東方聖杯異変 作:とある観測者
幻想郷の魔法の森。その入口近くにある1軒の店『香霖堂』。
店主である『森近 霖之助』が営む外の世界から流れ着いた物を売っている。
そして今日のお客様は、白黒の魔女衣装を着る魔法使いの『霧雨魔理沙』。
彼女はいつものように、魔法実験に使えそうな物か、面白そうな物を探しに来た。
「う〜ん……相変わらずよく分かんねぇもんばっかだな」
「はいはい、そうだね〜」
ガチャガチャと物色しながら、店主に文句のようなひと言。しかし霖之助の方はもう慣れたもので、本を読みながら軽く聞き流す。
「霖之助さんよ、紫とかに相談して、もっと面白そうな物とか流してもらえよ」
「それが出来たら苦労しないよ……」
今日も収穫無しだなと、諦めながら、手に持った左右に丸い穴が付いた棒(メガネレンチ)を棚に置いて帰ろうとした時
「ん、この本……」
外から流れ着いた本をまとめて置いてある箱の中の、とある1冊。
「ん、あぁその本。古いし虫に食われてアチコチ穴だらけだから、何の本かよく分からないんだ。何か魔法的な本としかね」
霖之助は「物の名前と用途がわかる程度の能力」を持っている。具体的な「使い方」までは分からず、物の状態にも左右されるので、霖之助もその程度しか分からなかった。
「ふ~ん……なぁ、この本貰っていいか?」
「構わないよ。どうせろくに読めないし、処分しようと思ってたからさ」
「フッフッフ……」
香霖堂を後にした魔理沙は、悪い顔をしながら笑って自宅へと向かっていた。
「霖之助のヤツ、ホントにろくに読んでなかったんだな。コレが
魔法に疎い霖之助はまったく気付かなかったが、魔法使いの魔理沙は断片でも、コレが何の本か分かったのだ。
「私も魔法使いだからな、使い魔の1匹や2匹欲しかったんだよな〜♪でもコレ……どんな使い魔を呼ぶんだろうな……」
肝心な部分は穴だらけになっており、それが何なのか、魔理沙にはさっぱりだった。
だが、召喚に必要な魔方陣と、必要なもの、呪文の箇所はどうにか読めた。
「えっと、なになに……召喚には、召喚者の魔力が1番高くなる時が最適ね。う〜ん……私はいつでも絶好調なんだけどな〜……まぁ、夜中でいっか!」
それから、魔方陣を描くのに必要なものは、ただのペンキなどではなかった。
「げっ!動物の生き血か水銀がいるのかよ!?コレ……悪魔召喚の本じゃないよな……ウチにそんなもんねぇよ……いや、
それから自宅に着いた魔理沙は、家の隣の空き地に大きな魔方陣を木の棒で下書きし、その上から
「色も同じだし、トマトケチャップで良いだろ!レミリアのヤツも、たまに血の代わりにトマトジュース飲んでるらしいし!」
ビチャビチャ!と下書きのうえにトマトケチャップをかけていった。
魔方陣の真ん中に、机と踏み台での簡易祭壇を置いた。
「祭壇に召喚する使い魔に由来する、せ……せい、なんとか……ダメだ。ここの部分の文字が掠れて読めない。とりあえず使い魔への挨拶の品を置いとけば良いのか?」
う〜んと少し考え、たどり着いた答えは
「よし!里で買った新作のずんだ餅をお供えしとこう!」
そうして冷蔵庫からずんだ餅を出して、祭壇に添えた。
時刻も夜遅く、魔力も月の光を浴びて上がっている(気がする)。
「よし、準備完了!それじゃ、詠唱を―――」
詠唱が書かれてるページを開き、片手で本を、もう片方の手を魔方陣に向ける。
「ゴホン……素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――――」
魔理沙は詠唱を始めると同時に、魔方陣に魔力を注ぐ。
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。えっと……
本をチラチラ見ながら、掠れつつある文字を何とか読み、詠唱を続ける魔理沙。
「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。せ、せい……せいはい?の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ――――」
詠唱が続くにつれ、魔方陣もだんだんと光を放っていく。いよいよ大詰めのようだ。
「(よし!一気に行くぞ!)誓いを此処に。我はとこよ総ての善と成る者、我はとこよ総ての悪を敷く者。な、なんじ三大の言霊を纏うし、しちてん?――――」
魔方陣の光が、辺りをまるで昼間のように輝かせる。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」
魔方陣の光と風が周囲を包み込み、その勢いに驚き魔理沙がその場で尻もちをついた。
魔法の森の薄暗い光を切り裂いて、凄まじい蒼の雷光が、空間を走る。
光がおさまり視界が見えるようになると、魔理沙の目の前に、人が立っていた。
三日月の前立てを掲げた蒼い甲冑の青年。そして右目には漆黒の眼帯が。
「なんだぁ?ずんだ餅の匂いがしたから来たが、変な森だな。それに、その妙な格好、南蛮の魔術師か?」
「な、なんばん……?」
「まあ、良いか。それじゃ聞こうか!お前さんが、俺を呼んだマスターか!」
蒼い青年が高らかに、そして見定めるかのように問うた。魔理沙もそれに応えるために、立ち上がる。
「おう!私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ!お前、かなり派手な登場だな?でも、嫌いじゃないぜ!」
「お!分かってるじゃねぇか。お前さんとは気が合いそうだ!お、ずんだ餅発見。貰うぜ」
そう言い、祭壇にあったずんだ餅をぽいっと口の中に放り込む。
「ところで、お前人間か?私使い魔を召喚したはずなんだけど……」
「あってるぜ」
「は?」
「だから、俺がお前の
「え、えいれい……?」
「なんだ、お前『聖杯戦争』の参加者じゃねぇのか?それじゃ、俺が誰かも知らねぇのか?」
「えっと……すいません、ぜっんぜん知らずに召喚しました」
ただの使い魔召喚のはずが、何やら予想外な事が起きすぎて、まだ理解が追い付いていない魔理沙。
「ま、いいや!おいマスター、あそこの家はマスターの拠点か?とりあえず、そこでゆっくり話してやるからよ!」
そう言い、青年は魔理沙の家へと歩き出す。
「な、おい待てよ!そもそもお前誰だよ!?」
「おっと!俺としたことが、自己紹介を派手に忘れてたぜ」
そして魔理沙の方へと振り返り
「俺の
「えっと……なんでも叶える願望器の聖杯を勝ち取るための戦いが『聖杯戦争』。そして政宗がその戦争で召喚される使い魔で、過去の英雄でもあると……」
家に案内したあと、伊達政宗から聖杯戦争についてと、
「そういう事だ。ところでずんだ餅まだあるか?」
「お前が全部食っちまったよ……それにしても、その聖杯って言うのは、ホントになんでも願いを叶えてくれるのか?」
「だから俺たち英霊は召喚に応じるんだよ。叶えたい願いがそれぞれあるからな」
「なるほど……それって面白いのか?」
「スゲー面白れぇ。なんて言ったって、古今東西、あらゆる英傑英雄が、覇を競い合ってぶつかるからよ!」
それを聞くと、魔理沙がニヤリと笑う。
「いいぜ、聖杯に興味は無いけど、それは是非とも見たい!!政宗!」
「おう!」
「やるからには全力だ!この霧雨魔理沙さまが、優勝するところ、しっかりその目に焼き付けてやるよ!」
「よく言った!それでこそ俺のマスターだぜ!」
「さっそく他のマスターのところに行くぜ!」
「なんだ、心当たりあるのか?」
「私の親友さ。アイツなら絶対にマスターになってるぜ!もしかしたら今頃サーヴァントも召喚してたりしてな!」
家中でワイワイ騒ぐ魔理沙と政宗。
2人は気付かなかった。
召喚直前、魔理沙の近くの木陰に、黄金の杯が転がっていたことを。
そして召喚直後、煙のように消えたことも