エース・ヴィスコンティは、エンティティの儀式から待機場まで戻る最中だった。
何故か、しばらく絡んでもいないデイビットと、酒の場でもなければ話す事も少ないフェリックスの姿が前方に現れる。
デイビットはこちらを確認できるやいなや、こちらに向かって歩を進めてきた。徐々に歩きから駆け足に変わる。
それに続くようにフェリックスが向かって来ているようだ。
どうやら、オレに用があるらしい。オレにはパグちゃんとつるむ用なんて一つも無いけれど。

近付いてくるデイビットの表情は正に不機嫌の仮面そのものだった。
気付かなかったが、デイビットとフェリックスの後から何故かビットリオの姿も見えた。

デイビットの様子から、捕まったら面倒だと直ぐに察知してさっさと踵を返してデイビット達と距離を取るべく、早足にもと来た道を引き返しているエースだが、とうとうデイビットの言葉になってない怒号が聞こえだしてきて……。

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第1話

 後ろを切迫した表情でデイビットにフェリックス坊ちゃんが追いかけてくる。その1m後から続くのは困惑した表情のビットリオ。ビットリオに至っては確実に前二人に余計なお節介を焼こうとしているだけに違いない。

 

「なんなのっ!?もうっ!?オイちゃん何かした!?」

「エース!!今日という今日はっ!!ぜってー許さねーー!!」

「ごめんなさいっ、エースっ!僕が余計なことを言ったから!デイビットくんが怒っちゃって!」

「フェリックくん、デビット!喧嘩は良くないよ!」

「ピッグリオ!俺はデイビットだって言ってるだろ!お前まじでもうちょっと名前覚え何とかしろよ」

「僕は、フェリックスなんだけど…?あと、喧嘩では無いから!」

 

もう最後は俺には関係のない事で言い合っている。本当に俺が何をしたってんだコンチクショウめ。

 

「オイたん関係無いよね!じゃーねっ!」

「俺はお前に用があんだっつーーーの!」

「オイたんは身に覚え無いもんねー!」

「てめぇ、俺のパンツ勝手に履いてるって聞いたぞ!?どうやって俺の部屋に忍び込んだんだっ!?言ってみろ!えぇっ!?」

「だから、僕は同じような柄のパンツをエースが履いていた気がするって言っただけで、エースが盗ったなんて言ってないだろ!?」

 

身に覚えのない罪の名を叫ぶデイビット。

誰がお前のパンツなんて履くかよ。

 

「悪いけど、そんな趣味オイたんには無いね!何が悲しくてパグちゃんのパンツなんて履くかよ!」

「とぼけるな!現に1枚減ってるんだよ!」

「ほら、僕の気の所為だったんだ!きっと風で飛ばされたりしてるんだよ!」

 

ギリギリと歯を噛み締めて怒りのボルテージを上げていくデイビット。

一を返せば十が返ってくる。こいつをからかうのは何時だって楽しくて仕方がない。

デイビットの反応を惜しむ所なく楽しんでいると、何故かまだこの場に留まっていたビットリオが何やら言いたげに様子をうかがっている。

 

「ビットリオ、オイちゃんに用でもあるの?オイちゃんがまさか他人のパンツを盗む様な下衆に見えるか?」

「いや、エース。私はそんな風に思ったりしていないよ。…その。気分を悪くしたなら…」

 

この紳士ぶってる貴族野郎は話が回りくどくてウンザリする。眠くなる様な話し方だ。

騒ぎを聞きたて、他のサバイバー達もざわつき始めているのが気がかりだ。何故か俺に疑いの目が掛けられていく…。

どうして皆デイビットのたかだかパンツ一枚に興味津々なんだ?ほっておいてくれ。

 

「エースってば、来る者拒まずってのは良いけど寄りにもよってデビキンは無いわ…」

「何でフェリックスまで顔青くしてるんだろ?三人で楽しんでたってワケ?」

「止めてよ!フェリックスにそんな目を向けないで!」

何だって俺にはそんなに辛辣な評価なんだ!そもそも喚いているのはデイビットなんだぞ!?

「おいっ!証拠だ!俺のを盗ってないっていう証拠を見してもらおうか!衣装タンス全部ひっくり返して貰うぞ!」

「何だってオイたんがそんな事しなくちゃなんないんだ!言い掛かりはよせ!侵害だ!」

「俺のパンツを履くのは侵害じゃないってのかよ!」

「いいんじゃなーい?エロディ!久々にいい賭け事が出来そうよ?」

 

余計な所から燃料が焚かれる。ザリーナが周辺の連中に賭けを仕掛けだした…。人の不幸を笑ってやがる!

面白そうに女どもは思い思いに賭け始めた。こんな事にBPを使い始めて邪神も真っ青だろうよ。

 

「…あ、ザリーナ。聞いてくれ。彼の下着の事何だが…」

「あら、ビットリオさんも賭け事に興味があるなんて思わなかったわ。エースが盗ったと思う?」

「いや…。彼はそんな人では無いよ…。その…。下着の事で…」

「デビキンの勘違いに賭けるって事ね。わかったわ」

「いや、そうじゃなく…」

 

そうこうしている間に、面白がって他人の部屋からチェストを運び出してきたスティーブ、レナート。フェンは悪びれもせずにチェストを思いっきり開いた。タリータは大して気にもせずに一枚一枚下着を出し、広げて品定めでもするような視線を落とす。

残念ながら、デイビットが期待している物がそこにあるはずがない。はっきり言って気分が滅入るのを通り越して吐き気を催してきた。

 

「どーよデビキン?見覚えあるパンツある?」

「くまさん柄がある!こんなシュミあったの?…なんかカワイイ」

何で小娘に見せなけりゃならないんだ。ここが地獄か?

「おい!フェリックス!お前が見たって言ったんだろうが!」

「だから!僕は似たような柄のものをって言ってるじゃないか!君のだとは言ってないだろ!」

「分かった!お前が今履いてるんじゃないのか!?」

「オイちゃんに何か恨みでもあんのかよ!?」

 

脱がしに掛かりそうな勢いで飛びつこうとするデイビットを、渾身のタックルでビットリオが止めに掛かる。ビットリオはタックルのつもりだろうが、ラグビー経験者のデイビットにはただのハイタッチ位の衝撃だろう。

 

「デビット!聞いてくれ!私は君の下着の行方を知っているんだ!」

「うるせぇっ!離せ!あいつを引っ剥がせば全て分か…今、俺の下着が何て言った?」

「下着の行方を知っていると言ったんだ!」

 

最初から様子がおかしいと思っては居たが、そうきたか。

ちゃっちゃと話せよビットリオ…。危うく公然の面前で素っ裸にされる所だったぞ!?

 

「君の下着が、新キラーの忠実な猛犬に連れ去られていくのを私は一昨日そこの焚き火で見かけたんだ。取り返しに行こうと私はあの黒い犬の後を追った」

「…おう。それで…?」

「彼は、忠実に飼い主の命令を聞き彼女の指示通りに下着を温かな寝床に持って行った」

「じゃあ、犬っころのベットになってるって…そういう事なんだな?」

「私は、何とか取り返せないか考えたんだ。良いものが手元に無いかって」

「…っあああ!!それで!どうなったんだ俺の下着はっ!!?」

「好物と引き換えに私が取り返したんだ!」

「…」

 

デイビットは見てはっきり分かる位に呆れて次の一言を紡げない様子だ。

静けさはリーラ兄妹の笑い声が断ち切った。

 

「にゃはははは!!おっさんがパンツ持ってるって!!」

「エースただのとばっちりじゃんっ!!あーーーーおもろっ!!」

「…本当にさぁっ!!!ビットリオ!!!キミがちゃんと早く言ってくれてれば、オイちゃんがこんな目に遭う事なんて無かったんじゃないか!!!」

「非常に申し訳ないと思っている!誰も私の話を聞こうとしないから…」

「おっさんの話がまどろっこしいんだよっ!!クソがっ!!」

「ややこしくしてしまったのは私だから…何でもするっ!!何でもするから、デビットもエースにこれ以上の事はしないでやってくれ」

「おっさんには…やっていいってか?」

「…私に出来ることならやろう」

 

レッグポーチから白いハンカチを取り出すと、そこに包んでいたものは黒いボクサーパンツが露わになった。

デイビットはビットリオから下着を受け取ると、おもむろにビットリオの口に突っ込んだ。

 

「俺がいいって言うまで咥えておけるかピッグリオ?いーや、豚野郎!」

「ほごごご…。」

「あン?何言ってるか分かんねーよ!」

「ふぐう…。はぐはぐ…、ふがふが…」

 

デイビットの気が済むまでビットリオの情けない姿が晒されていた。俺自身もビットリオの被害者だ。情けない声で何か懇願しているその様子は滑稽で…。

俺自身も被害者だ。何か俺も報復を…。

その日から数日。ビットリオは向かう儀式の数々でチームメイトから冷たい眼差しを向けられた。

首から下げられた「私は下着を隠し、そして咥えていた」の木札。コソコソとした態度。そこに貴族の出の威厳は微塵も残っていなかった。

今日も邪神はサバイバーを踊らせる。


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