【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩   作:まだら模様

14 / 60
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性があります。
ご注意ください。

いよいよオーバーホールとの接触が近づいてきました
この能力にどう対応するのかみものですね!

感想や評価付与は励みになります!


インターン・死穢八斎會編
第14話:「24歳、学生です→あっふーん…(現役ヒーロー)(インターンシップ・顔合わせ)」


 

 

 仮免を取った翌週、相澤が言った。

 

 いつもの朝のHRだった。相澤が黒板の前に立って、淡々と言った。

 

「インターンシップの話を進める。各自、希望事務所を考えておけ。特に仮免取得者——今回は実際のヒーロー業務に入れる。重要だ」

 

 A組がざわめいた。緑谷がすでに手帳を開いていた。爆豪が「エンデヴァー事務所」と即答した。切島が「キリシマって名前使えるキリな感じの事務所がいい!!」と言った。上鳴が「有名なとこがいいっすね! かっこいい名前の!」と言った。砂藤が「まあ、どこでも同じだろ」と言いながらリストを眺めていた。

 

「野獣先輩さんはどうするんすか」

 

 上鳴が振り返った。

 

「ないです」

 

「ない!? 希望がない!?」

 

「多少はね?」

 

「多少はある! どこっすか!?」

 

「大会近いからね、しょうがないね」

 

「どこが大会なのか分からないっすよ!! インターン先が大会なんすか!?」

 

 その時、相澤が野獣先輩を見た。

 

「810。お前には打診が来ている」

 

 全員が止まった。相澤が「打診が来ている」と言うのは珍しかった。普通は「各自で選べ」だ。

 

「サー・ナイトアイ事務所だ」

 

 緑谷が「ナイトアイさんって——オールマイトの元相棒の!!」と叫んだ。

 

「現役時代のオールマイトのサイドキックだった男だ。今は独立して事務所を構えている。——索敵と転移の組み合わせが、事務所の任務と相性がいいと判断した。詳細は本人から聞け」

 

「やりますねぇ!!」

 

「騒ぐな。出発は明後日だ」

 

 相澤が立ち去った。

 

 上鳴が「野獣先輩さん、ナイトアイ事務所!! ビッグ3がいる事務所じゃないですか!!」と叫んだ。

 

 野獣先輩は「ビッグ3」という言葉を聞いた。

 

「ありますあります」

 

「あるっすよ!! すごいっすよ!! 雄英で一番強い三人と組むんすよ!?」

 

 上鳴が興奮した。切島が「野獣先輩さん、ナイトアイ事務所って裏の任務も多いって聞いたっすよ……大丈夫っすか!?」と心配そうに言った。

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前か!! ——いや、でも心配っすよ」

 

「ちゃんと、ベスト出せるようにね」

 

 切島が「……なんかやる気出てきた。俺が心配してどうすんだ」と言った。

 

-

 

 出発前日、廊下を歩いていたら見知らぬ三人組がいた。

 

 背が高い、体格のいい、明るい笑顔の男。肩幅が広い。首が太い。全身に力が充っている感じがする。でも顔が柔らかい。眩しい種類の人間だ。

 

 細身でひょろっとした、人懐っこい顔の男。目が少し眠そうだ。でも前を向いている。

 

 長い髪を揺らした、落ち着いた雰囲気の女。静かな目をしている。佇まいが安定している。

 

「あっ、もしかして810くん!? ナイトアイ先生に聞いてたよ! 通形ミリオです、よろしく!!」

 

 背が高い男が手を差し伸べた。野獣先輩はしっかり握った。

 

 握った瞬間——手が通り抜けた。

 

「ファッ!?」

 

「ははは! 驚いた? 個性が透過でね、ちょっと漏れちゃうことがあって。コントロールしてるつもりなんだけど」

 

 ミリオが笑った。野獣先輩はもう一度握手を試みた。今度はちゃんと手が触れた。

 

 でかい手だった。骨格がしっかりしている。肩幅が広い。胸板が——厚い。透過個性があってこの体格だということは、本来の筋肉量はさらに多いはずだ。

 

「ああ^~いいっすね^~」

 

「ありがとう! お世辞でも嬉しいよ!」

 

「……お世辞じゃないと思うけど」

 

 細身の男が言った。少し呆れた顔で、でも温かい目をしていた。「天喰環です。よろしく」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「え、何が当たり前?」

 

「多少はね?」

 

「……変わってるね」

 

 長い髪の女が「波動ねじれです」と静かに言った。野獣先輩は波動を見た。落ち着いた目をしている。物事をきちんと見る目だ。

 

「入って、どうぞ」

 

「どこに入るんですか?」

 

「ないです」

 

「ないです、って……」

 

 ミリオが「語録だけで喋る人って本当にいるんだ!!」と目を輝かせた。「ナイトアイ先生から聞いてたけど実物初めて見た! かっこいい!!」

 

「やりますねぇ!!」

 

「教えてくれるの!? やりましょう!!」

 

 ミリオの笑顔は眩しかった。こういう人間は稀だ。肩幅も胸板も、どこかに注目してしまう要素がある。透過個性で服の一部が体に馴染んでいない部分があって——

 

 ……何もない。それだけだ。

 

 波動がミリオに向かって「また身体測定みたいな目で見てる人がいる」と小声で言った。ミリオが「えっ、そう見える?」と笑った。

 

「へえ~、すっごい大きい…」

 

 ミリオが「えっ!? 何が大きいの!?」と叫んだ。

 

「ないです」

 

「あるでしょ!!」

 

 天喰が「体格のことだと思うよ」と言った。ミリオが「ありがとう!!」と叫んだ。野獣先輩は何も言わなかった。

 

 波動が「あなた、面白い人ね」と静かに言った。

 

「ちゃんと、ベスト出せるようにね」

 

 波動が少し止まった。「……今の、私たちに向けて言いました?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 波動がミリオを見た。ミリオが「なんかやる気出てきた気がする!」と言った。天喰が「気のせいじゃないと思う」と言った。

 

 

 

 翌日、野獣先輩はサー・ナイトアイ事務所に向かった。

 

 入り口からしてオールマイトグッズで溢れていた。ポスター、フィギュア、抱き枕、グッズのグッズ。天井まで棚があって、棚の全段にオールマイトグッズが並んでいる。密度がすごい。圧がすごい。

 

「24歳、学生です」

 

 受付のマネージャー・バブルガールが「野獣先輩さんですね! 先生がお待ちです!」と案内してくれた。バブルガールの制服は整っていたが、背後の棚のオールマイトフィギュアが七体並んでいた。

 

 通された部屋に、男が一人いた。

 

 細い眼鏡。鋭い目。長身。整った顔立ちだが表情が動かない。オールマイトグッズに囲まれた机に座っている。

 

 サー・ナイトアイ。

 

「810くんだね。——座りたまえ」

 

「やりますねぇ!!」

 

「……座ることを「やります」と表現するのかね」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ナイトアイが眼鏡を直した。

 

「君のことは相澤くんから聞いている。語録から発動する多目的型個性——索敵、転移、心理干渉。珍しい組み合わせだ」

 

「ありますあります」

 

「ある、か。——単刀直入に言う。私の個性は未来予知だ」

 

 野獣先輩は少し止まった。

 

「相手に触れると、その人物の未来が一時間以内の範囲で見える。正確に見える。それが私の個性だ。——そして私は今、君に触れることを躊躇している」

 

「ないです」

 

「ある。はっきり言うと——語録個性持ちの未来がどう見えるか、前例がない。以前、試した際に見えた未来が語録で構成されていた。映像や音声の中に語録が流れ続けた。テロップのように、耳に届く音のように。解読に六時間かかった」

 

「ファッ!?」

 

「そういう反応が適切だと思う。——一度やって、懲りた。なので今回は触れない。君が索敵で得た情報を私にリアルタイムで共有する形で連携したい。それで問題ないか」

 

「オッスお願いしまーす」

 

「よろしい。——もう一点」

 

 ナイトアイが立ち上がった。棚の引き出しから何かを取り出した。

 

 オールマイトのスタンプだった。

 

「雄英の教え子には規律として、日々の業務報告にこのスタンプを——」

 

 野獣先輩はナイトアイの棚を見た。オールマイトのフィギュアが三十七体並んでいた。

 

「へえ~、すっごい大きい…」

 

 ナイトアイが止まった。「……どの棚の話か」

 

「ないです」

 

「コレクションに対して「大きい」と言ったか。——これは「多い」という意味か」

 

「多少はね?」

 

「多少ある、か。——これはギャグではない。精神的な拠り所だ」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「……そうだ。当たり前のことを聞かせてくれてありがとう」

 

 ナイトアイが厳かにスタンプを押した。業務報告書にオールマイトの笑顔が捺された。

 

「……これはギャグではない。精神統一の一環だ」

 

「はっきりわかんだね」

 

「分かったなら次に進もう」

 

 

 

 昼休憩の時間、ミリオが「一緒にお昼食べよう!!」と来た。

 

 二人でソファに座ってサンドイッチを食べた。ミリオはよく食べた。でかいサンドイッチを二つ食べながら、まだ余裕がある顔をしていた。

 

「野獣先輩って呼んでいい? ——野獣先輩の語録、整理したいんだけど。俺が連携するために把握しておきたくて」

 

「やりますねぇ!!」

 

「やろう!!」

 

 ミリオがメモを出した。

 

「まず「こ↑こ↓」が転移で、矢印の方向で変わるって聞いたけど」

 

「ありますあります」

 

「例えばどんなの? やって見せてよ!」

 

 野獣先輩はそこら辺のクッションを一つ拾った。

 

「こ↑こ↓!」

 

 クッションが上に出て下に落ちた。基本ワープ。

 

「こ→←こ!」

 

 クッションが左右から圧縮されて、ぺちゃんこになった。

 

「うわ! 圧縮できるんだ!!」

 

「こ↑↑こ!!」

 

 クッションが天井まで吹き上がった。ドンという音がした。

 

「こ→→こ!」

 

 クッションが追尾軌道で飛んでミリオの膝に当たった。

 

「追尾弾!! これ戦闘で使ったら——」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「使えるよね!! めちゃくちゃ使えるよ!! ——矢印の向きで全部意味が変わるの!?」

 

「ありますあります」

 

「全部違う!! ——じゃあ「こ↓↓こ」は?」

 

「じゃけん行きましょうね~」

 

「試しましょう!!」

 

 野獣先輩は床に向けて「こ↓↓こ!!」と言った。床が少し凹んだ。沈んだ。踏み込み強化だ。

 

「床が沈んだ!! 踏み込む方向に使える!! 下への押し込みか!!」

 

「はっきりわかんだね」

 

「わかった!!」

 

 ミリオが興奮してメモを取った。野獣先輩はミリオを見た。

 

 こういう人間は久しぶりだった。全部を正面から受け取る。何かを聞いたら全部覚えようとする。体格と一致した、中身の大きい人間だ。透過個性のせいか服が体に馴染んでいない部分があって、肩のラインが——

 

 ……何もない。

 

「ああ^~いいっすね^~」

 

「えっ、ありがとう!? 何がいいの?」

 

「ないです」

 

「ないの!? 言ったじゃん!!」

 

 ミリオが笑った。外が明るかった。

 

 ミリオが「握手もう一回していい?」と手を伸ばしてきた。野獣先輩は握った。今度も通り抜けなかった。

 

「あっ(察し)」

 

 ミリオが「えっ、何を察したの!?」と叫んだ。

 

「ないです」

 

「あるでしょ!! 何かを察した顔してる!!」

 

「多少はね?」

 

「多少察してる!! 何を!?」

 

 野獣先輩は答えなかった。ミリオの手が大きくて骨格がしっかりしていて——何もない。

 

 

 

 

 

 午後、ナイトアイが野獣先輩を呼んだ。

 

「君に一つ確認したい」

 

「ありますあります」

 

「索敵の範囲はどの程度か。——百メートルか、二百メートルか、それ以上か」

 

「まずうちさぁ、屋上あんだけど、焼いてかない?」

 

 ナイトアイが止まった。「……それは屋上に案内したいということか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「分かった。行こう」

 

 二人で屋上に上がった。風があった。街が広がっていた。

 

 野獣先輩は索敵を展開した。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 周囲のビルから路地まで、気配が全部入ってくる。人の動き、留まっている者、子供、老人、走っている者。

 

「今、何人いるか分かるか」

 

 野獣先輩は指を立てた。一本、〇本、三本。順番に。

 

「百三人か」

 

 野獣先輩が頷いた。

 

 ナイトアイが眼鏡を直した。「……百メートル圏内を百人単位で把握できる索敵か」

 

「ありますあります」

 

「ある。——それは思った以上に使える。私の未来予知と組み合わせれば、現場の人員変化をリアルタイムで追える」

 

「はっきりわかんだね」

 

「分かったなら試してみよう。——もう一点確認する。索敵で「個性を使っているか否か」は分かるか」

 

「多少はね?」

 

「多少分かる。——充分だ。構えている個性と、発動していない個性を区別できるだけで、先手が取れる」

 

 ナイトアイが屋上の縁に近づいて街を見た。

 

「あっ(察し)」

 

 ナイトアイが振り返った。「……今のは何を察したか」

 

「ありますあります」

 

「察したことが「ある」か。——索敵以外にも察知系の機能がこの語録に含まれているか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ナイトアイが眼鏡を外した。珍しいことのようで、バブルガールが屋上のドアの向こうから驚いた顔を少しのぞかせた。

 

「……索敵は物理的な位置の把握だ。だが「察し」は意図や感情の把握に近い。——それは別の語録で発動するのか」

 

「ありますあります」

 

「ある。——面白い。物理索敵と感情索敵を使い分けられるなら、私の未来予知が読めない「現在の心理状態」を君が補完できる」

 

「やりますねぇ!!」

 

「やることになる。——期待している」

 

 ナイトアイがそれだけ言って屋上を降りた。

 

 野獣先輩は街を見た。

 

「ん〜いい時には結構いくね」

 

 今日は出力が高い。語録の通りが良い。

 

 

 

 

 夕方、パトロールに出た。

 

 ミリオと、緑谷が一緒だった。緑谷は今日から同じくナイトアイ事務所でインターンを始めていた。

 

 三人で街を歩いた。夕暮れが商店街を染めていた。

 

「緑谷はどういう経緯でここに来たの?」

 

「グラン・トリノに一度断られて……ナイトアイさんがオールマイトの元相棒だったから、ここにお願いしてみたんです。色々あって——」

 

 緑谷が少し声を落とした。「ナイトアイさんはオールマイトのことを、色々と……」

 

「ないです」

 

「……そうですよね。難しいですよね」

 

「多少はね?」

 

「多少難しいんですね。——でも、ここにいます」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 緑谷が「……当たり前、か。そうですね」と言った。少し前を向いた。

 

「一緒にやろう! 野獣先輩も!!」

 

「やりますねぇ!!」

 

「三人でやろう!!」

 

 街を歩いた。商店街を抜けた。魚屋の前を通ったら威勢のいい声が飛んでいた。

 

「野獣先輩ってさ、長生きなんだよね。百年以上生きてるって相澤先生から聞いた。街も全然変わったよね」

 

「多少はね?」

 

「多少! そりゃそうだよな!!」

 

 ミリオが笑った。緑谷が「野獣先輩さんって、どうして雄英に来たんですか?」と聞いた。

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

 ミリオが真剣な顔になった。笑顔が消えて、前を見る顔になった。

 

「……それ、本当に思ってるんだね」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ミリオが笑った。今度は違う笑いだった。明るいだけじゃない笑いだった。

 

「俺も百万人救うって決めてる。——一緒にやろう、野獣先輩」

 

「オッスお願いしまーす」

 

「こちらこそ!!」

 

 二人で握手した。今度は通り抜けなかった。

 

 緑谷が「なんかいいな……」と呟いた。

 

 

 

 商店街から少し外れた路地を歩いていた。

 

 建物の影が長くなる時間帯だった。人通りが少なくなり始めた路地で、野獣先輩の索敵が——引っかかった。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 小さな気配だ。一人でいる。怯えている。

 

 路地の角から、小さな手が見えた。白い服。白い髪。額の左側に——小さな角がある。

 

 幼い女の子が、路地の影に立っていた。怯えた目で、こちらを見ていた。

 

 後ろに——男がいた。大柄の男だ。穏やかな顔で何か話しかけている。でも目が笑っていない。

 

「やべぇよやべぇよ」

 

 危機察知が、低く鳴った。

 

 ミリオが止まった。「……あの子」

 

 緑谷も止まった。

 

 男が女の子の手を引いた。女の子の目が——こちらを見た。

 

 「助けて」とは言っていない。でも目が言っていた。

 

 野獣先輩は一歩前に出た。

 

「入って、どうぞ」

 

 男が振り返った。「……何ですか」

 

「ないです」

 

「……関係ない人は——」

 

「暴れんなよ…暴れんなよ…」

 

 男の動作衝動が一瞬、抑制された。手が緩んだ。

 

 その瞬間、女の子がこちらに駆け寄ってきた。

 

 女の子が野獣先輩の服の端をつかんだ。震えていた。小さい手だった。

 

 男の顔が険しくなった。「……返してもらいます」

 

「ありますあります」

 

「何が——」

 

「まずいですよ!!」

 

 緑谷が前に出た。「その子を連れていくつもりなら、プロヒーローを呼びます!!」

 

 男が少し止まった。ミリオも隣に立った。三人が横に並んだ。

 

 男は——笑った。「……今日は引きましょう。また来ます」

 

 歩き去った。

 

 静寂が来た。

 

 野獣先輩は服の端をつかんでいる女の子を見た。白い髪。角。怯えた目。包帯が腕に巻いてある。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 女の子が顔を上げた。

 

 言葉の意味は分からないだろう。でも何かが伝わったのか——震えが、少しだけ弱くなった。

 

「……いたい」

 

 女の子が小さい声で言った。腕の包帯を見ていた。

 

「痛いですね…これは痛い」

 

 女の子の表情が、ほんの少しだけ、緩んだ。

 

 緑谷が「ミリオさん……あの子は」と言った。

 

 ミリオが静かな顔で女の子を見ていた。今まで見たどの顔とも違う顔だった。

 

「……ナイトアイ先生に報告する。今日は一旦、戻ろう」

 

 女の子が野獣先輩の服の端を——まだつかんでいた。

 

 野獣先輩は女の子を見た。

 

「喉渇いた…喉渇かない?」

 

 女の子がきょとんとした顔をした。意味は分からなかっただろう。でも、少しだけ首を振った。

 

 嫌だ、という意味ではなかった。分からない、という顔だった。

 

 

 

 事務所に戻った。

 

 ナイトアイに報告した。緑谷が詳細を話した。ミリオが補足した。

 

 ナイトアイの顔が変わった。険しくなった。表情が動かない人間が険しくなると、それだけで重さが出る。

 

「……その子の特徴を教えてくれ」

 

「白い髪。額の左に角。年齢は五歳前後。体に包帯」

 

 語録でない言葉が出た。

 

 ナイトアイが止まった。全員が止まった。

 

「……810くん。今、普通に喋ったね」

 

「ないです」

 

「いや喋ったよ!!」

 

 ミリオが叫んだ。緑谷が「野獣先輩さんが直接説明した……!!」と呟いた。

 

 野獣先輩は前を向いていた。

 

 あの女の子の顔が、頭の中にあった。服の端をつかんでいた小さい手が。震えていた体が。

 

 危機察知は——今も、低く鳴っていた。

 

「ありますあります」

 

「……ある、か」

 

 ナイトアイが眼鏡の奥の目を細めた。

 

「あっ(察し)」

 

 野獣先輩が言った。

 

 ナイトアイが止まった。「……何を察したか」

 

「ありますあります」

 

「……君は語録だけで喋っているが、今「あっ(察し)」と言った。それは——あの子についての情報を、私がすでに持っていると察したか」

 

 野獣先輩が頷いた。

 

 ナイトアイが立ち上がった。「……索敵以外にも察知ができるのか。その語録が使えるなら——連携の幅が変わる」

 

「やりますねぇ!!」

 

「……やることになる。覚悟しておいてくれ」

 

 ナイトアイが続けた。「——あの子に関しては、私がすでに情報を持っている。思ったより早く動く必要があるかもしれない」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「……そうだ。当たり前のことを、当たり前に言ってくれてありがとう」

 

 ナイトアイが書類を取り出した。夕日が窓から差し込んでいた。

 

 

 

 業務が終わった。バブルガールが「お疲れ様でした!」と言った。

 

 野獣先輩は事務所を出る前に、棚のオールマイトフィギュアをもう一度見た。三十七体。全部オールマイトだ。全部違うポーズをしている。

 

「ありますあります」

 

 独り言が出た。

 

 ミリオが後ろから来た。「帰り、一緒の方向?」

 

「多少はね?」

 

「ちょっとの間だけ! 一緒に帰ろう!」

 

 二人で事務所を出た。夜の街だった。

 

 ミリオが「野獣先輩ってさ、百年以上生きてきて、一番変わったと思うことって何?」と聞いた。

 

「多少はね?」

 

「多少変わった! 何が変わった? 人間? 街? ヒーロー?」

 

「ありますあります」

 

「全部変わった!! ——でも野獣先輩が変わらないでいることがあるとしたら?」

 

「王道を征く」

 

 ミリオが笑った。「それか! かっこいいな」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ミリオが「当たり前か!!」と笑った。

 

 分かれ道に来た。

 

「また明日! よろしく、野獣先輩!!」

 

「オッスお願いしまーす」

 

「こちらこそです!!」

 

 ミリオが去っていった。でかい背中だった。

 

 野獣先輩は一人で夜道を歩いた。

 

 壊理の小さい手が、まだ頭の中にあった。

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

 夜の街を、歩いた。

 




エリちゃんをは助けるんだ!ヒーロー810!
いけいけgogo go isgod (布教)

評価付与や感想は野獣先輩が咆哮を上げて感謝してくれます。
評価50突破で淫夢ヒーロー大集合!の番外編を作成するかも…?しれません
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。