが上がり切っていない今、強めの火力をぶつけておくか。

それで殺せればそれまでの相手だったということ。

相手も手の先に圧縮した火球を構えて迎え撃つ姿勢……

好い勝負だ。ここで畳んでしまってもよい。

 

「極の番……旭日刃!」

「舐めるなァ!」

 

全身全霊の呪力と極限まで圧縮された最高火力。

さらに残火の太刀による魂への干渉効果。

さあ、どう出る火山の呪霊よ。これが人の力、文明の灯だ。

お前が人になり替わるというのであれば、これをしのいでからだ!

 

「ぐっ……馬鹿な……」

 

呪霊の片手は肘まで炭化していた。

どうやら私の炎のほうが打ち勝ったらしい。

 

「なるほど……認めよう。貴様は弱者ではない……乗り越えるべき敵だ」

「それは光栄だ。私如き超えられぬようでは人を滅ぼすなどできはしない」

「ならばこそ、証明してやる。構えろ、どちらの炎が本物か。ここで決める」

 

呪霊は炭になった片手を修復すると拳法のような構えをした。

おそらく、極の番か領域展開へつなげるつもりだろう。

 

「……いいだろう、来るがいい。呪い」

「……漏瑚だ」

「禪院扇」

 

名乗りが合図だった。

来る!まずは打撃を交えた手からの熱線に、地面や壁からの噴火。

通常技のすべてを使ったラッシュの速さ比べというわけか。

 

「甘い!」

「まだまだ!」

 

だが、通常技での練度比べは私に分がある。

殺意の流れを読めば狙いはわかるし、狙いがわかれば余裕を持って回避できる。

近距離での打撃戦も熱に耐えうる刀がある時点で私の有利。

だがおそらく、それでも相手が攻めっ気を出すのは私の手を封じるためだろう。

 

「領域展開ッ!蓋棺鉄囲山ッ!!」

「領域展開、火火十万億死大葬陣」

 

私の領域展開だが、本来は炭による式神の必中が効果だ。

しかし私にはそれは特に有用ではなかったのでかなり手を加えている。

簡単に言えば古文書にある彌虚葛籠に近い運用。

術式による必中効果や完全回避を打ち消し、ただの斬り合い殴り合いを強制する……

それだけのもので、それだからこそ相手の領域や術式に合わせて相殺するためのもの。

必中必殺はなく、閉じ込め効果や外殻の強さも相手に合わせて変える余地を残した。

本質は領域展開の効果につきあわない領域。

 

「やはりこの程度の熱では焼けてくれんか!禪院扇ィ!」

「心地よい火加減だ。ここでならば全力が振るえよう」

「ほざくな!受けてみよ!極ノ番・隕!」

 

天からおよそ数百メートルはある燃える隕石が降ってくる。

ならばやはり全力の一撃で応じるのが礼儀というもの。

 

「術式開放……真打、残火の太刀。極の番・東。旭日刃!」

 

真っ二つに割るのはできる。

だがこの質量ではそれでは足らん。

サイコロのように切り刻め!

 

「わしの隕まで……だが、まだだ!わしのマグマこそ本物だ!」

 

領域の熱がすっと冷め、漏瑚の手先に火球として集まる。

おそらくは今思いついた即席の技、即席の縛り。

だが今までのどの炎より熱い。

おそらくは発動後に一時的な不利を縛りにした一点賭け。

そしてそれすら見せ札で、外した後の立ち回りもおそらくは考えていよう。

 

「だとしても人の灯はあなたを超えていく。それをお見せしよう」

 

残火の太刀に炎を宿し、相手のボールが来るのを待つ。

そうだ、まるでこれは野球だ。まるで幼き日のようだ。

 

「いくぞ人間!」

「来い!呪霊!」

 

漏瑚の手先から極限まで圧縮した火球が放たれる。

私は剣をぐるりとバットのように回転させて真芯で炎のボールを捉えた。

火球を絡めとり、自らの剣の炎と合わせて漏瑚に打ち返す。

 

「がああああっ!?」

 

そして、領域が壊れた。

残っていたのは首だけになった漏瑚と破壊跡の残る夜の道路だ。

 

「なぜ……だろうな……人を欺き、騙す呪いのはずのわしが……貴様と正々堂々の勝負したくなってしまった」

 

漏瑚はひどくおだやかにつぶやいた。

 

「誇りをかけた戦いとはさようなものでしょう」

「そうか……誇りか。だが、不思議だ……楽しかったのだ」

 

不思議に、聞く気になってしまった。

それでも、いつでもとどめを刺せるように、横やりが来ないように警戒しているが。

 

「ええ、私も楽しかった」

 

ゆっくりと、燃えて消えていく。

きっと、偉大な荒ぶる神として鎮まることもできた魂が。

 

「そうか、たのしかったか……むねんだ……それでも、くいは、ない……」

 

呪いは静かに消えて行った。

この魂にも、いつか救いというものが来るのだろうか?

闘いの熱が引いた後は、いつもどこかさびしい。

 

さて、どうやってここから家に帰った物か……

 




大変申し訳ないんですが、たぶんみなさん原作と比べて「順風満帆すぎる」とお感じの事と思います。
すいません、そういう作風なんです…
苦渋とか喪失とかそういうのはあんまり得意ではなく…
強いて言えば「順風満帆のままどんどんインフレしていって、その結果裁量と責任が際限なく膨れ上がって行くのが苦痛」とかそんなんが限界です…
技量が足りないのもあるんすけど、そういう性癖なんすわ…ごめんね…
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