東方聖杯異変 作:とある観測者
光のなかで現れた真紅の鎧武者を纏う青年は、周りを見渡す。
「ここは………神社の境内か。それにその格好は、主はこの神社の巫女どのか」
「はぁ、主? アンタ誰よ。確かにここは私の神社なんだけど……」
怪訝そうに眉をひそめる霊夢に対し、青年は我に返ったように苦笑し、いつもの柔らかな物腰へと戻る。
「……失礼した。どうやら、随分と奇妙な縁に手繰り寄せられたようで。拙者の名は『真田左衛門佐信繁』。クラスはアーチャー。どうかよしなに」
「は?さなだ……なんて?それにあーちゃー?一体何言ってんの?」
さっぱり意味が理解出来ない霊夢。『真田』と名乗る青年も、どこから話すべきか悩んでいた時
「良ければ私が説明しようかしら?」
霊夢の背後の空間が、ジッパーのように裂けた。更にそこから女性の声が。
青年はバッと動き、霊夢を自分の背中に隠すように守る。
「何者だ!人……ではないな……」
「あ~、庇ってもらって悪いけど、そいつは敵じゃないわ。味方……でもないけど」
スゥーと
彼女は『八雲紫』。正体は妖怪だが、この幻想郷を創った賢者の1人である。
「……始めまして、かの『日の本一の兵』と謳われる英雄『真田信繁』さん。私は『八雲紫』。この幻想郷を創り、見守る者よ」
「紫、説明ってコイツのこと?」
「それも含めてよ。今、幻想郷は厄介な異変が起きてるの。そう
「せいはい、せんそう?」
「元々は外の世界の魔術師達が行った儀式なのよ――――」
『聖杯』とは、あらゆる願いを叶える願望器。
それの使用権を手にするため、過去の英雄や偉人を
その七組が最後の一組になるまで闘い殺し合う。
そしてその勝者が、聖杯を手にし、何でも一つ、願いを叶えることが出来る。
「――――それが、聖杯戦争よ。あなたの前に居る彼も、外の世界での功績が死後、人々の信仰・祈りによって、霊体を超えた『英霊』となった」
「ふ~ん……これが英霊ね……」
ジロジロと真田信繁を見る霊夢。一見自分と大して変わらない人間しか見えないからだ。
「そして霊夢、あなたが彼のマスターになるわけよ」
「何よいきなり。私そんなのになった覚えは―――」
「右手の甲をご覧なさい」
そう言われて見ると、いつの間にか見たことない入墨のようなものが右手の甲に刻まれていた。
しかも、それ自体にかなりの魔力を感じる。
「『令呪』と呼ばれるモノですね。それは拙者達サーヴァントに行使出来る3回きりの絶対命令権です」
『令呪』。全三画で構成されるサーヴァントに対しての強力な命令権。
例えばマスターとサーヴァントが離れ離れの状況で、マスターが危機に陥れば、令呪を使う事で、サーヴァントを自分の元に強制転移させる事が出来る。
他にも、戦闘中に使用すれば、瀕死の傷も即座に治癒でき、サーヴァントの能力を底上げする事も可能。
そして、サーヴァントに対する
そう言った者達に「自分を殺すな」や、「自害しろ」など、マスター自身の身を守るためのものでもある。
「もっとも、拙者は主に対し下克上など考えてはおりません。かの光秀殿のようにはなりたくないので」
「いや、ミツヒデって誰?」
「とにかくよ、霊夢。あなたに令呪が宿り、こうしてサーヴァントも召喚された。あなたはもう聖杯戦争の参加者ってこと」
「で、なんで幻想郷にその聖杯戦争ってヤツが起きてるのよ?外の世界の儀式でしょ?」
「うむ……話を聞く限り、此処は拙者の知る世界とは違うようだな。なのに何故聖杯戦争が?」
「それは、こっちも想定外の事ばかりよ。この幻想郷は、内側から招き入れたモノは何でも入れる。つまり、外側からの意思では絶対に入れない結界を施してあるの。でも、犯人は何らかの方法でそれをすり抜けて幻想郷に侵入した。しかも、聖杯戦争のシステムの根幹である聖杯を持って」
「ん?聖杯って優勝者に贈られる賞品でしょ?なんでもう犯人が持ってるのよ」
「あくまで『聖杯戦争』と言う儀式を発動させるための装置よ。儀式が進むにつれ聖杯に魔力が溜まり、勝者が決まった時には、願望器として完成する……と言ったところかしら。私が知り、想定出来るのはここまで。犯人は何者か、どうやって幻想郷に侵入したのか、何処に潜んでいるのか、目的は何なのか。そう言った重要な点はまだまだ不明よ」
その後、紫は調査を続けるとの事でその場を後にした。
残されたのは霊夢と信繁。
「はぁ~……聖杯戦争とか、今までで1番面倒な異変になりそうね……しかも終わるまで食い扶持が1人増える。唯でさえウチは貧乏神社なのに……」
「主、拙者の分の食事は要りませんよ。我々は英霊である前に、霊体なのです。主からの魔力供給が途切れない限り、この世に現界出来ます」
「え、そうなの?なら食費は今まで通りか……」
「………」
「ん、なによ。人の顔をじっと見て」
「いや、失礼した。これから聖杯戦争が始まるというのに、まず食費の心配をするとは。主は意外と肝が据わっているようで」
「言ったでしょ。ウチは貧乏神社なの。異変や戦争なんかよりも、重要問題なのよ」
「いや、誰も悪いとは言っておりませぬ。食事は戦う者に取って重要な事。それをまず心配するのは、優秀な指揮官のお手本ですぞ。では、主。拙者は何をすればよいか。さっそくこの幻想郷中を周り、情報――――」
「はいコレ」
「収取を………って、コレは、ほうき?」
信繁の目が点になる。彼女から渡されたの箒とちりとり、それと軍手だ。
「境内掃除してきて。私は中で休んでるから」
そう言い残し、霊夢はのんびりと神社の中へと入って行った。最後に残された信繁は、暫く理解が追いつけず、立ったまま固まっていた。
それから三十分後
霊夢は居間でのんびりお茶を飲んでいた。
何はともあれ、紫が何か情報を持って来てくれないと分からない。そもそもあの信繁を信じて良いのかも分からない。
分からない事をいちいち考えるくらいなら、霊夢はだらけたいのだ。
「はぁ~……聖杯戦争なんめ、誰よ考えたヤツ。どうせろくでもないヤツなんでしょうね」
そんな事をぼやきながら、お茶を飲もうとしたが
「あれ、もう無いや」
「主、おかわりをお注ぎいたしましょう」
「ありがとう」
コポコポ…と新しいお茶を入れてもらい、一口飲む。程よく温かく、味もゆっくりと口に広がる。しかも上品な、しかし落ち着く良い味わい。
流石は高級なお茶っ葉。こんなのは中々飲めな――――
「って、あんたっ!?」
「はい?」
バッと見ると、いつの間にか信繁が霊夢の隣に座り、急須を構えていた。
「掃除はどうしたのよ?まだ三十分しか―――」
「あの程度、それほどあれば終わりますぞ」
そう簡単そうに言う信繁。
念のため外を見に行くと
「ホントだ……落ち葉が一つも……てか、あたしがやるより綺麗かも……」
「むかし、やる事がなくて掃除をする機会が多かったので、こういう事は得意でしてね」
後ろを着いて来た信繁がそう話す。
「あんた……スゴイのね。よし!博麗神社の巫女、博麗霊夢が、あんたに『博麗神社の家事係』の称号を与えるわ!!」
「ははー!ありがたいしあわ……ん?家事係って……要するに小間使い?」
「英霊って言うのも、けっこう便利なのね!」
まったく使い勝手は違うのだが、今の霊夢はこうしてサーヴァントを受け入れたのであった。
同時に霊夢は忘れていた。
信繁召喚前に、境内に転がっていた黄金の杯。
アレこそが元凶の聖杯であり、召喚後にいつの間にか消えていた事を
そして、これを機に幻想郷のあちこちで英霊が召喚されたいった。
まずは、霊夢のよく知る、あの魔法使いのところに