青空の下で、管理人と司書補は何を見る 作:Olrand621
今回なんと6000文字近くの長文です。途中で区切った方がいいか?と思った頃には遅かったんだ。許してくれ……ゆるして……くれぇ……(獣並感)
あと今回は、前半はバイパーの回想、後半3人称でお送りします。
UA5000突破しました!こんな駄文を読んでくださり、誠にありがとうございます。今後もXと司書補たちの物語をお届けしますので、どうぞよろしくお願いします。
俺の記憶は、裏路地で同年代のガキ共とつるんでた所から始まる。──ああ、裏路地ってのは、お前が想像してる通りの場所じゃない。俺たちがいた世界……都市は、「巣」と「裏路地」に分かれているんだ。都市には全体を牛耳る25の超巨大企業、「翼」ってのがあってな。それらの庇護を受けられる、主に翼で働く「羽」が住んでいる比較的安全な場所が巣、それ以外の場所が裏路地だ。裏路地では基本的に物資は常に不足してるし、金は命より重い。少し前まで一緒に話してた知り合いがいつの間にか死んでる事なんてザラにあるし、殆どの人がそれを気にも留めない。そんな地獄みたいな場所だ。
……悪い。嫌な話だったな。
話を戻すが、俺はそこで、同じくらいの歳の奴らとつるんで、ゴミ漁りやらスリやらで、何とか生き残ってたんだ。当然毎日がその日暮らしで、酷い時は人肉を食うことすらあった。
……親はどうしたのかって?……まぁ、簡単に言ってしまうと、俺もそいつらも親がいない、捨て子だったんだ。産んだは良い物の、金が足りなくなったから放り捨てる……。そんな感じのよくある話だよ。
で、俺たちはそうこうして、10歳くらいまで生き延びてたんだが……。その頃、たまたまゴミ漁りで良い物が出てきたり、スリが上手く行ったりしてて、全員とまでは行かないが、何人か調子に乗る奴が出てき始めたんだ。
……大体察せるだろ。そうやって調子に乗った奴の一人が、手を出しちゃいけない相手に手を出してしまったんだ。
フィクサー……今の俺たちと同じで、便利屋みたいな物なんだが、今まで一般人にしか手を出してなかったのに、それなりに階級のあるフィクサーにスリを仕掛けちまった。まあ、そいつがどうなったかなんて言うまでもないと思うが……。問題は、盗った財布を持ったそいつが俺らの方に逃げて来たことだ。
そのフィクサーは盗られた財布を取り戻すついでに鬱憤を晴らそうとしたのか、逃げ回ってる俺たちの仲間を手当たり次第に殺していった。
……結局生き残ったのは、運よくそのフィクサーに見つからずに済んだ、俺ともう二人だけだったよ。他の奴は頭を踏み砕かれたり、胸を貫かれたり、見ちゃいられない有様だった。
生き残ったもう二人と一緒に仲間の血に塗れてそこを後にしながら、俺は思ったんだ。
このどん底では、いつ、どこで、どんな風に死ぬか分からない。生き残るためには、力と金が必要だってな。
それで俺たち3人は、まず金を確保することから始めたんだ。色んなところに頼み込んで、何とか働き先を見つけて、必死に働いた。──最も、ガキだからってことで給料は散々値切られたがな。
ともかく、そんな感じで……7年だったか。ずっと働いて、ようやく資産って言える資産が確保できた頃だ。俺たちは小さいビルの一角に、自分たちの事務所を開いたんだ。俺が代表で、従業員は俺たち3人しかいなかった。けど確かに、俺は自分たちの事務所を持てたんだ。
と言っても、最初の頃は事務所を持つ前と大して変わらない。猫探しをしたり、ハナ協会……フィクサーを統括する協会が公開してる、簡単そうな依頼を受けたり。雑用って面では、やっぱり大して変わらないな。それでも、事務所の経営が安定するようになってからは、事務所の規模も段々大きくなっていった。人員も増えていって、最終的には30人以上になっていたか。事務所の階級も5級……まあ、そこそこの階級になった。
それに……俺にも、家族が出来た。事務所が出来てから4年くらい経った時に、今の妻と出会ったんだ。……まあ、今は何をしてるか、分からないが。
……うん?ああ、何をしてるか分からないのは、単に連絡を取る手段が無いってだけだ。何か特別な事情がある訳でもないから、そんな暗い顔にならなくてもいい。
話を戻すが、俺たちはそんな風に、そこそこの地位で、程々の生活を送ってたんだ。自分たちの実力に見合った依頼を受けて、それが無い日は仲間と酒場で呑み交わして、家に帰ったら妻がいる。そんな生活。
──それがもっと続けば、良かったんだがな。
ある日、部下の一人が言ったんだ。『この事務所もこんなに大きくなったんだから、そろそろもっと高いランクの依頼に手を出さないのか』ってな。──後にして思えば、これが始まりだったんだろう。
その頃、うちの事務所は連続で依頼を解決出来てて、事務所全体がやや浮かれていたんだ。そう、ちょうどあの頃とあの時と同じように。……だからだろうな。部下のその言葉を聞いて、確かにそうだ、なんて思っちまったのは。
俺たちはそれまで断っていた、脅威度の高い依頼に手を出した。──出して、しまった。
結果はお察しだ。事務所の半分近くの人員が死亡。……その中には、あの日一緒に生き延びた奴も混ざっていた。
感情だけの話じゃない。事務所の経営も、大きく傾いた。当然だ。ただでさえ人員が減ったのに、依頼主への違約金、そして失敗したことによる信頼の低下。それによって依頼も入って来なくなり、立て直しもままならない。
しかも、その影響は事務所だけじゃなかった。せっかく子供も産まれたってのに、家賃を払うのもままならなくなって。本当に、今までの人生そのものが崩れていく心地だったよ。
けど、そんな俺の元に……何とかなるかもしれないと思える、転機が訪れたんだ。
さっき説明した、都市を統べる超巨大企業、翼。その中の一つ、L社……『ロボトミーコーポレーション』。それも本社から、俺を名指しで、スカウトの手紙が届いたんだ。
勿論怪しいと思ったさ。フィクサーとしてやってきた中で、翼が裏でやってることなんてのは粗方見てきたし、何より「なんで翼がただのフィクサーに?」っていう不信感もあったしな。
けど、それを加味しても、それは千載一遇の機会だと言わざるを得なかった。翼の給料が良いなんてのは誰もが知ってることだし、その収入さえあれば、事務所を立て直すことも、家族を養うことも出来るんじゃないか、そう思ったんだ。
俺はこのことを、今や一人だけとなったせいで相棒と呼ばざるを得なくなった、あの頃からの仲間に打ち明けた。そうしたらあいつは「お前がいない間に、俺が代表の座を貰っちまうかもな?」なんて言って、俺を笑顔で送り出した。妻も同じように、俺を信じて、送り出してくれた。
俺は相棒に所長代理に立てて事務所を託して、L社に向かった。そして説明を受けてすぐ、なんで俺みたいな人間がここに呼ばれたのか、理解した。
L社は『エンケファリン』という、環境に悪影響を及ぼさない優れたエネルギーを生産し、それを都市全体に行き渡らせる翼として知られていた。けど、そのエンケファリンは……『幻想体』という化け物から生産される物だった。そして俺の仕事は、そいつらを正しく『管理』して、より多くのエンケファリンを生産することだった。
俺の他にも、何人か『管理』を任されている奴がいた。俺たちに指示を出す者もな。……そうだ、それが今の俺の同僚である『職員』と、お前たちが先生と呼んでいる『管理人』だ。
俺は他の職員たちと同じように、管理人の指示を受けて幻想体の管理をし、『試練』と呼ばれるどこから来ているのかも分からない、幻想体とは別の化け物の対処をして……それらを繰り返す日々を送っていた。いつしか一つの部門のチーフにも選ばれた。何度死にかけたかなんて、もう覚えていない。
けど、そんな日々にも、終わりが来た。
数日の間続いた普段よりも厳しい状況が片付いて、ようやく『通常業務』に戻ったある日、突然施設全体が激しく揺れて、丁度エレベーターに乗っているかのような、上に上がっていく感覚を覚えた。それはやがて収まり、俺たちがいた地下施設は、地上へと姿を現していた。それだけじゃない。俺たちのいる施設から、何か『光』としか形容できないものが、俺たちのいる施設から噴き出していたんだ。
俺はついに解放されるのかという期待よりも、これから先どうするのかという不安を覚えた。もしこれが会社の想定していない出来事だとしたら?もしこれが、この施設に対する攻撃の類だとしたら、俺は生き延びられるのか?ってな。
でも、そうじゃなかった。それは確かに会社が想定していたことで、そうでないことが起こるのは、その後だったんだ。
施設が地上に上がってしばらくすると、突然視界が真っ暗になって、気を失った。そして目が覚めると、そこはL社では無かったんだ。
図書館。L社の管理AIである『アンジェラ』がL社を使って作った都市の人々に根付いた光を回収するための場所。彼女は『招待状』という、署名した者をゲストとして図書館に呼ぶことができる物を使って、人間になろうとしていた。俺はゲストを接待するための、司書補の一人として起こされた。
そして、何人ものゲストを接待し、彼女の望みが元々思い描いていたのとは違う形で実現した頃。俺たち傘事務所のメンバーがこのキヴォトスへ招待され、今に至るという訳だ。
「……」
ホシノは絶句していた。目の前の男の過去が、あまりにも暗いものだっからだ。それと同時に、男のことが分からなくなっていた。
「何で……貴方はまだ……」
何故、それだけの苦痛と喪失を味わいながら、未だ心折れずにいられるのか。何故、未だ歩みを止めずにいられるのか。
最後まで言い切れずに俯いたホシノの言葉から、しかしそんな疑問を感じ取れたのか、バイパーがゆっくりと口を開く。
「……小鳥遊。これは俺の持論だがな。遺された者に立ち止まる暇なんて、無いんだ」
俯いていたホシノの顔がゆっくりと持ち上がり、次の言葉を待つように、その瞳がバイパーを捉える。バイパーもホシノの瞳をしっかりと捉え、続きを話し始める。
「俺を遺して逝った奴らは、俺が自分たちの死に囚われ、歩みを止めてしまうことを望まないだろう。そして、俺が殺した者たちは、俺が安息に留まらず、ただ地獄への道を歩み続けることを望むだろう。
──だからこそ、俺は止まらない。彼らに報いるために、俺が死に就く、その日まで」
「──そっ、か。貴方は、強いんだね」
──自分とは違って。
そう言いた気に目を細めるホシノだったが、バイパーはそれに気づき、再び口を開く。
「──お前も、周りからすればそう見えていると思うがな」
「……え?」
気づいていなかったのかと言わんばかりに、バイパーが溜め息を吐く。
「お前自身がどう思ってるかは知らんがな。少なくとも、お前は今まで後輩たちを守り抜いて来たんだろ?なら、お前が後輩からどう思われてるかなんて明白だろうに」
「──」
「ああ、それと。俺が味わったものにに比べたら、自分の『悲劇』だと思っていたものは……なんて思う必要は無い」
「……え?」
自分の胸中を見透かしたかの様な言葉に、ホシノの口から惚けたような声が漏れる。その反応を見たバイパーは、やっぱりか、と言わんばかりに呆れた表情を浮かべた。
「お前がどう考えているかは、何となく分かる。だが、それは持つべきではない考えだ。相手がどんな過去を持っていたからって、自分が受けた苦痛を軽んじるべきじゃない。俺たちはただ、自分の抱える苦痛を大切にすればいいんだ」
「……そっか。うん、分かった」
未だやや暗いが、どこか憑き物が落ちたようなホシノの表情を見て、バイパーが一つ頷く。
「……ああ、そうだ。エレナ、もう降りてきて大丈夫だぞ」
「……え?」
その言葉にホシノが間の抜けた声を上げた瞬間、二人の近くに何かが落ち、砂埃が上がった。そしてそこにいたのは、眼帯で目を覆った、水色の髪の女──すなわち、エレナだった。
「話は終わったか?」
「ああ。こいつの苦痛も、少しは軽く出来たはずだ」
「そうか、なら──」
「ちょ、ちょっと待って!」
そのまま平然と話し始める二人を前に、慌てたように待ったをかけるホシノ。しかしその顔に浮かんでいるのは先ほどまでのような警戒ではなく、純粋な驚愕だった。
「何でここにいるの?って言うか、いつから──」
「お前が戦い始めた時から。そして私がここにいるのは、管理人に指示されたからだ」
「先生に……?」
未だ事情が分からないホシノに、バイパーが説明を始めた。
「実は、俺が今ここにいるのは俺個人の判断じゃなくて、管理人からの指示なんだ。今ここにいる人間の中で最も小鳥遊に共感出来るのはお前の筈だ、あいつの抱える過去を聞き出して来てくれ、ってな」
「……そっかぁ」
あの大人は何なんだろうか。ホシノの頭の中で、そんな考えが渦巻く。
誰よりも冷静で、何が起ころうとも表情一つ変えることなく、冷徹に、極めて正確な指示を出し、そのくせ他人を良く見て、抱えているものを見逃さず、それを軽くすることに尽力する。
キヴォトスでは珍しいタイプであることは間違いない。彼の行動が、自分のために行われていることだとも理解できる。しかし、その思惑だけが理解出来ない。
もしかしたら、何らかの別の目的があって、自分の過去を聞き出そうとしてるんじゃないのか?そんな考えが首をもたげて、完全に信じ切ることが出来ない。
そんなホシノの様子に気づいたのか、バイパーが声を掛けた。
「小鳥遊。多分管理人には、お前の心配している様な思惑は無い。俺たちはただ、少なくともこの世界には、俺たちのようになる者がいて欲しくないだけだ」
「……本当に?」
「ああ。何なら──「そんなに不安なら、俺に直接聞けば良いだろう」」
「うへっ!?」
突如後ろから聞こえて来た声に、ホシノの背中が跳ねる。振り返ると、そこには昼間と変わらず無表情のXがいた。
「それで……俺の意図、だったか。そんな物は、さっきバイパーがお前に言ったのが全てだ。強いて言えば、お前の過去を知っておけば、指示や今後の対応がしやすくなる、と言った程度か」
「……本当に、それだけ?」
「ああ」
「……そっかぁ」
即答するXに、ホシノはふにゃりと、気の抜けたような笑みを浮かべる。それは昼間に見せていたものとそっくりで、違う所といえば──
鎖を断ち切り、過去を乗り越えた目をしていたことだろうか。
ホシノと別れた後、Xとバイパーはあることについて話していた。
「それで、小鳥遊に"あのこと"は話していないな?」
「ああ。あんたに言われた通りな」
バイパーがホシノに話した過去には、いくつか嘘が混じっていた。
一つは、アンジェラについて。彼女の望みは叶わずに終わり、身体は未だ機械のままだった。
そして、もう一つは……
「こんなことを言っても、突拍子も無さすぎて信じられないだろうし、聞かせる訳にもいかないからな」
「俺たちが既に、数えられないほど死んでいるなんて」
なんとこの世界線の職員、全員が逆行を記憶しています。それで何が起こるかって?地獄さ
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