【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩   作:まだら模様

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キャラの語彙やシナリオ崩壊に注意です!
ここら辺からスートリーの進行がゆったり(じっくり)になったり番外編、映画編を作るかもしれません。
前回書いた10話も良かったのですが、今回の方がよりよく書けたのでは?と思ったので 修正版としてこちらを本日より投稿します!
感想、評価付与は野獣先輩が咆哮を上げて喜びます!
作者はそれにそうだよ(便乗)しますので是非


神野区決戦編
第10話(改訂版):「次は君だ→ファッ!?(神野事件)」


 爆豪がいない朝は、静かだった。

 

 病院のベッドで目が覚めた瞬間から、その静けさが気持ち悪かった。爆豪はいつも何かがデカかった。怒鳴り声か爆発音か、どちらかがA組のどこかで鳴っていた。廊下を歩けば足音が荒く、食堂に行けば誰かに怒鳴っていて、訓練場に顔を出せば既に汗をかいて次の敵を探していた。それがない。病院の白い天井と、換気扇の低い音だけがある。

 

 野獣先輩は天井を見た。

 

 危機察知は何も言っていない。爆豪はまだ生きている——その確信だけが骨の奥にあった。百年以上生きてきた勘が、「まだ死んでいない」と静かに言っている。それを信じる。

 

「大会近いからね、しょうがないね」

 

 起き上がった。肋骨が痛い。マスキュラーに吹き飛ばされた箇所だ。包帯が締まっている。深呼吸すると右側が軋む。

 

「痛いですね…これは痛い」

 

 自分に語録を当ててみた。カウンター系の語録は相手への反射だが、今は自分に向けると——痛覚が少し鈍くなった。普段は使わない用法だ。文脈を「痛みを認知させる」から「痛みの認知を操作する」に読み替えた結果だった。鈍くなる代わりに怪我の状態を見失うリスクがある。使いすぎはよくない。でも今日は必要だ。

 

「ありますあります」

 

 使えた。メモしておく、という意味で自分に言った。

 

 着替えながら、窓の外を見た。まだ暗い。早朝だ。廊下の足音もない。病院全体が静かだった。

 

「ん〜いい時には結構いくね」

 

 自分の状態を確認した。怪我はある。でも今日の出力はいい。体が軽い。昨日より感覚が鋭い。コンディションがいい時は語録の威力が上がる——実感として分かる。今日は使いどころだ。今夜は使いどころだ。

 

 

 

 廊下を歩くと切島がいた。壁にもたれている。顔が暗い。赤い髪が起き抜けのまま、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

「野獣先輩さん……」

 

「ありますあります」

 

「……爆豪くん、絶対助けに行くっすよね」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 切島の肩から力が抜けた。「当たり前か……そうっすよね」

 

 切島が壁から背中を離した。姿勢が少し戻った。

 

 野獣先輩は切島を横から見た。顔の輪郭がはっきりしている。首が太い。体幹がいい。こういう体格をした人間は打たれ強い。精神的にも打たれ強い——今まさにそれを証明している。

 

 悪くない。

 

 ……何もない。それだけだ。

 

「夜中腹減んないすか?このへんに美味いラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ」

 

「今ラーメンじゃないっすよ!!」

 

 切島が勢いよくツッコんだ。それから自分でも笑ってしまって「……でも腹は減ってるか」と言った。

 

 緑谷が廊下の向こうから走ってきた。手に何か紙を持っている。目が赤い。泣いた後だ。でも今は走れている。

 

「野獣先輩さん! 八百万さんがMr.コンプレスに発信機を付けてました! アジトの位置が分かります。だから——だから、俺たちなら——」

 

「やりますねぇ!!」

 

「やりますよね!!」

 

 緑谷の目に火が点った。一歩前に出た。発信機の紙を握り直した。

 

 廊下の向こうから相澤が歩いてきた。いつもの黒いコートで、包帯をぐるぐる巻きにした状態だ。目が細い。全員を一瞥した。

 

 止まらなかった。歩いたまま通り過ぎた。

 

「余計なことをするな」

 

 それだけ言って通り過ぎた。最後に一度だけ振り返った。廊下の向こうから。

 

「……余計なことを、な」

 

 その目が野獣先輩に一秒だけ向いた。

 

 野獣先輩はその目を見た。相澤の目は何かを言っていた。「余計なことをするな」と「余計なことをするな」の間には、全然違う意味がある。

 

「じゃけん夜行きましょうね~」

 

 切島が「……行くんですね」と静かに言った。緑谷が発信機の紙を胸のポケットにしまった。

 

 

 

 病院の非常口前に六人が集まった。切島、緑谷、八百万、砂藤、麗日。そして野獣先輩。

 

 私服姿だった。全員が変装を試みていたが、大体見分けがつく。切島は硬化個性のせいで何を着ても目立つ。緑谷は緑の髪だ。

 

「一緒に来てくれるんですか!!」

 

「オッスお願いしまーす」

 

「頼みます!!」

 

 緑谷が発信機のデータを元に作戦を説明した。八百万が作った発信機がMr.コンプレスに付着している。プロ側の情報にアジトの位置が伝わるのを待ちながら、裏口から先に入る。爆豪を確保して脱出する。

 

「索敵があれば建物内の配置が——」

 

「ありますあります」

 

「先頭、お願いできますか。全員の位置を把握しながら進んでほしいです」

 

「やりますねぇ!!」

 

 麗日が「私も行きます」と静かに言った。声が震えていなかった。誰も止めなかった。

 

 六人が非常口を出た。

 

 走り出す前に野獣先輩は一度止まった。六人の顔を見渡した。切島の顔。緑谷の顔。八百万、砂藤、麗日の顔。全員が怖い顔をしていた。怖い顔、というのは勇気のある顔だ。怖くない人間が向かうのは蛮勇だが、怖い顔で向かうのは勇気だ。

 

「ちゃんと、ベスト出せるようにね」

 

 小声で言った。

 

 六人に向けて言った。語録の効果が乗った——全員の体から、わずかに「緊張の余分な部分」が抜けた気がした。

 

 切島が「……なんかやる気出てきた」と言った。砂藤が「気のせいだろ」と言ったが、その足取りが少し速くなった。緑谷が「野獣先輩さんの語録、励ます方向にも使えるんですか!!」と囁いた。

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前なんですね!! 走ります!!」

 

 六人が動いた。

 

 

 

 廃工場のような建物だった。夜の闇に黒く浮いている。廃材の山が外に積まれていて、雑草が壁の下から伸びている。ずっと使われていない建物の匂いがした。でも中には人間がいる。索敵が言っている。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 索敵が展開された。建物内に十二人。うち二人はすでに動いている。奥の部屋に拘束された気配が一つ。

 

 爆豪だ。生きている。怒っている。気配が「怒っている」。

 

 親指を立てた。緑谷が「よかった……!!」と声を殺した。八百万が息を吐いた。

 

 裏口の鍵を転移させて開けた。金属の擦れる音がした。全員が素早く入った。

 

「菅野美穂」

 

 神ノ歩が発動。足音が消えた。今日は「存在を曖昧にする」方向で読み替えてみた——索敵されにくくなる効果も乗った気がした。通常より「認識されにくい」状態になっている。六人全員が影のように廊下を進んだ。床が錆びた鉄で、踏めば音が出そうだったが出なかった。

 

 角に気配が二つある。雑談している。緩んでいる。

 

「夜中腹減んないすか?」

 

 廊下の向こうに向けて、小声で流した。「注意を逸らす」方向で使った。

 

 向こうで「……あ、なんか急に腹減ってきた」という声がした。「おれも」と返事が来た。「飯どうしよっか」という話が始まった。注意が完全に逸れた一瞬に全員で通り過ぎた。

 

 次の角。見張りが二人、動かずに立っていた。今度は隙がない。腕を組んで互いを見ている。どちらかが動いたら動く、という体勢だ。

 

「緊張すると力出ないからね」

 

 かすかな声で、向こうに流した。二人の肩から力が抜けた——個性の出力が数秒だけ落ちた。「警戒のための緊張」が緩んで、逆に集中が切れた。

 

「こ→←こ!」

 

 左右から二人を中央に圧縮するように空間を畳んだ。二人の体がじわりと動けなくなった。個性を使おうとする動きが、出る前に抑制された。切島が無音で素早く片付けた。

 

 二人が壁際に転がった。

 

「今「こ→←こ」でしたよね!? 挟み込む方向で使えるんですか!!」

 

 緑谷が目を輝かせながら小声で叫んだ。声が漏れかけていた。

 

「ありますあります」

 

「ある!! 左右から圧縮して、でも完全には押しつぶさずに「動けなくする」だけ……器用すぎる!!」

 

「じゃけん行きましょうね~」

 

「そうですね今は行きましょう!!」

 

 

 

 突き当たりの扉の向こうに爆豪の気配があった。見張りが三人いる。うち一人は個性を構えている——何かを察知したのかもしれない。

 

「見とけよ見とけよ~」

 

 扉の隙間から声を流した。三人の視線が扉の方に引き寄せられた——全員が「こちらを見る」状態に固定された。向こうの意識が完全に扉に向いた。

 

 その瞬間扉を蹴破った。

 

「ファッ!?」

 

 三人の思考が止まった。「見とけよ」で注視させた直後に「予想外のもの」が飛び込んでくるから、処理が追いつかない。

 

「何してんすか!!」

 

 一人の個性が途中まで発動してから止まった。砂藤が素早く叩いた。

 

「こ↑こ→!」

 

 二人目を斜め上方向に弾き飛ばした——天井に激突させた。落ちてきたところを麗日が浮かせた。

 

「こ←こ↓!」

 

 三人目を左にそらしながら叩き落とした。切島が受け止めて締めた。

 

 三十秒。

 

 部屋の奥に爆豪がいた。椅子に縛られて顔に傷がある。鼻血が乾いている。でも目が死んでいない。燃えている。いつもの目だ。

 

「遅えんだよデク」

 

「遅くなってごめん!!」

 

「いいゾ〜これ」

 

 爆豪が野獣先輩を見た。ちらっと、一秒だけ見た。「……テメェも来たのかよ」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 爆豪の顔が、ほんの少しだけ緩んだ。「……そうかよ」と言った。

 

 切島が泣きながら飛びついた。「爆豪くん!! よかった!! 生きてた!!」

 

「うるせえ離れろ!! 縄解け!!」

 

 でも振り払わなかった。縄を解いてもらう間、切島が飛びついたままでも、振り払わなかった。

 

 

 

 走った。野獣先輩が先頭で索敵しながら最速ルートを選んだ。

 

 建物内の気配の全てが把握できている。どこに誰がいて、どこに誰がいなくて、どこが今一番人が少ないか。来た道と違う経路を選んだ。

 

 追ってきていたヴィランが三人、廊下の後ろから来た。走るのが速い。追いつかれそうになった。

 

「俺も後から洗ってくれよな~」

 

 後方に向けて言った。「後から来る」——遅延発動型で仕掛けを置いた。三秒後に敵の足元の空間が収縮した。走っている三人の足が同時につんのめった。転倒した。うめき声が廊下に響いた。

 

「今の何!?」

 

「ないです」

 

「あるでしょ!! 何かやったでしょ!!」

 

 切島が走りながら叫んだ。

 

 出口が見えた瞬間——外から轟音が響き、壁が吹き飛んだ。爆音と衝撃波。金属と石が砕けた。

 

 オールマイトが立っていた。

 

 痩せた体だった。でも声は変わっていなかった。

 

「私が来た!!」

 

 その声が建物全体を揺らした。緑谷の目に涙が浮かんだ。爆豪の歯が見えた——笑ったのかもしれない。砂藤が「……来てくれた」と呟いた。

 

 その時、野獣先輩の危機察知が全開で鳴り響いた。

 

「やべぇよやべぇよ!!!」

 

 全員に向けて言った。今日は「周囲に危機感を伝播させる」方向で使った——A組全員が一瞬で臨戦態勢になった。爆豪が「何が来る」と唸った。麗日が「何かいる!?」と周囲を見た。

 

 空から降りてくる気配があった。マスキュラーとも、連合の誰とも違う。比べることができない種類の気配だ。古くて、暗くて、大きい。百年以上生きてきて、これほどのものは一度しか感じたことがない。

 

「うわあ……これはまずいですね。これはまずくて、ああ、こっちも危ない。間違いない。なんだこれは……たまげたなあ」

 

「野獣先輩さんが「たまげた」って言ってる!!」

 

 切島が叫んだ。

 

「これもうわかんねぇな」

 

「わかんないって言ってる!!! 野獣先輩さんが「わかんない」って言う相手って何なの!!!」

 

 オールマイトが叫んだ。「君たちは爆豪を連れて逃げろ!!」

 

「じゃけん行きましょうね~!!」

 

「走れ!!」

 

 語録でない言葉が出た。珍しかった。でも今は走ることの方が重要だった。全員が走った。

 

 

 

 プロヒーローの包囲エリアに飛び込んだ。ベストジーニストが「生徒たちを保護!!」と叫んだ。エンデヴァーが何かを叫びながら建物の方向に向かっていった。プレゼント・マイクが「全員無事か!!」と大声で確認していた。

 

 野獣先輩は足を止めて建物の方向を見た。

 

 オールマイトとオール・フォー・ワンの気配がぶつかっていた。索敵で捉えられる気配としては——これまで感じたことがない規模の衝突だった。世界の圧力がそこに集まっているような感じがした。

 

 隣に爆豪が来た。縄を解かれた手首をさすりながら、同じ方向を見ていた。

 

「……あの人はすごいな」

 

 爆豪が静かに言った。大声でも怒鳴り声でもない、静かな声だった。

 

 野獣先輩は爆豪の横顔をちらっと見た。こういう顔のとき、爆豪は一番いい顔をする。怒っていない。悔しんでもいない。純粋に何かを見ている顔だ。傷がついても顔の骨格はいい。首から肩にかけてのラインも——やっぱりいい。体格がいい人間は「いい顔」がよく映える。

 

 ……何もない。ただ観察しただけだ。

 

「ありますあります」

 

「何が「あります」だよ」

 

「多少はね?」

 

「多少って何が多少なんだ!! 顔見てたよな今。なんか言え!!」

 

 爆豪が怒鳴った。でもその声が普通の爆豪の声だった。全部元通りの声だった。

 

 よかった。

 

 

 

 夜が明けた。

 

 轟音が止まった。静寂が来た。こんなに静かな夜明けは久しぶりだった。鳥が鳴いた。遠くで誰かの泣き声がした。

 

 空に、拳を突き上げた痩せた男の姿が見えた。建物の破壊でできた煙の向こうに、シルエットだけが見えた。それで十分だった。

 

「やったぜ。」

 

 野獣先輩が言った。誰に向けて言ったわけでもなかった。ただ言った。

 

 緑谷が泣いていた。口を塞いで声を出さないように泣いていた。肩が揺れていた。切島も泣いていた。こちらは全然声を抑えていなかった。砂藤は泣いていなかったが、目が赤かった。八百万が涙を手の甲で拭いていた。麗日が空を見上げたまま動かなかった。

 

 爆豪は泣いていなかったが、目を細めてずっとその方向を見ていた。それだけだった。

 

 オールマイトがカメラに向かって指を差した。

 

「次は君だ」

 

 緑谷が「……はい」と呟いた。声が震えていた。返事が震えていた。でも返事をした。

 

 野獣先輩は空を見た。

 

 痩せた男の背中を見た。朝の光がその背中に当たっていた。

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

 朝の光が、世界を染め始めた。




チカレタ…語録の汎用性が高すぎてこれもうわけわかんねぇな…
個性の使い方多くて難しスギィ!
ワード(淫夢語録)だからね仕方ないネ♂

今回はある種の物語の一区切りとなりました!今後の野獣先輩の活躍にも期待が持てますね!
今話がお気に召したり、笑いましたって思ってくださった方は是非評価付与、感想をよろしくお願いします!
コメディ頑張るので!よろしくセンセンシャル!

いただければ野獣先輩がやりますねぇ!って言ってそのあまりについ逝ってしまうかもしれません…
語録を言ったらイッて逝く…私は野獣先輩ゴースト説を提示します!(学会追放)
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