青空の下で、管理人と司書補は何を見る 作:Olrand621
少女に案内され、俺たちはようやく、目的地であるアビドス高校へと辿り着いた。
調べた範囲では、ここは本館ではなく、別館のうちの一つということだったが……。建物はとてもそうとは思えないほど大きく、過去の栄光を強く感じる。
少女は校舎内をしばらく歩くと、教室の中の一つの前で立ち止まり、ドアを開けて中に入った。
「ただいま」
「おかえり、シロコせんぱ…い?」
「…入って構わないか?」
「ん、大丈夫」
「なら…邪魔するぞ」
「うわっ!?何っ!?ていうか誰!?」
シロコと呼ばれた少女と一緒に俺たちが入って来たことで、猫耳が生え……待て、何故猫耳が生えている?というか、そういえば未だに少女の名前を聞いていなかったな…。そして今更ながら、シロコと呼ばれた少女にも狼の耳が生えている。シャーレ奪還の時に協力してもらった、羽川にも翼が生えていたから、これもキヴォトス人の特徴の一つなのだろうか。
「わあ、シロコちゃんが大人を拉致して来ました!」
「拉致!?シロコ先輩が犯罪に手を……!?」
「拉致ではない、自分の意志で着いてきている」
「……ってことは、まさか詐欺……!?」
「……お前、信用されてなさすぎじゃないか?」
「ん、気にしないで」
「何故それで気にせずにいられると思った?……とにかく、詐欺でも何でもなく、私たちはこいつに案内してもらっただけだ」
「うちの学校に用があるんだって。ほら、あの支援要請の」
先ほどの反応を見るにさらに疑われる可能性もあるため、支援要請と手紙を取り出して少女たちに見せた。
「自己紹介が遅れたな。俺はシャーレ顧問のXだ」
「シャーレ直轄事務所『傘事務所』代表、バイパーだ。よろしく頼む」
「同じく傘事務所所属フィクサー、エレナだ」
「……え、ええっ!? まさか!?」
「連邦捜査部シャーレの先生!?」
「わぁ☆支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい! これで……弾薬や補給品の援助が受けられます」
「弾薬の援助が必要となると……何かに襲撃でもされてるのか?ここの問題は砂嵐だけだと思っていたんだが」
「はい……ここ最近は、毎日襲撃を受けているんです」
「毎日?よく今まで耐えられたな……」
補給も満足に出来ない状況で、毎日襲撃を凌いできたとなると……。この少女たちは、恐らくかなりの実力を持っているな。
「そうだ! 早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……。……あれ? ホシノ先輩は?」
「委員長なら隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」
「……待て。この気配は……」
バイパーとエレナが警戒の色を滲ませる。その瞬間、外から銃声が複数の銃声が聞こえた。
「ひゃーっはははは!」
「攻撃、攻撃だ! 奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている! 襲撃せよ!! 学校を占領するのだ!!」
「……どうやら、件の客のようだな」
「ぶ、武装集団が学校に接近しています! カタカタヘルメット団のようです!」
随分とふざけた名前をしている……と思ったが、都市にもそんな名前の裏路地組織があった気がする。*1
そんなどうでもいい事を考えていた間に、猫耳の少女が戻って来た。
「ホシノ先輩を連れてきたよ! 先輩! 寝ぼけてないで、起きて!」
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよ~」
「……この銃声の中でまだ寝ようとするのか。大した度胸だな」
「ホシノ先輩! ヘルメット団が再び襲撃を! こ、こちらの方はシャーレの先生と傘事務所の方々です!」
「ありゃ~そりゃ大変だねぇ~。……あ、先生? と護衛の人たち?よろしくー、むにゃ」
「……よろしく頼む」
猫耳の少女に荷物のように抱えられながら、いかにも眠そうな様子を見せる少女にそう返しつつ、バイパー、エレナとアイコンタクトを取る。
──今、俺たちは確実にかなりの敵意を向けられた。念のため、注意しておく必要があるだろうな。
「先輩、しっかりして! 出勤だよ! 装備持って! 学校を守らないと!」
「ふぁあー……これじゃあ、昼寝もできないじゃないか~、ヘルメット団め~」
「待て」
すぐにでもこの教室を飛び出し、迎撃しようとする少女たちを止める。胡乱げは視線を向けられるが、無視しながら話す。
「お前たちは今、弾薬が不足しているんだろう?校舎の入り口側に車両が停めてある。先にそこから物資を持って来い」
「えっ!?でも、それだと──」
「バイパー、エレナ。打って出ろ。指示はこれを通して出す」
「了解した、管理人。指揮を頼むぞ」
俺が事前に用意した端末を投げ渡すと、二人はそれを耳に付け、窓から飛び降りた。下を覗き込んでみれば、既に二人は着地してヘルメット団とやらの集団に向かって走り出していた。
そのまま指示を出そうとする俺に、眼鏡をかけた少女が明らかに焦った声を上げる。
「先生!?あの人たちには、ヘイローが─」
「分かっている。だが……」
俺は、自分たちに近づいている二人の人影に気付く気配もない、哀れな集団を真っ直ぐに見据えた。
「あいつらも……、そう簡単に死ぬほど、弱くはない」
「アビドスの奴ら、出て来ねぇな?」
「もう諦めて逃げ出してるんじゃないスか?」
「まあ、こんだけ襲撃掛けてれば、良い加減あいつらの物資が無くなる頃でしょうしねぇ」
「はっはっは!もう奴らの負けは確定したようなモノだな!」
周りと異なる赤いヘルメットを被った、ヘルメット団のリーダーと思われる少女は、その時ようやく、自分たちの方に、銃すら構えず、剣を持って歩いてくる二人の存在に気が付いた。
「あ?アビドスにあんな奴らいたか?」
「なんだあいつら、剣なんて原始的なモン持ちやがって」
「銃も構えてないし、降伏でもしに来たんじゃないスか?」
「ま、そんなん関係ねーんだけどな。……やっちまえ!」
相手を無力だと舐め腐りながら、ヘルメット団は射撃を開始した。実際、その判断は何もおかしくはない。キヴォトスでは、ほとんどの者が銃を持っている。そんな中で剣を持つというのは、調子に乗った馬鹿か、キチガイだけだ。故に、このヘルメット団たちも、一方的に倒せる相手だと思ったのだ。
ただし、それは目の前の二人が"都市の人間でなければ"だ。
「……は?」
ヘルメット団の誰かが、そんな惚けた声を上げた。自分たちが撃った弾を、その二人組はあろうことか避けるでもなく、武器で弾きながらこちらへ走り始めたのだ。しかも、その速度が尋常ではない。彼我の距離は20m以上離れていた筈なのに、目を離した瞬間に目の前に来てしまいそうな程の速さだ。
「だ、弾幕を張れ!近寄らせるな!」
目の前の信じがたい光景に狼狽えながら、ヘルメット団のリーダーはさらに射撃を続けるよう指示する。しかし、二人組は止まらずに、黒と金の服を着た女──エレナが前に出て、弾丸を防ぎながら、最低限の敵だけを倒し、最短距離で自分へと近付いて来る。
「来るな、来るなぁぁぁ!?」
近付いて来る二人に対して半狂乱になりながら乱射するが……、それでも、二人の動きは止まらない。そしてついに、隊の中でも後ろの方にいた、自分の目前まで迫ってきた時、スーツを着崩した男──バイパーが前に躍り出た。
窮錯する視界の中、ヘルメット団のリーダーは慌てて銃口をそちらに向けようとするが……
「遅い」
その男が剣を振りかぶるのが見えた次の瞬間、ヘルメットを砕きながら、リーダーの体が打ち上げられた。
「うそ……だろ……」
その言葉を最後に、ヘルメット団のリーダーの意識は途絶えた。
「……これで最後か」
その呟きとともに、鋸のような刃が下ろされる。先ほどまで銃声が鳴り響いていた校庭には、今や沈黙と、気絶し、拘束されたヘルメット団だけが残っていた。
戦闘の一部始終を見ていたアビドスの生徒たちは、開いた口が塞がらない状態になっていた。当然だ。ヘイローが無く、自分たちよりも遥かに身体能力の面で劣る大人、それもたった2人が、一切の火薬を用いずに、ヘルメット団を圧倒してみせたのだ。
「戦闘終了。拘束した奴らの回収に行くぞ」
誰も言葉を発さない中、唯一人、繰り広げられた戦闘の内容に一切の驚きを見せないXは、アビドスの面々に淡々と指示を出し、教室を出て行く。
その言葉に、呆然としていたアビドスの生徒たちが慌てて動き出し、Xを追いかけて教室を出た。
ただし、その中で一人、小鳥遊ホシノだけは……。
Xの背中に、強い疑念の籠った眼差しを向けていた。
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