【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩   作:まだら模様

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キャラの語彙などの崩壊やシナリオ崩壊に注意です!

タイトルでは野獣先輩が誰かに引越し先を紹介しているらしいですが…相手は誰でしょうか?
取蔭切奈 ちゃんかな?(すっとぼけ)

感想、評価付与をくださると野獣先輩が生きすぎて逝きます 
作者はそれに✝️悔い改めて✝️しますので是非!



全寮制編
第11話:「こ↑こ↓…はえ〜すっごい(全寮制移行)」


 

 

 「次は君だ」

 

 その映像が、翌朝のニュースで繰り返し流れた。

 

 痩せ細ったオールマイトがカメラに向かって指を差す。それだけの映像だった。十秒もない。でもアナウンサーが「平和の象徴が事実上の引退を宣言」と言う度に同じ映像が流れて、また「オールマイト引退」という文字がテロップに出て、それがまた流れた。

 

 共用室のA組は全員黙っていた。緑谷が膝の上で手を握っていた。切島がソファの肘掛けを硬化した状態でつかんでいた。上鳴がスマホを持ったままテレビを見ていた。爆豪はいなかった。個室に戻っていたのか、もともとここに来なかったのか、分からなかった。

 

 野獣先輩はソファで画面を見ていた。

 

 指が誰かに向いていた。緑谷に向いていたのか、世界全体に向いていたのか、テレビの映像では分からなかった。でもなぜか——その指が自分にも向いている気がした。百年以上生きてきて、「次は君だ」と言われ続けてきた気がした。

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

 独り言が出た。

 

 隣に緑谷が来た。赤い目をしていた。昨夜の話ではなく、今朝この映像を見て泣いた目だ。

 

「……野獣先輩さんって、ずっとそれ言ってますよね」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「……当たり前なのかな」

 

 緑谷が静かに言った。自分に向けても言っていた。二人でしばらくテレビを見た。

 

 アナウンサーが同じ映像を三回目流した。

 

 上鳴がテレビを消した。「……もう充分だろ」と言った。誰も文句を言わなかった。

 

 

 

 爆豪は個室のベッドに座って腕を組んで天井を見ていた。

 

 部屋が暗かった。カーテンを引いてある。電気もついていない。

 

 野獣先輩がノックして入った。返事がなかったが、気配は「入ってきていい」と言っていた——索敵というより、百年以上の勘だ。

 

「何の用だ」

 

「喉渇いた…喉渇かない?」

 

 爆豪が止まった。数秒、天井を見たままだった。「……切島たちじゃなくてお前が来たのか。なんで」

 

「ないです」

 

「なんで「ないです」なんだよ、来てるだろ今」

 

「多少はね?」

 

「多少来てるってことか。」

 

 爆豪が少しだけ体の力を抜いた。腕組みが緩んだ。「……座れよ」

 

 野獣先輩は壁に寄りかかった。座るより壁の方がいい。部屋の隅から全体が見える。

 

 しばらく沈黙が続いた。換気扇の音だけがあった。病院と同じ静けさだったが、意味が違った。こっちは沈黙の中に何かが詰まっている。

 

「……オールマイトが引退した」

 

 爆豪が天井に向かって言った。独り言のような声だった。怒鳴っていなかった。

 

「ないです」

 

「なんで「ないです」なんだよ。事実だろ」

 

「ありますあります」

 

「何がある!?」

 

「王道を征く」

 

 爆豪が目だけ動かしてこちらを見た。黙っていた。長い間黙っていた。

 

「……お前が言うと不思議と腹立たないな。なんでだ」

 

「多少はね?」

 

「多少腹立てよ!!」

 

 爆豪が半身を起こした。表情が戻ってきた。怒っている顔の方が爆豪らしかった。目に火が点ってきた。

 

「俺はNO.1になる。オールマイトが引退しようが関係ない。あの人が作った「平和の象徴」って椅子が空いた。俺が超える。超えてやる。それだけだ」

 

「やりますねぇ!!」

 

「当たり前だ! ——ていうか今の、使い方あってるか?」

 

「ないです」

 

「答えろ!!」

 

 野獣先輩は部屋を出た。ドアを静かに閉めた。

 

「出てくな!! まだ話し終わってねえ!!」

 

 廊下に出てから一人で前を向いた。

 

 よかった。爆豪は元気だった。怒っている爆豪は元気だ。

 

 

 

 昼過ぎ、病院の屋上にオールマイトがいた。

 

 痩せた姿で手すりに寄りかかって空を見ていた。白衣を着ていない。普段着だった。薄い、普段着。骨格が出ている。肩の幅が、あの轟音の声を出していた人間のものとは思えない細さだった。

 

 野獣先輩が屋上のドアを開けた瞬間、オールマイトが振り返った。

 

「……810くんか。一人でいたいなら言ってくれ」

 

「ないです」

 

「ない、か。では一緒にいよう」

 

 野獣先輩は手すりの隣に立った。

 

 オールマイトが空を見た。春の空だった。雲が遠かった。

 

「……終わってしまったよ。私の時代が」

 

「ないです」

 

「……終わっていない?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 オールマイトが野獣先輩を見た。しばらくじっと見た。この人の目はずっと力があった。体格がどう変わっても、目の光だけは変わっていない。

 

「……君は不思議なことを言う。語録だけで喋っているのに、ちゃんと伝わってくる。「当たり前だよなぁ?」が「終わっていない」に聞こえる。「多少はね?」が「そうかもしれない」に聞こえる。語録というものは、そういうものなのかね」

 

「多少はね?」

 

 オールマイトが笑った。静かな笑いだった。

 

 野獣先輩はオールマイトの横顔を見た。痩せてはいる。でも目の光は変わっていない。強い人間だ。百年以上生きてきて、「強い人間」の定義は少し変わった。体格がいい人間が強いわけじゃない。目が強い人間が強い。首から肩にかけてのラインが——まだ、残っている。

 

 ……何もない。体格の話だ。

 

「オイル塗ろっか?」

 

「な——!? 何を言っているんだね急に!?」

 

「ないです」

 

「ないでは済まない!! どういう状況でその語録が出るんだ!!」

 

 オールマイトが叫んだ。それから——吹き出した。声に出して笑った。肩が揺れた。久しぶりに笑った顔だった。さっきの静かな笑いじゃない、もっと体の奥から来た笑いだった。

 

「……君は本当に面白い子だ。こんな時に笑わせてくれる」

 

「やりますねぇ!!」

 

「笑わせることをやっているのかね!! ……いや、まあ、助かるよ。本当に。ありがとう」

 

 二人で空を見た。しばらく黙っていた。

 

「私が育てた子たちが、これからを引き継いでくれる。渡した、という気持ちに近いよ。終わりじゃなくて、渡した」

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

「……そうか。頼もしいな、810くん。君はずっとそれを言い続けているな」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前……か」

 

 風が吹いた。オールマイトの服が揺れた。二人で空を見た。

 

 野獣先輩はオールマイトの背中を見た。細くなった背中だった。でも、まっすぐだった。曲がっていなかった。

 

「ちゃんと、ベスト出せるようにね」

 

 オールマイトが少し止まった。目の動きが止まった。

 

「……それは、私に向けているかね?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 オールマイトが天を向いた。しばらくそのまま天を向いていた。

 

「……ありがとう」

 

 それだけ言った。あとは何も言わなかった。

 

 二人で空を見た。風が何度か吹いた。鳥が一羽飛んでいた。

 

 

 

 翌日、根津校長がA組全員を集めた。

 

 根津校長はいつも通りだった。小さくて白くて、愛嬌のある顔をしていた。でも言葉は重かった。

 

「今回の林間合宿および神野区の事態を受けて、雄英は全寮制に移行します。引越し当日は保護者の方に来ていただきます」

 

 A組がざわめいた。

 

「引越しの際の荷物は最小限に。ルームメイクやインテリアにも各自の個性が出ると思いますので、楽しんでください。ガンガン寮でみなさんをお待ちしています」

 

 緑谷が「お母さんが……」と呟いた。切島が「親が来るの照れるなあ、でも会いたいな」と言った。上鳴が「彼女に会えなくなる!?」と叫んだ。爆豪が「うるせえ」と言った。麗日が「よかった、ちゃんと会える」と小さく言った。

 

 野獣先輩は窓の外を見た。

 

「大会近いからね、しょうがないね」

 

「また大会」

 

 砂藤が言った。切島が「野獣先輩さんにとって全部大会なのか」と言った。

 

「引越しっすよ。——あの、野獣先輩さん、呼ぶ人います? 引越し当日、家族が来るんですけど」

 

 野獣先輩は少し止まった。

 

 百年以上生きてきた。呼べる人間がいなくなってから、どのくらい経つだろう。今この時点では、「呼ぶ人間」という概念が、少しだけ遠い。

 

「ないです」

 

「……そっか」

 

 砂藤がそれ以上聞かなかった。野獣先輩は砂藤の横顔を見た。

 

 察してくれるタイプだ。一度「そっか」と言ったら、それ以上掘り下げない。こういう男は——顎のラインが、こう、

 

 ……何もない。

 

 

 

 引越しの日。各自の家族が正門前に来た。

 

 緑谷の母親が泣いていた。緑谷も泣いていた。二人で泣きながら話していた。麗日の両親が不安そうな顔をしていたが、麗日が「大丈夫!」と言うたびに少しずつ表情が和らいでいた。切島の両親が「頑張れ!!」と叫んでいた。切島の父親が「お前はかっこいいぞ!!」と言っていた。切島が「やめてよ恥ずかしい!!」と言っていたが顔が赤かった。飯田の兄・天哉が来て弟に正座で説教していた。飯田が「はい! はい!! すみません!!」と叫んでいた。

 

 上鳴の父親らしき人物が来ていたが——なぜかずっとうつむいていた。上鳴が「親父、なんか元気ないな……」と首を傾げていた。野獣先輩はその父親の気配を索敵でちらっと確認した。

 

 「動揺している」気配だった。

 

 ……気になるが、今は引越しだ。

 

 野獣先輩は一人だった。

 

 荷物は少なかった。着替えと数冊の本。それだけだ。段ボール一箱に全部入った。軽かった。百年以上生きてきて、残った荷物がこれだけというのは、色々あったということだと思う。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 自分に向かって言った。段ボールを持ち上げながら言った。

 

 切島が「野獣先輩さん! 一緒に部屋の配置決めましょう!! 隣の部屋俺っすから!!」と走ってきた。

 

 悪くなかった。

 

 

 

 夕方、A組で部屋の飾り付け自慢大会が勃発した。誰が言い出したわけでもなく、自然に廊下に全員が出てきて、各自の部屋を見せ合う流れになった。

 

 緑谷の部屋はオールマイトグッズで埋め尽くされていた。どこからそれだけ持ってきたのか。段ボールが三箱あった。「整理しながら飾りました!!」と言っていた。フィギュアの数が、うっかり数えてしまったら三十七体あった。

 

 爆豪の部屋はシンプルで何もなかった。「物が多いと邪魔だろ」と言った。それだけだった。でも枕元に小さな紙が一枚あって、「NO.1」とだけ書いてあった。爆豪が扉を閉めた。

 

 切島の部屋には「友情」「根性」「努力」と書いた紙が貼ってあった。達筆だった。「書道やってたんすか」と聞いたら「祖父ちゃんに習ったんっすよ!!」と嬉しそうに言った。

 

 上鳴の部屋はなぜかオレンジの間接照明だった。「雰囲気大事っすから!!」と言っていた。

 

 耳郎の部屋は小型スピーカーが三台あった。「音楽は環境で変わる」と言っていた。確かに部屋に入ると音の感じが違った。

 

「野獣先輩さんの部屋は……何もないっすね」

 

 切島が野獣先輩の部屋を覗いて言った。

 

「ないです」

 

「本当に何もない! 本が数冊と、着替えだけ……あ、これ」

 

 棚の隅に小さなものが一つあった。小さな石だった。丸くて平らで、手のひらに収まる大きさの石だ。

 

「石っすか?」

 

「ありますあります」

 

「……記念の石? 綺麗な石っすね。どこで拾ったんすか」

 

「まあ大会近いからね、しょうがないね」

 

「大会で拾った石!? どこの大会!? 何の大会!?」

 

 その時、廊下をオールマイトが歩いてきた。教師として寮に顔を出したようだった。私服の上にジャケットを羽織っている。ぎこちない私服だった。

 

「諸君! 引越しは済んだかね!!」

 

「はい!!」

 

 各部屋を覗いて回るオールマイト。緑谷の部屋で「フォッサマグナのやつは廃版でね! 君はそれを持っているのかね!! どこで入手した!?」と盛り上がっていた。切島の部屋で「「友情」「根性」「努力」!! 素晴らしい!! 特に「努力」が光る!!」と褒めていた。上鳴の部屋に入って「……これは」とオレンジの光に当てられて少し動揺していた。

 

 野獣先輩の部屋に来た。

 

「810くんは——シンプルだな」

 

 オールマイトが部屋を見渡した。本。着替え。棚。その棚の隅の石。

 

「……これは」

 

 手が止まった。石を見た。目が——少しだけ、開いた。

 

「ないです」

 

「……い、いや、その、これは、いったい、どこで……この石は、何か」

 

 野獣先輩は石を手に取った。ごく普通の丸い石だった。川で拾ったような石だった。

 

「†悔い改めて†」

 

 オールマイトが「な——!?」と声を上げた。一歩後ずさりした。

 

「い、いや、私は別に悔い改める必要は……その、過去にインターネットで一度だけ、100年以上前のコンテンツとして学術的に研究した際に——」

 

「はっきりわかんだね」

 

 オールマイトの額に汗が浮かんだ。目が泳いでいる。言い訳が途切れた。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 オールマイトが「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」と呟いた。

 

 自分を落ち着かせるために言った。無意識に出た。

 

 野獣先輩が止まった。

 

 切島も止まった。廊下で話していた上鳴と砂藤も止まった。

 

「……先生、今の、自分で言いました?」

 

「ファッ!?」

 

 オールマイトが素に戻った。「な、なんでもない!! つい口から出た!! 語録は耳に残りやすいんだ! 人間というのはそういうもので——!!」

 

「やったぜ。」

 

 野獣先輩が静かに言った。

 

「聞こえている!! 忘れてくれ!!」

 

 オールマイトが豪快に笑いながら廊下に飛び出していった。背中が早足だった。廊下をズカズカと大股で歩いていった。

 

 廊下の角を曲がる直前、オールマイトの声がもれ聞こえてきた。

 

「……ちゃんと、ベスト出せるようにね……」

 

 今度は完全に誰にも聞こえないつもりで言ったのだろう。小さな声だった。

 

 でも聞こえた。

 

 切島が廊下の角を見たまま固まった。「……オールマイト先生」

 

「ありますあります」

 

「ある!! 野獣先輩さん、今のちゃんと聞こえましたよね!? オールマイト先生、語録——!! 知ってた!? 知ってたんですか!?」

 

「やりますねぇ!!」

 

「やってたんかい!!」

 

 上鳴が「何があったんすか!?」と廊下を走ってきた。砂藤が「聞こえてた」と静かに言った。

 

「——ていうか「ちゃんとベスト出せるようにね」ってオールマイト先生が自分に言ってた!! 感動するかツッコむかどっちだ!!」

 

 野獣先輩は廊下の角の方向を一秒だけ見た。

 

 オールマイトの足音が遠くなっていた。

 

 それから前を向いた。

 

「多少はね?」

 

 

 

 夜、共用スペースで上鳴がゲームをしていた。コントローラーを持ちながらソファにひっくり返っている。

 

「野獣先輩さん! 一緒にやりますか! 二人プレイできるやつっすよ!」

 

「やりますねぇ!!」

 

「乗り気!!」

 

 二人で横スクロールのゲームをした。野獣先輩は上手かった。100年以上生きていれば色々な時代のゲームを経験している。電源のないゲームも電源のあるゲームも全部やった。画面があって音が出るゲームはむしろ新しい方だ。

 

「野獣先輩さんめちゃくちゃ上手いっすね!? 初めてとかじゃないっすよね!?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前なのか!! どんな時代のゲームも当たり前に上手いってことか!!」

 

 上鳴がステージをクリアできずに唸った。「くそ~……なんでこのボス硬いんだ……仮免試験より難しい気がしてきた」

 

「ないです」

 

「ないんすか! 俺は難しいっす! 野獣先輩さんは仮免試験不安じゃないんですか?」

 

「多少はね?」

 

「多少はあるんだ!! じゃあ俺がめちゃくちゃ不安なのは普通っすよね!!」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前か! なんかよかった!!」

 

 上鳴が笑った。野獣先輩はその横顔を見た。笑うと目が細くなる。頬の筋肉がいい動きをしている。首のラインが、こう——

 

 ……何もない。

 

「ああ^~いいっすね^~」

 

「何がいいんすか!! ゲームですか? 俺っすか? どっちっすか!?」

 

「ないです」

 

「どっちかあるでしょ!! 「いいっすね」って言ったのに「ないです」は矛盾じゃないっすか!!」

 

 上鳴が笑いながら文句を言った。夜の共用スペースが温かかった。

 

 ゲームの続きをしながら、上鳴が少し声を落とした。「野獣先輩さんってさ、100年以上生きてて、怖いなって思ったことあります?」

 

「やべぇよやべぇよ」

 

「ある!! 何が怖かったっすか!? どんな相手っすか!?」

 

「多少はね?」

 

「多少どまり! 野獣先輩さんに多少怖いと思わせるってどんなやつっすか!! もしかして今日の——」

 

「ありますあります」

 

「いるんだ!! 今日のやつっすか!? オール・フォー・ワンっすか!?」

 

「ないです」

 

「……違うんだ。じゃあ他に怖いやつがいたってことか……」

 

「多少はね?」

 

「多少いたんかい!!」

 

 上鳴が叫んだ。それから「でも来るんですよね、怖くても」と言った。

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 上鳴が少し黙った。ゲームの画面を見ながら「かっこいいっすよね」と言った。

 

「ないです」

 

「あるんですよ!! 俺はそう思ってるんですよ!!」

 

 

 

 上鳴が廊下でスマホ通話をしていた。少し声が弾んでいた。

 

「うん、寮に入ったよ。ガンガン寮っていうんだけど、まあまあ広くて——え? クラスメイト? いるっすよ、すごいやつら揃ってますよ」

 

 上鳴がこちらに気づいて手招きした。

 

「野獣先輩さん、うちの親が声聞きたいって! すみません、一言だけ! 「24歳、学生です」って言うだけでいいんで!」

 

 スマホを差し出された。

 

 引越し当日に「なぜかうつむいていた」父親だ。

 

「24歳、学生です」

 

 スマホの向こうから一瞬——沈黙があった。

 

 長い沈黙だった。電波が切れたのかと思うくらいだった。

 

 それから、かすかに息を飲む音がした。

 

「……お、お前さぁ…」

 

 野獣先輩が止まった。

 

「今何と言いましたか」

 

 語録でない言葉が出た。

 

「え!? 野獣先輩さん普通にしゃべってる!! 何が起きた!?」

 

「……い、いや、その、つい、聞き慣れた、言葉が、口から……電気系個性を持つ家系でして、昔インターネットで一度だけ——その、歴史的なコンテンツとして——」

 

「ありますあります」

 

 スマホの向こうで「ファッ!?」という声がした。それから「……す、すみません……」という声がした。

 

「……この通話、なかったことにできますか」

 

「ないです」

 

「ないですよね!! ——電話、切ります!!」

 

 ツーツーツー。

 

 上鳴が「親父、何か動揺してたっすけど何があったんですか? 野獣先輩さん普通にしゃべったし、親父なんか謝ってたし……」と首を傾げた。

 

「やったぜ。」

 

「なんかやったんすね!? 教えてくださいよ!! 語録で何があったんすか!!」

 

「じゃけん夜行きましょうね~」

 

「どこに!?」

 

 

 

 深夜の廊下を歩いていると、爆豪の部屋の明かりが漏れていた。ドアの隙間から、細い光が廊下に出ていた。

 

 中から声がした。爆豪が一人で何かを言っていた。声が小さくて内容は聞こえなかった。でも口調が普段と違った。静かだった。誰かに語りかけるような声だった。怒鳴っていない。

 

 野獣先輩はドアの前に数秒立った。

 

 索敵を使えば部屋の中の気配が分かる。でも使わなかった。

 

 それからそっと歩き去った。

 

「ないです」

 

 誰にも聞こえないくらい小さく言った。

 

 一人にしてあげた方がいい時間がある。それは分かる。百年以上生きてきて、それだけは確かに分かる。

 

 部屋に戻った。電気をつけなかった。暗いまま天井を見た。

 

 オールマイトが引退した。爆豪が帰ってきた。寮に入った。色々あった。全部一日の話とは思えない時間の密度だったが、全部今日の話だ。

 

 でも、野獣先輩はここにいた。

 

 A組にいた。この寮にいた。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 天井に向かって言った。

 

 誰かに言ったのか、自分に言ったのか、分からなかった。

 

 そのまま目を閉じた。

 




野獣先輩の室内どうしようか迷ったんですけどね…
空手部の部室とか野獣隊のロビーとか
…書いてる途中でどうでも良くなりました(疲労)
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